上条の乾いた唇に、インデックスの小さな唇が重なる。
インデックスの湿った唇が、ザラザラに乾いた上条の唇を啄ばみ、上条の官能を刺激する。
上条はといえば、この期に及んでもまだ指一つ動かせずにいた。
半開きになった歯と歯の間に、インデックスの甘く柔らかい舌が入り込む。
彼女の小さな前歯が上条の舌を甘噛みし、彼女の滑らかな唇が何度も啄ばむように、上条の唾液を貪る。
舌先が彼の歯茎をちろちろ嘗め回すと、上条の喉奥から思わず声が漏れた。
まるで極上の甘味を味わいつくすかのように、インデックスは彼の口内を楽しんでいた。
やっと舌が引き抜かれたと思うと、今度は唇に柔らかな感触を感じる。
インデックスの舌先によって、なぞる様に、撫で回すように、嬲るように、上条の唇が蹂躙される。
舌が引っ込んだと思うと、今度は彼女の可愛らしい唇が、上条の下唇を挟み込んだ。
インデックスは、そのまま彼の唇を吸い上げ、同時に舌先を使って、上条当麻を文字通り味わい尽くそうとする。
それが済んだら、今度は上唇が同じような目に合い、次はまた口内が蹂躙される。
何度も何度も、執拗に、まるで極上の甘味でも味わうかのように、インデックスは彼の口内を楽しんだ。
両者の唇が離れたのは、それから5分ほど経ってからだった。
その頃上条は完全に、インデックスの口付けの虜になっていた。
彼女が口を動かすたびに、口内の全体から本能を刺激する感覚が、脳に洪水のように押し寄せてくる。
そして、目の前の少女が、普段からは想像もできないような艶かしい『女性』の表情をしていることに、彼はようやく気づいた。
「きもちよかった?」
目と鼻の先の距離で、インデックスが熱っぽくそう呟く。
「あ、あああぁ……」
思わずその問いかけに同意してしまいそうになるが、口が上手く回らず、出てきたのは情けない声だけだった。
次の瞬間、上条は自らのイチモツにとても柔らかいものが、絡みつくような感覚を感じた。
驚いて視線を落とすと、インデックスの小さな、本当に小さな手が、上条の怒張を握りしめていた。
「ひ、ひんえっくしゅしゃん? ひゃ、ひゃにをひてひりゅのでしゅか?」
あまりの事態に、上条は先ほどよりも、更に情けない声を上げた。
もはや呂律が回っていないどころか、舌がほとんど動いていない。
硬直する上条だったが、インデックスは容赦無しに上条のモノの先端部分を、細く、白い指で包み込み、そのまましごき上げた。
ズキーン! という強烈な快楽が、上条の頭を襲う。
「ちょ、ちょっとまへ、インデックしゅ! お前、どこでこんなこと……」
自分でも、男としての甲斐性ゼロだなあと思うほどの、弱弱しさ全開の声で上条がそう尋ねた。
「ん…… とうまは『性魔術』って知ってる?」
インデックスは、その小さく柔らかい少女の手で、上条のムスコを優しく擦り上げながら、微笑を浮かべて逆にそう尋ねる。
「性行為ってね、魔術とは意外と密接な関係にあるんだよ?
性魔術っていう、性行為を扱った独自の魔術体系が存在するくらいかも」
彼女はそう言いながら細い人差し指で、彼の性器の裏スジ、俗に言う『蟻の門渡り』を、つつーっとなぞる。
「……ぅぁっ!」
その刺激に、上条は思わず声を上げてしまった。
「当然、私の中の10万3000冊の中には、そういう魔術の知識だって入ってるんだよ?
だから、その中から必要な知識…… つまり」
インデックスは両手を使い、上条の性器を包み込んだ。
右手でカリの部分を重点的に擦り揚げるとともに、左手を使って竿の部分を激しく扱き上げる。
時たま、上条の陰嚢に指を運ぶと、そこを揉みしだくように刺激した。
「男の人を、篭絡するための知識を取り出せば」
インデックスは再び上条の耳元に唇を寄せ、最大限の熱を込め、こう呟いた。
「男の人を、悦ばせることくらい、全然難しいことじゃないんだよ…………? と う ま」
インデックスが自身を呼ぶ声が、やけに色っぽく感じて、上条の心臓が早鐘を打つ。
そして彼女の指が、亀頭の先端部分をぐりぐりと刺激すると、狂いそうなほどの快感が彼を襲う。
全く容赦の無いインデックスの攻めに、上条は耐えることができず、彼はすぐに己の欲望を解き放った。
熱を帯びた白濁液が、インデックスの真っ白な手に降り注ぎ、彼女はそれを掬い取るように受け止めた。
信じがたい量の精液が彼女の手に放たれ、溢れたそれがベッドに染みを作り出す。
インデックスはその様子を、微笑を浮かべながら眺めていた。
彼女は最初は恥ずかしかったかもしれないが、途中からは明らかに行為を楽しんでいた。
自分の手で、上条当麻が、快楽にあえぐ様子を見て、雌としての本能が疼いたのかもしれない。
それに、自分の中にある『性魔術』の知識がこれほどまでに功を制するとは、彼女自身も思ってはいなかった。
彼女には魔術を使うことはできないが、その過程で行われる行為を真似することくらいはできる。
彼女は『性魔術』によく使われる行為を分析し、どのようなことをすれば男性が悦んでくれるのかを考え
最も効率的な方法を導き出し、それを実行に移しただけだった。
言動こそ、上条を興奮させるために余裕ぶってはいたものの、内心では本当に効果があるかどうか、ビクビクしていたのである。
手つきも少し震えていたし、先ほどの挑発的な態度は、それを悟られないためのハッタリでもあったのだ。
だが最初こそそうだったものの、実際に上条の理性を自分の手で狂わせていると思うと、何かとても楽しかった。
密かに思いを寄せている男性を、自分の手で悦ばせているという事実に、彼女の『女』が刺激された。
そうだ、これは『お仕置き』なのだ。
先ほど自分は上条に犯される寸前だったのだから、このまま終わってしまっては不公平だ。
もっと、もっと。 もっと『お仕置き』をしてあげなくては。
インデックスの頭にそんな淫らな考えが浮かぶまで、そう時間はかからなかった。
一方上条はといえば、凄まじいほどの背徳感を感じていた。
そりゃ、上条当麻とはいえ、健全な男子高校生である。
インデックスを、一度も女性として意識したことが無いと言えば、嘘になる。
いつだったか、ちらりと見えた太ももに、思わず生唾を飲み込んでしまったこともあった。
だが、インデックスの無垢な笑顔を思い出すと、彼女をそういった対象として扱うことに対して、凄まじい抵抗が生まれる。
彼の中のインデックスは、純粋で、純白な少女で、「こういったこと」とは、全く無縁の存在だった。
清廉潔白でなければならないはずの十字教のシスターが、その小さな手のひらで自分の欲望を受け止めている。
その事実を再認識すると、彼はゾクリと背筋に何かが走るのを感じた。
言いつけを破って甘い水飴を舐めているような、見てはならないと言われた障子の中を覗くような。
そういった、何かの禁忌を犯しているという錯覚が、上条の身体を支配しそうになる
「ねえねえとうま、こんなに溜まってたの?」
インデックスは自らが受け止めた、上条の欲望の塊を、熱っぽい様子で見つめていた。
白濁した液体が、インデックスの両手で作った器に大量に張り付いている。
指の間からドロリ、とそれが零れ落ち、ベッドに新たな染みを作り出した。
「とうま、気持ちよかった?」
人差し指に付着した上条の精液を、恐る恐る、とはいえ表面上は余裕を装いながら、自分の口に運ぶインデックス。
舌でなめ取ると、なんとも言いようの無い独特の臭みが、彼女の鼻腔を擽った。
決して美味しいものではないが、彼女は我慢してそれを舐め取り、再び挑発的な目つきで上条を見つめる。
「あ、ああ……」
インデックスのその様子に、上条は思わず、感じていたことを率直に言葉に出してしまった。
自分の情けなさに、思わず死にたくなってくる。
大の男がこんな小さな子に好きなようにされてるなんて、なんとも情けない話だなあ。
羞恥心で死ねたら、今すぐスコッと死んでるんだろうなあ、っていうか死ねないかなぁ、などと上条は考えていた。
「でも、とうまのここ、全然元に戻らないよ?」
「へ?」
インデックスの言葉の通り、上条のそれは一度射精したにも関わらず、未だに先ほどの硬さを保っていた。
「とうま。 男の人って、1回しちゃえばすぐ治まるって聞いたけど……」
「あ、いや、普段ならそうなんだが…… やっぱり何かおかしいのかな」
まるで自分の意思とは全く関係なしに、自己主張を続ける自分の分身を見ながら、上条がそう呟いた。
「ん…… じゃあ、全部射精しちゃえばいいだけかも」
「ちょっと待てインデックス! 今お前さらっと、すごく恐ろしいことを言わなかったか!?
上条の脳裏に、果てしなく嫌な予感がよぎると同時に、インデックスは体勢を入れ替えていた。
気がつけば、正対していたはずの、インデックスの頭部が、上条の下半身に向けて進んでいる。
「そ、その…… あまり聞きたくないのですが、何をしていらっしゃるのでしょうかインデックスさん」
「とうまだって、わかってるくせに」
「ま、待てっ! これ以上されるのは、上条さんのというか、男の沽券に関わることにっ!」
その言葉を軽く聞き流し、インデックスは自身の身体を、先ほどの位置から180度捻った。
そうなると当然、先ほどまで脚があった位置に彼女の頭がくる訳で。
更に、彼女の頭の部分には、ちょうど彼女の無防備な下半身がくる訳で。
まあ平たく言えば、ちょうど二人は、シックスナインのような体勢になっていた。
『6をひっくりかえせば9になる!』と、上条も体を入れ替えようとしたが、やはり身体はうまく動いてくれない。
目の前には、インデックスの生えかけの銀色の茂みと、僅かに濡れたピンク色の性器が。
視線を逸らそうと上を見てみると、そこにはピンク色に上気した、彼女の柔らかな太ももが。
思わず見入ってしまい、体勢を入れ替える機を逃してしまった。 流石に情けなさすぎである。
「…………んっ、さっきよりも大きくなってるかも」
目の前にある上条の怒張を見つめながら、インデックスはその先端にふぅっ、と悪戯気味に息を吹きかける。
「っ……!」
その微弱な刺激にも上条は敏感に反応し、思わず吐息が漏れた。
(ちょ、ちょっとどころか、凄く恥ずかしいかも……)
上条の性器を目の前に、インデックスは思わず躊躇いを見せたが、次のステップに移るためには恥ずかしがってなどいられない。
ふるふると首を横に振り覚悟を決めると、インデックスはその小さな口を開け、上条の肉棒の先端をぱっくりと咥え込んだ。
「っ〜〜〜っっ! い、いんでっくすっ!? お前、そ…… そんなこと……」
インデックスの舌とか、唇とか、歯とか、彼女の口内の感触が、これでもかと言わんばかりに、上条の亀頭を刺激する。
彼女の小さな口には、上条の性器全ては収まりきらなかったが、両手は竿の部分を扱き上げ、上下の唇がカリの部分を挟み込んでいる。
更に、時折舌先が尿道口をチロチロと刺激し、射精を促そうとする。
上条は、上も下も、ピンク色の渦巻きに飲み込まれそうになっていた。
下半身の惨状は、前述したとおりである。
今にも射精してしまいそうな強烈な快楽に、上条は必死で抵抗していた。
だが目を開けると、インデックスが何かをしようと動くたびに、彼女の下半身が動くのが間近で見えてしまう。
主に、彼女の割れ目が次第に透明な愛液で濡れていく様子とか、彼女が太ももをモゾモゾと擦り合わせる所とか。
先ほどのインデックスのように、思考も行動もが定まらない。
先ほどまでの二人の立場は、完全に逆転していた。
「んっ……んぐぅっ…………ちゅっ…」
インデックスは、自分の中にある10万3000冊(の一部)の知識を総動員して、上条を責め上げる。
必要悪の教会も、10万3000冊の禁書悪書が、よもやこのような使い方をされるとは思ってもいなかっただろう。
(えっと…… い、陰嚢を手で揉みしだきながら、音を立てて亀頭を吸い上げ…… こ、こんなことまでやっちゃうの?)
自分のやろうとしていることに、思わずドン引きしてしまいそうになるが、上条を悦ばせるため、彼女はそれを実行に移す。
彼女は、舌を使って、唾液を上条の性器に塗りたくり、そのまま口内全体を使って、強めに吸い上げた。
「ぃぃぃいいっ! いんでっくすっ!?」
(カリの部分を唇で挟みながら、頭を上下に動かして、吸引に強弱を…… か、カリって、この引っかかる部分だよね……?)
「はふっ……ちゅぅっ……」
柔らかい二つの唇が上条の亀頭を挟み込み、そのまま扱き上げる。
そして、舌先でぺちゃぺちゃと優しく刺激を与え、ちゅうちゅうと赤ん坊が哺乳瓶でも吸い上げるように、弱弱しく刺激した。
かと思えば、ずぞぞぞぞっ、という淫猥な音を立てながら、彼女は上条の肉棒を思い切り吸い上げる。
「んぐっ……ほうあ、ほれ、ひもひいい?」
再び、性器を深く咥え込みながら、インデックスがそう尋ねた。
「ひもひいいよえ? ひふらしれもいいんらよ?」
度重なるインデックスの攻撃により、上条の怒張は既に爆発寸前になっていた。
頭を真っ白に塗りつくさんほどの快楽が、上条を襲う。
「イ、インデックスッ! 射精る! もう射精るから、とりあえず、それから口を離して……」
だが彼女はその忠告、というよりも嘆願に近いものがあったが、を完全に無視し、より深く性器を咥え込んだ。
そして口内の全体を使い、トドメを刺さんとばかりに思い切り吸い上げる。
「っ〜〜〜〜っ!」
その刺激に、陥落寸前だった上条の最後の堤防は、完全に崩壊した。
大量の白濁液が、インデックスの喉口に直接流れ込む。
「んんっ!? んんんんんんんっ!?」
ビクンビクン、と脈打つ上条のそれから、多量の精液が射精されると同時に、インデックスは目を見開いて驚いた。
さっきは「いつ射精してもいい」とは言ったものの、まさかいきなり射精されるとは思ってもいなかった。
そのため、肉棒を深く咥えた状態で、上条の精液を直接受ける形になってしまったのである。
生臭いような臭気と共に、喉に張り付くような、粘りのある感覚が、彼女を襲った。
「けほっ、けほっ……うぇぇ……」
上条の怒張を口内から引き抜き、インデックスは思い切り咳き込んだ。
「す、すまん…… インデックス、大丈夫か?」
その様子を見て、思わず上条が声をかける。
「こほんっ…… ま、またいっぱい射精たんだね、とうま」
「ス、スイマセンデシタ…… 上条さん、この数日自家発電もできず、溜まっていた次第でありまして……」
「で、でもとうま。 あんなに射精したのに、とうまのこれ、まだ……」
「……え? ……マジか」
短時間で二度の射精を経験したにも関わらず、上条のそれは未だに勃起状態を保っていた。
全く衰える様子が無いあたり、白井特製の『パソコン部品』の効果の程が伺える。
「と、とうま…… 男の人って、本当はみんなこうなの?」
「い、いや…… す、少なくとも、上条さんはいつもは1回で納まるんですけどね……?
……やっぱり、確信が無い以上は、何のせいとは言えませんが、身体は明らかにおかしいと思います、ハイ」
自らの知識と明らかに違う様子を目の当たりにし、禁書目録の少女も、流石に焦りだした。
今までしてきた行為だって、上条を挑発するために余裕を見せていたものの、彼女の本心としては、羞恥に押しつぶされそうだった。
どうやら上条の身体は、フェラチオや手コキ程度では、まだまだ物足りないようである。
だが、これ以上の行為となると…… 想像しただけで、顔が爆発してしまいそうなほど上気する。
「……もう1回すれば納まるかも」
「いや待てインデックス、なぜその発想に至る」
今こそ少し落ち着いているものの、上条は薬のせいで性欲を極限まで高められている。
正直な話、これ以上されてしまっては、先ほどと同じ状況に至ってしまわないという保障は無い。
「インデックス、その…… もうこれ以上は、やめてくれないか?」
その言葉を聞いたインデックスは、一度身体を起こす。
4つんばいのままベッドをモゾモゾと移動し、寝転がっている上条の横に、彼を見下ろす形で座るインデックス。
「……とうま、もしかして嫌だった?」
どこか悲しそうな表情で、インデックスは上条を見つめた。
様々な感情によって潤んだ瞳が、上条の心臓をズキューン! と貫く。
この状況で『ああ、嫌だった』とは、嘘でも言えないと、彼は心の中で叫んだ。
実際に気持ちよかったし、嫌じゃなかったし、心は否定しても身体はもっと欲しがっていたし。
だがこれ以上、この行為を是正するわけにもいかないとも思っていた。
「いや、嫌だったとかそういうのじゃなくてさ…… お前、シスターだし、女の子なんだからさ。
こういうこと、その…… そんな気安く、俺なんかにすることじゃ……」
上条としては、インデックスを気遣った言葉のつもりだった。
十字教のシスターであり、一人の少女であるインデックスに、これ以上こんなことをさせたくない。
雰囲気に流されて、自分なんかとこんなことに耽ってしまってはいけない、と。
だが、その何気ない言葉が、インデックスの心に明確な変化をもたらした。
上条当麻は全く持って、女心がわからない男である。
「とうまのばか」
インデックスは、上条が言い終わる前に、静かに、そしてはっきりとそう言った。
先ほどまでの、熱を孕んだ、誘惑しているような言葉遣いではなく、毅然とした、真剣な態度だった。
彼女の言葉がが、再び、上条の言葉を遮る。
なぜ、この男は、自分の好意に、いつまでも気づいてくれないのか。
自分は、上条当麻のことが、ずっとずっと、大好きだったと言うのに。
インデックスの中で、極めて静かに、何かが爆発した。
「とうまが言ったとおり、私だって、シスターである以前に、女の子なんだよ」
「だ、だからさ…… もうこんなこと」
「とうま、女の子はね」
そして、禁書目録の少女は真っ直ぐ上条の瞳を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「本当に大好きな人以外には、絶対に、こんなことしないんだから」
静止した部屋の中で、時を告げる時計の秒針だけが、コチコチと音を立てていた。
「……インデックス?」
「お、同じこと、二回は言わせないで欲しいかもっ…… 恥ずかしかったんだから」
ふいっ、と視線を逸らしながら、顔を赤らめるインデックス。
流石にここまで直接的に言えば、朴念仁で、フラグクラッシャーで、女心のわからない上条当麻も、ようやく理解できたようである。
彼も顔をひどく紅潮させており、思わず唾をゴクリと飲み込んでいた。
何度も言われているように、上条当麻は記憶喪失である。
彼は記憶を失う前の自分と、記憶を失った後の自分を、別人だと思い込む癖がある。
今の自分は、『記憶を失う前の上条当麻』を演じているだけの人間にすぎない、と、そう思い込んでしまう癖が。
これを知っているのはほんの数人だけで、眼前の白い少女は知らない。
彼女にだけは知られてはいけないのだ。
上条当麻は彼女の笑顔を守るために、彼女を涙で濡らさないために、嘘をつき続けてきた。
だがこの少女は、『上条当麻』が大好きだ、と言う。
彼女のその気持ちは上条にとって、究極的に甘美な誘惑であり、同時に限りなく残酷な宣告でもあった。
上条もインデックスに全く好意を寄せていなかった、と言えば嘘になるし、「大好きだ」と言われて嬉しくないはずがない。
だが果たして、彼女が「大好き」なのは、『今の上条当麻』なのか。
それとも、『記憶を失う前の上条当麻』なのか。
はたまた、『記憶を失っていないはずの上条当麻』なのか。
この問題に整理がつかない限り、安易に雰囲気に流されて、彼女を受け入れるわけにはいかない。
上条はそう決心し、口を開いた。
「インデックス」
純白の少女は、上条の声を聞くと、ビクンと身体を震わせた。
先ほどからずっと目を瞑って、彼の返事を待っていたらしい。
「俺も、インデックスのことは、何よりも大切に思ってる」
でも、だからこそさ。 返事、もう少し待ってくれないかな」
「……とうま、もしかして、迷惑だった?」
「あ、いや、そういうのじゃないんだ。 俺だって、インデックスのことは本当に大事だからさ。
だからこそ、もう少し冷静に考えてから、答えを出したいと思うんだ」
一瞬で落ち込みかけた少女を優しく諭すように、上条はそう言った。
体のいい逃げ口上のようにも聞こえないでもないが、これは上条の本心そのもので、真剣な気持ちだった。
大切な存在だからこそ、こんな状況で、勢いに任せて自分のものにしてはいけない、とそう考えていたのだ。
「……それまで、待っててくれるか?」
インデックスはその言葉を聞くと、目を瞑りしばらく沈黙を保っていた。
上条も、自分の気持ちを伝えた以上、それ以上のことは言わない。
しばしの静寂の後、インデックスは小さく頷き、静かに目を開いた。
「うん、わかった。 とうまのお返事、ずっと待ってるんだよ?」
その笑顔を見て上条は、自分のとった行動が間違っていなかったのだ、と理解した。
彼女のこの笑顔は、絶対に壊してはいけないものだ。
やはり雰囲気に流されて、浅はかな行動をとるべきではなかった。
この事に関しては、もっとゆっくりと考え結論を出さねばならない、と再認識したのも束の間。
次の瞬間、インデックスの口から、とんでもない爆弾発言が飛び出した。
「でもね、とうま。 一つだけ、お願いがあるんだよ」
シーツの端をぎゅっと弱弱しく握りながら、インデックスが呟いた。
上条の瞳を潤んだ瞳で真っ直ぐ見据え、ほんの少し唇を震わせながら、彼女は次にこう言った。
「今ここで、私の『はじめて』貰ってくれる?」
上条が固く誓ったはずの先ほどの決意は、一瞬で崩壊寸前になった。
「インデックス、お、お前な……」
「私、とうまに貰って欲しいの…… はじめての人がとうまなら、この先どんなことがあっても、きっと後悔しないんだよ?」
くらくらとする頭と、自己主張を更に強くする欲望を押さえつけながら、懸命にインデックスを説得しようとする上条。
だが彼女の決意は固いらしく、一片の迷いも無い様子でそう宣言している。
さて、どうしたものだろうか。
今日は上条当麻にとって、良心と欲望の板ばさみになることが多い日らしい。