「一生のお願いだから揉ませて吹寄!!」  
 思考が真っ白になっていたのはほんの数秒だったと思う。  
 しかしその数秒の間に、吹寄制理は土御門元春と青髪ピアスを撃墜し、戯けた事を抜かした上条当麻を床に沈めていた。  
 自らの発言の衝撃度に気付かず「い、一体何が起こった!? 不幸だー」と言いたげな少年の顔を見て、姫神秋沙はそっと溜息をつく。  
 彼を襲う不幸の半分は、彼自身の自業自得による物ではないかと思う。  
 今回の場合も、少年の意図は他にあるのだろうが、それを相手に伝えるための言葉の選択を致命的なまでに間違えている。今もまた先ほどの台詞に輪をかけて不穏当な発言をして、さらなる追撃を受けているところだ。  
(まったく。何をやってるのやら)  
 もう一度、今度ははっきりと溜息。  
 
 と、そこでふと、姫神秋沙は一つの可能性を思い浮かべてしまった。  
 
 もし。  
 もしもだ。  
 彼が本当に「そういう意味」で吹寄制理に声をかけたのだとしたら。  
(だったら。私に言ってくれればいいのに)  
 瞬間、彼女はそう思った。  
 大きさと言う点では吹寄に一歩譲るものの、決して標準と比べて小さいわけではないと思う。  
 なにより、彼に迫られれば自分は断らないのではないか。  
 今やはっきりと自覚できるほど、自分は彼に対して好意を持っているし、そもそも彼を想って自分で――  
「姫神さん? 顔赤いけど、どうかしたの?」  
 その言葉にハッと顔を上げれば、先ほどまでクラス平和維持活動に従事していた人物が、心配そうにこちらの顔を覗き込んでいた。  
「別に。なんでもない。大丈夫」  
 咄嗟にそう答えるが、さっきまで考えていた事が事だけに、思わず目をそらしてしまう。吹寄はたしか意思疎通(テレパス)系の能力者ではなかったはずだが、この際そういう問題でもない。  
 が、彼女はそれをどうとったのか、なにやら深刻な顔で踵を返すと、  
「上条当麻ー! 貴様の馬鹿発言のせいで姫神さんがー!」  
 という怒号と共に、立ち上がりかけた少年を再び地面とくっつけるキューピッドと化す。  
 それをBGMにしながら姫神は、いっそ自分から話をもちかけてみようかいやいやそれはさすがに破廉恥すぎるでもそうでもしないとあの朴念仁はこのままさらに新しい女の子を増やしていくんじゃないか云々と、句点すら忘れて思考を暴走させていくのであった。  
 
終われ。  
 
 

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