今日は色々と寄り道をして帰りが遅くなった上条当麻は、学生鞄とスーパーのビニール袋、それと可愛らしい花模様を散らせた紙袋で塞がった手で器用にポケットから鍵を取りだすと、それを使ってドアを開けた。  
「ただいまー」  
「あ! おかえりなさいなんだよ、とうま。それから私お腹が空いたんだよ!!」  
 そう言って玄関に飛び出して来た純白シスターこと、彼の同居人のインデックスは、早速興味深そうに上条の両手に有る品々に注目した。  
「ふっふっふ……。そう言うと思って……ほらっ」  
「食パン!!」  
 インデックスの手に一斤はある食パンを袋ごと渡す上条。続いて別の袋を物色して小瓶と紙パックを取りだした。  
「と、それだけじゃ大変だろうからイチゴジャムと牛乳な」  
「ありがとう、とうま!!」  
「おう」  
 玄関先で嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるインデックスの横で靴を脱いだ上条は、再び両手に荷物を持ち直してすたすたと中に入って行く。  
「それお前の今晩の飯だから良く味わって食べるんだぞ」  
「え――――ッ!?」  
 嬉しさもつかの間、急にどん底に突き落とされた気分になったインデックスに、こちらは何時もの事かと呆れる事も無くてきぱきと買って来たものを冷蔵庫に仕舞って行く。  
「ええじゃねえだろ? そうじゃなくたって家は貧乏なんですからそうそう食パンを間食代わりに出せるかっての。いい加減理解してくれよこの腹ペコシスターさんは。完全記憶能力が聞いて呆れますよっと」  
「ああ――――ッ!! その言い方、むぐ、んぐんぐ、んっ、ちょっと酷いかも!? あぐ、わ、わらひだって、むぐむぐ……、ぷは、牛乳牛乳……。ズズー……。は、とうまのお財布が寂しい事くらい、あー……、もぐもぐもぐ……」  
「……食べるか文句言うかどっちかにしろインデックス」  
「もぐもぐ……」  
「全部食っていいからなそれ。俺はラーメン食べるから」  
「むぐッ!?」  
 上条の一言にほっぺたにバン屑とジャムをこびり付かせたインデックスがぴくんと反応した。  
 音がするかと言う勢いで口の中の者を飲み込むと、キッチンに立った上条の背後に駆け寄って行く。  
「とうまずるいずるいー!!」  
 少女からすれば当然の講義――しかし上条にとってはそうでも無い様だ。  
 それを表す様にくるりと振り返った上条の表情は非常に険しい。  
「!?」  
 その顔にインデックスは次に訪れるであろう上条のお説教を想像してビクッと肩を震わした。  
 ところが、  
「何がだ?」  
「え?」  
「お前は食パン一斤でこっちは即席麺にキャベツともやしだけなんだぞ?」  
「あ、え……とぉ……」  
「あっきらかにお前のが金掛かってんのに一体何の不満が有るって言うんだ? え?」  
「あ、あ」  
 怒鳴るのでは無くあくまで淡々と事実を告げられると逆ギレしにくい。  
 何も言い返せなくて下を向いてしまったインデックスに、上条はヨシ勝った内心ガッツポーズした。  
 しかし、  
「わ、私もとうまと……そのぉ……同じものが食べたい……かも……。とうまの手作り……好きだから……」  
 
「うっ」  
 ぼそっとインデックスが漏らした一言が上条の琴線をかき乱した。  
「そ、そうか。じゃ、じゃあ少し待ってろ」  
「うんッ!!」  
 嬉しそうに笑顔を向けるインデックスが眩しくて上条は背を向けると、取り合えず今日使う予定じゃ無かったハムを冷蔵庫から取り出した。  
 そのハムをぺらぺらとまな板の上に並べながら、こうして家計が苦しくなるんだなぁと思うと目頭が熱くなる。  
(不幸だ……)  
 男は簡単に涙は見せない、と心の中で涙を流す事で我慢する上条だった。  
 
 
 紆余曲折もあったが無事食事を終えた2人は上条が淹れたお茶をすすりながらまったりとくつろいでいた。  
「そうだ。インデックス」  
「なぁに、とうまぁ?」  
「飴食べるか?」  
「食べる!!」  
「よしっ!」  
 インデックスの元気な返事に上条は立ち上がると部屋の片隅に置いてあった花柄の紙袋を物色し始めた。  
 そして暫くして大きな文字で『べっこう飴』と書かれた包みをインデックスに1つ手渡すと、自分も同じ包みを持って席に座る。  
「これ店で砕いたの試食したんだけどすげー美味かったんだよー。それでイギリスの神裂たちの所にも送ったんだけどな」  
 それを聞いた途端、飴の袋を前にニコニコしていたインデックスの顔から笑顔が消えた。  
「かおりにも?」  
 若干硬い声音でそう聞き返したインデックスの変化に気付かない上条は、自身も手にした包みをしげしげと眺めながら、  
「ああ、この間チョコ食べただろ? あれのお返しになぁ」  
「とうまってそう言う所まめだよね」  
「んあ?」  
 インデックスの様子が変だ――その事にやっと気付いた上条が顔を上げると、そこにはやっと気が付いたかこの浮気者とめと言う顔をしたインデックスがムスッとこちらを見ていた。  
「何ムクれてんだよインデックス?」  
「知らないっ! それより早く飴が欲しいかもっ!」  
 若干語尾に力を込めたインデックスの言葉に上条はそれ以上の事は追及せずに「おう。悪い悪い」と頭を掻いきながら謝る。  
 するとインデックスも1つため息をついて気分を切り替えると、飴に気持ちを持って行く。  
「そんじゃ早速食べてみるか?」  
「うん!」  
 飴の包みに持った上条を真似てインデックスも包みを手にすると2人は揃ってピリッと包みの口を開く。  
 そして中に見えた棒に2人は期待に目を輝かせてそれを掴むと、包みの中一気にそれを引っ張り出した。  
 包みの大きさからしてさぞ食べ甲斐があると予想していた飴――。  
「うおデケぇ……」  
「わぁ……!」  
 その予想をはるかに超えた大きさに、上条もインデックスも感嘆と歓喜が入り混じった声とを上げた。  
 
 確かにそれは大きかった。  
 その名の通りべっこう色をした飴。  
 太さも長さも普通の飴のサイズでは無い。  
 全体が少し反っていたり表面にツタの様に這うでこぼこがあるのは何か造形上の意味が有るのかもしれない。飴のくせ何故か力強さを感じる。  
 先端の丸みを帯びた部分は口に含むには丁度良さそうだが、妙にこう何かを思い出させる。  
 そうだ。これはまるで勃起したお○ん○んによく似て――、  
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」  
 それに気付いた上条とインデックスは飴を放り出すとズササササと音を立てて壁際まで逃げた。  
「とうま!! 何でこんなモノ買って来たの!! ちょっとじゃなくてちゃんと納得のいく説明して欲しいかもッ!!」  
「うわわわわわわッ!? ち、違うんだ!! 俺は知らなかったんだ!! ってか俺こんなモン神裂たちの所に送っちまったんだ!? どうしようどうしようどうしようどうしよううううううううう……、  
うわあああああああああああああああああああ!! 不幸だぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!」  
 何を思ったのか突然壁に頭をゴンゴンと打ち付けだした上条に、怒り心頭していたインデックスはびっくり仰天した。  
「とうま!! 何やってるのかも!?」  
「俺は駄目だぁ。もう誰にも合わせる顔なんか無いんだ。死んだ方が良い。そうしたら上条さんこれ以上不幸にならずに済むんです。おお良い考え。ナイスアイディア。父さん母さん、先立つ不孝をお許し下さい……」  
「何言ってるのかなとうまはッ!? 自殺するなんて父なる神の忠実な僕たる私が許さないんだよッ!!」  
「あうあ……段々良くなって来たぞぉ……。お花畑までもうすぐだ……。ふへへへへ……もーすぐかみじょうさんにおむカエガぁ……」  
「はうッ!? とうまが片言に!!」  
 インデックスの説得にも耳を貸さない上条は、なおもうつろな目でガンゴンと鈍い音を響かせて壁に頭をぶつけ続ける。  
 正直面倒くさいしこれ以上はご近所迷惑なんだよ、とついに決断を下したインデックスはギラリと輝く歯をむき出しにした。  
 
『ガブッ』  
 
「ぎゃああああああああああああああああああぁぁぁぁァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアア!!」  
 頭に噛みついたインデックスを張り付けたまま、上条は頭蓋骨が割れる様な痛みに部屋の中をのたうち回るのだった。  
 
 
 それから十数分後――。  
「落ち着いた、とうま?」  
「ああ、まだちょっと頭が痛むけど取り合えず平気だ――それより」  
 そう言って上条はテーブルの上の飴を見つめた。  
 あの後袋から出て来た紙片からこの飴の正体が『力飴』だと判ったのだが上条にとっては何の慰めにもならない。  
「一種の『男根信仰』みたいなものかな?」  
「男根信仰?」  
 その言葉の響きの怪しさに上条が眉をひそめると、  
「そんなに珍しくも怪しくも無いんだよ。男性の性器をある種の抽象的シンボル、例えば子孫繁栄とか五穀豊穣とか生命エネルギーの表れとして祭るの」  
「こんなものをか?」  
 そう言って上条は胡坐をかいた自分の股間を見下ろす。  
 
「まあそんなものかもね……って何処見てるのとうま!!」  
「あ、いや、何と無く」  
「もう。取り合えずこの飴にもそう言った意味が含まれてると思うんだよ」  
「ふぅん……」  
「きっと色々と体にいい成分が含まれてたりしてそれが人には美味しいって感じられるのかも」  
「へぇ……」  
 上条の気の無い相槌にインデックスは上条をキッと睨みつける。  
「もうっ!! 何でさっきからとうまは気の無い返事ばっかりするのかな!?」  
「だってさぁ。そんな事言ったってこれ見た奴が理解してくれるか? やっぱ絶対変態かセクハラだろこれ?」  
「う、確かに……」  
「嗚呼……上条さんこれからどうしたらいいんでせう……」  
 結局話が巻き戻って頭を抱える上条の姿に、インデックスは大きなため息をついた。  
「そんな事であのかおりが一々怒るとは思えないんだけど。むしろこれ口実に何かしないかとそっちの方が気になるかも」  
「へ? 何か言った?」  
「何にもッ」  
 そう言って上条からプイッと視線を外したインデックスは、テーブルの上に有った飴を手に取った。  
 それをもう一度しげしげと眺める。  
(よく出来てるかも)  
 そう思うと頬が自然と熱くなる。  
 そこでチラッと振り返ると、唖然と呆然と不安をない交ぜにした様な顔をした上条と目が合う。  
 それは誰に向けた顔なのか。ここにいる自分か。イギリスに居る恋敵たちか。それとも身近にいる敵か。  
「ねえ、とうま」  
「な、何だインデックス?」  
 そこでインデックスはくるりと振り返る。  
 その顔に奇妙な笑みを見て上条の鼓動が不自然に高鳴る。  
「これ」  
「これ?」  
 飴を鼻先に突きつけられて上条の目が寄る。  
「食べてみて」  
(やっぱりそう来たかああああああああああああああああああああああああああああああああ!!)  
 早鐘を打つ鼓動の意味を理解した上条は愕然とした。  
 そしてもう半ば諦めてはいるが一応聞いておかなければいけない事を口にする。  
「誰が?」  
「とうまが」  
 満面の笑みは全く崩れる事は無かった。  
(不幸だ……)  
 ガックリと肩を落とした上条の鼻先を飴がツンツンと催促するように突きつけられる。  
「早く。口を開けてくれると嬉しいかも♪」  
 
「……何でお前が嬉しいんだよ? 確かに俺は嬉しく無いけど!! でも何でお前がそんなに嬉しそうなのか理解出来ませんざます!!」  
 するとインデックスはにっこりからニヤリに笑みの質を変化させると、  
「もちろん嬉しいんだよ。とうまにこんな事させられるなんて滅多に無いんだから」  
「んなモンしょっちゅうあってたまフガッ!?」  
 上条の怒りの叫びが口にねじ込まれた飴によってかき消される。  
「無駄口は良いんだよ、とうまぁ。それより口を動かしてくれると嬉しいかも♪」  
「ん゛ん゛ッ!!」  
 上条は乱暴に飴をねじ込まれた抗議の印に白い歯を飴に向かって突き立てる。  
「歯を立てちゃ駄目なんだよ。とうまが私に覚えさせたんだから自分でもちゃんと守って欲しいかもっ」  
 そう言ってインデックスは上条の口の中に更に無理やり飴をねじ込むとぐりぐりと掻きまわす。  
「ん゛ぐッぅ!?」  
 思ったより頑丈な飴が口の中を暴れる息苦しさに上条は目を白黒させる。  
「ちゃんと心をこめて舐めて欲しいんだよぉ。んふふふふ、ちゃんと出来たらご褒美あげてもいいかもぉ♪」  
(駄目だこりゃ、目が完全にあっちに逝っちゃってるよ)  
「ねえ、早く舐めて欲しいかもぉ。ねえねえ、下品な音を立ててくれるととってもとっても嬉しいんだよぉ」  
 そう言って妖しげな陰影に淫魔のような笑みを浮かべたインデックスを前に、上条は全てを諦めると仕方なくインデックスの言葉に従った。  
 
 
「んぐ、んごぷッ」  
 上条は今ひとり格闘していた。  
 その相手は口の中いっぱいに溜まった甘ったるい液体。  
 飴の中から突然飛び出したそれは飲み下すには粘っこく、そして量も多かった。  
「この力飴って射精までするんだねぇ」  
 そんな事をうっとりと口にするインデックスに上条は腹が立った。  
 どうもこうも、こうなったのは自分のせいだが、  
(この口の中に有る甘いのはどおすりゃいいんだよ!? 俺が悪いのは判ってるけど流石にこれはあんまりだろッ!!)  
 顔を真っ赤にしてインデックスを睨めば、彼女は飴から滴る白いものを指で掬っては口に運んでいる。  
(こぉんの暴食シスタぁぁぁあああああああああ!!そんなに食べるのが好きなら……)  
 床に膝をついていた上条がゆらりと立ち上がった。  
 そしてゆっくりとインデックスの背後に立つ。  
「んふふふ……。甘ぁくておいひぃんだよぉ……」  
 それに気付かないインデックスは、未だに白いものを口に運んではにまにまと蕩けた様な笑みを浮かべている。  
 と、次の瞬間上条はインデックスの両肩を後ろから掴んだ。  
 それに驚いたインデックスが飴を床に落としたが、上条は構わずインデックスを仰向けに床に押し倒すと、無理やり口をこじ開けた。  
「ふひあらああああ!? はへはああああああああ!!」  
 言葉にならない叫びを上げるインデックス。  
 そんなインデックスに顔を近づけた上条は、そんな少女の瞳の中を覗きこむ。  
 それから唇を少ししぼめたかと思うと、口の中に溜まっていた白いゼリー状のモノをゆっくりとインデックスの口の中に流し込み始めたのだ。  
 
「あがああああああごぼごぼごぼごぼごぼ……」  
 インデックスの悲鳴は直ぐに粘液質の泡にとって変わる。  
 苦しさにジタバタと暴れるが上条はその行為を止める気配は無い。  
 やがてそれに気付いたインデックスは、叫ぶのを止めて今度は必死に口の中のモノを喉の奥に流し込み始めた。  
「んぐ、んぶ、んぐ、んぐぐッ、んぐ!? ごほげほごほほ!! ごほごほ!!」  
 インデックスは顎を固定されていてうまく飲み込めずにむせてしまう。  
 涙と鼻水と涎と白いもので顔中ぐちゃぐちゃになったインデックス。  
 それでも上条は口の中に流し込むのを止めない。  
 やがて上条の口の中が空っぽになった頃には、飲み下し切れ無かった白いもので口の中に池を作ったインデックスが虫の息で横たわっていた。  
「どうだ、少しは懲りたかインデックス?」  
 上条は少し上がった息でそう話しかけるが、答え代わりに帰って来たのは白い池に1つ弾けた泡だけだった。  
「あれ? 何だ聞こえて無いのかぁ」  
 上条は少しがっかりした様に言うと、インデックスの口に自分の口を重ね合わせた。  
 それからゆっくりとした動作で、インデックスの口の中に有るものを吸いだして行く。  
 そのついでに舌を絡めてやると僅かながら反応が帰って来るのを確かめながらそれを続けて、インデックスの口の中を空っぽにする。  
 続いてどろどろになった顔を舌を使って丁寧に舐め取って、最後に鼻の中に溜まったものを吸いだしてやる。  
 と、そこまでした所で上条はふとある事に気付く。  
(臭うな)  
 鼻を鳴らして臭いを嗅ぐと微かに鼻を突く様な臭いがする。  
 そこでチラリと視線をインデックスの下半身の方に持って行くと……、そこには案の定床の辺りに大きな染みが出来上がっていた。  
「不幸だ……」  
 上条はそう呟くと、まだ意識の戻らないインデックスを抱え上げた。  
「次のラウンドは風呂場でってか? インデックスは何処までも上条さんの期待を裏切らねえよなぁ」  
 そう呟いてからインデックスの頬に優しく口づけをする。  
 すると、今まで震えていただけのインデックスの唇が僅かに動いた。  
「あうう……、とう……ま……」  
「何だインデックス?」  
「つぎ……まけない……かも……」  
「ああ期待してる」  
 そう言ってバスルームに向かう2人の顔は何故だか妙に幸せそうだった。  
 今夜の学生寮も平和そのものである……かもしれない。  
 
 
 
END  
 

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