並行世界(パラレルワールド)が唐突に混じり合った。
しかし、それに気付いた者は誰も居ない。
まじりあってしまえばそれが新しい現実となり、過去は全て塗り替えられるからだ。
それに例外は無い――ただ2人を除いては。
上条当麻は唐突に眩暈を感じてその場にしゃがみこんでしまう。
「どうしたカミヤン?」
「もしかして腹でも減ったのかにゃー?」
悪友2人からの声も何処か遠く、目を開けば辺りは全て2重にダブって見えた。
「何だこりゃ気持ち悪い……」
実際内臓が荒波に浮かぶ小舟の様に掻き回された気分になって、上条はその場で嘔吐した。
「お、おいカミヤン!?」
「大丈夫か!?」
やっぱり2人の声は何処までも遠く、世界は未だに歪んでいた。
アスファルトに頬を擦りつけて再び襲う吐き気を我慢する上条が最後に見た光景、それは自分と同じように道路の上に蹲る長い黒髪と何処かで見た様な蒼い瞳が特徴的な少女の姿だった。
次に上条が目覚めた時、まず目に飛び込んで来たのは見慣れた白い天井だった。
その事にホッと安堵のため息を漏らしてから、いかんいかんと首を振る。
「「病院のベッドでホッとするなんて人としてマズイだろ? ここはやっぱりあれだろ。不幸だ……」」
そこまで言ってから上条はふと違和感を感じた。
まるで誰かか自分の言葉をそっくりまねて居る様に聞える。
それも声は女の子。
「「倒れた時どっか打ったとか? それだったら嫌だ……」」
と、そこまで呟いて、空耳などでは無い現実に思い当たる。
それを確認する為に、上条はそっと右を向いた。
すると同じベッドで寝ていたと思われる長い黒髪の少女が、蒼い瞳でじっとこちらを見て居た。
その瞬間、2人はものすごい勢いでベッドから飛び出して左右に分かれると、同時にお互いの事を指さして、
「「あんた誰だ!? 何で俺(私)のベッドで一緒に!?」」
とお互いそこまで言ってから、
「「そっちから御先に」」
余りに同時だったので、お互い「うっ」と言葉に詰まってから。
「「じゃあ俺(私)から!!」」
またも同じタイミングで凍りついた。
(どうする? こうもタイミングが同じでは……)
そう上条が悩んでいたその時、病室の扉がシュッと開き、見慣れたカエル顔の医者が姿を現した。
「「せ、先生!!」」
同時にそう叫んで、この子もこの医者を知っている事に少なからず驚いた。
「どうやら目が覚めた様だね? どうかね気分の方は?」
「「今は何でも無いです」」
そう答えてから、やっぱりタイミングがぴったり同じな少女の方を見ると、向こうも不思議そうにこちらを見て居た。
「あっはっは。君たちは本当に面白いね? 何から何までぴったり同じ、違うとしたら体格と、男女の違い位かな?」
「「え?」」
「ここで1つ質問しようか? 君たちは何故一緒のベッドで寝て居たのか? 判るかね?」
カエル顔の医者の質問は何時も要領を得ないが、今日は特別訳が判らない。
上条は素直に首を横に振って判らない事を伝えた。
「そうか。君たちにも判らないかね? では結果だけを伝えるけどいいかな? 君たちは離れられないんだ。正確に言うとお互いがお互いを認識出来、また第三者が君たちを同時に認識できるような距離に居ないと駄目みたいだね? こう言った症例は初めてだよ」
そこまで言ってからカエル顔の医者はオホンと1つ咳払いをする。
「ここからは私が話す様な内容では無いのだがね」
そう前置きしてからカエル顔の医者は少女を指さすとこう言ったのだ。
「彼女は並行世界の人間だね? つまり、別の世界の君だって事になるね?」
いつの間にかカエル顔に医者に指さされていた。
(こ、こんなかわいい女の子が別世界の俺だって!?)
上条にとってかつてない程の不幸が今、訪れようとしていた。