「やっほう。殺しに来たよ、第一位」  
「……、またオマエか」  
 
うんざりした様子で一方通行は本を閉じ、窓のほうへ視線を向けた。窓ガラスを粉々に割  
って、一人の少女が部屋に侵入して来た。一方通行の傍らでスヤスヤと昼寝中の打ち止め  
を、そのまま高校生くらいに成長させた少女は、自らを番外個体と名乗っている。  
 
「毎回毎回窓ガラスを割るンじゃねェよ、誰が直してると思ってンだ、クソッタレ。 用  
があンならちゃんと玄関から入って来い」  
「ピンポーン、こんにちは第一位、抹殺しに来たよ。なーんてことをミサカがやるとでも  
思ってるの? そんな都合よく行くわけないってどうして分かんないのかな」  
 
今日こそ覚悟してもらうからね、と言い捨てると、番外個体はおもむろに衣服を脱ぎ始め  
た。あっという間に下着だけというあられもない格好になった。負の感情をまとわりつか  
せたその表情こそマイナスだが、身体のラインは世の男性の目を奪わずにおれない、みず  
みずしさと艶かしさを備えている。  
そんな肢体を目の前にしながらも、一方通行はまったく動じずに、  
 
「前回がクリームをゴテゴテに塗りたくったケーキで、その前が編目ガタガタのマフラー  
で、その前は……覚えてらンねエよ、ンで、今日はいきなりストリップはじめてそンでど  
オすンだよ」  
 
と、冷たく言い放った。  
 
「ミサカの目的は、あなたを殺すこと。 それはもう知ってるよね。 ねえ、男が一番無  
防備になるのってどんな時だか分かる?」  
「……オマエ、もしかしなくても相当のバカだろ」  
「それはどうかな? こーゆのはどう? ……お願い、抱いて。ミサカはあなたのことが  
好きになっちゃったの」  
 
番外個体は胸の前で手を組んで、うるうるとした瞳で一方通行を見つめた。ぐっと、一方  
通行の口からうめきが漏れた。演技だと分かっていても抗いがたい。  
番外個体は彼の手をとり、そっと自分の胸に押し当てる。二人の距離が縮まる。  
 
「……お願い、一度だけでいいの」  
 
手の平越しに少女の体温が伝わっている。やわらかくて、あたたかい。そのまま手を動か  
して揉んでしまいたい。目が、肩から腰にかけての悩ましい曲線をなぞってしまう。彼女  
の甘い匂いが鼻腔内を満たす。渇いた口が、彼女の口の中の唾液を求めて思わず舌なめず  
りをして、しまった。  
意地悪そうに目を細め、番外個体はさらに距離を縮めた。キスを、されるのかと身構えた  
一方通行に頬を寄せ、耳元で「お願い」と小さく呟いた。  
 
「チッ、力づくじゃ敵わねェから、今度は色仕掛けってかァ? 俺もバカにされたもンだ  
なァ。 こンな単純でわかりやすい罠に引っかかる阿呆だと思われてるっつーわけだ」  
 
内心焦りまくりの一方通行だったが、せめて言葉だけでも反撃を試みた。虚勢を張ること  
で、がけっぷちギリギリの理性を保っていた。触れた頬が、柔らかな胸を押し当てられた  
手の平が、いやに熱い。  
 
「確かにミサカは、あなたを殺すために生み出された。 あなたを憎むという負の感情を  
ネットワークから読み取るように調整されている。でも」  
 
でも、と繰り返して番外個体は口をつぐんだ。一方通行に頬を寄せたまま彼女は続ける。「そ  
れ以外の感情だって……ミサカは持ってる」  
 
「ネットワークは、ミサカに負の感情しか伝えてくれない。 でも、でも。 ネットワー  
クの外にも世界はあって、そこからミサカは憎悪以外の感情を感じ取ってる。 だから、  
もし、もしもあなたが、ミサカに戦う以外の選択肢を示してくれたら、きっとミサカは」  
 
言葉は、優しいキスで妨げられた。  
いまの言葉がどこまでほんとうで、どこからがうそなのか、そんなことはわからない。け  
れども。殺されてやっても構わない、と一方通行は思った。手の込んだ嫌がらせ、とか、  
わざとらしい罠、とか、そんなことはもうどうでもよかった。彼女の願いを聞き入れるこ  
とで、もしかしたら彼女を救うことができるかもしれないという可能性のほうが何万倍も  
重要だと感じたのだ。  
彼女はミサカで、隣で眠る打ち止めと同じミサカで、つまりは彼が守ると決めたミサカな  
のだ。  
 
隣の部屋のベッドの上で、肌を重ねた。  
少女のきめ細やかな肌の上に、あかい痕を落としていく。ところどころに、手術の痕らし  
いケロイドや、投薬の副作用か淀んだ色をした皮膚があった。それらはいかにも場違いで、  
歪んでいた。ひとつ、またひとつ、と見つけるたびに、一方通行は舌打ちをした。  
 
「興ざめだよね、こんな身体。 ミサカは、使い捨ての個体だから、いろいろと無理な処  
理を施されている。 すべては第一位を抹殺するため。 だからみぃんなあなたのせいっ  
てわけ。 いくらミサカが相手だからって、こんなんじゃ勃たないんじゃないかな」  
「ごちゃごちゃとうるせェなァ、イイから黙ってろ」  
 
傷痕のひとつを、一方通行は強く吸い上げた。傷痕自体を吸い取ってしまいたいとでも言  
うように。首筋に、肩口に、胸の谷間に、わき腹に、吸い付くようにキスをしていく。  
嘲るような笑みを浮かべていた少女の口から、途切れ途切れに嗚咽が漏れ始めた。  
 
「……っ、んっ…、ぁ」  
「俺を殺すためだけなら、こンな神経回路は必要ねェだろ。 生まれた理由とか、生きる  
意味とか、そォいうのは自分で探すもンだろォが」  
 
囁かれる彼の言葉は、低くて心地よかった。どす黒く淀んでいた何か、固く凍り付いてい  
た何かが、溶けて流れ出ていくような、不思議な感覚がした。  
刺激が加わるたびに、番外個体は快感に身を捩じらせた。身体の奥底に小さな火が灯って  
ちらちら揺れている。彼が自分の身体に触れるたびに、その火がどんどん大きくなってい  
く。  
 
「…ゃぁっ、だ、め……っ、なんか、へん……!」  
 
ひときわ大きな声を上げると、番外個体の身体が大きく仰け反った。形のよいおっぱいが  
ぷるんぷるんと揺れる。その頂にあるピンク色の乳首は、固く固く、尖っている。一方通  
行はその突端を親指と中指で摘むと、やや強めに捻り上げた。指の腹を擦り合わせるよう  
に、くにくにと弄ってやる。彼女の身体は面白いように反り返り、下は両腿をもぞもぞさ  
せて、口からは切なげな吐息が漏れ続ける。  
 
征服欲、とでも表現すべきか、言いようのない満足感が一方通行の口を横に引き裂いた。  
自分の中にある嗜虐的な傾向を、自覚し、普段は抑えようとしているのだが―――なんだ  
か、タガが外れそうだ。  
 
「あ、は。あはは、いいねいいねェ! やればできるじゃねェか。 乳首をこンなに立た  
せやがって、口から涎が出るほど気持ちイイってかァ。 下は下で……オイオイ、大洪水  
じゃねェか」  
「あ、や、やだ、見ない…で」  
 
一方通行は、彼女の両膝をがっちり掴み、開脚できる限界まで開かせ、ぐっしょりと濡れ  
た秘所をまじまじと眺めた。真っ赤に充血した襞は、愛液で濡れてテラテラと光り、誘う  
ようにその襞をビクビクと震わせている。  
さすがに恥ずかしいのか、番外個体が局所を隠そうと伸ばした手を、一方通行は掴み、行  
動を制した。  
 
「なんだなんだよなんですかァ、この手は。 それともアレか、オナニーでも見せてくる  
ンですかァ。 っつーか、オマエ、培養器から出て何日経ってンのか知らねェけどよォ、  
自分でココ弄ったことあンのか?」  
 
第一位の豹変ぶりに、少女は怯えた目を向けたまま、首を横に振ることで辛うじて問いか  
けに答えた。すると、ぐいっと腕を引っ張られ、指先にぬるぬると濡れた何かが触れた。  
それが自分の股間だと彼女が気づくのに数秒を要した。  
 
「……どうすればいいの? ミサカはそんなこと教わっていないし、それにこういうこと  
をネットワークから読み取る機能もミサカにはついてない。 ミサカが知ってるのはあな  
たを殺すことだけ、他のことはなにも知らない」  
 
チッと舌打ちすると、一方通行は彼女の指を突起に導いた。充血しぷっくりと膨れたそれ  
に指を押し当て、擦ってやる。  
 
「あっ! ああぁぁっっ!! な、にこの……っ、んんっ、や、ぁあんっ、ゆび、指がぁ、  
止まんないよぉっ!」  
 
彼女の指が自らの最も敏感な部分を弄る様子を、一方通行はニヤニヤしながら見下ろした。  
次第に指だけでは物足りなくなったのか、腰がいやらしい動きをし始めた。  
 
「な、にこ、れ…へんっ、なのぉ……っ、なにか、来ちゃ、ぅ、ぁ、ぁぁあっ」  
「左手が遊んでンぞ」  
 
そう言って彼女の左手を胸に移動させる。彼女はもうたまらないという様子で、自分の胸  
を揉みしだき、乳首をつまんで擦った。その間も右手は性器をかき回し、くちゅくちゅと  
いやらしい音を立てた。  
 
「あぁん、あ、あんんんっ! きもちぃ……っ、けど、けどっ」  
「けど、なんだァ?」  
「っ、はぁあん、っと、もっと、もっと、足りないのぉっ!」  
 
もっと焦らしてやろうかと考えたが、一方通行自身が限界だった。乱暴に彼女の手をはね  
のけると、ずぶりと自身を彼女の膣に挿入した。ずぶ、ぐちゅ、ずちゅちゅ。  
処女の抵抗を示す膣を、半ば力付くでこじ開けていく。苦痛に歪んだ少女の顔を見下ろす  
だけで軽くイッてしまいそうになる。  
 
「い、たい、痛いよぅ、もう……無理。 お願い抜いて」  
 
少女の懇願は無視された。途中まで挿入したモノを一旦引き、勢いよく根元までねじ込ん  
だ。引いて、再び侵入する。何度も何度も打ち付けるように繰り返した。肉と肉がぶつか  
り、間抜けな音を立てる。ベッドのスプリングが軋んで嫌な音を立てた。  
その音たちの中に、少女の声が混じる。最初はか細い、悲鳴のような声だった。次第に艶  
を帯び、喘ぎ声になっていく。  
 
「ああ、ああぁぁぁあっ、あーーーっ、あぅ、あぁぁううっっ」  
「だんだン、よくなって……ッ、来た、だろォが」  
「ミサ、ミ、ミサ、カは……もう、もう、は、っぁああああっっ!!」  
 
彼女が達したことを確認し、彼も欲望をぶちまけた。少女の内に、白濁した液体がびゅる  
びゅると放たれていく。  
汗ばんだ体を、少女の上に投げ出した。触れた頬が濡れているのに気づき、それが涙だと  
察する。少しずつ理性を取り戻した脳が、やりすぎた自分自身を責める。舌で舐めとり、  
つづけて瞼にキスを落とした。くすぐったそうな声を出した少女が、次はここにして欲し  
いとでも言うように、唇を尖らせている。  
唇を重ねると、少女は身体を震わせた。欲望を吐き出し、萎縮しかけていた彼自身を、熱  
く濡れた襞がびくびくと締め付ける。  
 
 
 
第二ラウンド開始、の合図がなる前に、一方通行は目を覚ました。  
 
「ふーんそれで? ってミサカはミサカは冷たく言い放ってみたり」  
「これでお終わりだ、クソッたれ」  
 
そっぽを向いた一方通行の顔を、打ち止めは両手で挟んで自分のほうへ向けた。彼女が着  
ている水色のパジャマには、生臭い匂いを放つ白い液体状のものが、べったり付着してい  
た。  
 
「ひどいよ、このパジャマ気に入っていたのに、ってミサカはミサカは泣きべそをかいみ  
る」  
「悪かった、っつーかよォ、そもそもオマエが勝手に俺の布団に潜りこンで来た挙句妙な  
ちょっかい出したのが悪ィンだろォがァァあああッ!! どっちかってェと俺の方が被害  
者なンじゃないンですかァそこは無視ですかァ、オイ?」  
「むっ、あなたが浮気したクセにミサカが悪いってどーゆーことなの、ってミサカはミサ  
カは怒りを通り越して呆れてみたり!!」  
「なァにが浮気ですかァクソガキがァ! ちゃンとこっちは謝ったっつの! だいたいど  
ンな夢を見よォが俺の勝手だ!」  
「むむむっ! 夢は深層心理のあらわれだって……ぶわっ、な、なにするのっ!」  
 
突然パジャマを脱がされた打ち止めは悲鳴を上げた。一方通行は自分の精液で汚れた部分  
を内側に丸め、ベッドから降りた。真っ赤になってぺたんこの胸を隠す打ち止めを見下ろ  
しながら、一方通行はチッと舌打ちをした。  
 
「……だったら、さっさと成長しろってンだよォ」  
 
ぼそりと呟かれた言葉に、打ち止めはきょとんと声の主を見つめ返した。どういう意味か  
と問い返したが、彼は返事もしないで部屋を出て行ってしまった。  
洗濯機の中に打ち止めのパジャマと自分の寝間着を放り込むと、再び一方通行は舌打ちを  
した。  
まさか、夢の途中で、少女が入れ替わっていた、などとは口が裂けても言えない。  
明らかに途中から自分は相手の少女を、自分の命を狙う抹殺者ではなく、"数年後"の彼女だ  
と認識していた。  
 
(夢は深層心理のあらわれ)  
 
思いっきり洗濯機の腹を蹴っ飛ばした。  
後刻。  
黄泉川からは凹んだ洗濯機の弁償を求められ、芳川からは早朝にこっそりと洗濯をする思  
春期男子の秘密を見抜かれ、さらなるストレスを一方通行が溜め込んだのは言うまでもな  
い。  
 
 
おわり。  
 

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