ふにふに、ふにふに・・・  
 これって、いわゆる放置ってやつでしょうか?  
 
 不満をたっぷり染み込ませた私の視線にも気付こうともせずに、  
上条当麻は実に楽しそうにフロリスを弄び続けるのです。  
 私の目の前で。まるで私が存在していないかのように。  
それはもう無遠慮に撫でたり揉んだり。  
私がどれほど寂しい思いをしてるかなんて理解してないのでしょう。  
視線で隅々まで舐め回して、綺麗だな、なんて当たり前のように呟きやがります。  
外から見てるとこっぱずかしくて見てられません。  
あなた、仮にもロシアで生死を共にしたパートナーに対して  
 この仕打ちはあんまりではありませんか?  
 
 フロリスのやつが甘い吐息を洩らします。  
 あんなにこの男を嫌っていたのに、口を開く度に殺すと言ってたはずなのに、  
 なんですか貴女の今のそのざまは。まるで発情したメス犬じゃないですか  
 プライドも何もあったものではありません。もっと高潔な心をもちなさい。  
 
 首筋まで赤く染まってるのを自覚しながら、抗議の言葉を口にしようとします。  
ですが私の喉は渇ききっていて、舌は全く回らずに、  
情けない事に文句の一つも言えませんでした。  
なんて、なんて不様な女でしょう。  
喉は渇いてるのに下はこんなにも湿って、指が止まらないのですから。  
 
 そうするうちに彼の指はフロリスの割れ目をなぞっていきます。  
 彼はどこまで意地悪なのでしょう。唇、首筋、脇、乳首攻め、  
 ありとあらゆる手を尽くしながら決して最後の一線に踏み切ろうとはせず  
 延々と焦らし続けたわけですが、私は見逃しませんでした。  
 秘所を触られた時のアイツが、一瞬嬉しそうな顔をしたのを!  
 
 ああ、なんとはしたない。  
 貴女は気持ちよければ何でもいいのですか  
 憎い男に体をいいように弄ばれても発情してしまうインランなのですか  
   
 あの男もあの男です。  
 あんなに禁書目録を助け出すんだーと一途っぽい台詞を述べておきながら  
 その手で別の女を気持ちよくしているなんて。  
 裏切りです!これは明確な裏切り行為です!恥を知りなさい!  
 
 ・・・大体、禁書目録じゃなくてもいいのなら・・・  
   
 ・・・何故、私じゃダメだったんですか・・・?  
 
 そんな私の内心などおかまいなしなのでしょう。  
 思えばこの男はコンビを組んでいた時からとことん私に冷たかったのです。  
イギリスを憂える一魔術師としての私の立場などものともしないこの不良学生は、  
私を羞恥地獄に叩き落としただけでは飽き足らないとでもいうのでしょうか。  
 
飽きもせず手練手管のマッサージのみに没頭する彼の瞳は、  
無邪気すぎて恐ろしいものがありました。  
 
 哀しいことに私は未だ処女なのです。  
 この男は決して私に指一本触れようとはしません。  
 ベイロープもランシスも既にこの畜生の毒牙にかかり、  
 純潔を散らしてしまいました。  
 そのいずれの状況にも私は立ち合わされ、破瓜の一部始終を  
 あますことなく見物させられるだけだったのです。  
   
 この男は酷い男です。  
 何故、私だけをこのように苛めるのでしょうか  
 私に哀しい想いをさせて何が楽しいというのでしょうか。  
 
 うな垂れてもの考えをしていたのに気が付いて、ハッと顔を上げました。  
 ふと、目の前の二人が目に入ります。  
そこに映るのは一人の女。  
それは信じられない光景でした。  
彼女はその肉体を犯されているにも関わらず、明確な歓喜に瞳を濡らしていたのですから。  
 
 とっさに、見てはいけないと視線をそらしましたが、それもささやかな抵抗でした。  
一度認識してしまった現実は、どうあがこうと目に飛び込んでしまうのです。  
 
 ベッドの上、ラクロスコートの上着を脱がされ、スカートだけになったフロリスは、  
 隣に座ったあの男の手により苛められています。上着と一緒にぱんつまで転がってます。  
眼光は虚ろで悦びに潤み、理性は曇りきっておりました。  
頬どころか顔中が真紅に上気している様は滑稽です。  
はしたなくも媚びた様子で半開きになった唇からは、この歳でもうぼけたのでしょうか、  
一筋の唾液が光って落ちました。  
淑女としての自負はどうしたのでしょう。  
汗の滲む額には、前髪が不格好に張り付いて……。  
 
 思わず、耐えていた涙腺が決壊しました。  
だってあまりにもあんまりではありませんか。  
こんな不様で情けない顔、まさかこの私がする事になるなんて、夢にも思いませんでしたのに。  
 
 フニフニと、上条当麻はフロリスを揉み続けます。  
そう、私ではなく、フロリスの乳房を。  
 後ろから抱えるように手を回して。おわんをつかむように。  
 そしてそれはゴムマリのように跳ね、形をぐにぐにと変えていきます。  
 
―――ただ胸を揉んでるだけじゃないかと彼は言うかもしれませんが、  
それはデリカシーがなさすぎるというものです、この唐変木。 この外道。  
 
 私が今までに、何度アプローチを掛けたと思っているのです?   
もちろんほんの戯れでしたけども。あなたを篭絡させることが任務だと思えばこそ  
 あのような恥ずかしいことでも我慢してできたのです。私は自身の立場に忠実だから!  
 
 あなたという存在を引き込むことが我々に利益をもたらすのでなければ  
 私はこのようなことはしなかったのに。  
ちょっとからかってやるだけのつもりだったのに。   
ですから貴方はいつも通り、慌てて取り乱してくれればよかったのです。  
そうすれば私もクスクスと笑って、冗談ですよ。何、本気にしてるんですかと返せましたのに  
 
 まさか、本当に私には手を出さず、私の仲間を弄んでしまうなんて予想できますか!  
 
 あのときもそうだったのです。  
 
何の遠慮もなしにベイロープの手を握った上、いつも手袋をつけてるお前の手の平はやっぱり綺麗なんだな、  
なんて散々褒め尽くす言葉攻めから始まって、手入れが終わればついでだからマッサージだって、  
延々、えんえんこうやって……。  
 
 許しません。絶対に許せません   
あなたは私を屈辱と寂しさと恥ずかしさで殺す気ですか?   
まさか本当に私のことが嫌いなのですか?  
 何だかんだ言って私が一番あなたとの付き合いが長いはずです  
 ならば、少しくらい情を持ってくれたっていいじゃないですか!  
   
 何故私をイジめるのです。私が何をしたというのです  
 どうして私にだけ何もしてくれないんですか・・・  
 
 そんな、私が混乱と羞恥の極地にいるときに、その瞬間はやってきました。  
彼は何を考えていたのでしょう。  
散々泣きじゃくってくしゃくしゃになった私のひどい顔をじっと眺め、  
 吸い込まれるように唇を落としたのです。  
 
 凍りました。私も、世界も。何が起こったかなんて判らずに。  
何が起こったのか明確すぎて。あまりにも自然な彼の動作は、何故か無性に悲しくて。  
 
 ……酷すぎます! なんでそうナチュラルに、私の心を揺さぶれるのです!   
ファーストキスが何を意味するのか、知らなかったとでも言うのですか!?   
もし知らなかったのなら怒りますし、知っていたのなら泣きますよ!   
何となく、ですって!? この変態! そこに座りなさい! 正座!  
 
 よろしい。それではさて、これからお説教をするわけですが。  
その前にもう一度……、……その、………まずは手の平にキスしていただけませんか?  
 あ!何笑っているのです!いいじゃないですか!そのくらいの我がまま聞いてくれても!  
 そこから段階を踏んで始めて欲しいのです。お願いですから。  
   
レッサーって、低く甘く名前を呼んでください……。  
 

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