「これよぉぉぉぉぉーーッ!!」  
 深夜の常盤台中学女子寮に、御坂美琴の叫び声が木霊した。  
 それは、勝利を確信した者だけが発する雄たけびのようだった。  
「ど、どうされましたの、お姉さま……」  
 安眠を妨害され目を覚ましたルームメイトの白井黒子が、眠気眼をゴシゴシしながら尋  
ねてきた。  
「ええっ! ななな、何でもないからっ! ご、ごめん、起こしちゃった?」  
「それは別に構いませんけども……こんな時間に一体何をしておりますの……?」   
「い、いや、何って……たっ、たいした事じゃないのよ。ちょっと、調べ物してただけだ  
から」  
 パソコンのモニターに噛り付いている美琴は、あたふたと動揺を隠せない様子で言い訳  
をする。  
 その姿は明らかに怪しさ満点なのだが、珍しい事に白井はそれ以上は何も訊こうとはせ  
ずに、  
「あまり夜更かしをされては、お肌に悪いですわよ……」   
 と、再び大人しく眠りについた。  
「わかった、もうすぐ寝るから。ホントごめんね……」  
 寝付きのいい白井の微かな寝息が聞こえてくる。  
「…………黒子、寝た?」  
 返事はない。  
 どうやら白井はちゃんと眠ったと確認し、美琴はフーと大きく嘆息した。  
(危ない危ない……。こんなの黒子にばれちゃったら、何言われるかわかったもんじゃな  
いからね……)  
 美琴はカチャカチャとマウスを動かし、咄嗟に隠したサイトに再びアクセス。モニター  
のライトに照らされた美しいと言ってもいい整った顔が、ニマーとだらしなく緩んだ。  
(ふっふっふっ、これよこれッ! この最終兵器さえあれば、今度こそあのバカの方から  
頭を下げてお願いしてくるに決まってるんだから! 今まで私が受けた屈辱を思い知らし  
てやるわッ!)  
 この言葉に言い表せない身体の震えは武者震いだろうか? いずれにせよ美琴の士気は  
昂揚し、週末のツンツン頭の男との約束が待ちきれない。  
 だからだろうか――  
「小悪魔ロリメイドですって……」  
 白井に一瞬の不意を突かれる結果となってしまった。  
「きゃぁぁッ!! アアア、アンタ、寝たんじゃなかったの!!」  
 狸寝入りで油断させておいてから、白井は瞬間移動で美琴の背後を獲ったのだ。  
「そんな事よりも、なっ、なっ、何ですの、この素晴らしいメイド服は!!」  
 
『大好評につき早くも第四弾登場その新商品の名前は小悪魔ロリメイド! もう児童ポル  
ノ法だの青少年健全育成条例だのそんなチャチなもんじゃ止められないぜ! 圧倒的な需  
要に答えて絶賛販売中!』  
 
 と、やたらと胡散臭いサイトには書かれてあった。  
「こらぁー、勝手に見るなーッ!」  
「はっ! まさか、お、お姉さま! もしかしてこの小悪魔ロリメイドを内緒で購入され  
て、わたくしを悩殺するおつもりだったのでは!? ああああっ、いいぃぃ……ッ! い  
いぃぃ……ッ!」  
 白井は、瞬時に妄想を膨らませトリップ。興奮のあまりツーと鼻血を垂らしながら身体  
をクネクネとくねらせる。  
「ちっ、違うわよ! これはそんな買ったりとか着たりとか、そんな事する為に調べてた  
んじゃないんだから!」  
 
「しかしお姉さま! こんなお召し物を着て頂かなくとも、黒子は身も心も既にお姉さま  
に捧げておりますのよ!」  
 まったく話を訊かない白井の暴走は止まらない。どうやら子悪魔ロリメイドのメガトン  
級の衝撃に、頭の中のネジが緩んでしまったようだ。  
 図らずも自分が選んだ決戦兵器の威力を、美琴はまざまざと見せ付けられるのだった。  
「だぁー、もぅッ! だから、くっつくなって言ってんでしょうが!」  
 不本意にも真夜中に白井と取っ組み合いを始めることになってしまった美琴は、仕方な  
く電撃で彼女を無力化させようとしたところで、  
「うるさぁーーいッッ!! いったい今何時だと思っとるんだぁぁーッ!!」  
 鬼の形相をした寮長がドアを蹴破って突入してきた。  
「「ひいぃぃぃぃ!」」  
 恐怖のあまり我に返った白井と美琴は、寒さで身を寄せ合う子猫のように抱き合って身  
体をガクガクと震わせた。  
「これはこれは寮長殿。わたくしたち、別に好きで真夜中に騒いでいたのではありません  
の。これには、ふかーいふかーい訳がありますのよ」  
 汗だくになりながら、白井は懸命に釈明する。  
「ほー、つまりよんどころない事情があるということか?」  
「そっ、そうですのっ! やむにやまない事情がありますの!」  
「だがな、白井よ。その事情のせいで、いちいち真夜中に起こされるこっちの身にもなっ  
て貰いたいものだな」  
 ギランと寮長のメガネに光りが灯った瞬間、電光石火の早業で白井を絞め落とすのに約  
二秒。捕らえた獲物をゴミのようにぽいっと部屋の隅に放り投げると、半泣き状態の美琴  
の眼前に仁王立った。  
「覚悟は出来てるんだろうな、御坂」  
「はわわわわわ……」  
 先に逝った戦友に哀悼を捧げる間もなく具現化した悪夢に対峙した美琴は、この瞬間、  
絶対的な死を知覚した。  
(な、何でこうなるのよぉぉーーッッ!!)  
 罰として一週間寮の掃除を命じられる美琴と白井だった。  
 
 
「おじゃましまーす……」  
 美琴は少しだけ緊張しながら、先日貰った合鍵を使って上条の部屋に入った。部屋の主  
は現在外出中。大量に買い込んだ食材の入った袋を台所まで運ぶと、素早く冷蔵庫にしま  
っていく。ふと時計を確認すると、午後五時が過ぎようとしていた。  
「はぁー、疲れた……やっぱり遅くなっちゃったなー。ったく、黒子のせいでとんだとば  
っちりよ」  
 今日は上条に手料理をご馳走する約束をしていたのだが、先日の夜の事件の罰としてつ  
い先ほどまで寮の掃除をしていたので、時間をかなりロスしてしまった。本来ならもっと  
早く来て下ごしらえの準備を始める予定だったに、と美琴は非常に悔やんだ。  
「つーか、なんでアイツはいないのよ……」  
 美琴は携帯を取り出し、上条にメールを送信する。  
『今アンタの家に着いたんだけど、いったい何処ほっつき歩いてる訳?』  
 暫くしてメールの返信が来た。  
『すまん。ちょっと野暮用があって。もうすぐ帰るから待っててくれ。晩飯、期待してる  
よ』  
「野暮用って何よ……?」  
 そんな訳のわからない用を優先されるのは気に入らないが、自分も遅れてきたので文句  
も言いにくい。それに、貰った合鍵を初めて使用できたのが嬉しかったので、これはこれ  
でいいか、と美琴は納得する事にした。  
 
 ポケットから大切そうに上条の家の鍵を取り出して眺めてみた。自然に笑みが込み上げ  
てくる。今では限定版ゲコ太ねんどろいどよりも大切な一番の宝物。お風呂に入る時以外  
は、常に肌身離さず持ち歩いているくらいなのだ。  
「期待されてるんじゃー、しょうがないわね。見てなさいよ。絶対に美味しいって言わせ  
てやるんだからッ」  
 バシッと両手で頬を叩いて気合を入れる。  
 と、その前に――  
 さっそくだけど今のうちにアレに着替えておくかな? と美琴は逡巡する。  
 アレとは、当日お急ぎ便で今朝届いたばかりの決戦兵器、『小悪魔ロリメイド』の事だ。  
 もし小悪魔に変身して何も知らない上条を出迎えれば効果は倍増、いやキックの反動も  
加算され三倍増。場合によっては、そのまま押し倒されてしまうかもしれない。  
(そんないきなり押し倒すとか、ダメだっつーの! まいっちゃうなー。エヘヘヘ……。  
いっとく? いっとくか!? こうなるとあのバカがいなかったのはかえって好都合、  
つーかむしろ千歳一隅の好機じゃん!)  
 あーでもないこーでもない、と唸りながら更に深く逡巡する美琴さん。  
 今更になってこんな事を言うのもあれだが、やはり子悪魔ロリメイドにメイクアップす  
るのは少々ハードルが高い。心の何処かで、これはちょっと先走りすぎなんじゃねーの、  
と戒めのような幻聴が聞こえてくるのも事実。だがしかし、これまで上条に受けた非人道  
的な行為が美琴の脳裏に走馬灯のように蘇り、腹の底から噴き上げてくる怒りがそんな貴  
重なアドバイスを蹴散らしていくだった。  
(そ、そうよ! あんないやらしい台詞ばっかり女の子に無理矢理言わせて! 私がいつ  
までも言いなりになってると思ってたら大間違いなんだから!)  
 美琴にとっては大変に不本意な話なのだが、エッチの時になると、いやらしい台詞でお  
ねだりしなければ挿入して貰えない決まりが定着しつつあるのだ。しかも最近では、美琴  
が自作した恥ずかしい台詞を上条は要求してくるようになっており、結果、夜な夜なエロ  
パロ職人のようにエロい台詞を考えなければならない空しい現実がそこにあった。  
 これには美琴も参った。  
 女の意地もプライドもズタズタにされた。  
 だから、子悪魔ロリメイドなのだ。  
 この最終兵器を持ってすれば、憎き上条に頭を下げさせ逆にお願いさせる事も可能。そ  
んな大儀の為ならば、あらゆる手段も正当化されるはず。意地でもこの聖戦に勝たねばな  
らない、と美琴は自分に言い聞かせ迷いを切り捨てた。  
 彼女は手際よく常盤台中学の制服を脱ぎ捨てると、鞄の中から例の物を取り出し、高鳴  
る鼓動を抑えながらそれを身に付けた。  
 たった今ここに、小悪魔ロリメイドが誕生した瞬間だった。  
 それは、ブラックとホワイトを基調としたセパレートで、要所要所がヒラヒラのレース  
で飾られておりお腹は丸出し状態。スカートはスーパーミニで、真っ白で美味しそうな太  
股とスケスケのニーソックスがスラリとした脚線美をそそらせる。背中に蝙蝠のような羽  
とお尻に先っぽが尖った尻尾が装着されており、一見して子悪魔をイメージさせるが、果  
してどの辺りがメイドなのかは謎に包まれていた。  
(うわッ! こ、これって可愛いよね! いいんじゃないかしら!? これだったらアイ  
ツも鼻の下をびろーんって伸ばして、ハァハァ言いながら迫ってくるに違いないわ!)  
 不自然に胸が強調されていないデザインが、美琴の最大のお気に入りだったりする。  
(そうだ……。もうこうなったらついでだから、アレもやっちゃうか? やっちゃう  
か!?)   
 美琴はどこぞの令嬢のように礼儀正しく正座し三つ指を立て、  
「お、おかえりなさいませご主人様。ご飯にします、お風呂にします、それとも、わ、た、  
し?」  
 と、ニッコリとご主人様を笑顔でお出迎えの実技練習。  
「だぁぁぁーッ! ヤバイヤバイ! これはヤバすぎるっつーのッ!」  
 
 ゴロゴロゴロと床を転がり回る小悪魔。慣れない可愛い服を着て、相当テンションが上  
がってしまっているようだ。  
(私がここまですればきっとあのバカは、こんな事を言ってくるに決まってるんだか  
ら!)  
 そして、何やら一人芝居のようなものが開演された。  
『上条さんは、もう美琴さんが欲しくて欲しくて我慢できませんです! どうかこの哀れ  
な上条さんに、ご慈悲を! ご慈悲をぉぉーッ!』  
『はぁ?? いつもは散々好き勝手な事をやってくれる癖に、何チョーシいい事言ってく  
れちゃってんのよ! そうね、まぁ、私の事を、あっ、あっ、愛してるって百回言えば、  
考えてあげなくもないわね……』  
『うぉぉーッ! 神様仏様美琴様、愛してます愛してます愛してますーッ!』  
 美琴はピョーンとベットにダイブし、自分の妄想の素敵さのあまり悶絶した。  
(ナニコレナニコレ!? 完璧な作戦じゃないのよ! 今日という今日は目に物見せてや  
るんだから、覚悟しときなさいよねバカ当麻! ククク……)  
 美琴は上条の枕に顔を埋めて暫くの間、両脚をバタバタとさせていたが、一通りはしゃ  
いで流石に疲れたので大人しくなる。そのまま大好きな匂いをクンクンと嗅いでいると、  
なんだか妙な気分になってきてしまうのだった。  
(ああ、いい匂い……この匂いを嗅いでると、エッチな気持ちになってきちゃう……って、  
ダメよッ! な、何考えてんの私!)  
 危うくスイッチが入ってしまう寸前で、美琴はがばっと跳ね起きた。上条の匂いが染み  
付いた枕や布団などは、彼女にとってはとんでもない危険物なのだ。  
(ふー、トンデモないブービートラップがあったもんね、まったく……んっ!? あ、あ  
れは……?」  
 気を落ち着かせ周囲を見渡してみると、何やら妖しげな本を発見してしまった。美琴は  
よくコンビニに立ち読みに行くので、この手の本の存在をよく理解している。  
(まさか……これってエロ漫画かしら……??)  
 どうやら上条が隠し忘れたアーティファクトの一つのようだ。  
(アイツもこんなの持ってたんだ。まぁ、男の子だったらみんな持ってるらしいしけど…  
…。でも、ちゃんとした恋人がいるのに、こういう本を読むのはどうなのかしらね……)  
 視線だけで自然発火させそうなほどエロ漫画を見詰める美琴。上条の隠された性癖には  
興味がある。が、表紙に描かれたありえないほど大きな胸をした女の子の絵と、タイトル  
の『淫乳妻の館』がもろ過ぎて、手に取って中身を確かめてみる勇気が湧いてこない。  
(別に躊躇う事なんかないじゃない。アイツの好みをちょっと確かめてみるだけなんだか  
ら……。だっ、だいたいこんなのたかが二次元じゃないの。三次元の私のほうが圧倒的に  
有利なんだから。こんなエロ漫画の内容ごときを気にするほど、私はそんな器量の小さな  
女じゃないわよ。私は大人の女なんだから、ハハハ……)  
 美琴は恐る恐る『淫乳妻の館』を手に取り、パラパラとページをめくっていく。  
 そして、激怒した。  
「なんなんだコレはぁぁーッ! 全部、巨乳ばっかじゃないのよぉぉーーッッ!!」  
 タイトル通り、淫乳と人妻で溢れている内容だった。  
「あのバカッ! あれほど私の掌サイズの胸が好きだって言ってた癖に、なんなのこの仕  
打ちはぁぁーッ! しかも熟女はないだろ熟女は! 人妻かッ!? そんなに人妻の母性  
の塊の中で甘えたいのか!!」  
 そう言えばあのバカは、いつしか母にちょっかい出してた事もあったな、と美琴は思い  
出し、怒りはジェットコースターのように加速していく。完璧に盲点だった。これでは小  
悪魔ロリメイドは、まったくの逆効果になってしまうではないか。  
 そして、決断した。  
「これは、ガサ入れが必要のようね……」  
 この手の本がこれ一冊だけのはずがない。『淫乳妻の館』はただの斥侯部隊で、必ず本  
隊がこの部屋の何処かに潜んでいるに違いない。それを上条がいない間に狩り出そうとい  
うのだ。実に不穏極まりないアグレッシブな行動だが、恋する乙女にはあらゆる行為が正  
当化されるものなのだ。  
 
 で、上条の部屋を舞台に埋蔵金探しが始まって約三十分。美琴は、押入れからどす黒い  
オーラを放つダンボール箱を不幸にも発見してしまった。  
(つーか、重っ! こ、こんなにも……いったいどんだけお宝貯め込んでんのよ、あのバ  
カッ!)  
 美琴は、ゴクリと生唾を飲んだ。  
 果してこのパンドラの箱を開けてしまって本当にいいのだろか? もし藪を突いて自分  
では対処できない大蛇でも現れたりすれば? そんな不安感が胸の内に押し寄せる。  
「ええーい、ままよ!」  
 もはや成り行きに任せるしかない! とばかりに美琴は決断し、パンドラの箱を勢いよ  
く開けた。  
 飛び出してきた魔物は、大蛇ではなくヤマタノオロチだった。  
「これもッ! これもッ! こっ、これまでもッッ! ぜぜぜ、全部、巨乳じゃないのよ  
ぉぉーッ!!」  
 『舞フォーエバー』『ブロンドハニー』『舞姫 淫獄の檻』『トリプルアナル』『巨乳  
天国』などなど……。開陳されてしまった上条のエロ漫画コレクションは多岐にわたる。  
 訳がわからなかった。あれも巨乳、これも巨乳、人間ではありえないような胸の大きさ  
の女の子まで登場したりする。いったい何なのだ? もしもこれが男のロマンだとするな  
らば、美琴はたった今から男性不信になってしまうかもしれなかった。  
 だが、彼女はそんな絶望の中でも検欄を止めようとはしなかった。  
 一冊だけでいい。  
 たった一冊だけでよかったのだ。  
 貧乳物はないのか?  
 だが、藁にも縋る思いでダンボールが空になるまで検欄を続けた結果、そこに希望の光  
りは存在していなかった。  
 もはや認めざるを得なかった。  
 自分の恋人は、おっぱい星人だったという事を……。  
「胸なんてただの脂肪の塊でしょうがぁぁッ! 何で男はそんな簡単な事に気付かないん  
だゴラァァーッ!」  
 地球上のあらゆる雄に不満をぶつける美琴。自分のいつまでたっても成長しない双丘に  
手を添えてみる。ハァーと諦念が混じった嘆息。急に全てが空しくなってしまった。小悪  
魔ロリメイドに変身した自分が滑稽でしかなかった。  
 しかし、ここでガサ入れを止める訳にはいかなかった。巨乳エロ漫画群以外にも、まだ  
一つだけ看過できない物がここにはあった。それは、表面に何も書かれていない無地のD  
VDの束。このDVDの妖しさときたらエロ漫画の比ではない。発する瘴気で部屋が腐海  
に沈みそうな勢いだった。  
 もはや毒を食らう事を覚悟した美琴は、そのDVDをプレイヤーにセットし、リモコン  
の再生ボタンを押した。これがもし二次元だったならば、必殺技で綺麗さっぱりテレビご  
とぶっ壊そうと思っていたが、どうやら三次元のようだ。個人撮影というやつなのだろう  
か? 画質はそんなによくはない。ただ液晶画面に映った女性は、非常に美人で胸が馬鹿  
みたいに大きかった。  
「やっぱり三次でも巨乳がいい訳ね……。フフフ……」  
 美琴は、乾いた微笑を漏らす。  
 テレビの中の女性は長い黒髪をポニーテールにしており、一見すると十八歳のようにも  
適齢期のようにも見える。異質なのがその姿だった。太股やおっぱいがムチムチでエロく  
てアレなメイド服で、背中に羽と頭に天使の輪がくっ付いている。黒髪の美女のそんな艶  
姿を見ていると、何故だかわからないが美琴は親近感が沸いてくるのだった。  
 黒髪の美女は頬を染め、撮影者に言われるままに分娩台に座る。  
 分娩台とは、出産の時に妊婦が両脚をガバッと拡げて座る恥ずかしい台の事だ。  
 
「ええっ! そ、そんな格好で座っちゃったら……」  
 もちろんスカートの中身の丸見えだ。おまけに撮影者らしきマスケラを付けた男が、黒  
髪の美女をロープで分娩台に拘束していく。  
「ちょっ、マ、マジでッ! 女の子にこんな酷い事して一体何が楽しいのよ!」  
 そして、黒髪の美女の巨大すぎる双子の乳房が曝け出され、下着も剥ぎ取られ、女の子  
の一番大切な部分がどアップに。個人撮影物なので、もちろんノーカットなのだ。  
「うわッ! うわッ!! こ、こんな形してるんだ……これって、私と全然違うんじゃな  
い……?」  
 あろう事か黒髪の美女は、そのまま大切な部分の毛を剃毛されてしまうのであった。  
「そ、そんな恥ずかしい事は絶対にムリよ!」  
 パイパンの美琴には、確かに無理な話だろう。  
 テレビの中の仮面の男は、先の丸い部分がウィィーンと振動して唸る機械を持ち出して  
きた。  
 電動按摩の登場だ。  
 その振動する部分が、拘束されて身動き取れない黒髪の美女の秘部に容赦なく押し付け  
られれた。  
『ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!』  
 スピーカーから黒髪の美女の悲鳴のような嬌声が流れてくる。  
「ちょっ、な、何これ……うわぁぁ……き、気持ちいいの……」   
 もうこんな物は観たくない! と思っても、美琴はどうしてもテレビから視線を逸らす  
事ができなかった。  
 ドッキンドッキンと心臓が急加速し、ジンジンと子宮が疼き始める。  
 カチッ、とスイッチの入る音が、頭の何処かで確かに鳴り響いた。  
(う、うそ……こんなの観て……、うわっ! も、もう、こんなに濡れちゃってる……)  
 滾るように熱い粘液が身体の奥底から垂れ落ち、美琴のショーツが薄っすらと滲んでく  
る。  
 それは、紛れもない興奮の証。  
 美琴はショーツの中に手を差し入れ、直接に気持ちのいい部分に触れてみる。鋭い快感  
が背筋を駆けた。次の瞬間、ぶわっと堰を切ったように柔膣から愛蜜が溢れた。  
(あ……っ、こ、こんなの、ダメなのに……ゆ、指が止まらない……ううっ! き、気持  
ちい……)  
 一度スイッチが入ってしまえば、上条によって開発された健康で若い肢体は、貪欲に快  
感を求め貪ってしまう。美琴はふらつきながらベットに這い上がると、枕に顔を埋めて本  
格的にオナニーを始めるしか術がなかった。  
(ど、どうしよう……ショーツが汚れちゃう……)  
 どうせすぐに脱がされるとわかってはいても、折角一時間もかけて選んだショーツなの  
だ。やはり綺麗なままで上条に見て貰いたかった。なので美琴は、ショーツを太股の中間  
くらいまでずり下ろし、ベットの上で愛らしいヒップを曝け出してオナニーを続けた。  
(ああっ……あの女の人、す、すごい事されちゃってる! こ、こんな事をもし私もされ  
ちゃったら……はうっっ! い、いくら当麻にだってこんな変態プレイ、絶対にさせてあ  
げないんだから!)  
 液晶画面の黒髪の美女は、マスケラの男にあらゆる道具を使って散々に攻め立てられて  
いた。何度も潮を吹いては絶頂を繰り返し、『もう許してくださいぃぃっ!』と懇願しな  
がら悶え悦んでいた。  
 美琴は、そんな彼女と自分とをリンクさせる。身動きが取れないあんな恥ずかしい格好  
で、あの物凄いブツブツが付いてニョキニョキと蠢くペニスに似た機械を突っ込まれて弄  
ばれる自分の姿を妄想し、刺すように膣奥を痺れさせた。  
「はぁあああぁぁぁっっ!!」  
 感極まった嬌声を上条の枕にぶつける美琴。  
 グチュグチュと淫猥な水音が部屋に木霊し、エッチな匂いが充満していく。  
 
(そんな事したらダメなんだから……あああっ! と、とうまっ、とうまぁぁ……ゆ、許  
してぇ……お願いだから、もう許してぇぇ……)  
 そして、お尻丸出しの小悪魔ロリメイドが、このまま一気にエクスタシーに向けて突っ  
走ろうとした時だった。  
「あの……お取り込みの最中に大変恐縮なんですが、御坂さんは何をやってらっしゃるん  
でしょうか?」  
 聞き慣れた声が耳朶を霞め、美琴は驚愕のあまり身体をビックゥ!! と弾けさせる。  
恐る恐る枕から顔を上げ声がした方向を確認してみると、あまりの出来事に茫然自失とし  
た上条当麻と、常盤台中学の制服を着て物騒な軍用ゴーグルを頭に付け、自分とまったく  
同じ外見をしたクローン、御坂妹がそこにいた。  
「…………ッ!?」  
 生き別れになった親子が三十年ぶりにご対面した以上の衝撃だった。  
「まぁ、そ、その、なんだ……とりあえず、パンツ穿こうな……」  
 上条に指摘され慌ててショーツを穿く美琴さん。  
「こここ、これは、そういうんじゃ全然ないんだから! アンタがおかしな本隠し持って  
るから仕方なく、ししっ、調べてたら、ちょっとだけ眠くなっちゃったから、それでそれ  
でちょっとだけ転寝してただけなんだから!」  
 とりあえずそんな苦し紛れの言い訳をしてはみたが、部屋一杯に散らばったエロ漫画、  
テレビから再生されるエロDVD、そして小悪魔ロリメイド。そんな世紀末のような惨状  
を目の当たりにし、美琴は改めて愕然とした。  
 そして悟る、これは無理だと……。  
「だだだっ、だいたい、何でアンタがここにいるのよ!」  
 美琴は更に苦し紛れに御坂妹に指を突きさし、唾を飛ばしながら轟々と非難した。  
「御坂妹とは街で偶然に会ったんだよ。それで、今日はお前とご飯を食べる約束をしてた  
から、たまには三人で一緒もいいかな、と思って連れてきたんだけど。まさか、こんな事  
になってるとは思わなかったけどな……」  
 御坂妹の代わりに上条が答えた。  
 そこで、今までいつものポーカーフェイスで沈黙していた御坂妹が初めて口を開いた。  
「ご安心くださいお姉さま、とミサカは第一声を放ちます。今日ここでミサカが見た事は  
絶対に他言したりいたしません、とミサカはお姉さまの弱みを握ってやったと内心ほくそ  
笑みながら述べてみます」  
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」  
 美琴は音速でベランダに飛び出ると、そこから紐なしバンジージャンプを敢行しようと  
手すりに足を掛けた。  
「はやまるな御坂! 話せばわかる!」  
「問答無用! もうひと思いにこのまま死なせてぇぇーッ!!」  
「待てッ! そんな格好で死んだら、末代までの恥だぞ!」  
 飛び降りる寸前の美琴を、上条は羽交い絞めにして止める。  
 小悪魔ロリメイドの飛び降り自殺というセンセーショナルな事件ならば、明日の朝刊の  
一面は間違いなかっただろう。  
(わーん! もぉーッ! 何でこんな事になるのよぉぉーッ!!)  
 現実の厳しさを果てしなく実感する美琴だった。  
 
 
 そんなこんなで三人の食事会は無事に終了した。  
「大変に美味しい料理でした、とミサカは両手を合わせてごちそうさまをします」  
「いやー、ホントに美味かったよ……つーか御坂さん、そろそろ機嫌直しませんか?」  
 上条の必死の説得で紐なしバンジージャンプを思いとどまった美琴は、不貞腐れた態度  
でお茶を啜っていた。このままやけ食いで窒息死しようと試みていたので、お腹はかなり  
膨らんでいる。  
 

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