<4> 恋せよ乙女!紫電の如く! 後編  
   
 
 
「当麻さん、キチンと反省していますの?」  
「むぐむぐぐーっ!?」  
 自らの尻の下で蠢く生命体に話しかける少女の声が部屋に響く。  
 表情は飛びっきりの笑顔であり、声も清々しいものだ。  
 ちなみに服装は少年のYシャツを剥ぎ取って着ているといったもの。  
 少女の服は汚れてしまったので現在、風呂場にあった洗濯機で洗濯中だ。  
 少女――白井黒子は昨日、自分達が一夜を過ごした部屋を見渡す。  
 自分が間接的に座っているベッド以外は調度品の殆どない簡素な寝室。  
 それをから白井は僅かに首を動かしてもう一度視線を自らの尻の下へ。  
「わたくし、腰が痛いと言いましたわよね?」  
「ほがー!?」  
 尻の下から何やら簀巻きにされた生命体の叫び声が聞こえた。  
 簀巻きの生命体――上条当麻はジタバタと動くがその抵抗は弱い。  
 それもその筈、さっきまでとんでもなく激しい運動を続けていたのだから。  
 もはや碌に動けまい。というか、動けたらある種化け物だ。彼ならやりかねないが。  
 というわけで、現在の状況は二人とも満身創痍。  
 マウントポジションさえ取れれば、体格で劣る白井とて負ける事はないのだ。  
 その点、白井の能力"空間移動"は便利であった。  
……まったく。  
 自分の下で暴れる当麻を無視して白井は目を閉じる。  
 思い出すのは、先程の風呂場での出来事だ。  
 簡潔に言ってしまえば、当麻に襲われた。  
 いきなり襲ってきたのだ。  
 女性としてそんな事が許せるだろうか。  
 否、断じて否。  
 彼は腰の抜けた白井に代わって身体を洗う、という名目の下にあられもない場所に手を伸ばしてきたのだ。  
 その後も揉んだり擦ったり突っ込んだりともう大変だった。  
 当麻にならそうやられても良いとは思うが、淑女としてのプライドというものがある。  
……あら、わたくしとした事がはしたない。  
 顔を赤らめつつ片手を頬に手を当て、もう一方の片手を真下へと振り下ろす。  
「ほごぉっ!」  
 なにやら叫び声が聞こえてきたが白井は無視。  
 駄犬にはこれくらいの躾が必要だってどこかの本に書いてあったような気もするし。  
 別に途中から快楽に流されて自分から求めてた事に対する照れ隠しではない。  
 というわけで、情事の後、見事に気を失った白井を寝室まで運んできた当麻を叩き伏せ、現在に至る。  
 ちなみに先程まで気を失っていたのだが、寝室の運び込まれた際に丁度目が覚めたのだ。  
 まさにグッドタイミング。  
 彼の真上に空間移動してドロップキックをかましてやってから簀巻きにしてベッドに叩きつけてやった。  
 そのせいでまた腰が痛くなって動けなくなってしまったが、仕方ないことだろう。  
「で、当麻さん?いい加減反省しましたの?」  
 同じ言葉を放つが、彼は身体をえびぞりにしたりして遊んでいるだけだ。  
 別に布で口が塞がれているから喋れないとか、そういう問題ではないだろうに。  
 白井は溜息を一つ。  
……でも、凄かったですの……。  
 ちょっとだけ変な思考が横切った。  
 白井としてはキスが一番好きなのだが、彼はどうも違うらしい。  
 むう、と唸ると同時に息を大きく吐く音が聞こえた。  
「あら?」  
「ぜぇぜぇ……」  
 どうやら口元に巻いていた布が外れたらしい。  
 彼の荒々しい息使いが聞こえた。  
 数度息を吐き、吸ってから当麻は息を整えると、  
「黒子、お前は俺を殺す気か?!」  
「あら、殺すだなんて人聞きの悪い。調教するだけですの」  
「なおさら性質悪いわー!」  
 
 何が悪いと言うのか。  
 ちょっと真剣に悩んでしまったが彼も風呂場であれだけ暴れていたのだ。  
 きっと酸素欠乏症とかその辺りになっているのだろう。たぶん。  
 そういえば、医学については学んだ経験は少ない。今後のために次回からとっておこうか。  
「それで――三度目ですけれど、反省してますの?」  
 半目で見ると彼はう、と言葉を詰まらせて沈黙した。  
 数分間、無言の空気が部屋に満ち、  
「……悪い」  
「……それでよろしいんですの。まったく……いきなり襲うだなんて、殿方として――」  
「でも、黒子があんまりにも可愛かったからさ」  
 いきなりの言葉にまた白井の顔が真っ赤に染まった。  
 この男性の不意打ちは急過ぎていけない。  
 白井は再びむぅ、と唸ると腕組みをして眉を立て、視線を泳がせつつ、  
「……今回だけですわよ」  
 やっほーい、と声が聞こえたのでもう一度腕を振り下ろして制裁。  
 悲鳴が聞こえた後は声も出なくなった様なので放っておいた。  
 それにしても、と視線を彷徨わせ殆ど瓦礫同然になっている部屋の入り口を見る。  
 どうやって閉まっているのか、扉も蹴りでもかませば倒れそうな程危うい。  
 まあ、白井のお姉様と慕う"超電磁砲"こと御坂美琴の一撃を受けて原型を保っているのがまずおかしいのだが。  
……それにしても、ここのホテルの従業員は暢気ですわね……。  
 あれだけの爆音がしたのだから駆けつけてもいいものなのに、少しも慌てた気配がない。  
 慣れているのだろうか。  
……まぁ、それはそれで助かるのですけれど。  
 騒ぎになりでもしたら大変だ。  
 下手をしたら当麻との関係が学園都市中に広がりかねないのだから。  
 白井は別に困らないのだが、彼が困るだろう。  
 確か、中学生以下と付き合うとロリコンやらなんやらと不名誉な称号を周囲から与えられるらしい。  
 彼もその様に呼ばれるのは嫌だろう。  
 彼が嫌なのは、自分も嫌だ。  
 ともあれ、その問題はまだ先送りにしておくとして、もう一つ重要な問題がある。  
 それは、  
「……お姉様の事ですわね……」  
 白井のお姉様と慕う少女――御坂美琴は自分の下で気を失っている当麻に好意を抱いていた筈だ。  
 そして先程は妙な空気に耐えられなくなったのか出て行ってしまったが、恐らくは――、  
「泣いていますわよね……」  
 御坂美琴という人物はなんでも自分で溜め込む癖がある。  
 きっと自分と当麻の関係を知ってしまったからには誰にも知らない場所で涙を――、  
「――」  
 そこまで考えた時だ。  
「あら?」  
 玄関の方から扉を叩き開ける音が響いた。  
 おかしい、この部屋の扉は電子ロックだったはずだ。  
 あらかじめ決められたキーカードを使わなければ開かない扉が開いたのは何故か。  
「……ホテルの従業員、ですの……?」  
 想定される侵入者を口にする。  
 もしくは物理的に扉の鍵が破壊されたか、だ。  
 しかし、物音や鍵を開ける音ががしなかった事からして、破壊されたのではないだろう。  
 となると。  
「締め忘れですの?」  
 物凄く馬鹿らしい理由だが、実際先程美琴が出て行った切り当麻も白井も玄関には向かっていない。  
 彼女が扉を締められるわけもないし、きっと開けっ放しだったのだろう。  
 開けっ放し――つまり、風呂場から響いていた白井の嬌声も丸聞こえだったというわけで。  
「――!」  
 顔が一気に赤くなる。  
 旅の恥はかき捨てというが、この場合は適応されるのだろうか。  
 適応されなかったらちょっと恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。  
……そ、それよりも、今は目先の問題の解決が先決ですの……ッ!  
 意識を現実へと戻して集中すると、足音が扉の向こうに響いてきた。  
 恐らくはここまで残り数歩といったところか。  
 しかし、拙い。  
 
 現在、白井は腰が痛くてこれ以上一歩たりとも動けない状況だし、当麻も気絶中だ。  
 正直、何者かはわからないが、今の状況を見られでもしたら堪ったものではない。  
 白井は当麻のYシャツを裸に纏ったという服装。  
 見たものに誤解を与えるには十分過ぎる格好だ。  
 最終手段として当麻爆弾という手も考えてみるが、彼には白井の能力が効かない。役立たずめ。  
「……」  
 息を飲んで足音の主が現れるのを待つ。  
 一歩。  
 二歩。  
 止まった。  
 恐らくは扉の前に着いたのだろう。  
 瓦礫同然なんだから見えそうだが、そこはベッドの位置が悪かった。  
 瓦礫の山の上にでも登らない限りこちらから壁の向こうは見えないのだ。  
 鼓動が早鐘を打つ中、相手の不意を突いて気絶させるための武器を確認。  
 無し。  
 絶体絶命とはまさにこの事か。  
 本気で当麻爆弾を投下でもしようかと、一瞬逡巡するが、腕力的にもそれは無理だろう。  
 と、そこまで思ったところで扉が開いた。  
 数秒の沈黙。  
 せめて余裕を見せて交渉に持ち込めれば、と思い足を組む。  
 腰が痛い上に色々見えてしまいそうなのですぐさま直した。  
 しかし、姿を表したのは――、  
「……」  
「お姉様……?」  
 先程まで思考の中心に居た少女――御坂美琴がそこには立っていた。  
 驚き、思わず間抜けな顔になってしまうが、すぐさま笑顔を作りなおし、口を開く。  
「……お、お姉様、心配しましたのよ?わたくし、その、えぇっと」  
 いけない、いざとなったらどういう言葉を放てば良いのかわからなくなってきた。  
 泣いているかと思って、では妙だろう。  
……当麻さんと付き合う事になりましたの……って、どこの嫌な女ですの……。  
 自分の思考に思わず半目になってしまうが――。  
「……っ」  
 直後、白井は表情を硬くした。  
 その理由は簡単だ。  
 白井の目の前、丁度対面する様な形で立っている美琴。  
 美琴と目が合ったからだ。  
「――」  
 表情は眉を立て、口元をきつく結ぶといったもの。  
 しかし、美琴の表情には鬼気迫るものがあった。  
 白井は美琴のその表情には覚えがある。  
 それは戦いに赴く人間の表情だ。  
……。  
 思考が停止する。  
 それほどまでに彼女の気迫が凄まじいのだ。  
 頬に一筋の汗が流れた。  
 見開いた目は忙しなく、微小にだが揺れており、視線が僅かにぶれる。  
 その時、白井は漸く気付いた。  
 自分が焦っているという事に。  
 何故、と思うが、そんなのは明白だ。  
……当麻さんを、取られると思っているんですのね……。  
 簡単な事だ。  
 彼女が此処に戻ってきた理由、それは――当麻へと胸中を告白するためだろう。   
 逃げた筈の美琴が何故あのような顔になって戻ってきたのかはわからない。  
 だが、確かに彼女の目には強固な意志が宿っていた。  
 白井黒子がどうあがいたとしても辿り着けないと思う、その強さを秘めた意思が。  
 心臓が締め付けられる様に痛い。  
 それはお姉様と慕う美琴にその様な顔をさせている事への罪悪感か、それとも別の何かか。  
 
「……黒子、ちょっとそこの馬鹿に話があるの」  
 思った通りの言葉。  
 しかし、白井とて退く訳にはいかない。  
「駄目ですわ」  
 精一杯の力を眉に込めて立て、自分を奮い立たせて相対する。  
 白井黒子は御坂美琴が好きだ。  
 しかし、上条当麻という男も好きなのだ。今では一番、とも言えるほどに。  
 ならば、導き出される答えは一つだろう。  
……でも。  
 確かめなければならないだろう、この気迫が一時凌ぎのものではないか。  
 美琴の意志が本物か、どうか、という事を。  
 
  ◇○◇  
 
 御坂美琴は驚いていた。  
 白井黒子という少女は今までやんわりと否定する事はあっても、完璧に拒否を口にするのは稀だったからだ。  
 故に、美琴は彼女が本気だという事を再認識した。  
 美琴は一度目を閉じる。  
……退けない。  
 目の前の白井は簀巻きにされた当麻の上に乗った状態でこちらを見ている。  
 彼女の下で当麻が目を回していたが、それは今は後回しだ。  
 確かに想いを伝えるのは大切な事だが、後腐れを残すのも嫌だ。  
 我侭だとは思うが、それが御坂美琴の決意だ。  
 ならば、目の前の少女から逃げるわけにはいかない。  
 真正面からぶつかって――、  
……どうにかするしかないのよっ!  
 目を見開く。  
 その動作にすら、白井は表情を動かさない。  
 彼女は睨むようにして美琴を見ていた。  
 そんな視線を今まで向けられた事は無いし、胸が痛い。  
 だが、美琴は意思を持って一歩踏み込む。  
「黒子、私はそいつが好き」  
「……っ」  
 白井の眉が少しだけ動いた。  
「何時も何時も言えなかったけど、そいつが……上条当麻っていう男が好きなの」  
 胸へと手を当て、  
「だから、思いを告げさせて。我侭なのはわかってる。あんたがそいつを好きっていうのも見てわかった」  
「なら……」  
 今まで閉じていた口を白井が開こうとするが、すぐに一度口を閉じ目を閉じる。  
 美琴はそれを見つつジッと待つ。  
 敢えて相手に反撃の機会を作るのは己の決意を見せつけるため。  
 言い放つだけ言い放って逃げるのは卑怯者のやる事だ。  
 それでは自分の決意を自分で裏切る事になりかねない。  
 故に、美琴は待った。  
 白井は、数秒だけ思考を纏めるかのように閉じた目をゆっくりと開き始める。  
 そして、続いて口を開き――、  
「なら……なぜ、その様な事を言いますの?当麻さんはわたくしと既に契りましたのよ?」  
 当麻、という呼び捨ての名と改めて突きつけられた事実に胸が締め付けられる。  
 退かぬとは決めたもののやはり――痛い。  
 しかし、白井は言葉を放つのを止めない。  
 彼女は口元を笑みの形に変えると、  
「お姉様の入り込む余地があると思いますの?」  
 拒絶の意思を言い切った。  
「――っ」  
 胸への鋭い痛みに思わず唇を噛む。  
 握り拳が震えるが、それは気合で押さえつける。  
「それ、でも……」  
「?」  
 
 御坂美琴という人間は案外脆い。  
 確かに傍から見れば"超能力者"という看板は強者の証に見えるだろう。  
 それに美琴は何時も勝気で何に対してでも果敢に挑んでいく。  
 だが、その強さ故に、彼女は常に一人だった。  
 美琴は脆い。  
 強さ故に常に一人であった美琴の心は意外にも折れやすいものだった。  
 だから逃げた。  
 白井と当麻が寄り添いあっている見て、逃げてしまったのだ。  
 しかし、あの道端で会った緑髪の男は言った。  
『必然。諦めたら、そこで試合終了ですよ?』  
 諦めたらそこで終わり。  
 確かにその通りだ。  
 今思えば、あの妹達の実験でも美琴は諦めようとしていたのかも知れない。  
 当麻が助けてくれなければ美琴は、死という逃げを選んでいたに違いないのだから。  
 だが、今は違う。  
 そう今は――それでも、逃げないと決めたのだから。  
「それでも、後悔したく……止まりたくないから!」  
 だから、目尻に熱いものがこみ上げて来るのも無視して胸に手を当てて叫んだ。  
 そう、それはやっと言えた正直な気持ち。  
「私は、上条当麻が好き!どうしようもなく好きなのよっ!」  
 きっとこの想いを彼に伝えなければ自分は後悔するだろう。  
 緑髪の男が言った様に――だから美琴は叫んだ。  
 恐らく自分は今、酷い顔をしていると思う。  
 だけど、止まれない。止まるわけにはいかないのだ。  
「だから、お願い……黒子――!」  
「……」  
 僅かに涙で揺らぐ視界の中、白井は真っ直ぐに美琴を見ていた。  
 動揺でも、怒りでも、悲しみでも無い。  
「え――?」  
 それは喜びと言える笑みだった。  
「よかったですの……お姉様はやっぱり、真っ直ぐ当麻さんを愛していましたのね……」  
 白井の姿が突然虚空に溶ける様にして消えた。  
 空間移動。  
「きゃっ!?」  
 次の瞬間、突然体の重みが増した。  
「く、黒子!?」  
「うふふふ、捕まえましたわ、お姉様」  
 原因は簡単だ。  
 そりゃ、人一人が全体重をかけて抱きついてきたら重くもなるだろう。  
 首に手を回して力無くこちらへ抱きついて来ている白井。  
 その表情は相変わらず気味の悪いくらい気持ちの良い笑顔で――逆に怖かった。  
 でも、  
「……な、なんで?」  
 疑問が沸いて来るのも当然だろう。  
 自分の恋人に対して告白させろなんていう無茶な要求を笑顔で頷く女性等居る筈もない。  
 否、実際に目の前でとんでもなく恐ろしい笑顔を浮かべている少女なら一人居るが。  
……こ、この表情――ッ。  
 目を見開いて白井の笑顔を見る。  
……何か、企んでる!?  
 この表情は間違いなく美琴にとって何かしらの悪い事を考え付いた時の顔だ。  
 同室であり、長い時間一緒に居るからこそわかる、その雰囲気。  
「お姉様、わたくしはお姉様が好きですわ」  
 これは拙い、と美琴の直感が告げる。  
「でも、当麻さんも好きですの……困りますわよね?」  
 血の気が引いて行くのが自分でも分かった。  
「だったら――取る方法は一つですの」  
 笑みで告げる言葉には何故か重みがあった。  
 それもロードローラー並みの重量だ。  
 頭の中でブッ潰れよォッ!とかどっかの吸血鬼が叫んだような気がした。  
 
 慌てて振りほどこうとするが、時は既に遅し、次の瞬間には――。  
「はーい、ふるおーぷーんですのーっ♪」  
「ひぁ―――ッ!?」  
 
   ◇○◇  
 
 上条当麻は自分を不幸だと再認識していた。  
 精一杯愛したつもりなのにいきなりどつかれたり、でもそれも可愛いなぁ、と思ってみたり。  
 どっちにしろ、惚気かと結論を出すと同時に、景色が移り変わる。  
 景色は、盛った当麻が白井黒子を押し倒して、彼女の身体を蹂躙しているというものだった。  
『あっ、あひぃいっ!とふまはん、あがっ、ひぎぃいーっ!らめぇええっ!』  
 やはり乱れる姿も可愛くてたまらない。  
 その姿を見ていると段々と下半身が熱くなってきた。  
 これは夢だ、と分かっていても体は反応してしまうのだから仕方が無い。  
 そう、現在、当麻は自分の見る夢の中に居た。  
 夢を夢だと明確に分かるのも珍しいが、わかってしまったのだ。しかも夢のチョイスは完璧。  
 思わず拳を握ってしまいたいが、残念ながら夢の中では視界しか存在しないようだ。  
 開放された思春期高校生の漲る力は何人たりとも邪魔は出来ないとばかりに視界だけで当麻は頷いた。  
……ん?  
 今一瞬、自らの家に居候している白い修道女が夢の中を過ぎった。  
 しかも全裸で。  
……煩悩退散、煩悩退散。  
 視界だけだが、取り敢えずは両手を合わせる気持ちで煩悩を払う。  
 基本的に妄想を許可しているのは、白井ただ一人のみ。  
 それ以外は、浮気というモノだろう。  
……しっかし……。  
 再び夢の中へと視界を向ける。  
 そこではベッドに座った当麻の股間に、床に座った白井が顔を埋めているという光景が広がっていた。  
 白井の顔は上下を繰り返し、淫靡な水音を立てる事に余念が無い。  
 当麻が視界を夢の中の自分と重ね合わせると、目を閉じて必死に男根を咥えて吸い上げる白井の顔が見えた。  
 それがまた当麻の興奮を誘う。  
 ものの数秒後に当麻は白井を押し倒して、再び繋がりあった。  
『あっ、当麻さん、もっと、そこがいいんですのぉ……ッ!』  
 乱れ、淫の色が混じった叫び声が夢の中に響く。  
 先程から下半身が熱を高め続けて、段々と我慢が出来なくなってきた。  
 もし、ここに現実の体があったならば、手も何も使わずに射精してしまうほどにだ。  
 しかし、  
……ちょっと待て、いくらなんでも。  
 瞬間、疑問が頭の中を過ぎる。  
 幾らなんでもこの熱の溜まり方は異常だ。  
 そう、これは確か――。  
……黒子に俺のを咥えられた時と――ッ!?  
 急激に体を襲う、浮遊感。  
 夢から醒める前兆だ。  
 そして、急速な目覚めの中、当麻は悟った。  
 誰かが、自分の体に何かをしているという事を。  
 
「ぬおおおおおおおおおおおっ!?」   
 
 目が覚めると同時、熱いものが尿道を通り、外界へとぶちまけられた。  
 いかん、力み過ぎた。  
「きゃっ」  
「あら?」  
 同時に上がる悲鳴と疑問の声。  
……待て、悲鳴と疑問?  
 この部屋にいるのは白井と当麻の二人だけの筈、当麻以外では一人分しか声は上がらない筈なのだが。  
「……」  
 視線を下げて見るとそこには――、  
 
「うぅ、苦いわよぉ……」  
 細い、しかし、適当に筋肉のついた整った体つきに小ぶりな胸、そして勝気そうな目付きを持つ少女が居た。  
「大丈夫ですの、お姉様。直ぐに美味しくなりますわ。当麻さんのですもの」  
 どういう理屈だ。  
 一度放ったせいか、ツッコミを放つ余裕も出来た当麻は視界内の現実を改めて確認する。  
 そこには確かに居た。  
 口に白い液体を溜めた茶色いショートヘアの電撃魔――御坂美琴がだ。  
 その隣では美琴に寄り添うようにして頬を赤らめ、彼女の頬に付いた白濁液を白井が舐め取っている。  
 現状を把握せよ、と脳に指令を送るが、わかりませんの一言しか帰ってこない。  
 ええい、役立たずめ、と罵倒するが自虐的なので止めておいた。  
 ともあれ、と思考を現実に戻し、空気を思いきり吸い込んで肺に溜め――、  
「なんでだぁ――――ッ!?」  
 良く見てみれば、当麻は夢の中と同じくベッドに座らされてる状態であり、少女二人は確かに床に座っていた。  
 加えて言うならば、二人とも裸であった。  
 綺麗な程よい色の肌を持った二人の少女達は身を寄せ合い、それがまたなんとも淫靡な雰囲気を作り出している。  
 思春期的男子として言うならば、  
「辛抱たまらん、って違う!?」  
 思わず叫ぶと、口元を両手で押さえていた美琴にジト目で見られた。  
 暫くの間停止していたが、唯一の仲間である白井へ状況の説明を求める視線を送ると、彼女は頷き、  
「おはようございますですの、当麻さん」  
 笑顔で告げてくれた。  
 どうやら視線の意味は理解して貰えなかったようだ。  
 先程から汗が止まらないのは何故だろう。  
 そして、何故自分は両手を拘束されているのだろうか。  
「……く、黒子さん、これはどういう事なんでせう?というか、これは夢?夢なのでありますかっ!?」  
「ご安心くださいですの、当麻さん。これは現実のパライソですわ」  
「やっぱり夢かー!?」  
 幾らなんでも、白井を一生愛すると誓った後に別の女性の出てくる夢を見るのはどうなんだ、上条当麻。  
 自分の不甲斐なさを悔いていると夢の中の美琴が何やら泣きそうな顔をしているのが見えた。  
「む……」  
 流石に、夢の中と言えどもそれは忍びない。  
 上条当麻は紳士なのだ。  
「当麻さん」  
「ひゃっ、く、黒子?」  
 白井が美琴に抱きつきながら声をかけてきた。  
 彼女の手は美琴の体をまさぐるようにして移動し、最後には胸に落ち着いて優しく動き始める。  
 少女達が絡み合うといった異様な光景に思わず当麻は息を呑んでしまった。  
 良く見てみれば、白井と美琴の頬は共に赤く蒸気しており、なんとも背徳的な気持ちを当麻に与えてくれる。  
 再度、息を飲む音が響く。  
「……お姉様も、当麻さんが好き、らしいですの」  
「や、やめて、黒子、ひ、んんぅ……っ」  
 美琴の胸を揉んでいた手とは別の手が彼女の秘部へと伸ばされ、水音を立てた。  
 どうやら相当濡れているのか、その音は大きく部屋に響く。  
 しかし、白井が言った言葉はどういう意味か。  
 当麻は先程も思考した通り、昨夜白井を一生愛すると心に決めたばかりだ。  
 それは自信過剰かもしれないが、白井も同じだろう。  
 ならば、何故彼女は美琴とこの様な淫靡な光景を繰り広げているのだろうか。  
 回答を導き出すヒントは先程の白井の言葉。  
……このビリビリ娘が俺の事を好きって……いやいやいや。  
 否定するが、それならば現在のこの状況も納得出来る。  
 白井黒子という少女は御坂美琴を慕っていた筈。それこそ尊敬というレベルでだ。  
 つまり、白井は――。  
「おい、黒子……お前、まさか」  
 まさか、美琴のために自ら身を退くつもりでは、と言おうとしたところで、白井が口を開いた。  
「当麻さん」  
 静かだが強い語調。  
 白井の表情は柔らかい笑みだというのに、何故か異様な重圧を感じられた。  
「……わたくしは、当麻さんを愛していますわ」  
「……黒子……」  
 感動的な場面に思えるが、そこは全員全裸な上に先程からいやらしい水音が響き続けている。  
 
 視界の中央にいる白井の横では美琴があられもない喘ぎ声を上げていたが、意図的にカット。  
 あれはいけない。下手をすればこの雰囲気を台無しにしかねない。  
「俺は、お前を一生――」  
「でも、お姉様も好きですの」  
「っ」  
 白井の言葉にまた言葉を途中で切られる。  
 当麻は奥歯を噛みしめるが、白井は目を閉じて言葉を続ける。  
「……当麻さんも好きで、お姉様も――どちらもわたくしに優先順位などつけられませんわ」  
 その言葉にはどれほどの決意が篭っているのだろうか。  
 あれ程強く結ばれたと思っていたのは、自分だけだったのだろうか。  
 だとしたら――それは。  
「だから、わたくしは――」  
 白井の声はなおも響く。  
 それ以上聞きたくないと、顔を俯かせようと思った瞬間――、  
「三人で仲良くやりましょう、という結論に達しましたの」  
 予想外どころか音速を超えて斜めに素っ飛んだ発言をしてくださった。  
「は?」  
 勢い良く頭を上げて見ればそこには頬を蒸気させて微笑する白井顔があった。  
 背後では美琴が荒い息を吐きながら倒れていた。どうやら絶頂を向かえたようだ。  
 ともあれ、目の前の白井は相変わらず微笑しつつ、こちらを覗きこむようにして見ている。  
「ちょ、どういう意味んっ!?」  
 疑問を出そうとしたら、いきなり唇を奪われた。  
 さっきから碌に話せていないな、と思っていたが、やっぱり黒子の口内は暖かいなぁ、などと思考がずれる。  
 これぞ白井マジックといったところか。  
「ん……ちゅ、じゅ、んんぅ……」  
「ぐ、ぐん、ん、じゅるるる」  
 白井の目を細める姿を色っぽいと思いつつ、流されるようにして白井の口内に舌を割り込ませる。  
 彼女は特に抵抗する事もなく、それを向かい入れ、自分の舌を絡め始めた。  
 水音が響き、当麻は白井を抱きしめる。  
「ん、ぐ、んん、ちゅ、じゅるる」  
「んんぅ……っ」  
 白井を抱きかかえるように舌を奥まで入れて主導権を握る。  
 一瞬、白井が目を見開いたが、すぐさま顔を上気させ、快楽に瞳を潤ませ始めた。  
「は、んう、ぷ、じゅ、はん、当、麻、さんんぅううう」  
 先程のお返しとばかりに言葉を最後まで告げさせずに白井の唇を貪る。  
 彼女の抵抗する動きが多少伝わってくるが、口付けを続けているとそれもなくなった。  
「ひ、んぐうぐぅ、じゅ、じゅるる」  
 唾液を飲む音が聞こえ、響き、二人の気持ちを高ぶらせていく。  
 暫くその行為を続けて数分程だろうか。二人は唇を離した。  
 光を反射して銀色に光る唾液の橋すらも今では美しく見える。  
「黒子……」  
「当麻さん……」  
 押し倒す。  
 その行動に出ようとした瞬間、急に白井が身を引いた。  
「へ?」  
 あまりの拍子抜けに間抜けな声を出してしまうが、白井はすぐさま一度消え、現れた。  
 力無く倒れる美琴の元へとだ。  
「ひ、は……」  
 余程、強烈な絶頂を向かえたのか、彼女の目は虚ろで床を濡らす愛液の量も凄まじい。  
 白井はそんな美琴を抱き起こすと、耳元で何かを囁いた。  
 すると、美琴は急に目に光を取り戻し、体を勢い良く起こすと――、  
「ち、違っ!?」  
 何かを否定するかのように叫んだ。  
「おはようございますですの、お姉様」  
「へ?」  
 口付けの余韻のせいか、頬を赤らめ色っぽい表情をした白井が美琴を抱きしめる。  
 美琴は何が起こったのかわからないといった表情で辺りを見回し、当麻を見て動きを止めた。  
「あ、え、えあ……」  
 頬を一気に赤くして、よくわからない言葉を放つ美琴を見て、当麻は首を傾げる。  
 と、同時に自分が裸である事に再度気づいた。そりゃ顔も赤くなるだろうけど、脱がしたのは貴方達でして。  
 
「お姉様、当麻さんに改めて言ってくださいですの。お姉様の気持ちを……」  
 今度は当麻にも聞えるほどの大きさで白井は美琴の耳元へと声を送る。  
「う……ん」  
 戸惑った様子を見せた美琴だったが、すぐに当麻と視線を合わせてきた。  
 彼女の頬は赤く、唇を噛み締めて震えを堪えている姿はまるで怯える子どもの様。  
 しかし、彼女の目は確かに当麻を見据えている。そこだけは揺らぐこと無く真っ直ぐと当麻を射抜いていた。  
「私は――」  
 当麻も心の中で覚悟を決める。  
 白井が先程告げた、選択への覚悟を。  
「私は、あんたが好き――ッ!」  
 聞くだけで、それが彼女の精一杯だというのが分かった。  
 それ程の気持ちが込められた叫び。  
 故に、当麻は目を閉じて、己の覚悟を再認識する。  
……上条当麻、お前は――どうする?  
 決まっている。  
 思えば、御坂美琴という少女には色々な場面で救われた。  
 ある時は、彼女のために戦った事もあるが、それすらもマイナスになるほどに美琴は当麻を助けてくれた。  
 例えば、彼女の明るさに。例えば彼女の強気な姿勢に。  
……黒子……。  
 目を開けて白井を見れば彼女は美琴に抱きついたまま頷いた。  
 自分が愛すると誓った少女。  
 その少女が望み、往けと言った道。  
 ならば、後は――。  
……進むだけだっ!  
 視線を改めて美琴に向け直す。  
 彼女は見つめられた瞬間、身をビクリと震わせるが、直ぐにまた真っ直ぐと当麻を見た。  
 それでこそ御坂美琴だ、と思いつつ当麻は口を開く。  
「――美琴、良いか?」  
「う、うん……」  
 何時もと違う殊勝な言葉遣い。  
 それは彼女が緊張している証か。  
「……俺は黒子の事を愛している」  
 再び美琴の体が震えた。目尻には僅かにだが涙が浮かび、口元が更に強く結ばれた。  
 白井を見てみれば、彼女の表情は――微塵も揺らいではいなかった。  
 これが以心伝心、というものだろうか。  
「あ」  
「だから」  
 美琴が声を出す前にその言葉を遮る。  
「俺は聞きたい。こんな俺で……良いのか?」  
「え?」  
 目を見開き、口をポカンと開ける美琴。  
 それをなんだか可愛らしいと思うと同時に黒子を見た。  
 凄い笑顔だった。後が恐い。  
 だが、当麻は再び美琴を見て、真剣な表情で告げる。  
「俺は黒子が好きだ。愛してるって断言出来るくらいにな。だから――」  
 言葉を一度区切り、息を吸い、  
「もしかしたら、分け隔て無くっていうのは出来ないかもしれないぞ?」  
「構わない!」  
 間髪入れずに返答が来た。  
 美琴は力が入らないのか、数度よろめいた後に立ち上がると、当麻の元へと歩いてくる。  
「それでも、構わないわ……だって」  
 そのまま、当麻へと身を寄せた。  
 彼女の体温が直に伝わってきて再び当麻の敏感な部分を刺激する。  
「私が精一杯頑張れば、アンタは絶対に振り向いてくれるから」  
「―――」  
 目尻に涙を浮かべながらの清々しい程の笑み。  
 歯を見せた笑顔はまるで無理をしている様な雰囲気はあるが、同時に自然さも感じさせる。  
 御坂美琴という少女だからこそ浮かべられる強い笑顔がそこにはあった。  
「お姉様も、当麻さんも、よろしいですのね?」  
 いつのまにか二人の間に白井が移動していた。その表情は笑みの形。  
 
「では、そろそろ始めますの」  
「「へ?」」  
 当麻と美琴の間抜けな声が響く。  
 始める?何を。いや、先程白井達がしていた事を考えれば何をするかなど一目瞭然。  
「あら、お姉様。先程、予行練習をしましたのに……まだわかりませんの?」  
 嫌な予感が当麻の背筋を駆け抜けた。  
 理解はしたが、それはいきなりどうなのだろうか、と美琴を見る。  
 彼女はと言えば、顔を真っ赤にして俯いていた。  
……い、いいのか?  
 白井と契りあった直後に他の少女と契り合う。  
 どこの浮気魔だ。  
「と、う、まさん?」  
「ほぁっ!?」  
 いきなり背後から白井の声。また空間移動をしたのだろう。  
「当麻さんはわたくしと契りましたわよね?ですから……」  
 白井は当麻の耳の裏を舐め上げ、  
「お姉様とも、ヤっちゃってくださいですの」  
 軽い様だが、当麻にはその言葉が真剣なものに感じられた。  
「ん、ぷ、はぁ……当麻さんの耳の裏、美味しいですの……」  
 きっとそうに違いない。  
 だって、そう思いこまないと理性が負けてしまいそうだから。  
 耳の裏を舐め続ける卑猥な音が直接響いてきて、更に男根が活力を漲らせ飛び起きた。  
「きゃっ」  
 男根が何かに当たる感触。  
 それは勿論、当麻に寄り添っている美琴の――。  
「お、お尻に……っ!?」  
 驚きの声を上げる美琴だが、当麻は平常心を保つために必死だった。  
 このままでは情欲の赴くままにケダモノになりかねない。  
 初体験がお尻でした、等という事になったらきっと白井と美琴に一日中追い回されるだろう。  
……我慢しろ!我慢だ、俺の小宇宙!  
 己の中の獣を無理矢理押さえつけて押し倒したい衝動を必死に抑えこむ。  
 傍から見たら両手を広げて今にも抱きしめんとする耳の裏を少女に舐められる男という混沌とした情景なのだが、  
「はぁああ……お姉様もいかがですの?」  
「え、あ、えと、その私は……ああああー」  
 耳の裏を舐める事を進める白井も白井だが、美琴は完全に混乱しきっているようで、忙しなく視界を泳がしていた。  
「当麻さん……はむ」  
「ん、ぉおおほぉうっ!」  
 耳元で囁かれる声に疑問を返すと同時に耳を優しく噛まれた。  
 甘噛される感触はまたキスや性交とは違う感覚であり、異様な快感が背筋を駆け抜ける。  
 それがトドメだったのか。  
「ひゃぁっ」  
 当麻の身が二、三度大きく震えた。  
 同時に美琴も素っ頓狂な叫びを上げて飛び上がる。  
 それを見て白井が怪訝そうな表情を作るが、よくわからないので言葉を続ける事にしたのか口を開き、  
「?まぁ、お姉様はあの通り不得手ですので――って、当麻さん?え?あ……まさか……」  
 途中で口の動きが停止した。  
「あは、あはははははー……」  
「ううう、なんかお尻が熱い……」  
 簡潔に言おう。  
 耐えられませんでした。  
「やっぱり……早漏ですわね……」  
「……早漏なんだ。へぇ……」  
 少女二人の半目の視線に晒されつつ当麻は思う。  
 早漏だっていいじゃない、健全な高校生男児だもの。  
 ともあれ、当麻の男根は一度射精したというのにその硬さを失わず、むしろ更に活力を漲らせていた。  
 我ながら恐ろしいとは思うが、そうとう溜まっていたのだろうか。  
「それでは……」  
「きゃっ!?」  
 と、いきなり背後から出てきた白井が美琴を押し倒した。  
 当麻が意識を別の場所へ飛ばしている数秒の間の出来事だ。  
 
 美琴はというと対して抵抗もせずに白井に組み敷かれている様に見えた。  
「当麻さん、どうですの?」  
「み、見るんじゃないわよ、馬鹿ぁっ!」  
「見るな、って言われてもなぁ……」  
 腕を組んで白井達を見る。  
 まずは白井の背が見え、尻が見え、その下には二人の大切な部分があり、体液を絶え間なく吐き出していた。  
 それは白井のものだけなのか、それとも美琴も興奮していたのか。  
 ついでに言うと、組み敷かれた美琴の尻には何故か白濁液がかかっていたが、そこは無視する。  
 そして、それらを踏まえた上で当麻は腕を組んで頷き、  
「見えちまうんだから、仕方ないだろ?」  
「嘘つくんじゃないわんぐっ!?」  
 美琴の言葉は白井の唇によって塞がれた。  
「ふふ、ん、ちゅ、はぁ……ふ、ん、ぐ」  
「あ、んぁ……んぅうう」  
 最初は美琴もこればっかりは抵抗していた様だが、そこは白井のテクニックによって完封されてしまったようだ。  
 実際、白井のキスの上手さは初めてとは思えないほどのものなのだ。初心者である美琴が勝てる道理は無い。  
……アレに上条さんも何度やられたかわかりませんよー。  
 それを見つつ息を飲む。  
 自分がしている時は白井の頬を赤らめる仕草に見惚れていたものだが――、  
「あ、ふ、お姉様……んん」  
「く、ろ、んあ、ふぐぅううう」  
……うわー。  
 なんというか妖艶を通り越して背徳的な雰囲気を醸し出していた。  
 二人の喘ぎが漏れる度に二人の秘部から漏れる愛液もその量を増す。  
「ふ、は……ん。当麻さん、そろそろ……」  
「やぁ……もっとぉ……」  
 どうやら美琴はすっかり白井の口付けによる快楽の虜になってしまったようだ。  
 白井に懇願するその姿は、当麻の情欲を刺激してきてやまない。  
 しかし、白井はそんな美琴の願いを無視して、当麻へと首を僅かに動かして視線を向けた。  
 そして、僅かに腰を上げる。  
 ネトリ、と上に乗っかっている白井の愛液が美琴の秘部と繋がるようにして糸を引いた。  
 入れろ、という合図だろうか。  
 疑問に思っていると、白井はやはり淫靡な雰囲気を持つ笑みを浮かべ、  
「お姉様に、ですわよ?」  
「っ!?」  
 美琴はその言葉を聞いた直後、目を見開き、しかし、叫びはしない。  
 その代わりとばかりに、先程まで白井の首に回していた腕へと力を込めた。  
「……や、優しくしなさいよ……?」  
「……おう」  
 正直獣にならない自信はないが、失敗したら黒コゲか串刺しかのどちらか行きだ。それだけは避けねばならない。  
 移動し、床に寝ている二人の近くまで歩いて行き、膝立ち状態になる。  
 まずはそそり立つ男根を美琴の秘部に擦り付け、  
「は、ん……っ」  
「ぬお……っ!?」  
 いきなり男根に衝撃が来た。  
 別段、そこまで強い衝撃ではなかったのだが、それでも当麻の男根を刺激するには十分過ぎる程の快感。  
 何事か、と思考を走らせれば、その答えは案外簡単に理由は分かった。  
……そういえばコイツ……ッ。  
 美琴は電撃使いだ。  
 しかも彼女は超能力者。そのレベルともなるとその力は相当なものとなるのだ。  
 恐らくこれは興奮して抑えきれなくなった能力が漏れたものだろう。  
 しかし、これは拙い。  
「ど、どうしたのよ……」  
「当麻さん?」  
 二人から疑問の言葉が飛んでくるが、当麻は白井の尻に手を当てつつ考える。  
 ぶっちゃけ、秘部に触れただけでこれだ。中に入れればこれ以上の刺激が待っているに違いない。  
 咥えて膣内の締め付けもある。  
 これ以上早漏だとか、早いとか言われるのは男としてのプライドが――。  
 
「……」  
 見れば、美琴が目尻に涙を浮かべていた。  
 早くして、と言わんばかりに。  
……ぐぉおおおおっ!  
 辛抱、ならなかった。  
 解き放たれた情欲は矜持や理性をかなぐり捨てて、腰を前進させる事を望む。  
 故に、当麻は躊躇わなかった。  
「ひぐっ!?あ、ぎ……痛……あつぅっ!?」  
「くっ」  
 思った通り、膣内でも締め付けとは別の痺れるような快感が襲ってきた。  
 しかもそれは先程とは段違いの快楽を前進へと駆け巡らせる。  
 片目を閉じて耐えるが、別の意味で厳しいのは美琴も同じだ。  
 いっそ一思いにと白井と同じ様に一気に貫いたが、やはり痛いものは痛いだろう。  
「……痛いか?」  
「い、痛くないわよ、馬鹿ぁ……」  
 言うが、確かに結合部からは赤い処女膜を貫通した証が漏れていた。  
 加えて、目尻に涙を浮かべて痛みに耐える姿を見て、当麻は僅かに迷うが、  
「お姉様……大丈夫。すぐに、よくなりますわ。わたくしも、手伝いますので……ん」  
 今まで黙っていた白井が言いつつ美琴の唇を奪った。  
「いだ、んぅうう、い、あ、ああんんぅ……」  
 痛みを紛らわせるために、深い口付けを始める二人を見つつも、当麻は必死に耐える。  
 膣内の電流は美琴の感じ具合によって変動するのか先程から締め付けと相俟って凄まじい快楽を与えて来ていた。  
 今すぐケダモノになってしまいと思うが、そこは我慢。  
「ぷは……どうですの、お姉様……?」  
「ん……も、だいじょう、ぶっ!?」  
 言葉を途中まで告げられる前に我慢を解禁、腰を振りだした。  
「やぁっ!ちょっと、激し、あひ、おぉおおぁ、あ、あ、んっ!?」  
 体勢の事情から白井の腰を掴んだまま腰を勢い良く振り続ける。  
 その勢いは早く、打ちだすたびに肌と肌がぶつかり合う音が響き、美琴の膣内から愛液が吹きだす程だ。  
 しかし、美琴への攻めはそれだけでは終わらなかった。  
「く、黒子、やめはっ、やぁ、胸まで、胸まで弄られて、あ、い、私、感じ、感じてるのぉ……っ!?」  
 突然黒子が美琴の胸を揉み、乳首を摘み、少しだけ身を動かして舐めたりし始めたのだ。  
 当麻は他の攻めは全て白井に任せ、一心不乱に快楽を求めて腰を振り続ける。  
 激しい肌を打つ音が部屋中に響いた。  
 
   ◇○◇  
 
 御坂美琴は意識が飛びそうになっていた。  
「あ、や、い、いいの、はげし、あへ、ひぁ、ひへ、ひっ!」  
 絶え間なく全身を襲う快楽。  
 胸や唇は白井に蹂躙され、膣内を焼くように擦って来る当麻の男根の動きも止まる気配は無い。   
 不意に当麻が腰をギリギリまで引いた。  
「へ、ひ、は……?ひぐぅっ!?」  
 疑問の声を浮かべると同時に最奥まで貫かれた。  
 しかし、当麻はそれだけでは飽き足らずに腰を僅かに動かす。  
 それによって、更に内部で蠢く快楽が美琴の体を焼き、理性を削り、情欲に体を染めていく。  
「お、おぁぉ……お、奥、でゴリゴリって、すごひぃぁ……っ」  
 口は半開きになり、そこからは常に唾液が流れ出て、垂れていく。  
 もはやぼやけた思考では分からないが、今、自分はとてつもなく淫靡な表情をしている事だろう。  
 それでも良い。  
「当麻、当麻ぁ……っ!」  
 漸く呼べた名前。  
 素直に呼べた名前を美琴は叫ぶ。  
「く、お……美琴、そろそろ、俺もイキそうだ……っ!」  
 再び腰を――否、先程よりも遥かに激しく腰を前後させ始める当麻。  
 その動きに合わせるようにして美琴も絶頂へと高められていく。  
「あっ、あいっ、やぁっ、なんかわかんないのが、また、また来ちゃうぅうううう!」  
 頭をイヤイヤと左右に振るが、快楽は絶えず、美琴を焼いていった。  
 持たない、もう、消えてしまう。  
 真っ白になってしまう。  
 
 そう思った直後、  
「ぐ……出るっ!」  
「ぎ、はっ、やぁぁあああ、あ――――ッ!?」  
 何かが、膣内にぶちまけられた。  
 腰が勝手に跳ね上がり、全身が痙攣を始める。  
 何か、と考えるがそんな事はわかりきっている。  
 わかりきっているが、思考が飛んでしまってそれすらも理解が出来ない。  
 頭の中が痺れて、何が何だか良く分からない。  
……す、ご……っ。  
 膣内を焼くように熱い液体がとめどなく注ぎ込まれている。  
 それに応じるようにして頭の中で爆発が起こる様に光り、結果、美琴の身を幾度と無く跳ね上がらせた。  
……あ、だ、め……。  
 視界が暗転して行く。  
 異常なまでは快楽のせいで意識が飛びそうになっているのだ。  
 しかし、  
「あら……お姉様……まだまだ終わりじゃないですのよ?」  
「ぎっ!?」  
 心地よい暗転から一転。  
 痛みによって無理矢理現実へと引き戻された。  
 何事か、と目を見開きながら首を動かして見れば――そこには美琴の乳首を噛んでいる白井が居た。  
 その表情は笑み。  
 恐ろしい程の淫らな雰囲気を持つ笑みを浮かべた白井黒子がそこには居たのだ。  
「ひ」  
 思わず悲鳴に近い、声を出してしまう。  
 それもその筈。  
 今まで己の後輩だった者が一瞬して捕食者と変貌する瞬間を見たのだ、当たり前の反応だろう。  
「それに、この通り……」  
「あ……っ」  
 腹を撫でられると、まだ己の膣内で脈打つ当麻の感触を認識出来た。  
 その脈動は早く、それはつまり――。  
「当麻さんも、まだまだイけるようですの――だから」  
 白井は美琴の胸を弄りながら首筋を舐め、  
「まだ、始まったばかりですのよ?」  
 宴の開幕の言葉を呟いた。  
 救いを求めて当麻に視線を移すが、彼は頬を掻きつつ苦笑すると、  
「悪い、美琴。俺も我慢出来そうにない。それにさ――」  
 彼は僅かに腰を引いて、  
「お前、すっげぇ、今綺麗だぞ」  
「あ―――っ」  
 腰が突き出された。  
 同時に、美琴の口から声にならない悲鳴のような歓喜の叫びが放たれる。  
 当麻の言葉によって美琴の最後の枷が取り外されたのか、意識は鮮明で、  
「あっ、いいっ!もっとぉっ、もっと感じさせ、あんっ!奥が、当たっていいのぉおお!」  
 もはや躊躇い無く感じるままに己を解放する。  
 それを見て白井は、頬を更に紅潮させて笑みを深くし、  
「ああ……お姉様、可愛いで――すぁっ!?と、当麻さん!?」  
 腰を激しく振りながらも、当麻は白井へとも攻めを加え始めたようだ。  
 しかし、美琴はもはやそんな事に介入出来るほど余裕を保っていない。  
「あー、あっ、あー、イク、また、またイッちゃうぅうううっ!」  
「や、だめ、当麻さん、そんなところ、あ、あっ、あっ、あーっ!?」  
 再び跳ね上がる肢体。  
 今度は白井も同時に達したようだ。  
 全身の力を抜いてこちらへ乗りかかる白井の体重と荒い息を感じる。  
 
 だが、それすらも今の美琴には快楽としか感じられない。  
……い、あ、気持ち良い、よぅ……。  
 何かに目覚めたのか、体が疼く。  
 頭が痺れ、更なる快楽を求めようと、秘部から注ぎ込まれた白濁液を漏らしつつも美琴は手を伸ばした。  
 手の伸びる先は己の愛する男性。  
「もっと、して……当麻ぁ……」  
 だから美琴は懇願する。  
 彼に愛されたいから、彼と一緒になりたいから。  
 彼はそれに応じた。  
「あんっ」  
 ちなみに懇願時、とてつもなく淫靡な笑顔を浮かべていた事を御坂美琴は知らない。  
 部屋に再び少女達の喘ぎ声と激しい水音が響き始めた。  
 
   ◇○◇  
 
 狂宴が繰り広げられている部屋からやや離れた場所に一つの人影があった。  
 人影の背は高く、金の短髪の下では怪しげなサングラスが光を反射している。  
 彼は額の汗を腕で拭うと、  
「……フッ」  
 腕を勢い良く振って汗を飛ばし、ニヒルな笑みを浮かべた。  
「……人の恋路はなんとやら……カミやん。がんばれよ……がはっ」  
 血反吐を吐きながらも、彼は友人であるとある少年へと親指を立てて去っていく。  
 部屋の前の通路には一定の間隔を持って折り紙で作られた何かが置かれており、その辺りだけ妙にぼやけていた。  
 人払いの結界。  
 その名の通り、無意識下のうちに設定した人物以外を指定した場所から遠ざけるための魔術だ。  
 壁によりかかりながらも歩みを止めぬ男の足音が響く。  
 彼の名は土御門元春。愛に生きる戦士である。  
 
   ◇○◇  
 
「……腰が痛い……」  
「はい?」  
 朝の日差しが差し込む教室というのは実に良いものだ。  
 そして、今日は教室から移動する事もないので、更に良い事だ。  
 というか、今の状態で体育でもやったならばきっと死ねる。  
 そのままあの世へ旅立ってしまうに違いない。  
「どーしたん、カミやん?今日はまた元気ないんやねー?」  
 軽い口調が横から飛んできた。  
 そういえば今は昼休みだ。  
 したがって、首を動かした先に巨大な青髪ピアスが居たとしても仕方が無い事だろう。  
「平気?」  
 その隣には日本人形の様な前髪を切りそろえた長髪の少女――姫神秋沙が立っていた。  
 どちらも制服を着込んでおり、その差は男女の違いのみだ。  
 そう、ここは学校。  
 結局昨日は丸一日、白井と美琴と共に交わり続けて終わってしまった。  
 その後、ホテルから直行でなんとか学校には来れたものの、腰の痛みが半端ではない。  
 ぶっちゃけ今すぐ家に帰って倒れていたいほどだ。  
「あー、大丈夫大丈夫。ちょっと飯が無くて腰が痛くて不幸だー」  
「……相当疲れてるんやね」  
「投げやりは。良くないと思う」  
 すいませーん、と反省の意と共に両手を挙げるが、机に伏せている状態なので碌に上がらない。  
 しかし、姫神は特に気にした様子は無く、カバンを持ち上げ、  
「仕方ないから。私のお弁当を分けてあげようと思うけど。いる?」  
「救世主様!?」  
 勢い良く起き上がろうとすると腰がやられた。  
 うおおおお、と呻き声を挙げながら倒れると、姫神達は眉尻を下げ、  
「気の毒。その歳でギックリ腰だなんて……」  
「カミやんも苦労しているんやな……」  
 うんうん、と頷く二人にツッコミを入れてやろうと思うが、それすらも叶わない。  
 せめて、不幸だー!と叫ぼうとした、その瞬間だ。  
 
「当麻さーん?」  
「当麻ー?」  
 二人分の少女達の声が教室に響いた。  
「「「え?」」」  
 続いて響くのは当麻、姫神、青髪ピアスの疑問の声。  
 疑問の行く先は突如教室に現れた二人の少女であった。  
 一人は茶色いショートヘアに勝気そうな目付きの少女。  
 もう一人はツインテールが特徴の少女だ。  
 二人は同じデザインの制服に身を包んでおり、部屋の中央に置かれた机に一度着地してから、改めて床に降りた。  
 彼女達は青髪ピアスと姫神が壁になっているせいか、こちらには気付かずに辺りを見渡す。  
「おっかしいわね。この教室だって聞いたんだけど」  
「お姉様、当麻さんの事ですわ。また妙な事件に――」  
「あー、ありえるわね」  
 勝手な会話が繰り広げられている場所に半目の視線を送ると何故か姫神と青髪ピアスの二人に半目で見られた。  
 なぜゆえ。  
 まあ、取り敢えずは、このままだとあの二人はまたどこかに行ってしまいそうなので、無理矢理体を起こして手を振り、  
「おーい、美琴、黒子、こっちだー」  
「あら?」  
「ん?」  
 声をかけると、二人がこちらを向き、いきなり笑顔になった。しかも飛びっきりの。  
 今度はクラス中から半目の視線が飛んできたが、特に覚えもないのでスルー。  
 二人は急いでこちらへ歩いてくると、  
「当麻、あんた、お弁当持ってないでしょ」  
 歯を見せた笑顔を浮かべ、腰に手を当てて問うて来るのは美琴だ。  
「あー、なんで美琴がそんなこと知ってるんでせう?」  
 それに対して、当麻はダルそうに椅子に寄りかかりながら首を傾げる。  
「それはあれですの。昨日はあんな事があったわけですので――」  
 顔を赤らめて両手を頬に添える白井。  
「なぁ、今日お前、能力の調子どうよ?」  
「あぁ、絶好調だぜ。試し撃ちしたくなるくらいに」  
「あー、今日は流れ弾日和だなぁ」  
 教室の端から危険な会話が聞えてきたが、敢えて無視。今は目の前の白井達の方が問題だ。  
「で……なんでお前等が此処に?」  
「って、ここまで言ってまだ気付きませんの?」  
 白井が目を白くして何故か劇画調になりつつ一歩下がった。  
 何かおかしい事を言っただろうか、と首を傾げるが、特に思いつかない。  
「まぁ、筋金入りの鈍感だし、あんたらしいわねー」  
 対して白井の隣の美琴は苦笑するのみ、流石白井の先輩だけはあって一味違う。  
 確かに味は色々違ったなぁ、と別方向に思考が飛んだので修正。  
「それで、だけど」  
「ええ」  
 美琴と白井は顔を合わせ、  
「せーの」  
  カバンに手を突っ込んで、同時に何かを引きだし、差し出してきた。  
「へ?なんだこれ」  
 見れば、四角くて長方形のもの。  
 青髪ピアスと姫神にも意見を求めようとしてみるが、二人とも何故か固まっていた。  
 そんな当麻達を余所に白井と美琴は止まらない。  
 彼女達は相変わらずの飛びっきりの笑顔で――、  
「勿論、愛情たっぷり――」  
 とんでもなく。  
「特製愛妻ズ弁当ですわー」  
 明るく告げてくださった。  
『……』  
 当麻は首を動かして窓の方を見る。  
 今日も青空は清々しく、空はどこまでも遠かった。  
 現実逃避も虚しいので首をもう一度動かして元に戻す。  
 視界の中では姫神が呆然としており、美琴と白井が笑顔を浮かべており――、  
「はい、皆さん、せーのでいくんやでー。あ、コラコラ、そこ、抜け駆けはなしや」  
 青髪ピアスが背中を向けて、まるで指揮者の様に両手を挙げていた。  
 
『せーの』  
 青髪ピアスに続いて声が響く。  
 声は教室全体から響くものであり――。  
 いかん、と思った瞬間には白井と美琴を抱えて教室から飛び出していた。  
 直後、爆発音。  
 爆発音は背後からであり、  
『待ちやがれえええええええええええええええっ!』  
 怒号も続いてきた。  
「ノォオオオオオオ!?」  
「え?え?」  
「あら、大変ですの」  
 抱えた二人は軽く走るのは楽だったが、一瞬白井を見て当麻の頬の筋肉が引き攣る。  
 事態を飲み込めていない美琴と違って、白井は確実に確信犯だ。  
 半目で睨んでやると笑顔で返された。  
「う……」  
 思わず怯むと同時、白井はやはり笑顔で、  
「これで公認ですわね、当麻さん?」  
 やはり確信犯的な事を告げた。  
「くっ」  
「え?え?何?なんなの?」  
 小動物の様に慌てる美琴を余所に、当麻は取り敢えず走りながら息を大きく吸い、  
「せーの」  
 背後から閃光が迫ってきてるのを確認しつつ、  
「幸せだけどなんか不幸だぁああああああああっ!?」  
「きゃー」  
「なんなのよー!?」  
 
 爆発音と共に全力で叫んだ。  
 

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