上条はふと目が覚めた。背中が柔らかい。ベットで寝ていたようであり、自宅とは違う場所ということが認識できた。
部屋は少し薄暗い。日が昇り始めているようで、窓から見える朝焼けが綺麗である。
「確か、イギリスに行って、魔術師に襲撃されて、えーと、ここから先は記憶がないな。」
少し体が痛い。いつものことであるが、また負傷したみたいである。右腕が動かないから、そこを怪我したのであろう。
「って、オルソラ?」
オルソラが右腕を掴んだまま寝ている。右腕が動かないのは、怪我ではなく掴まれていたからであった。
そして、部屋には使用済みの包帯やガーゼが置いてある。おそらく上条の為に使われたのであろう。
「あぁ、そうか。看病につかれてそのまま寝てしまったのか。」
上条は状況からそう推測した。
「ここまでされると、かえって恐縮するなぁ。ははは…」
口ではそう言っているが、親身になった看病されることに対して照れているだけである。
とりあえず、目は覚めた。少し体を伸ばしたい気分であるが、心地よく寝ているオルソラを起こすのは気が引ける。だから、無理に二度寝しようとした。
だが、ふと上腕三頭筋に掛かる感触がすごく気持ちいいに気付いた。よく見ると、その豊かな胸が上腕三頭筋に押さえつけられている。
「えっと、どうしよう、これ。」
上条は思春期な男児である。その胸が気にならないわけがない。触ってみたい、揉みくちゃにしたいのである。
「だが、それはまずい。」
無防備の女性に手を出すなんてただのセクハラである。
「しかし、不可抗力ってのがある。」
意味のわからない言い訳をしているが、つまり、触ることができないなら覗いてみたい、それだけなのである。
ちょうど、シャツからその谷間が見えそうである。そこが巨乳のおそろしいところである。
「やるか。」
だが、腕が固定されている以上、覗く方法が限られる。
否、下手に動けば、起きてしまう。それだけは避けねばならない。だから、首だけを動かし、覗こうとする。
そして、それをしている上条の顔は人様に見せられないようなすごくいやらしい表情をしている。
「んっ。」
うめき声がした。首を動かした拍子で、右腕が動き、右手が何かに当たったようである。
「何かって何だよ。…。」
右腕が固定されている。それは分かっている。ならば手はどこかと、考えたところ、右手の小指は下腹部に当たっているが判明した。
「…。俺にどうしろと…。」
そして、下半身が自己主張を始めた。自分の上には薄いタオルが掛けられているだけ、もはや隠しようがない。
タオルでテントを張っている。
ちなみ十字教の一部儀式はテントで行うらしい。遊牧民の宗教だった頃の名残らしい。
そんな無駄な知識で状況を誤魔化したかったが、現実は非情である。
この場面を、もし誰かに見られたら。オルソラが起きて、叫んだりしたら。
そうなったら、色んな意味で破滅である。
「どうしたら良い?」
とりあえず、萎える方法を考える。既に日は昇り始めている。早くしなければ、他の誰かに見付かる。
「ここはベタに素数を数えるか。2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,39,41」
どこか、間違っているようではあるが、至って真面目である。
「うぅん。」
オルソラが寝言でうめき声を言った。
「42,44,46,47,48,49,50」
そのうめき声に釣られてしまい何をしているのかが分からなくなった。
と、同時に、萎えてきた息子が元気を取り戻す。性欲は現金である。
「もう、いっそ破滅してしまいたい。」
たぶん、これが本音なのであろう。やりたいのである。
だが、そうつぶやくと、落ち込んだのが効を奏したのか、徐々に萎えてきた。
「これで良いのだ。上条さんは紳士だ。いやらしいことはしない。」
でも、あの胸は覗いてみたいと思う。
「1回くらいは、いいよな。」
紳士は一回だけは覗くらしい。
気を取り直して、もう一度首を伸ばしてみる。もう少しで見えそうである。もう少し首を伸ばせば見える。
「うん?」
ふと上条は視線を感じた。視線の先を辿ると、覗いていた胸の持ち主に辿り着いた。
下手に上条が動いたので、目が覚めたのである。
「お、オルソラ。」
思わず名前を呼んでしまう。それに対してオルソラは無言である。しかも、掴んだ腕はほどかず、こちらを見つめている。
体中より脂汗がにじみ出る。その汗が怪我した箇所にしたたり、しみているがそんなことは全く気にならない。
上条の脳裏に最悪の状況が浮かんでいるからである。
「か、上条さんは、健全なんだぁ。」
上条は現実逃避するため、左手で自分の顔面を殴り気絶してしまった。
まぁ、健全と言えば健全なのだが、褒められる行為ではないと思われる。
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「意気地があっても宜しかったでございますのに…。」
オルソラはそうつぶやく。先程、無言だったのは上条の次の行動を待っていたからである。
そして、気絶した上条の頭を抱え、その膝にのせた。膝枕である。そして、優しく顔をなでる。
「私は幻滅することはございませんよ。私はあなたを愛しておりますし、愛されたく思っておりますから…。」