清潔な事を象徴するかのように白い病室。  
 その端の方に設置されたベッドの上で黒髪をツンツンと立てた少年――上条当麻は寝転んでいた。  
 体を起こして、改めて周囲を見る。  
 そこにはもはや慣れたその独特の匂いと光景。  
 数時間前に白いシスターが大暴れした挙句、癇癪を起こして頭に噛み痕を残すという恐ろしい事件があったが、  
 当麻は取り敢えず今回もまたまた巻き込まれた騒動を何とか解決出来た事に安心していた。  
 その代償として全身がボロボロになったが。  
「いやー、清々しいですなー。頭がなんかズキズキするけど上条さんは不幸じゃありませんよー!」  
 ヤケクソ気味な当麻の声が室内に響く。  
 しかし、そこは一人だけの病室。  
 その声に応えるものがいる筈もない。  
……なんも応えが帰ってこない病室ってのも寂しいなー。  
 溜息をついて、体を寝かせようとしたその時だ。  
「何を叫んでいるのですか、アナタは?」  
 不意に女性の声が聞こえた。  
「!?」  
 咄嗟の事態に防衛本能が働いたのか、体が後ろに飛び退く。  
 同時に背を思いっきりベッドの骨組みに打ち当てた。  
「ぐぁっ!」  
 悶絶するほどの痛さに思わず涙目になりつつも何とか視線を声の主へと向ける。  
 そこには、ポニーテールの髪型が特徴の女性が居た。  
 片足だけを太股の根元ギリギリのラインで断ち切ったジーンズにウェスタンブーツを穿き、  
 臍が見えるほどの位置で絞った、かなりデカイ胸を強調する半袖の白いTシャツといった絶妙な格好。  
 その女性の顔を見て、思わず当麻はキョトンとした顔になる。  
「って、神裂?」  
 そこには困ったような笑みを浮かべた女性――神裂火織が立っていた。  
「……驚かせてしまいましたか?」  
 彼女は特に心配した様子も無く、しかし和やかな笑顔で当麻に問う。  
 当麻は慌ててベッドの上に何故か正座。  
 姿勢を正して神裂と向き合うような体勢をとった。  
「あ、いや、そんな事ないけどって、いきなりどうしたんだ、こんな所に?」  
 当麻が首を傾げると、彼女は口元に手を当てつつ苦笑。  
「いえ、今回もまたお世話になってしまいましたので、そのお礼をと思いまして」  
 そう言う彼女の手には、幾つかの果物の入った手提げ籠が下げられていた。  
 それを見て当麻は笑顔で頭を掻きつつ、  
「あー、うん。さんきゅ。でも、気にすんなよ。前も言った通り――」  
「これは『俺達』の問題だった、ですか?わかっています。ですが、ケジメというものが私にもありますから」  
……固いなぁ。でもまぁ、それも神裂らしいか。  
 取りあえずは納得。  
「んじゃ、ありがたく貰うわ。あ、置くから貸してくれ」  
「いえ、怪我人に無理をさせるわけには――」  
 彼女は心配そうな声で当麻の申し出を断ろうとするが、当麻は、  
「いいからいいから」  
 と言うなり、すぐさま神裂の持つ手提げ籠へと右手を伸ばした。  
 そして、同時に持ち手部分の幅が小さいせいか自然、神裂の手に当麻の右手が当たる事になる。  
「んっ!?」  
 瞬間、神裂はビクッと身を震わせて手提げ籠から急に手を引いた。  
「へ?って、うおわっ!?」  
 ベッドから身を乗り出していたためか、急に離された籠の重みに引っ張られる。  
 なんとか耐えようとするが、その重みは相当なもの。  
 なんでこんなに重いんだ、と籠の中を見てみればパイナップルや何故か季節外れの西瓜まで入っていた。  
……お、落ちたら西瓜が!滅多に食べられない西瓜じゃなくて神裂の気持ちが無駄にー!  
 耐える。  
 そりゃあもう腕の筋肉がビキビキ言うまで必死に耐える。  
 しかし、人間、我慢の限界はあるものだ。  
「神裂さん!上条さんはそろそろ限界ー!」  
 キリキリと効果音が出そうな程ゆっくりと、まるで錆びた機械の様に顔を上げて必死に叫び声を上げる。  
 それに対して神裂は微動だにせず、ただ自分の手を見つめるだけ。  
「って、神裂さん、聞いていらっしゃいますでしょうか、神裂さぁぁぁん!」  
 必死に耐える。耐える耐える耐える。  
 
 頭から落ちた。  
 
   ◇○◇  
 
……何ですか、今の感覚は。  
 神裂は己の右手を呆然と見つめていた。  
 彼の右手に触れた途端、体を未知の感覚が走り抜けた。  
 初めて感じた理解出来ない感覚。  
 しかし、それは体の芯に響くものだった。  
「……」  
 その感覚の検証のため、試しに当麻の右手を取ってみる。  
 彼は何故か頭から床に突っ込んでいるという奇妙な格好をしていたが、気にしない。  
「ん……」  
 やはり何かが違う。  
 しかし、それを深く考えるよりも先に体の奥から妙な気持ちが湧き上がってきた。  
 もう片方の手で当麻の右手を握る。  
 やはり、暖かい手の体温が伝わってくると同時に体の芯が段々と熱くなってくる。  
……なんですか、これは……?  
 段々と吐息が熱を持っていくのがわかった。  
 試しに恐る恐る彼の右手を自分の胸へと持っていく。  
「ぁ、ん」  
 胸に彼の手を沈めると、僅かだが吐息と共に声が漏れる。  
 触れられた箇所が熱くなり、それが段々とその箇所を中心に広がって行く。  
 痺れるような感覚が容赦なく神裂の体を焼き、思わず頬が紅潮してきてしまう。  
「は、ふ……」  
 彼の手が僅かに揺れる度にその感覚も上下し、それがまた神裂に快感を与える。  
 目を閉じてその感覚を感じれば、更にそれは神裂の奥深くまで響いてきた。  
「うぅぅ……上条さんはやっぱり不幸なのでせうか?しかも、手にぷにって……ぷに?」  
「あっ」  
 当麻の右手が先程よりも大きく動く。  
 目を開いてみれば、彼は目を見開いて呆然としており、  
「って、神裂、何をしてやがるんですか貴方様は!?え?夢の中!?夢の中ですか上条さん!?」  
 赤面しながら叫ぶと同時に凄まじい速度で神裂を振り払ってベッドの上に離脱していく。  
「あ―――」  
 逃げられた。  
 そう思った時には、既に神裂は本能のままに動いていた。  
 彼を組み敷き、体を密着させて動けなくさせる。  
 即座に神裂は彼の右手を両手で取り、  
「……はむっ」  
 今度は口元へ運んだ。  
「なぁーっ!?」  
 彼の叫び声が上がるが、敢えて無視。  
 舌を右手につけただけで舌が痺れ、脳全体が麻痺したような錯覚に襲われる。  
 これは何か、と考えると同時、神裂は彼の右手に宿る能力を思い出した。  
――異能のものならば例え神の奇跡だろうと消し飛ばす能力。  
 神裂はぼやけた思考の中で漸く理解する。  
……そうか……私の身は、聖人だから―――。  
 聖人とは神の子に似ているが故に強大な力を持った人間の事だ。  
 聖なる者であるがため、この身は七つの大罪の一つである"色欲"からさえも見えざる何かによって守られていた。   
 "守り"が破壊された為に、初めて外界に曝された"色欲"。  
 それこそは人間の三大欲求とも言われている一。  
 簡単に言ってしまえば性欲の事だ。  
 それが開放されているため、神裂はこんな状態になっているのだ。  
 そう考えれば全て納得が行くが、納得がいったところで止まるはずもない。  
 どうやら"守り"は彼の右手に触れられている部分から円形状に破壊されているようだ。  
 今は舌で触れているためか、碌に頭が働かない――故に理性が働かない。  
 もしかしたら神裂も無意識のうちにそれを望んで、実行してしまったのかもしれない。  
 それでも、彼の右手を強引に下半身に持っていかないのは、僅かに残った理性が抵抗しているためであろう。  
 
 しかし、それでも神裂は止まらない。  
 事態を理解し切れていない当麻の右手を、チャンスだとばかりにしゃぶりはじめる。  
 快楽という名の炎。  
 それは神裂の理性をゆっくりと、しかし、確実に削り取っていった。  
 
   ◇○◇  
 
……なんだなんだなんだ!?  
 上条当麻は必死に冷静になろうとしつつも、やっぱり混乱していた。  
 というか、この状況で冷静になれと言う方が無理というものだ。  
 君達は目の前で自分の指を一心不乱になってしゃぶる綺麗なお姉さんを見て冷静でいられるだろうか。  
――否!答えは断じて否ぁっ!  
 という具合に混乱しっぱなしの当麻はなんとか思考を落ち着け始める。  
 思考開始、現在の状況を再確認する。  
 目の前には当麻に覆い被さる様な体勢の神裂火織。  
 しかも彼女と密着しているためかどうしても彼女の胸が当麻のイケナイ場所に当たってしまう。  
 非常に、非常にまずい。  
 危うく火山が大噴火しそうになる程まずい。  
 なんとか神裂を落ち着かせようと彼女の顔を見てみる、  
……って、完全に目がトリップしていらっしゃるぅ――っ!?  
 危うげな光を放つ神裂の瞳。  
 更には頬を上気させて、自分自身の唾液で口元を濡らした恍惚とした表情。  
 そんな女の表情をする神裂の姿は、当麻の情欲を刺激するのに十分過ぎた。  
 しかし、しかしだ。  
 当麻は頬に汗を流して必死に今すぐにでも襲いかかりたい欲望を抑えつつ思考を走らせる。  
 
――神裂火織はこの様な事をする人間だっただろうか。  
   
 否。  
 断じて否。  
 付き合いは短いものの、彼女の性格はそれなりに理解しているつもりだ。  
 あの真面目一辺倒の神裂が当麻をいきなり押し倒し、あまつさえこの様な行動に出る事など考えられない。  
 よって、神裂は別に当麻を襲っているわけではない。  
 なにか別の理由がある筈だ。  
 暫く右手の指が文字通りふやける様な神裂の舌技に快感を覚えながらも必死に考える。  
 そして、神裂の所属する仕事場の事を思い出した。  
 彼女の仕事場は、必要悪の教会――魔術師達を倒すために作られたイギリス清教の部署だ。  
 その仕事の都合上、数多の魔術師と相対し、戦って来たに違いあるまい。  
 そう、つまり神裂がこの様な状態になっているのは――、  
……そうか!神裂はなんか妙な魔術にかかっていて、それで俺の右手でその魔術を解こうとしてるのか――っ!  
 鈍感もここまで来るといっそ清々しい。  
 当麻は状況を間違った方向に理解すると同時に、右手を強引に神裂から引き離した。  
「あ……」  
 神裂の残念そうな声が当麻の欲望を揺さぶって来る。  
 しかし、ここは我慢しなければならない。  
 女性が望まないのに襲うなどとは、当麻の中のジェントルマン精神が許さないのだ。  
「やだ――あうっ」  
 神裂が動こうとする前に、当麻は彼女を動けなくさせるために抱き締める。  
 続いて、子どもをあやす様にして右手で彼女の頭を撫ではじめた。  
「ぁ、んぁあっ」  
 神裂に触れると同時に彼女の体が一際大きく震えた。  
……これでどうだ!?  
 かつてアウレオルスに記憶を消された時、当麻は自分の頭を撫でることによって記憶を取り戻した。  
 ならば、今の神裂の状態もこれでなんとかなるかもしれない。  
「ひ、ぁっ、そんな……頭撫でられて、そんな、イぃの……もっとぉ……!」  
 神裂の小声の悲鳴の様なものが聞こえると同時、当麻は思わず心配そうな表情になってしまう。  
……苦しいのか……?  
 密着した自分の体を通じて神裂の体の震えが伝わってくる。  
 それでも撫で続ける事しか出来ない自分に不甲斐なさを感じつつも、当麻は神裂の頭をあやすように撫で続ける。  
 それしか出来ないのなら、それを精一杯やるしかないのだから。  
 
「う、ぁぁ……や、やぁ、イ、だめ、も、イク、イクぁ、ぁああっ!?」  
 神裂の体が小さい悲鳴と共に強く当麻の体に押し付けられた。  
 そのまま小刻みな痙攣を起こしつつ、神裂は当麻にグッタリと身を預ける。  
 彼女の呼吸は荒い。  
 相当苦しかったのだろう。  
……取り敢えずは……もう大丈夫か?  
 彼女の顔を見てみれば、彼女は目を見開いた虚ろな表情で当麻の胸によりかかっていた。  
 時折、彼女の体が痙攣すると当麻の体にもそれが伝わってくる。  
……うわぁ……。  
 思わずゴクリと口内に溜まった唾を飲みこむ。  
 そのまま暫く神裂が復帰するまで彼女に身を貸す事にしつつ天井を見上げる。  
……土御門とかに見られたらヤバイよなぁ、この体勢。  
 虚ろな表情の女性によりかかられた男。  
 絶対に学校やその辺で噂になるに違いない。  
 下手をしたら当麻の所属する学校の新聞部にまで情報が届いて記事にされるかもしれない。  
 それだけはなんとかして防がねば。  
「……は、う?」  
 ふと、神裂の目に光が戻る。  
「お、大丈夫か、神裂?」  
 対土御門用の案を練ると同時に当麻は神裂の表情を見る。  
 寝起きの様にボケッとした表情がなんとなく何時もの凛々しい姿よりも幼く見えて可愛らしかった。  
 以前、土御門が言っていた『意外と可愛らしい系』というのはこういう意味だったのだろうか。  
「……」  
 神裂はボーッとしたまま当麻の顔を見て、辺りを見回して視線を当麻に戻す。  
 そして、数秒の沈黙の後、  
「あ……」  
 ボロボロと涙を流し始めた。  
「えええええええええええええええええええ!?」  
 思わず絶叫する当麻。  
 何がなんだかわからない。  
 何故いきなり神裂は泣き始めたのか。  
 しかもその泣き方は子どもが泣きじゃくる様なものだ。  
「ひっぐ、えぐ……っ」  
 嗚咽を漏らしながら涙をボロボロと流し続ける神裂。  
 どうしたら良いのかわからないまま当麻まで思わず軽いパニックに陥ってしまう。  
 その後、土御門が病室を訪れて神裂を引き取って行くまで病室には彼女の泣き声が響いていた。  
   
   ◇○◇  
 
 当麻の入院から一週間後のとあるホテルの一室。  
 不意に何かが壁に叩きつけられる様な音が鳴る。  
「うぅぁぁ……っ!」  
 呻き声の様な女性の声。  
 その声の主は、いつも後ろで縛っている髪を解いて後ろに流した髪型の神裂火織だ。  
 彼女はたった今壁に投げつけた道具――俗に言うバイブレータを睨みながら血反吐を吐くように叫ぶ。  
「なんで……っ!」  
 バイブレータだけではない。  
 床を見れば数々の自慰用の道具があちこちに散乱している。  
 あの上条当麻の右手に触れた日から、神裂はずっとある種の焦燥感に襲われていた。  
 床に散らばる自慰用の道具達は我慢の限界を超えた神裂が自ら恥を忍んで購入したものだ。  
 しかし、その道具達の悉くは既に壊れる寸前の様な状態をしている。  
 それどころか、中には破壊されているものまである始末だ。  
 涙を目に溜めつつ神裂は頭を抱え、身を少しだけ前に倒して腰を丸める。  
「絶頂どころか、感じることすら……!」  
 この一週間、神裂は必死に――当麻の右手の感覚を忘れるため、あらゆる自慰手段をとった。  
 しかし、それも全て無駄に終わった。  
 自慰用道具は快感を感じるどころか不快感を与え、激しくすれば壊れてしまう。  
 神裂には、もうどうすれば良いのかわからない。  
 これ以上我慢していたら近いうちに精神崩壊してしまうのではないかと思える程だ。  
 それは嫌だ。  
 
 壊れるのが嫌なのではない。  
 あの感覚を――あの快感を二度と味わえないのが、嫌だ。  
「嫌だ!嫌だ!いやだ!いや……やだぁ……っ!」  
 言葉を最後まで言い終わる前についに涙が流れてきてしまった。  
 もはや神裂の精神は決壊寸前。  
 このままではいつ本当に精神崩壊を起こしてしまうのかわからない。  
 どうすればこの衝動を抑えられるのかはわかる。  
 それは当麻に懇願して、襲ってでもよいから自分を犯してもらえば良いのだ。  
 そうすれば、神裂はきっとこの苦痛から開放されることが出来る。  
「……っ!」  
 駄目だ、と奥歯を食いしばってその考えを否定する。  
……散々借りを作っておいて恩を仇で返すつもりか、神裂火織……っ!  
 耐え切れなくなってきたのか体の中の疼きが更に酷くなってきた。  
 神裂の体が警報を鳴らす。  
「くぅ……っ!」  
 無駄だとわかっていても下半身に手が伸びる。  
 本から仕入れた知識通りに丁寧に指で周囲を十分に擦った後、己の秘所に指を入れる。  
「痛……っ!」  
 しかし、あれだけ擦ったというのに全く濡れてもいない。  
 痛みに目を閉じて耐えつつ暫くそれを続けるが、やはり反応するのは痛覚のみで快感の一つも与えてこない。  
 毎夜毎夜見る彼とは違う。  
 自分の指では神裂は自分を慰めることすらも出来はしない。  
「なんで……!彼に触れられた時はあんなにも濡れていたのに……!」  
 心の中で叫ぶと同時に自分の口が放った内容を理解して神裂は顔を赤く染める。  
 そして、それから暫く俯いていたが、ついに膝から崩れ落ちて床にペタンと座りこんでしまう。  
 それが限界だった。  
「もう、いやぁ……!」  
 涙を流しながら髪を振り乱して神裂は悲鳴を上げる。  
 彼女にはもう自分を抑えられる程の理性など――殆ど残ってはいなかった。   
 
   ◇○◇  
 
 朝の新鮮な空気が満ちる白い病室の中で一人の少年がボソリと呟き声を出す。  
「……しっかし、俺も大概頑丈だよなぁ……」  
 その少年――上条当麻は久しぶりに着る学校の制服を着込みつつ、窓の外を見ていた。  
 あれだけ血が出ていたのにあっという間に回復とは、やはりこの病院の医者は凄腕なのかもしれない。  
 取り敢えずは、病室とも今日でお別れ。今日はこのまま学校へと登校する予定だ。  
 出来れば二度とこの病室に帰ってこない事を夢見つつ、窓の外を見やる。  
「……無理だろうなぁ」  
 溜息を一つ吐くものの、その当麻を励ますように晴天の空から太陽の光が彼を照らしていた。  
 それを当麻は気持ちいいと思いつつ、伸びを一つ。  
「かみやーん!退院祝いにきたぼへみあっ!?」  
 何か男の猫撫で声と悲鳴が聞こえると同時、  
 
 ドッ、と首の後ろに何かが叩きつけられた。  
 
「がっ!?」  
 視界が揺れると同時に床に近づいていく。  
 否、体が倒れているのだ。  
 どのまま碌に受身も取れずに床に勢い良く倒れ伏す。  
 何者かに後ろから殴られたのだ、と気づくまで数秒。  
 体は叩かれた場所が悪かったのかピクリとも動かない上に意識まで朦朧とし始めた。  
 まずい、と思うが既に遅い。  
 失われつつある意識の中、首を僅かに動かした当麻が見たのは、長髪の女性。  
「かん、ざ、き……?」  
 その人物の名前の呟きを最後に、当麻の意識は闇に飲まれていった。  
 
   ◇○◇  
 
 朝の空気が満ちたある種の神聖な雰囲気を持つ空間。  
「ふぁん、ちゅ、じゅ……っ」  
 その空間に、淫靡な生々しい水音が響いては消えていく。  
 とあるビルの屋上の中央、そこには倒れた男とその男に跨るようにして彼を組み敷いている一人の女が居た。  
 その女、神裂火織は恍惚とした表情で気絶した状態の当麻の右手に自分の舌を這わせる。  
「あ、あぁ……」  
 自分の唾液を当麻の右手に満遍なく塗りたくる。  
 手首から先は既に神裂の唾液でベトベトで濡れていない場所の方が少ないほどだ。  
 それでも一心不乱に彼の右手を舐め続ける。  
 この一週間分を取り戻さんとばかりに必死になって彼の右手を己の舌で蹂躙した。  
 しかし、これもこれからする事のための前準備に過ぎない。  
「これっ……これが欲しかったのぉ……っ」  
 ぬちゃりという粘着音を立てて当麻の右手から神裂の口へと唾液の橋がかかる。  
 神裂は欲望に塗れた恍惚とした顔でその様子を見つつ、膝立ち状態になり自分のジーンズのチャックに手をかけた。  
 まずはチャックを下ろし、続いてベルトに手をかけ器用にはずしていく。  
 そして、そのままジーンズを脱ぐと次は純白の下着へと手をかけ、躊躇いも無く脱ぎ捨てた。  
 露わになる神裂の剥き出しの――陰毛すら生えていない黄金比とも言える形を持った下半身。  
 しかし、その中央にある女性器からは透明な液体が漏れ出ており、そこだけが生々しさを醸し出していた。  
 表情は、頬を赤らめ、何かを期待するかのような淫靡な笑顔。  
 神裂は再び当麻の右手を取ると、その手を自分の裸の下半身へと持っていき――、  
「ぅぁ……っ!」  
 自分の大事な花弁――性器へと触れさせた。  
 電撃が脊髄を走りぬけるかの様な快感。  
 今まで我慢していた分も余ってそれは神裂の身を一気に焼き上げる。  
 服越しでもあれほどの快感を与えるのだから、直接触れさせたならばさぞかし気持ちが良いだろうとは思ってはいたが、  
……こんなに、なんて……っ。  
 その"嬉しい"誤算に神裂は身を振るわせつつ、自分の指を使って当麻の指を操り、秘所を弄り始める。  
 身を震わせ、しかしまだ全然足りないと更に快楽を貪る。  
「あ……んぁ……」  
 イッたばかりのせいか、刺激はそこまで強くない。  
 しかし、それは神裂を溺れさせるには十分過ぎる程の鋭敏さを感覚は保っていた。  
 もぞもぞと身を動かし当麻の指を操って快感を味わっていると、  
「う……あ……」  
「!」  
 不意に呻き声が聞こえた。  
 声に気づいてそちらを向いて見れば、当麻がゆっくりと目を開けようとしているところだった。  
 自分の右腕の手首より先に感じる生暖かく湿っぽい感覚。  
 神裂の愛液に塗れた己の右手を見る。  
「?」  
 当麻はまだ意識がハッキリしないのか首を傾げつつも、顔を赤くして停止している神裂を見る。  
 女性の大切な部分に当麻の指を絡ませる神裂の姿。  
 彼はそれを見て、停止、赤面、混乱という表情の変化を見せ、  
「なぁああああああああああっ!?」  
 仕上げとばかりに絶叫を上げた。  
 一瞬、怒られるかと思い、片目を瞑って備えていた神裂だが、暫くして何もしてこないと確信するとゆっくりと目を開ける。  
 そこには口をパクパクとさせながら、体を少しだけ震わせる上条当麻がいた。  
 その当麻の体の振動が右手から秘所へと伝わって結構気持ちが良い。  
 同時に右手を味わって少しは理性を取り戻したのか、神裂も当麻と同じく顔を赤く染め、  
「お、起きてしまわれましたか……」  
 はにかみつつ神裂は少し躊躇い、何かを考え、しかし、意を決するように彼の右手首を両手で掴み。  
「お、お願いがあるんです……っ!」  
 震える声を当麻に向ける。  
「これから、たまに……たまにでいいですので……っ!」  
 彼のこの手を離してなるものかと、この一週間のあの絶望と焦燥感を思い出しながら彼に懇願する。  
「ま、待て神裂。つか、これはどういう事で、なにがあったんだぁー!?」  
 叫びながら体を起こして神裂を慌てた表情で見る当麻。  
 今にも泣きそうな表情で、説明すらも忘れて必死に目の前の年下の少年へと縋り付く。  
「なんでもしますからぁ……っ!」  
 
 断られたらどうしようという恐怖が神裂の焦燥感を駆り立てる。  
 彼は未だパニックに陥っているのか、しどろもどろな状態で腹の上に乗って当麻を組み敷く神裂の半裸に近い姿を見る。  
 ベルトがはずれ、チャックが開かれたジーンズという乱れた格好。  
 しかも、その開かれたジーンズには自分の手が突っ込まれているという思春期の男の子は色々と辛い格好だ。  
「お願い、します……っ」  
 しかし、そんな事情も構わず、なおも懇願する神裂。  
 だが、当麻は顔を赤く染めるだけで答えは帰ってこない。  
……なんで、答えてくれないんですか……?  
 神裂の中で凶悪な感情が高ぶり始める。  
 答えはまだかと彼の事を見つめていたが、それも一分も持たなかった。  
「……っ」  
 彼の右手を離し、体を屈めて彼の下半身の方へと移動する。  
「って、待て!神裂、そこはまずいっ!」  
 当麻が神裂の急な行動に叫び声を上げるが、神裂はなおも動きを止めない。  
 神裂は当麻の下半身に取りつくと、そのまま彼のズボンのチャックを降ろし、  
「ひうっ」  
 跳ね上がるように飛び出てきた男性器に思わず悲鳴を上げる。  
 しかし、同時にはじめて見る男性器に顔が熱くなってきた。  
 神裂とて女の子なのだ。  
 だけど、  
「これを……こうすると、男性は気持ちが良いのですよね……?」  
 恥じらいなどよりも今は体の中で渦巻く欲望の方が強かった。  
「ちょっとま、うぁっ!?」  
 男根を軽く舐めるだけで当麻が軽い悲鳴のような声を出す。  
……あ。  
 トクンと右手に触れられていないというのに鼓動が早まる。  
……これは、興奮してきている、のですか……?  
 更に一舐めすると、男根と彼の体が同調する様に震える。  
……私はやはり変態なのでしょうか……?  
 一抹の不安を覚えるが、今更だったので流すことにした。  
 そのまま口を開き、  
「はむ」  
「のぉっ!?」  
 少しだけ男根の先端を口に含むと当麻の体が更に大きい震えを見せる。  
 髪を片手でかき上げながら、男根に舌を絡ませてみればそれが脈打っているのが良く分かった。  
「じゅぶ、んぶ、んん、ぅ」  
 この一週間で本など得た知識と技術を全て使って彼の男根を舐め上げる。  
 時に吸い上げ、時に歯を痛く無い程度に立てる。  
 上目遣いで彼を見てみれば目を閉じて必死に射精しまい、と我慢しているようだった。  
 頭の中が蕩けるように熱い。  
 右手に触れられた影響がまだ残っているのだろうか。  
 じゅっぷじゅっぷ、と激しい音を立てて顔を僅かに前後させて男根を愛撫する。  
「やめ、神裂、俺ももたな――」  
「じゅるるるるるる!」  
 当麻の静止の声に神裂は思いきり男根を吸い上げるという行為で答えた。  
 そして、彼は体を一際大きく痙攣させ、  
「ぅお……ぁ、出る――ッ!」  
「!?」  
 神裂の頭を"両手"で思いきり鷲掴みにして口内にそのまま勢い良く白濁液をぶちまけた。  
「〜〜〜〜っ」  
 神裂は目を見開いて大きく震えた。  
 口内を白濁液の波が蹂躙し、快楽をとめどなく与えていく。  
 飲み込む度に右手で触れられた頭を中心に電撃が全身を伝わり、痙攣を起こす。  
 既に神裂の目から光が失われていた。  
 簡潔に言ってしまえば、神裂はフェラチオだけで、しかも自分が絶頂を向かえてしまったのだ。  
 
   ◇○◇  
   
「うぉ、ぁぁああ……!」  
 上条当麻は神裂火織の頭を両手で押さえつつ下半身から来る快感に震えていた。  
 神裂の口内へととめどなく放たれる白濁液は留まる事を知らず、下半身の感覚が痺れたように曖昧だ。  
 それでも、ただ一つの事は解る。  
……気持ち良すぎる……っ。  
 流されては駄目だ、と思っても当麻の性欲がそれを許さない。  
 神裂の口から飲み込めなかった分の白濁液がゴポリと吹き出される。  
 しかし、彼女は一向に口を当麻の男根から離そうとしない、むしろ未だに吸い上げ、当麻の下半身に快楽を与えていた。  
 神裂の目は完全にアッチ側へトリップしてしまっている。  
 このままでは本核的に拙い。  
「かん、ざき、もう離せ……!」  
 叫び、神裂の顔をもう一度見たところで気付いた。  
 彼女の意識がもう殆ど無いという事に。  
……!?  
 急いで彼女を自分の男根から引き離す。  
 未だに射精が続いていたのか、男根から飛び出た白濁液が神裂の顔を汚すがそんな事は気にしていられない。  
「おい!神裂!神裂!?」  
「げほっごほっ、がはっ」  
 神裂の口から白濁液が漏れ、同時に咳き込む。  
 どうやら無事ではあるようだが、やはり様子がおかしい。  
 そんな彼女の表情は顔を赤くして恍惚としつつ、瞳を潤ませているというものだ。  
「……イって、しまいました……」  
「は?」  
 思わぬ神裂の言葉に間抜けな声が漏れる。  
 彼女は口周りの白濁液を指で拭い口に運び、更に恍惚とした表情を深くし、  
「おいしい……」  
「―――!」  
 ゾクッと背筋が凍るような感覚に襲われる。  
 拙い。  
 元々、上条当麻は――年上のお姉さんが大好きな盛り時な高校生男児なのだ。  
 その点、神裂火織は容姿も性格もバッチリ、しかもさりげなくドジッコ属性まで持ち合わせていると言う噂だ。  
 しかも今の神裂は、  
……うあ、滅茶苦茶色っぽい……。  
 白濁液の付いた指先をしゃぶる神裂の姿に当麻の理性が欲望に押しつぶされそうになって悲鳴を上げる。  
 必死に理性が抵抗するもののコレでは何時決壊するかわかったものではない。  
 そうなる前に当麻は唾を飲み込みつつ口を開く。  
「何でこんな事を……したんだ?」  
 唐突に放たれた言葉に神裂がビクリと身を震わす。  
 すると彼女は俯き、  
「耐え……られなかったんです……」  
 神裂は呻くような声を漏らした。  
「貴方の右手に触れられた日から、ずっとずっと、貴方に犯して貰いたくて……っ」  
 その言葉を聞くと同時に顔が熱くなる。  
 今、神裂はなんと言っただろうか。  
……お、おおお、犯すってー!?いや、それよりも俺の右手が原因なのか!?  
 たった一言で思考が纏まらなくなりまたパニックを起こす。  
 と、同時に起こした上体が再び地面に叩きつけられた。  
「なっ!?」  
 そこには愉悦の表情を浮かべた神裂火織がおり、下半身には何か暖かい感覚が。  
「か……神裂さん、当たっているので、なんかヌルっと、ほぁー!?」  
「当てているのですよ……んぅ、あは……」  
 神裂の秘所が当麻の白濁液に塗れた男根を押しつぶすような体勢。  
 垂れてくる愛液が白濁液と混じり合い、二人の下半身を汚す。  
 神裂が体を揺らすたびに秘所と男根が擦れ、当麻の理性を凄まじい勢いで削っていく。  
 みるみるうちに再びその硬さを取り戻していく当麻の男根。  
 神裂はそれを見ると、更に悦びの表情を深め、  
「貴方の右手に触れられると、気持ち良いんです……ほら、触ってみて下さい」  
 彼女はおもむろに当麻の右手を取ると、自分のお腹辺りへと近づける。  
 恐る恐る当麻が触れて見れば、神裂はビクッと大きく身を震わせた。  
 それと同時に神裂の秘所から漏れ出す愛液の量が増す。  
 
「いやらしい女、ですよね……でも、これが私の本当の姿なんです……貴方を求めてやまない淫乱な女なんです」  
 神裂の目は既に正気を保っていなかった。  
 しかし、それは当麻も同じだ。  
 先程から神裂から放たれる女の色香に理性はすでに限界寸前。  
 もう、後一押しでもあれば己を抑えることなど出来ないだろう。  
 そう、後一押しさえあれば。  
「そのまま、お腹に触っていてくださいね……?」  
 クチュッと、生々しい音が体を通して聞こえる。  
 これは何か、と考える必要も無い。  
 神裂が自分の秘所に当麻の男根の先端を――、  
「は、ぁ……っ」  
 ゆっくりと差し込んでいたのだ。  
「熱……っ」  
 神裂の下の口がどんどん当麻の男根を飲み込んでいく。  
 当麻の理性が保ったのはそこまでだった。  
「あ、はぁ……当たって、いるのが、わかりぐぅっ!?」  
 神裂の恍惚とした口調は途中から鈍いものへと変わった。  
 かは、と神裂の口から声が漏れる。  
 それもそうだ。処女膜を一気に打ち破られたのだから痛いのは仕方が無いだろう。  
 当麻は右手を神裂の腹につけたまま、右手で彼女の足を押さえ、腰を突き出して彼女を貫いていた。  
「いだ、痛……っ。痛いです……上条当麻ぁ……きゃっ」  
 神裂から泣き声のような抗議が聞こえたが、それには意を介さず上体を起こしてそのまま神裂を再び押し倒す。  
 そのままズルズルとギリギリまで引き抜き、  
「ひぎっ!?」  
 神裂の秘所から血が僅かに漏れ出てるのにも構わず、再び最奥まで貫いた。  
 彼女は悲鳴と共に目を見開き舌を突き出した状態で体を跳ね上がらさせる。  
「悪い、神裂……俺、もう無理だ……!」  
 締め付けは最高。  
 といっても神裂が初めての女性なのだが、それでも男根を締め付ける感触は当麻の頭を痺れさせた。  
 しかし、その感触を味わいつつも当麻は腰の動きを止めない。むしろ速めていた。  
「やめ、いた、痛い、んであひぁっ!?やだっ、今突いちゃ、だめでひぁっ!」  
 神裂を抱き締めて腰を前後させる速度を速める。  
 彼女の腹に置いた右手から己の男根が上下するのが伝わってきて、当麻の更に情欲を高めた。  
 その上、神裂の姿を見ていると段々と嗜虐心の様なものまで芽生えてきた。  
 グイッと更に神裂の体を持ち上げ、上から覆いかぶさるような体勢になる。  
「あや、ひぁん!だ、らめ、強すぎて、痛、やだぁっ!」  
 神裂は喘ぎ声を漏らしつつ子どものように髪を振りかぶるが、それすらも当麻の嗜虐心を刺激する。  
 そして、続いて当麻は右手を神裂の腹に添えたまま、左手で彼女の大振りな胸を強めに揉み始めた。  
「胸、乳首が、ジンジンって痺れ……あっ、あっ、ああっ!」  
 胸を揉み始め、彼女が嬌声を漏らすと同時に再び、腰を突き出す。  
 のしかかるような上体のまま更に深く貫くと、コツコツと一番奥、子宮の入り口部分に当たってそれがまた気持ちが良い。  
「あ、そこ、奥、熱、気持ちいい、よお……!」  
 グリグリと腰を回してやると、神裂は当麻の首に両手を回し、更に恍惚の笑みを深める。  
 しかし、コチラとて一回出したからといって全然余裕というわけではなかった。  
……うぉ、神裂の奥、なんだか突起が……ぐぉ……っ!  
 そう、神裂の最奥には僅かに突起の様なものが幾つか存在しており、それが当麻の男根をしごき、高ぶらせる。  
 そこから与えられる快楽はまさに異常。  
 さすが聖人といったところだろうか。  
「あ、やぁん、もっと、もっと突いてぇ……っ!」  
 その神裂の声に応えるようにして、当麻も激しく突き続ける。  
 激しく淫靡な水音が二人の接合部から愛液と先走り汁の混じった液体と共に弾ける様に出ていた。  
「あひぁっ!いいの!奥、ごりごりって、あぁっ!」  
 それから暫くの間、屋上に激しい水音が響き続ける。  
 しかし、それとて無限では無い。  
 現に当麻の男根も膨張が限界を向かえそうになっていた。  
 
「神裂、く、はっ、また、また出ちまう……っ!」  
「いいです!中に、中にぃっ!」  
 右手を神裂の腹に添えている体勢の都合上、キスも抱き閉める事も出来ない。  
 しかし、それでも二人は目を合わせ、互いの気持ちを感じあう様に、  
「くう……!出、る―――ッ!」  
「ふぁっ!あつ、中に出て、熱いのが中にぃ!」  
 同時に絶頂を向かえた。  
「はっ、は……っ!」  
「あ、ひ……まだ奥に出して、ます……あぁ……」  
 先程出したばかりだというのに勢い良くグッタリと倒れている神裂の中で射精し続ける当麻の分身。  
 その勢いは数秒経ったというのに止まらず、先ほどよりもむしろ元気になったのではないかと思わせる程だった。  
 暫くそのまま射精し続けていたが、漸く終わると同時に、その余韻を楽しみつつ、神裂の膣から男根を引き抜く。  
 見れば神裂は目を見開いた状態のまま失神しているようだった。  
   
 しかし、それでも一度箍が外れた当麻の欲望は留まる事を知らない。  
 
 この一週間と言うもの絶えず知り合いが押しかけてきて自慰などほとんどする事が出来なかった。  
 朝からインデックスが病室に入り浸り、夜も何故か病院に入院している知り合いが遊びに来て中々眠れないと言う事態。  
 簡単に言ってしまえば欲求不満という事だ。  
 二、三回出しただけで終われる筈も無いだろう。  
 それはもしかしたら悪魔の囁きだったのかもしれない。  
「……」  
 当麻は神裂の本来排泄用のために付いている器官――肛門へと己の未だ健在な男根の狙いを定めた。  
 ピタリ、と肛門に自分の分身を押しつけ、段々と入れていく。  
「ひっ!?な、なにを痛いっ!そっちは、違います……っ!」  
 痛みに目を覚ました神裂が悲鳴を上げるが当麻は気にしない。  
 そのままメリメリと男根の根元が見えなくなるまで突き進んだ。  
「ぎぃが、いだ、いだいぃ……!」  
「……」  
 右手を添えているがやはり痛いものは痛いらしい。  
 それもそうだろう、本来は排泄用の器官に無理矢理突っ込んでいるのだ、痛いに決まっている。  
 右手を添えていてもあまり意味はなさそうだったので、右手を神裂の秘所へと移動させる。  
 少しでも神裂の痛みを快感で和らげようと思ったのだ。  
 そして、弄り始め、腰を突き出し続けていると、次第に神裂の表情に変化が起こり始めた。  
「あひ、あはあひっひは、はぁ……っ」  
 見てみれば、彼女の目は完全に光を失っており、トリップしているようだった。  
 痛みと快楽の重奏に少々おかしくなってしまったようだ。   
 だが、当麻とて既に正気ではない。  
 先程から与えられる膣とはまた違った締め付けに下半身は既に命令を聞かない状態。  
 まさに虜と言った様子だ。  
「あひ、もっとぉ、もっと激しく、突いてぇ……っ!」  
「あぁ、わかってる――!」  
 二人の嬌声が屋上に響く。  
 神裂も当麻もただ欲望に身を任せる野獣と化し、互いを貪りあう。  
 
 結局、二人の淫靡な交わりは太陽が沈むまで続いた。  
 
   ◇○◇  
 
「……上条当麻。起きて下さい、上条当麻」  
「んぁ……?」  
 上条当麻は誰かに呼ばれる声で目を覚ました。  
 なにやら先程まで素晴らしく、そして背徳的な夢を見ていた気がしたが――、  
「おはようございます、上条当麻」  
 現在は床に寝そべっている状態らしい。  
……なんで俺、こんなトコロで寝てんだ……?。  
 疑問を浮かべつつも目を覚ますため、頭を掻きながら隣から聞こえた声に振り向いて見れば、  
 そこには何時も縛っている髪を解いた神裂火織が寝ていた。  
「お?いよっす、おはよう、神裂――ってぶほぁっ!?」  
 しかも全裸の。  
 
 思わず噴出す当麻に対して神裂は顔を赤らめつつも和やかな笑みを浮かべ、  
「……それとも"アナタ"と呼んだ方がよかったでしょうか……?」  
 とんでもない爆弾発言をしてくださった。  
 当麻はそれに対して、さん、はい、と手を上げ、頭を抱え勢い良く抱え、  
「意外に大胆!?というか、なんで全裸なのですか、神裂さん!?」  
 驚きと同時に自分等が二人とも全裸だという事に気づき、  
「のぉ!?上条さんも全裸!?という事は、あれは夢じゃなくてまごうこと無きリアル!」  
 その当麻の混乱する様子に神裂はキョトンとした後、くすくすと笑い声を漏らしつつ、  
「責任、とってくださいね?」  
 やはり和やかな笑みのまま体を寄せてきた。  
 豊満な神裂の胸が体に当たり、その上なんだか事後の匂いがして当麻の顔を赤く染めさせる。  
 しかし、と当麻はある事を思い出した。  
 そして、頭を一度振ると表情を真剣なものへと切り替え、神裂と目戦を合わせる。  
「ごめんな、神裂」  
 ピタリ、とその言葉に神裂の動きが止まり、表情が一気に悲しみを表したものへと変わった。  
 彼女は泣きそうな声で、  
「……どういう、事なんですか?私、あれだけ頑張ったんですよ……っ!?アナタがあんなことまでしたのに――」  
「いや、そういうわけじゃなくて!ほら、無理矢理したり、して、ごめんなって……」  
 慌てて弁明し、目を閉じて頭を僅かに下げる。  
 そう、キッカケは神裂からとは言え、当麻が神裂を襲ったのは紛れも無い事実なのだ。  
 故に謝らねばならない。  
 ケジメはつけなければならない。  
「本当にごめんな……責任、キチンととるから」  
 真剣に頭を下げる当麻に対して神裂はどうすればいいのかわからない様子で、  
「そ、そんな改まらないでください……その、昨日は私も……うぅ」  
 しどろもどろになっているうちに昨日の出来事を思い出したのか顔を赤くして沈黙した。  
「「……」」  
 暫くの沈黙。  
 しかし、二人は同時に顔を上げ、ゆっくりと唇を重ねた。  
 長い、しかし唇を合わせるだけの愛情表現のための接吻。  
 そして、数十秒が立ち、唇を離すと同時、二人ははにかむような笑みにを作り、  
「えぇっと……なんか順番が逆になっちまったけど……俺なんかで良ければ宜しく頼むな」  
「こちらこそ……不束者ですが、宜しくお願いいたします」  
 
 確かにキッカケはどうしようもないものだったかもしれない。  
 しかし、そのキッカケが当麻と神裂を今こうしていさせてくれるのだ。  
 ならば――、  
……俺は、コイツを精一杯愛そう。  
 柄にも無くそう思った。  
 だから当麻はこの目の前で愛しそうに自分を見つめる女性を抱きしめる。  
   
 太陽が二人を祝福するかのように光り輝いていた。  
   
   ◇○◇  
 
 ロンドンの聖ジョージ教会。  
 荘厳な雰囲気を持った教会よりも大きく、大聖堂とは言うのにはやや小さい、そんな空間の中に一人の女性が居た。  
 その女性は己の身長の二.五倍程もある金の髪を二回ほど折り返して後ろで止めた髪型の持ち主であった。  
 その女性こそ、イギリス清教のトップ――ローラ=スチュアートその人である。  
「……ゴク」  
 やや乱れた寝間着姿のローラは更に何故か説教壇に置かれたモニタを真剣な表情で見つつ、息を呑む。  
『当麻、とお呼びしてよろしいですか……?』  
『あぁ……』  
 映画のクライマックスを鑑賞するが如く食い入るようにモニタにかじり付くローラの目元には隈が出来ていた。  
 その隈は、昨日からほとんど睡眠をとっていなかった証明。  
 彼女は久しぶりに開いた暇な時間を使って上条当麻と神裂火織の情事を最初から最後まで見ていたのだ。  
 その彼女の周りには幾つか、神裂火織の部屋で発見した自慰用の道具が転がっており、  
 彼女が何をしながら見ていたのかが窺い知れる。  
 再び口付けをする二人。  
 そして、次に――、  
『そろそろ良いだろうか?』  
 映ろうというところで、画面に上下反対の人間の姿が映し出された。  
「あ―――っ!?」  
『む?』  
「ななな、何をしてくれるかぁっ!?今丁度、良い雰囲気になりけりしところなのよ!?」  
『……君は昨日からそればかりのような気がするのだが?』  
 上下反対の人間――学園都市総括理事長であるアレイスターは取り敢えずの疑問を口にすると同時に頷き、  
『この件についてはどうする?こちらに被害は出ていないものの……正直、処理に困るが』  
「むぅううううう」  
『念を送ってもモニタの画像が変わるわけがないだろう。というよりも、近いぞ』  
「早う元に戻すのよ!早うしなければ、二人のぴゅあらぶすとーりーが見れぬ事になりけるのよー!」  
『……また後で連絡しよう』  
 画面が再び切り替わる。  
 しかし、映るのは満点の星空のみ。  
「……?」  
 はて、日本は今朝だったような気がしたが、と首を傾げて見ればモニタの中を一つの隕石が飛んでいった。  
「……」  
 宇宙。  
 それは果てしなく広大で科学者達の浪漫が広がる世界。  
 嗚呼、なるほど嫌がらせか、とローラはあの意地の悪い科学側のトップに対して納得を一つ。  
 笑顔でモニタのを両手で持ち――、  
「―――おんどりゃぁああああ!」  
 勢い良くブン投げた。  
 そのままモニタは激しく回転しつつ大聖堂の出口へと飛んでいき、  
「最大主教。夜分遅くに申し訳ありませんがぐぼぁっ!?」  
 赤い髪の神父にぶち当たった。  
 そのまま勢い良くモニタと共に仰向けに倒れる神父。  
『当麻、愛しています』  
『俺も、離さないからな……』  
 その赤髪の神父――ステイルの上に乗ったモニタ。  
 そこからステイルにとって馴染み深い者達の愛に満ちたの会話が聞こえる。  
……おお、神よ。今世界は貴方のおかげでそこそこ平和に動き、愛に満ちています。僕の周り以外。  
「ふ、不幸だ……がはっ」  
 そんな事を思いつつも、ステイルはどこかで聞いた事があるような言葉を吐いて気を失うのであった。  
 
   ◇○◇  
 
◇おまけ  
 
「ん?神裂、服装を変えたのか。珍しい」  
「おや、ステイルですか?」  
「……何故伊達メガネをかけているんだ、君は」  
 神裂は何時もとは違う、極力露出の少ない暖かな色の服装に伊達メガネという格好をしていた。  
 それを見て訝しげな表情を作るステイルに対して神裂は僅かに頬を赤らめつつ席を立ち、  
「いえ、色々ありまして……それでは私は急いでいますので、これで」  
「ああ、よくわからないけど、それじゃあね」  
 急ぐように立ち去る神裂を見送るステイル。  
「ふむ……行ったか。それで、なんでさっきからそっちで殺気を振りまいている天草式」  
 後ろで何故か火縄銃の準備や槍や剣を磨いたりしている物騒な集団から一人の男が出てくる。  
「いや……あれよな。天草式ってのは元々弾圧を避け、日常に溶け込みながらも信仰をやめぬためのものなんだが」  
 ステイルの目の前に現れた男――建宮斎字はフランベルジュを磨きながら言う。  
「ああいう格好は誰かの妻になった者がする服装なわけよ。落ちつきのあるって意味よな」  
「……」  
 大体予想がついた。  
「加勢するかい?」  
「いや、良い。これは俺等の問題だからなぁ。まぁ、強いて言うなら黙って見逃してくれや」  
 一斉に天草式の面々が立ち上がる。その顔には確かに一つの気持ちが出ていた。  
―――漢にはやらねばならない時がある、と。  
「……頑張れ、とだけ言っておくよ。僕は何も見なかった」  
「おう、すまないな」  
 タバコに火をつけてそっぽを向くステイルの近くを漢達が去っていく。  
 最後に暫くしてその後姿を見つつ、ステイルは一人の少年の冥福を祈るのであった。  
 
 エイメン。  
 
この後、学園都市では天草式VS当麻が行われたそうな。  
 

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