ある日、ある時、ある場所で、こんな話し合いが行われていたと言う。
「本篇もそろそろ佳境に入って来たんだよ。もうこの辺でとうまには相手を1人に絞ってもらっても良いかも」
そう切り出した純白シスターことインデックスに、早速茶々を入れたのは美琴だった。
「アンタ……またそんな無茶振りして自分が選ばれなかったらどうするつもりなのよ? と言うかホントに大丈夫なのアンタ? 食べるかアイツの邪魔するかしか活躍して無いじゃない」
「う、うるさいんだよ短髪ッ!! 裸どころかパンツも見られてない様な女がしゃしゃり出て来ていい場所じゃ無いかも!!」
「ぬぁ、ぬぁんですってぇぇぇぇえええええええええ!!」
「は、裸でしたら、そ、その上条当麻に見られました……」
「私。体操服が濡れて。下着を見られた。後。ブラのホックを外された事が有る」
「ミサカには既にあの人に隠している所など有りません、とミサカはお姉様(オリジナル)より優位にいる事をアピールします」
「あ、あの……私も……ぞの……彼に……裸を……」
「裸で条件をクリア出来るのでしたら問題無いのでございますよ」
「そうっすね。私も問題ありません」
「悔しいけど私も上条当麻に裸を見られたわ」
「え、裸? 限りなく裸っぽいのじゃ駄目ですか? 駄目? そう、あ、ごめんなさい。あ……じゃあ下着……。それも駄目? やっぱり。あは、あははははは……」
一升瓶を抱えてむなしく笑う五和は置いておくとして、次々に上がる声に美琴の動きが固まる。
するとそんな美琴を助けるために白井がずいっと前に出た。
「何を仰ってるんですの? お姉様が負けてるなんてありませんですの。その気になれば裸くらい、お姉様だってわたくしだって、うへへ、お姉様の裸……」
あっという間に脱線して自分の世界に入ってしまった白井に代わって、後を継ぐのはゴスロリライオンヘアのシェリー。
「もう、途中で話を投げるんじゃないわよ。とにかく、裸ぐれぇでぎゃあぎゃあ騒いでるんじゃねえよってこった」
「そ、そうですよ。そんな事でハブられてはここまで出張った意味がりません」
「そうですよ! この日の為にシスター・ルチアも私もエッチな下着を新調……ごめんなさい。もう黙ります」
「そうねえ。お姉さんとしても別に出し惜しみしている訳じゃないから、何処で少年と始めてもいい様に準備してるわ」
オリアナの不意な一言に一同ギョッとする。
「何? 脱ぐの? そんな話は聞いちゃいないんだけど? あ、別に脱がないとは言って無いわよ。ちょっと確認しただけだから。自信が無いとかじゃないんだからねッ!!」
キョドってツンデレ風味になるヴェントの横で、先ほどハブられた五和が拳を握る。
「私は大丈夫です!! ここでも脱げますよ!! そのくらいの覚悟はちゃんと出来てますから!!」
「ふぅん……。そう言う話なら私も乗らない訳にわ行かない訳だし。てか乗り遅れるなんて癪に障るの」
そう言ってキャーリサがドレスから一変真っ赤なボンデージ姿に変身した。
「ああ、先を越された!? しっかーし!! 『新たなる光』代表として参加したこのレッサー。こんな所で後れを取っていてはあの少年のはぁとを鷲掴みに出来ませんからね!!
ってまた勝手に代表とか名乗っちゃったけど大丈夫かな? むしろ私がベイロープに尻を鷲掴みにされるのかな……」
(えッ? えッ? 何か話がとんでもない方向に向かってるような気がものすっごくするんだけど……)
たりっと頬に冷や汗を流す美琴の肩をポンと叩いたのはエリザリーナだった。
「私たちには私たちの出来る事を。お互い頑張りましょ」
かくして――、
「ア、アンタ!? そのポーズは止めなさいよ!! そ、それは……わ、私が後で……す、するんだから……」
「へっへーん。誰がどんなポーズ取ったって関係無いかも。と言うか短髪は同じポーズじゃ勝てる自信が無いんでしょ?」
「ふ、ふざけんじゃないわよこのチビペッタンッ!!」
「言ったなこのつるつるまな板ぁッ!!」
「「ムキィ――――――――――ッ!!」」
「あ、あの、そんなに喧嘩をしなくても」
止めに入った神裂の胸に、インデックスも美琴も硬直する。
「そうですよ。皆で仲良く撮りましょう」
五和の胸がぷるんと揺れる。
((わ、私の女の武器って何処に仕舞ってあるんだろう……?))
自分の胸を寄せて上げてため息をつくインデックスと美琴。
「そぉ言う時は協力プレイですわお姉様ぁん!!」
「く、黒子!?」
「お姉様とわたくしがくんずほぐれつを繰り広げれば、如何にあの朴念仁の殿方だろうと……」
「本音は?」
「うへへへ。お姉様の処女はわたくしのモノですわ」
「却下」
「うおおおおおおおおおおお!? さ、流石お姉様は能力以外の特技にも長けていらっしゃいますわ!!」
「褒めても何も出ないわよ」
「でしたらミサカと協力しましょう、とミサカはお姉様の背中に指を這わせながら聞いてみました」
「うひぃぃぃいいいいいいいいいいい!?」
「流石はお姉様中々の感度です、とミサカはお姉様を称賛します」
「い、いきなり何すんのよアンタはッ!?」
「ウォーミングアップですが? とミサカは両手をわきわきさせながら言ってみます」
「わきわきさせんなやゴラァ!!」
「これも撮影本番の時の為です、とミサカはお姉様の全開フルスロットルを引きだす自信がある事を示唆しておきます」
その一言に美琴だけでは無く、隣に居た白井までがごくりと喉を鳴らした。
「そ、その、わたくしもそれに参加しても?」
「こ、こら黒子ッ!?」
「あなたも一緒ならページ数は3倍、破壊力は3乗かそれ以上、全く申し分ありません、とミサカはあなたの申し出を快諾します」
「げッ!?」
「でわ、よろしいのですね?」
「何がッ!!」
「ミサカも問題ありません、とミサカは作戦開始の合図に頷きます」
そして御坂妹が頷いたのを合図に2対1の下味付けが開始された。
「いにゃあああああああああああああああああああああああああ――――」
「凄い事になりましたね」
「女教皇様!!」
「はい?」
「私たちもやりますか?」
そう言って目をキラキラさせる五和に、神裂はちょっと引いてしまう。
「やらなきゃ駄目ですか?」
その視線の先では、美琴がとんでもない事になっている。
「大丈夫です。痛くしませんから」
「い、痛くって……」
そう言って視線を戻すと、五和の手にはロープが握られ、その背後には三角木馬やら滑車やら磔台が見えた。
「ひぃッ!? い、五和、ハ、ハードルが高すぎるのではありませんか?」
「大丈夫です!!」
「だ、だからハードルが……」
「大丈夫です!!!!」
そして、
「ふひゃあああああああああああああああああああああああああ――――」
「すげえな極東組。あれがジャパニーズ・キンバクってやつね。アートだ」
「シェリーの小麦色の肌にも縄が映えると思うのでございますよ」
「それならてめえの爆乳の方がよっぽど縄映えすると思うんだけど?」
「それなら女子寮のよしみであの中に加えてもらってみては如何でございましょう?」
「はん、あなたにしては珍しくいい考えね。新境地開拓のためにいっちょ交ぜてもらおうか!!」
「うふふ。わたくしは縛られるより縛る方が好きなのでございますよ」
そう言ってシェリーとオルソラも神裂たちに加わって行く。
そんな彼女たちを遠目に見やるアニェーゼ。
「レズネタ、SMと来たら、後何が残ってると思いやす?」
そう言ってルチアに振り返る。
「わ、私に聞かないで下さい」
恥ずかしそうにそっぽを向くルチアに変わってアンジェレネが勢いよく手を上げた。
「チョコレート!!」
「お、いい案っすね。それ採用」
「と言われると思って用意しておきました」
常温でも蕩けるチョコレートがドラム缶一杯。
「シスター・アニェーゼ!? シスター・アンジェレネ!? 食べ物を粗末にする様な事は――」
「シスター・ルチアはうっさいですね。少し縛っておきましょう」
「はい、シスター・アニェーゼ!!」
そしてあっという間にルチアは縛り上げられた。
「むぐー!!」
「で、どう言う感じにしますかい、シスター・アンジェレネ?」
「もちろんシスター・ルチアにはフォンデュのマシュマロになってもらいます。マシュマロ2つ付いてますし」
「ナイス」
「むぐー!!」
かくして担ぎあげ上げられたルチアは、チョコレートのお風呂に放り込まれるのだった。
それを更に眺めるのは、比較的年長組で構成されたヨーロッパ組――ただし必要悪の教会除く――メンバーたち。
その中の1人オリアナが感心した様な声を出す。
「皆マニアックに来たわねぇ。お姉さんにはそのチャレンジ精神が羨ましいわ。もうちょっと若かったら色々凄いの見せちゃうんだけど」
「い、色々って?」
ちょっとこの状況に付いて行けて無いヴェントが迂闊にも聞き返すと、オリアナは楽しそうに何かを耳打ちした。
「#&△%$!?」
「お姉さんより年上なのに初心なのねあなた」
うろたえるヴェントを見てけらけらとおかしそうに笑うオリアナ。
その隣ではキャーリサがやっぱり何時も通りに悠然としている。
「ま、私から言わせればあんなのは自身の無さの裏返しだし。若さではちょっとだけ負けるけど、その分中身で勝負するの」
とその言葉に、エリザリーナが反応した。
「そうなの? ヨーロッパ圏だから結構進んでると思って色々用意したんだけど、無駄だったかしら?」
そうして取り出したのは数々のボンデージグッズ。
「わお♪」
「うわぁマジで……」
「何ですかこれ?」
オリアナ、ヴェント、レッサーのが声を上げる中、キャーリサはシリンダー形状をした巨大な注射器の様なものを手に取る。
「ふむ」
シリンダーを押す度にプスープスーと言うのを確認しながら、
「随分用意してくれたの。折角だから誰か使ってみるし」
その言葉に全員の目がレッサーに。
「わ、私ですか!?」
驚くレッサーを捕まえる様に、オリアナがその両肩を後ろから抑える。
「驚かない驚かない。ちょっとお注射だと思えば怖くないから」
ヴェントはキャーリサの手にしたものを極力視界に入れない様にしながら、
「ま、任せるわ」
そしてキャーリサは何時も通り居丈高に、
「王女の露払いだし。光栄に思うがいいの」
キャーリサが手にしたシリンダーはエリザリーナの手に。
「と言う訳だから、我慢してね」
エリザリーナはにっこりとレッサーに微笑んだ。
「ちょ、ちょっと、ほ、本気なんですね? う、うわっ、うわっうわわわわわわあああああああああ――――」
「す、凄い……」
風斬はそんな皆の張り切りぶりに羨望の眼差しを送っていた。
何事にも自信が持てない彼女にあの勇気は出てこない。
と、そんな彼女の腕を引くものが有った。
「はい?」
振り返ると姫神が居た。
面識はないが初めて会ったときから妙に共感を持てる少女。
その少女の手には黒いものが握られていた。
「コスプレ」
そう言って姫神は風斬にそれを押し付けた。
「私が?」
こくりと頷く姫神からそれを受け取る。
受け取った事を確認すると、姫神はたたたと走って行く。
「これ」
顔を上げると、姫神の走って行く先には吹寄と名乗っていた少女が立っている。
その少女は俗に馬鹿水着と呼ばれるものを堂々と着こなしていた。
どうやら自分の手に有るのはあれと同じらしい。
「これなら裸の方が恥ずかしく無いと思う……」
しかも何故か2着。
と、そこで何かに気付いた風斬はある少女を探した。自分の初めての友達。
愛くるしくて愛おしくてやまない銀髪の少女。
居た――寂しそうに1人で立っている。
「インデックス?」
するとインデックスも風斬に気付いた。
「こっちだよインデックス」
とたたたと走って来たインデックスは不安げな顔で風斬を見上げた。
「ひょうか」
そんなインデックスに風斬は水着を渡すと、
「一緒に……ね?」
「うん!!」
そして――、
「何だこりゃ?」
上条は机の中から分厚い油紙で包まれたものを見つけた。
今は放課後。
ここに居るのは補習で居残りの自分だけ。
さっきまで机の中身は空だった筈――。
「誰の悪戯だ?」
そう呟く手の中で、油紙がちりぢりになって空中に消え去ると、手の中には皮張りの大きな本の様なものが残った。
「魔術か?」
いぶかしむ上条は、その本の様なものを右手でべたべたと触って見た。
「何も起きねえな……」
そしてページを開くと、まずそこには、『親愛なる上条当麻へ』と書かれていた。
「やっぱ俺宛かよ。不幸だ……」
それでも次のページを開いてしまうのが、人間の心理とも言えよう。
「さて、鬼が出るか蛇が出る……」
上条が固まった。
夕日に浮かぶ姿はまるで影絵の様だ。
その影絵の中の一部分だけが、ペラ、ペラと音を立てて動いた。
それからどれくらい時間がたった事だろう。
上条は影絵の魔法が解けて人の姿に戻った。
そして、鞄と一緒に先ほどの本の様なものを大事に胸に抱え込むと、前かがみになってぎこちない動きで教室を後にするのだった。
「こんな時まで全員同じ回数ってどう言う事なのよアイツはッ!?」
「やっぱりとうまは何処まで行ってもとうまなんだよ!!」
END