久々に打ち止め(ラストオーダー)とのんびり出来るかと黄泉川のアパートを訪ねた一方通行(アクセラレータ)だったが、居たのは未だ就職浪人進行中――、
本人いわく「私は自分を安売りしないの」――の芳川桔梗ただ1人だった。
打ち止めは? とも素直に聞く事が出来ずに定位置を占領してふて寝を開始すると、最近多忙だったせいか一方通行はあっという間に眠りに落ちた。
途中、昼飯はどうするだ3時にコーヒーでも如何だと芳川に起こされつつ、半日ほどを寝たり起きたり繰り返していると、
「ただい……、あああああああああああああああああああッ!!! ってミサカはミサカは留守の間に起った驚愕のお客様到来にびっくりしてみたり!!」
続いてドカドカドカっとこれが少女一人の足音かと思う大きな音が近づいて来て、
「来るなら来るって言ってくれてれば昨日の夜から寝ないでずぅぅぅぅぅうううううっと待っていたのにぃッ!! ってミサカはミサカはあなたにチョット抗議してみる!!」
「るせ……。ンな事しやがったら2度とここの敷居は跨がねェ……」
霞む目を擦りながら言い返していた一方通行の言葉がピタリと止まった。
それから、目を2度、3度と擦ると、
「誰だオマエ?」
「ががああああああああああああああああん!! ってミサカはミサカはあなたがほんのちょっと、たった少し会わないだけでミサカを忘れた事に大ショックううううううううううううううううううう――――」
「冗談だ馬鹿」
「わあああああああああああああああん!! ってミサカはミサカはあなたに騙された事より忘れられてなかった事の方が嬉しかったり!!」
「うるせェ」
そんな何時ものやり取りが終わる頃、
「よ、一方通行お帰りじゃん」
何故か上半身水着のビキニ、下半身ジャージと言う姿の黄泉川愛穂が入って来た。
「随分とまた愉快な格好してやがンな」
「流石に上下水着じゃ外に出られなかったじゃん」
そォ言う問題か? と一瞬思ったが、相手が相手だけにそれ以上追及する事が躊躇われた。
それにしても黄泉川と言い打ち止めと言い、別人かと思うくらい真っ黒に陽に焼けている。
先ほどの一方通行の言葉も、実はそれに引っ掛けていたのだ。
「しっかし紫外線なンかで肌焼いて何が楽しいのかねェ。年取ったら泣き見ンのはテメエだろォがよ」
「あっはっはっ! 色白の代表格一方通行に言われると余計グサグサ突き刺さるじゃんねー」
「とか言う割に一向に堪えてる気配はねェンだけどな」
そう言って一方通行は黄泉川が差し出したアイスコーヒーに一口、口を付けた。
と、一方通行がチラリと視線を移すと、直ぐ側で床にぺたんと座った打ち止めがジュースを一生懸命飲んでいる。
丁度座った位置関係で、年相応の胸元がチラッチラッと視線の端に入って来るのだが、一方通行はそこに妙な違和感を覚えた。
「おい打ち止め」
「ん? 今忙しいんだけど、ってミサカはミサカはコップにお口を付けたまま答えてみたり」
「いいからちょっと立て」
「何々ー? ってミサカはミサカはちょっと不機嫌そうなあなたにドキドキしてみたり」
そうして目の前にすっくと立った打ち止めは、落ち付かないのかノースリーブのワンピースの裾を引っ張ったりしている。
と、そんな打ち止めの姿に目を細めた一方通行は、
「おい、服脱いでみろ」
「え? ってミサカはミサカは自分の耳を疑ってみたり……」
驚いたのは打ち止めだけでは無い。その後に居た黄泉川も芳川も凍りつく。
そんな中、1人正気と言うか狂気を保つ一方通行は、
「だから服脱げって言ってンだろ」
「えと……。あはは、初めて会った時みたいだね、ってミサカはミサカは誤魔化してみたりぃ……」
その言葉に一方通行のこめかみにビキリと青筋が浮き上がる。
「おら、つべこべ言ってねえでさっさと脱げっうンだよォ!」
打ち止めが逃げるより先に、一方通行の手が打ち止めのスカートの裾を掴むと一気に捲り上げた。
「ひぴッ!!」
奇妙な悲鳴を上げて硬直する中、一方通行は華奢な太もも、年相応の可愛らしい下着、小麦色に焼けた腹部、と下から舐める様に眺めて行き、
「!!?」
胸元の辺りでぐびっと喉を鳴らすと、捲っていたスカートの裾を離す。
「えっちすけべへんたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!! ってミサカはミサカは見たいなら2人きりの時にしてよねって内心思いつつも建前の為にも文句を言ってみる!!」
だが、
「テメエ……」
「へ? ってミサカはミサカはピリピリと肌で何か不穏な空気を感じ取ってみたり……」
先ほどの騒ぎも一変後退りする打ち止めに、こちらはソファーで口元を押さえて小刻みに震える一方通行。
「なンだ今のは?」
「何だと言われてもぉ……、ってミサカはミサカはあなたは何を怒ってるのかなぁって思ってみたり」
「それはテメエの胸に張ってあるッ――」
とそこまで言って一方通行の言葉がピタリと止まった。
更には下を向いてしまう。
「ね、そこまで言っておいて黙るなんてあなたらしくないよ? ってミサカはミサカは恐る恐る聞いてみたり」
そう言って横顔を覗き込むと、そこには何とも情けない目をした一方通行の顔が。
「どうしたの? ってミサカはミサカはあなたの変化に戸惑いながら聞いてみたり」
すると一方通行はやおらガバッとソファーから立ち上がったかと思うと、ずかずかと部屋の奥――自分が寝室代わりに使って居る部屋に引っ込んでしまう。
「ちょ、ちょっと何処に行っちゃうのかなぁー? ってミサカはミサカはあなたの事を追いかけてみたり!」
そして打ち止めも消えると、後に残されたのは大人組みの2人。
「どうしたのかしら一方通行。ずっと口元なんか押さえて……」
「きっと打ち止めの裸に鼻血でも出そうになったんじゃん?」
「そんな……。普段一緒にお風呂に入ったりしてるのにどうして急に……?」
そう言ってうーんと考え込む芳川の横で、グラスの残りを流し込んでいた黄泉川は、
「あ!」
「どうしたの、愛穂?」
「思い出したじゃーん」
そう言ってグラスをテーブルの上に置くと、神妙な面持ちで両の指を組み合わせた。
「何? そんな深刻な話なの?」
そう言って身を乗り出す芳川に、
「実は打ち止め……」
「実は?」
「陽に焼き過ぎてオッパイの大事な所火傷したじゃんよ」
「は?」
間抜けな様相の芳川に、黄泉川はにっと笑って見せた。
「今日打ち止めとプライベートビーチに行ったのは桔梗も知ってるじゃん」
「ええ」
どうもややこしい人間関係で借りたとは聞いていたのだが、
「それとどう関係が有るの?」
「そこでちょおっと嵌めを外し過ぎちゃってね……」
そこでまたあははと笑う黄泉川に、芳川は全てが判って呆れかえった。
そう言われれば黄泉川の肩には水着の跡が見られなかったのはそのせいだったのか。
「あなたたちねぇ……」
「あはははははは。打ち止めが服も着れない位に痛いって言うから応急処置に絆創膏を貼ったじゃんよー」
ひっくり返って馬鹿笑いする黄泉川は差し置いて、小さくため息を突いた芳川は2人が去って行った方に視線を向ける。
「大丈夫かしら打ち止め」
「あの様子じゃむしろ一方通行の方が大ピンチじゃん?」
「あ、確かにそうね――でも」
「何があの子の琴線に触れるかなんて判らないじゃんねー」
そう言って保護者失格の2人は頷き合うのであった。
おわり。