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4月1日の穏やかな午後。  
春休みを絶賛満喫中だった不良少年浜面仕上は今朝、絹旗最愛に『どうせ浜面のことですからまだ滝壺さんをデ  
ートとかに超誘っていないんでしょう。この私が超サポートしてあげますからさっさと来やがってください』と  
いう旨のメールで呼び出され、滝壺とのデートとは名ばかりに絹旗の荷物持ちを任されつつ三人で大通りを歩い  
ていた。  
まあ、いつも通りと言ってしまえばいつも通りの光景である。  
あーあ俺のこのポジションどうにかならないのかなー、と浜面がため息をついていると、絹旗が服の裾をくいく  
いと引っ張ってきた。  
彼女は人混みのあたりを緩慢に眺めて、  
「浜面浜面。超見てくださいあんな所に超有名俳優の一一一が」  
は?と一瞬目を点にしかけた彼だったが、やがて今日の日付を思い出し、彼女の企みに気付いた。  
「はいはいダウト。いくら俺だって今日が何の日かくらい知ってるっての」  
「むっ。超浜面のクセに小賢しい。この絹旗サマのありがたい嘘に対して超生意気です。腹が立つので今日は浜  
面にだけ集中砲火で嘘を超つきまくることにしましょう。目指せ超ラ●アーゲーム」  
「……お前本当にいい性格してるよな」  
「超褒め言葉と受け取っておきましょう」  
ふふん、となぜか誇らしげに胸を張る絹旗。彼女はその後、宣言通り事あるごとに浜面へとハッタリをかまし続  
けた。  
例えば、風に舞って道路を転がるレシートを見つけてはそれを指差し、  
「あっ浜面、足元に超一万円札が落ちてます」  
「あーはいはいスルースルー」  
例えば、澄んだ青空に浮かぶ飛行船を見上げると、  
「おっと、空から超落ちてくる系のヒロインのお出ましです」  
「あーアレだ。そのまま落としとけばいいんじゃね」  
例えば、お目当てらしき小物を買い求めた後にその雑貨店を振り返って、  
「あ、麦野さんが何やら超凄まじい形相で追いかけてきましたよ」  
「……そいつはシャレにならねーから困るな」  
 
そんな感じでひとしきり嘘を見抜かれた後、絹旗は(浜面に奢らせた)クレープをもふもふと頬張りながら理不  
尽な文句をぶつけてきた。  
「……うむー、超引っかかってくれません。浜面のクセに。超バニー狂の超浜面のクセに」  
「だからさっきからお前のそのこだわりは何なんだよ一体!?大体それはお前の嘘が下手すぎるのが悪いんじゃね  
ーの!?あと前々から言ってるけど別に俺はバニーさんだけが好きな訳じゃなくて」  
「……はまづら、」  
「ん?どうした滝壺?」  
と、ここで今まで静かにクレープをかじっていた滝壺理后が口を開く。そういえば今日はこいつに殆ど話しかけ  
てなくて(というか、デートという名目があったため今さらながらも若干緊張していて話しかけづらくて)悪か  
ったかな、と浜面が反省しているとき、口元にクリームをつけたままの滝壺が唐突に爆弾を落とす。  
 
「……嫌い」  
 
「―――……ッッッ!!?」  
「……いやいやいや滝壺さん、いくら超単細胞浜面が相手でもそんな超簡単な嘘じゃ」  
さすがに若干呆れてしまった絹旗がツッコミを入れた時、浜面の大柄な身体がガクン!と下方に下がった。  
いわゆる土下座の体制だ。  
「滝壺!今まで放っといてゴメン俺が悪かった!!もうバニーさんにうつつを抜かしたり中学生のフトモモに惑わ  
されたりしないから本当にゴメン許してくれ頼むこの通りだっっ!!」  
「……えー……、こんな街中で超本気土下座ですか……?」  
つかコイツ単純過ぎだろオイ、と胡乱な目つきになっている少女の前で、滝壺が地面に突っ伏す浜面に申し訳な  
さそうな様子で手を差し出す。  
「あ……ごめんはまづら、大丈夫だよ。顔上げて」  
「……え?た、滝壺?」  
「……はまづら。今日、何の日?」  
「……、あっ!……わ、悪ぃ……」  
「ううん。こちらこそ、ごめんなさい」  
滝壺の手を取り、涙目の浜面の表情がぱっと明るくなった。  
 
「……まったくもう、超二人だけの世界に入っちゃってすっかり私を超スルーしてくれるじゃないですか」  
そうして完璧に放っておかれた絹旗最愛は一人ごちる。  
「それにしても浜面、滝壺さんの嘘は超鵜呑みしちゃうんですよね。私の超巧みな嘘は見抜くのに」  
それがかなりムカつくと同時に、ちょっとだけ羨ましかった。  
良くも悪くも、彼らは信用しあえる関係にあるのだ。  
少なくとも、今の絹旗の環境上での立場には存在しない絆だ。  
彼らは、そんな環境にも負けることなく、今の幸せを存分に噛み締めている。  
 
「あーあっ。春は超出会いの季節ですよね。私にも少しは良い出会いが訪れるといいのですが」  
お馬鹿な友人たちの微笑ましい姿を眺めて、絹旗はほんの少し、おどけるように唇を尖らせるのだった。  
 

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