ここはランベスの女子寮。  
 そこの大きな食堂に備え付けられたテーブルは、一度に数十人の人間が同時に食事を取れる様な大きなものだ。  
 そんなテーブルに1人ぽつんと腰かける上条当麻の目の前には、出来たてほかほかの食事が用意されていた。  
「さあどうぞ。ありきたりのもので用意しましたのでお口に合うか判りませんがどうぞ召し上がって下さいまし」  
 そう言って上条の反対側に腰かけた金髪の修道女オルソラは、上条に向かっていつも以上に満面の笑みを浮かべて居た。  
 今日は大事な合同訓練だとかで、この女子寮に居るのは上条と、この寮で唯一の非戦闘員の彼女だけだった。  
「じゃ、頂きます」  
「召し上がれ、なのでございますよ」  
 普段は誰が使うのか、目の前に用意された塗り箸を手に、これも日本のご飯茶碗を手に取った上条は、早速おかずに箸を付けた。  
 と、そこで視線を感じて顔を上げると、興味津々のオルソラと目が合う。  
 何だか急に落ち付かない気分になった上条は、その姿勢のままごくりと生唾を飲み込んでから、  
「なあオルソラ」  
「何でございましょう?」  
「あ、その、何と言うか……、見てられると食べにくい」  
「そうでございますか? あら、それはどういたしましょう」  
 顎に人差し指を当てて思案顔で宙を見上げるオルソラも絵になるな、と上条が食事も忘れて見とれて居ると、  
「そうでございますわ!」  
 今時居ないであろう、掌を拳でポンと叩くと、オルソラは席を立つ。そして、とことことテーブルを回り込んで来て上条の隣に座った。  
「これなら視界に入らないでございましょう? さあ、たんと召し上がって下さいまし」  
「あ、うん」  
 本当は言いたい事がたくさんあったのだが、短い間でこのマイペースシスターとの付き合い方を会得した上条は何も言わずに食事を再開した。  
 更に盛られた良く炒められた肉の様なものを摘まむと、ひょいっと口の中に放り込む。  
「美味い!! 何だこの香ばしさとジューシーさの絶妙なハーモニー!!」  
「トカゲでございますわ」  
 オルソラの一言で上条は凍りついた。  
「トカゲは古代ローマの頃から精力増強に効くと言われているのでございますよ。健全な精神は健全な肉体に宿ると申しますが、逆もまたしかりでございましょう。精力増強にいそしむ事は即ち健全な心をはぐくむ事になるのでございますよ」  
「あ、ああ」  
 何か良い話のオブラートに包まれて大事な事を聞き逃した様な気がした上条だったが、先ほどと同様に無理に話を広げようとせず、黙ってトカゲを口に放り込む。  
 しかし美味い。トカゲだと言われた後でも美味さは変わらない。  
 ご飯の炊き方も申し分ないのだが、このトカゲと一緒だと、3倍、いや5倍はご飯が美味しく感じられた。  
 ご飯茶碗を一旦置いて、今度は何故か用意された黒塗りのお椀を手に取る。  
 中には真っ白なスープが並々とよそわれている。  
 それをグイッと煽った上条は目を瞠る。  
「んおぉ……、このスープも美味いな」  
「牡蠣のクリームスープでございます」  
 
「へえ、牡蠣かぁ……。俺は牡蠣って言ったら牡蠣フライくらいしか食べ方知らないんだけど、あ、後鍋に入れる位かな」  
 上条の言葉にオルソラはゆっくりと何度もうなずいてから、  
「イギリスは良質の牡蠣が捕れるのでございますよ。知っておりますか? かの有名なナポレオンも牡蠣が大の好物で、その為に各地に進行したと言うお話も有るくらいでございますよ」  
「へぇ……、物知りだなオルソラ。うん、美味い」  
「あなたに褒めて頂けるなんて光栄でございますよ」  
 謙遜するオルソラ。そのにっこりとした頬に少し朱が走って、綺麗さよりも色っぽさが増して、横目で見て居た上条はドキドキしてしまう。  
「所で牡蠣も精力増強の効果が有るのはご存じでございますか?」  
 その言葉に3度目をあおろうとした上条の手が止まる。  
「マジ?」  
「はい。ゆえに英雄ナポレオンは精力的に各地に侵攻して行ったのでございましょうねぇ」  
 何か俺って病的に見えるのかな――上条はスープの残りを覗きこんでそんな事を考えた。  
 と、その横でオルソラが小さく「あ」と声を漏らす。  
「どうした?」  
 上条がそう聞くと、オルソラは口元を手で押さえて、優美な眉根を寄せると、  
「ゴム。切らしていたのでございますよ。まあどういたしましょう。わたくしとした事が……」  
「?」  
 何だか判らなかった上条だが、食事のお礼に後で買いに行ってやろうと思いつつ、今まで手を付けて居なかった小鉢の中身に箸を付けた。  
 真っ白くて細長いそれは、口に放り込むとしゃくしゃくとした後、微かな粘りを感じさせつつ喉の奥に消えて行く。  
 独特な香りと塩気は、日本の醤油を連想させた。  
「これ何?」  
「ジネンジョ、と言うものでございます。神裂さんから頂いたのですが、これがなかなかなのでございます。その様に刻んで食べても良し、摩り下ろしてもよし、そこにジャパニーズショーユーでシンプルに頂くのがおつなのでございますよ」  
「へぇ……、ジネンジョねぇ」  
 面白い触感が癖になりそうだ、と上条は口の中でそれを噛砕きながらそんな事を考えて居た。  
「あ、それから……」  
「何? これも精力増強とか言うの?」  
「はい」  
 その返事を聞いた上条は、  
「信仰心ってすげえんだなぁ。お前らにはホント感心するよ」  
「?」  
 すれ違う2人がかみ合うのは、それから暫く立った後、精力増強しすぎて上条が鼻血を吹いて倒れた後の事であった。  
 
 
 
END  
 

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