とつとつではあるが、上条当麻の目の前には神妙な面持ちをした神裂火織が立っていた。
「上条当麻。全ての借りを精算するために……、この私を抱いて下さい!!」
「抱っこか? それで貸し借りがチャラになるならお安い御用だ」
「わーいわーい♪ って、ふざけんしゃねえ!! 誰が高い高いしろっつったんだよ!? 抱けっつったらSEXに決まってんだろ、このド素人がッ!!」
「ぎゃあああああああああああああああああ、不幸だあああああああああああああああああああああああああああ!!」
そうして、神裂の熱意――と言う名の脅迫――に折れた上条当麻は、彼女の申し入れを受け入れる覚悟を決めたのだった。
だが、何時も通りの際どいウエスタンルックはともかくとして、頬を赤らめてしおらしく俯いた神裂を見てしまうと、こんな俺が本当に良いのだろうかと、上条の気持ちはゆらゆらと揺らいでしまう。
「い、いいんだな神裂」
「ええ。ですから覚悟が揺るがない内に……」
その覚悟がどちらを指すものなのか――と、そこで神裂が上目遣いに上条を見つめる。
「あの……、上条当麻」
「な、何だ?」
「その……、不躾な願いで恐縮なのですが……。その……服を……」
「ふ、く?」
「はい……。私の服を脱がして頂けたらと……」
「お、俺が?」
「ええ……」
恥じらうように顔を背ける神裂を前に、上条はごくりと生唾を飲み込む。
「い、いいのか?」
と聞いてしまった瞬間、上条は言葉の重大さに気付いて取り消そうとしたのだが、
「ちょ、ちょっと、今の言葉は無――」
「はい」
(し、しまったああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!)
神裂の返事に、上条は頭を抱えてしゃがみこんでしまう。
かくして、上条の逡巡は終了した――。
「い、いくぞ神裂」
「お願いします」
双方固唾をのんで見守る中、上条の右手は神裂のTシャツの縛り目をやすやすと解いた。
はらりと落ちたTシャツの裾が神裂の引き締まった腹部を覆う。
上条はすかさずTシャツの裾に手を掛けるが、そこで手を止めると、神裂の顔を覗きこむ。
そこで視線がバッチリと合ってお互いドキッとする。
だが、そこで神裂は決意を瞳に込めると、こくりと小さく頷いた。
それを合図に、上条はTシャツの裾を捲り上げる。
神裂も、それに合わせる様に上体を屈めて脱がし易い様にした。
上条の目に引き締まったわき腹や白い背中が飛び込んで来ると、否応無く興奮は高まって行く。
そして、ついに上条の手にTシャツが渡ると、神裂は倒していた上体をすっと立たせた。
それに合わせて、2つの大きな膨らみがぷるんと揺れる。
つんと上向いたピンク色の頂点が、神裂の興奮の度合いを上条に伝えて来る。
「は、初めてでは有りませんから、あまり……、その……、すいません……」
消え入りそうな声でそう詫びる神裂。しかし、上条はそんな神裂の言葉よりも、先に確かめたい事が1つあった。
「神裂、ひとついいか?」
「はい」
「ブラはどうした?」
「あ、わ、私、しない派なんです……」
「!!」
全身を真っ赤に染めながらもじもじと恥じらう神裂を前に上条は愕然とした。
(先にそう言っておいてくれよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)
ブラが有るから大丈夫。そんなふうに考えていた時期が俺にもありました――またしても失敗した事に頭を抱える上条だった。
「神裂……、いや神裂さん?」
「はい」
「他に……、他に俺に隠してる事が有るなら言ってくれ」
「隠し事、ですか?」
「そうだ……。例えばジーパンの下がノーパンですとか……、そんな事有る訳無えと思うけど……」
「あ、は、履いてませんが……」
「な、に?」
あっさりとそう答えられて――神裂自身は心臓バクバクなのだが、上条的にはもうちょっと恥じらいがちに答えて欲しかった――、上条はまたも愕然とする。
「そ、そんな目で見ないで下さい!! 前にも申し上げましたがこの格好は魔術的意味が有ってですね……、てぃ、Tバックも試したんですよ? そのぉ……、ただぁ……、あれはお尻が気持ち悪くて……」
何の告白なのかと言う話なのだが、上条にはそれを突っ込む余裕すら無い。
(何処まで無防備なんですかこの聖人様は!? 確かに神裂を押し倒せるような奴はいないだろうけど…….だからって、だからってぇぇ……、不幸だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!)
敗北――その言葉が上条の背中に重くのしかかる。
「あの……、先に進んで貰えますか? 正直に申し上げますと、覚悟しているとはいえこの格好で放置されるのは流石に恥ずかしいのですが……」
それならTシャツを着ろと言いたい所だが、もはや上条にそんな言葉を吐く気力等残ってはいなかった。
「あ、ああ……」
上条はたどたどしく相槌を打つと、神裂のベルトのバックルに手を伸ばす。
その瞬間、ごくりと神裂の喉が動く。
その間に上条はのろのろとした動作でバックルを外し、ボタンを外し、そしてついに最後の砦、ジッパーに手を掛けた。
(つ、ついにこの時が……)
不安と期待をない交ぜにして見つめる神裂の目の前で、上条はジッパーを、ジジ、ジジジ……と下ろした。
「ぁぁ……」
むき出しにされた下腹部の羞恥に震える神裂。
一方、上条はジーパンの腰に手を掛けた所で、
(何かがおかしいんだが……?)
その何かが判らずに手が止まった。
と、そこで神裂が暴挙とも言える行動に出る。
上条の止まった両手に自分の手をそっと重ねると、「お、おい!? ちょっと――」と驚く上条を無視してジーパンをずり下げてしまったのだ。
「んなぁッ!!?」
慌てふためく上条だったが、両手は神裂に抑えられて逃げる事さえ叶わない。
咄嗟に目をつぶったが、
「上条当麻……。その……私じゃ駄目、なのですか……?」
その心細そうな神裂の声に、男として逃げてはいけない崖っぷちに自分が立たされている事を再認識する。
(えぇえええいいッ!! もうどうなっても俺は知らねえぞッ!!)
今更往生際が悪いと言うか、やけっぱちになった上条は、ギュッと瞑っていた目を開いた。
はたして、そこに見えたものとは――、
「神裂さん? いや……、火織さん?」
「な、何でしょうか!?」
「何故にツルツル?」
「は?」
「ここ」
そう言って上条は、いつの間にか自由になった手の人差し指を立てると、無毛の恥丘をぷにっと突いた。
「ふひぃッ!?」
「けしからん事ですよこれは」
そう言ってふにふにと何度も指で突く。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……」
「けしからんけしからんけしからんけしからんけしからんけしからんけしからんけしからん――」
「あ、あ、あのッ、つ、突くのは、あんッ、や、止めて……」
神裂は上条の手によって良い様に身もだえさせられてしまう。
そしてついに、
「けしからあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――」
「きゃあッ♪」
上条の常軌を逸した叫びと、神裂の黄色い悲鳴が交錯した瞬間、古ぼけたテレビのブラウン管に黒々とした穴が穿たれる。
それに続いて、ボンと言う情けない音を最後に、上条と神裂を映していたテレビは、その一生を終えた。
「何ですか、今の映像は?」
その場を一気に氷点下まで陥れる様な冷たい声に、今の今までテレビに喰いついていた土御門と建宮がビクッと背筋を伸ばす。
「もう一度聞きますね。今の映像は何ですか?」
「あ、あれは……、そう、びっくりどっぎゃあああああああああああああああああ!!」
建宮の言葉は、後頭部を直撃したドアと、建宮自身の悲鳴と、テレビと共にひっくり返る音に破壊音にかき消された。
残骸の山の中でひくひくと痙攣する建宮を目にした土御門が、ごくりと生唾を飲み込む。
「質問を変えますね。あの場所は何処ですか?」
「○×△△□□ホテル、◇◇◎号室ぜよ。か、神裂の名前を出せば判る筈にゃー」
「ありがとうございます」
その言葉を最後に背後に居た殺気がふっと途絶える。
「ふぃぃ……。この俺に反撃の暇すら与えないとは末恐ろしいぜよ五和。おい、建宮、大丈夫かにゃー?」
そう言って土御門が残骸に埋もれた建宮に近づいたその時、部屋の中にカランと金属音が響き渡る。
すると次の瞬間、土御門は建宮を担ぎあげると窓に向かってダッシュした。
「て、手投げ弾なんて投げやがって、ふざけるんじゃねええええええええええええええええええええええええええええ!!」
背後の扉からドゴンと大きな音と共に黒煙が噴き出しても、五和は全く振り返らない。
程なくしてスプリンクラーが作動したのか、天井から降り注ぐシャワーを浴びながらも、五和の足取りは澱むどころか寧ろ加速して行く。
「相手が、女教皇だろうと天草式だろうと関係有りません。私は、私がしたい事をただするだけです」
能面の様な顔に引き裂かれた様な笑みを浮かべた五和は、いつの間にか手にしていた長大な槍を手に弾丸の様に玄関を飛び出して行くのだった。
END