『鋼鉄の女の電撃作戦 Blitzkrieg』おまけ
お昼になったので学校は終わった。
特に部活などに参加していない上条は、後は寮に帰るだけである。
彼は下駄箱で革靴を履いて、テクテクと学校の敷地の外へと歩きつつ、
「何が悪かったんだろうなぁ」
と呟いた。
脳裏にあるのは、もちろんマッサージ機と吹寄制理の頭突きの関連性についてだ。
こうすれば良かったのだろうか、などと様々な対処法を取り留めもなく考えていたのだ
が、その内容そのものが根本的にズレていることに上条自身は気が付いていない。
そのズレが修正されることのないまま整った街並みを進み、いつかの公園の角を曲がる。
するとそこには、
「やっと来たわね上条当麻…」
件の少女、吹寄制理が待ちかまえていた。
「ふ、吹寄! 詳しい話も聞かずに頭突きは無いんじゃないか? 俺は…」
言い訳を始めようとした上条だったが、吹寄はいかにも機嫌の悪そうな表情なのに頬を
やや赤く染めている、という微妙な表情で上条の前に詰め寄ると、その右手首を素早く掴
んで、
「ふ、ふっ、吹寄サン? これはいっ…たぃ…?」
「いいから貴様は黙りなさい」
と、顔を真っ赤に染めながらも上条に強い命令口調で黙秘を強要しつつ、
その大きな胸に上条の手のひらを押し当てた。
ワイヤー無しなのかスポーツブラなのか、ブラは確かに付けているのだが硬い感触はな
く、月詠小萌が勘違いをした「気持ちよさそうなもの」の柔らかさと絶妙の張りを同時に
伝えてくる。
爆発的に顔を赤くした上条が手を離そうとするも、吹寄にがっちりと押さえられていて
それも叶わない。
「貴様は全く…あのバカ二人まで連れて『一生のお願いだから揉ませて吹寄!!』ですっ
て? いくら何でも時と場所を考えなさいこのバカ!」
「いや、だからそれは…って、へ?」
さらに言い訳を重ねようとして、しかし、吹寄の口から放たれた言葉と右手が伝える素
晴らしい感触に台詞が止まる。吹寄は一瞬上条を睨み付けると、自分の胸にがっちりと添
えさせた上条の右手はそのままに、耳まで紅潮させた顔を俯かせる。
そして、その状態から上目遣いになると、
「…だ、だから、と…時と場所を選びなさいって言ったのよ! き、貴様だったら…か、
構わないんだから…」
と呟いた。そして、上条の混乱が収まらないままに今度は顔を上げると、言葉を続ける。
「…き、貴様からあたしに…キ、キスしなさい。そしたら…今日のことは水に流してあげ
るからっ!」
一瞬は反論を試みようとした上条だったが、よほど勇気を振り絞った台詞だったのか、
吹寄の潤みかけた瞳に言葉が詰まる。
吹寄制理が頬を染めたまま瞳を閉じた。
覚悟を決めなければならないようだ。
上条当麻も目を閉じると、震える身体を無理やりに動かして――
目の前の少女と唇を重ねる。
二度目となる吹寄の唇は、やっぱり柔らかかった。香水とかではなく、石鹸か何かなの
だろう柔らかな香りに、緊張したのだろうか汗の香りが混じる。
これ以上は色々とマズイ。相変わらず身体は言うことを聞かなかったが、無理やりに唇
と唇を引き離した。
唇が離れると、吹寄制理はなにやら悩ましげな吐息を吐きながら、今度は下向きに目を
開け――恥ずかしくて目を合わせられないのかもしれない――、無理やり絞り出したよう
な声で、
「きょ、今日のところは貴様の馬鹿な行動もこれで許してあげる! こっちも今回はこれ
だけ! いいわね、今度あんなデリカシーのないことを言ってきたら、こっちにも考えが
あるから…って、と、とにかく今日はここまでよ、さっさと帰りなさい!」
と上条に告げた。そして、踵を返して歩み去る。上条の横を通り向けるときにも、まだ
耳まで赤かったことが強く印象に残る。
「…………」
こんなハッピーイベントが自分に起こるはずが無い。
でも、唇にも、手のひらにも感触は残ったままだ。
頭の整理がつかないまま、歩みを進める。デパートの壁の大画面の天気予報が『季節の
変わり目なので体調管理にお気をつけて』に変わっているのに何となく気が付く。
すると背後から、
「いたいたいたクソいやがったわねアンタ!!」
というけたたましい声。
やっぱり俺って不幸なんだよね、こんなモンだよね、ああ、不幸だ…そんなことが脳裏
を過ぎり、上条は声の方向に振り向く――。