――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  
 
時は、数十分前に遡る。  
常盤台中学の学外女子寮の一室で、御坂美琴は、白井黒子を締め上げていた。  
文字通り、首を両手で掴んで、である。  
 
上条にドリンクを渡し、部屋に帰ってきてから、白井黒子の様子がどこか明らかにおかしかった。  
そわそわとこっちの様子を何度も伺うし、胸が辛かったりはしないか、身体は大丈夫かなどと何度も聞いてくる。  
彼女がおかしいのは、1年365日いつもなのだが、こうもしつこいのは久しぶりである。  
理由を考えるのも馬鹿馬鹿しいので、単刀直入にこう聞いてみた。  
 
「あんた、何か隠してない?」  
 
「い、いえいえ! この白井黒子、おおお姉様に、何もやま、やましいことなどしておりませんここことですの!」  
その言葉にツインテールの少女は、面白いほど慌て出した。  
「そそそ、そういえばお姉様…… ここに置いておいたドリンクはどちらにいったのでしょうか……」  
「ああ、あれなら今日、間違えて鞄に入れちゃってたらしくて。 帰りにあいつに会ったら、あいつも不眠症に悩まされてたみたいだから、あげてきたわよ?」  
 
 
「……………………………………へ?」  
 
 
目の前の少女が目を点にしている様子を目の当たりにし、御坂が途中から感じていた嫌な予感は、一瞬で確信に変わった。  
 
 
御坂美琴は前述したように、不眠症に悩まされていた。  
その原因は、上条当麻に対する強烈な恋心だった。  
寝ようとすると頭の中に上条の姿が現れて、いくら目を閉じても眠れない。  
浅い眠りに入ったとしても、夢の中で自分と上条が並んで歩いてたり、それ以上の関係に至っている幻想を見たり。  
まあ、早い話が『恋の病』である。  
 
そんなことが1週間も続いて、御坂の健康状態はボロボロだった。  
一日2〜3時間程度しかまともな睡眠をとることができず、目の下には大きなクマまでできてしまった。  
肌は荒れそうになるし、授業中もうつらうつらとしてしまい、珍しく注意を受ける始末。  
 
そんな時に白井黒子が、ある健康ドリンクを持ってきたのだ。  
それは睡眠薬や睡眠導入剤のように強力なものではなく、ただ寝るための体調を整え、安眠できるようにするための飲み物だった。  
寝る前にホットミルクを飲むと安眠できるとか、ハーブティーが安眠に効くとかよく言われるが、そういった民間療法を科学的に解明し  
副作用無しで安眠できるように開発された、学園都市内でひっそりと出回っているドリンクである。  
それを試してみてからというものの、以前ほどは恋心に睡眠を邪魔されることもなくなり、日常生活に支障が出るということはなくなった。  
 
だが、白井黒子の狙いは、当然別のところにあった。  
前科が前科のためか、御坂は最初こそ黒子の渡してきたドリンクを警戒していた。  
飲む前に黒子に無理矢理飲ませたり、封が空いていないかどうか、変な穴をあけられていないかどうか確認したり。  
だが1週間近く常用していると、どうも警戒心も薄れてきたようで、最近は特に瓶を改めることも無くなっていた。  
そして問題の今日、黒子は注文していた数種類の媚薬や精力剤を調合した凶悪極まりない薬品に能力を使い、最後に残ったドリンクにそれを仕込んだ。  
寝る前にこれを飲んだ御坂は、身体の異変にすぐに気づくかもしれないが、そのときには既に遅いだろう。  
理性は跡形も無く吹っ飛び、間違いなく自分に身を預けることになる。  
パーフェクトだ、完璧(パーフェクト)な作戦だ、と彼女は自分では思っていた。  
だが歴史上、そういう周到な計画は思わぬところから一気に破綻するものであり、彼女の作戦も例外ではなかったようだ。  
その証拠に今現在、白井黒子は鬼の形相になった御坂美琴にネック・ハンキング・ツリーのような形で持ち上げられ、締め上げられていた。  
 
「どーりで最近大人しいと思ったわ…… いつもなら『お姉様ぁぁぁ! そんなに眠れないなら、この黒子が添い寝して差し上げますわぁ〜っ』  
 とか言って布団に飛び込んでくるのに、ここ最近ずっと大人しかったのは、このための下準備だったんでしょ!?」  
「おおおおおお姉様っ、落ち着いてくださいまし! ギブ! ギブアップですのぉっ!」  
「正直に白状しなさいっ! アンタ、私の飲もうとしてたドリンクに何入れたのよっ!」  
「で、ですから…… その、ちょ、ちょっと味付けをしてさしあげよイタタタタタタタァッ!  
 お姉様っ! この状態で振り回さないでくださいましっ! 首がっ! ただでさえ寮監に頻繁に攻撃される、黒子のかわいそうな首がっ!」  
「正直に言いなさいって何度も言ってるわよね……? 次、嘘吐こうとしたら、ベッドに頭からダイブするかもしれないわよ?」  
 
彼女の名誉のために言っておくが、御坂美琴はいつもはここまで暴力的ではない。  
上条に変なものを渡してしまったのではないか、という焦りからきている行動であることだけは忘れないで欲しい。  
まあ、黒子の変態行動に、鉄山靠やスープレックスで応戦するくらいは日常茶飯事かもしれないが、そこは正当防衛である。  
 
「そ、その…… 媚薬を少し」  
「……っ! それ、どれくらい強力なのか、正直に言いなさい。言ったら助けてあげるから!  
 少しでも怪しかったら、このまま落とすわよ!?」  
「え、ええと…… その…… 飲んだら意識が無くなって、周りの誰かを手当たり次第に襲うくらいには……」  
次の瞬間、黒子の頭はまっさかさまに落ち、ふかふかのベッドに叩きつけられた。  
ぐえ、という嫌な叫びとともに、ベッドのスプリングがこれまた嫌な音を立てて軋む。  
本当のことを言ったら助けると約束したな、あれは嘘だ。 とでも言わんばかりのコマンドー的仕打ちに、黒子は悶絶してベッドの上を転げ回る。  
投げ捨てた御坂はというと、自分のバッグからな何かを取り出そうと引っ掻き回していたがどうも見つからないようで、部屋中に彼女のバッグの中身が散乱した。  
「黒子! あんたのケータイ借りるわよ!」  
頭を押さえてゴロンゴロンとのた打ち回る白井黒子を無視し、机の上にあった彼女の携帯電話を手に取る御坂。  
上条の番号は何度も目にしている(実際にかけたことはほとんどないが)ため、そらで覚えている。  
「お、お姉様? 何をそんなにお急ぎになられて……」  
「あのバカが飲んでたらどうすんのよっ! 笑い事じゃ済まないわよ!」  
「……あっ!」  
黒子も、事の重大さにようやく気づいたらしい。  
もし媚薬入りのドリンクを飲んだ上条が周囲の女性を襲い、強姦事件にまで発展してしまったら、それこそ笑い話で済む話ではない。  
薬物を混入した黒子だって、場合によっては罪に問われる可能性もある。  
 
「つ…… 繋がりました? 黒子にも聞こえるよう、どうかスピーカーをONに……」  
「ま、まだよ…… もしかしてもう既に……」  
携帯電話のマイクに、二人の少女が揃って耳を近づけていた。  
先ほどから鳴り響くのは、無情なコール音のみ。  
もしや既に服用してしまっているのではないかという嫌な考えが、二人の脳裏をよぎった。  
「あ、あああ…… お姉様、黒子はもうお終いなのですね……?  
 きっと明日の朝刊には『美少女風紀委員、薬物混入で逮捕』という見出しとともに、ハンケチで手を隠されて連行される私の写真が……」  
「そ、そんなワケないでしょ……? それにあいつだって、いくら変な薬を飲んだとはいえ、犯罪を犯すようなやつじゃ……」  
「無駄ですのよ! 私がテキトーに…… もとい研究を重ねて調合したあの薬は、生半可な理性など一瞬で破壊しますの!  
 あれは、再び意識を失うまで服用者をケダモノに変えるという悪魔の媚薬! その効果は私が身を持って実証しましたから、間違いありませんわ!」  
「実証って…… あんた自分で使ったの!?」  
「お、思い出したくもありませんが…… 軽い気持ちでちょっと一口味見してみたら、数時間後には裸でベッドの上にいて。  
 そして横には、なぜか全裸で顔を赤らめる初春がいて…… その表情に、私、少しだけ心を動かされかけて……  
 あいたたたたたたたっ! おおお姉様っ!? 違いますのよ! 浮気ではありませんの! 一夜の過ちといったところで……」  
「あ・ん・た・はっ! そんな危険なものを私に飲ませ…… はっ! つ、繋がったわよっ!?」  
黒子のほっぺたを思い切り抓り上げていると、やっとコール音が切れ、上条の携帯に繋がったようだ。  
さらりと黒子が残した爆弾発言も、もう少し詳しく問い詰めたいところだったが、今はそれどころではない。  
 
『はいもしもし、上条ですが』  
電話の奥の上条の声は、普段と変わらず落ち着き払っていた。  
少し安心する二人だったが、まだ各章が得られたわけではない。  
「や、やっと繋がった…… あんた、あれ、まだ飲んでないわよね!?」  
『あ、あれって……? ……あのドリンクか!?』  
上条の声が急に慌てた様子になり、思い切り嫌な予感を感じる二人。  
黒子に至っては、顔面蒼白になり、滝のように汗をかいている。  
「そ、そうそうそれよ! あのね、あれなんか、黒子が変な薬入れたらしくて…… 絶対に飲んじゃダメよ!? わかった!?」  
『お、お前なぁ…… 今更言われても遅すぎるぞ!? こちとら、あれのせいで大変なことに……』  
あれのせいで大変なことに。 大変なことに。 大変なこと。  
二人の脳内で何度もエコーがかかるほど重大な言葉が、受話器の向こうからはっきりと聞こえた。  
黒子はそれを聞き、ガクリと膝をついて崩れ落ちる。  
「た、大変って…… だ、誰かに迷惑かけたりはしてないわよね? その…… お、襲っちゃったりとか」  
そう尋ねる御坂の口元も、目で見てわかるくらいに震えている。  
手には汗をかいているし、背筋にやけに冷たいものを感じる、  
まるで背後から、巨大な氷を押し付けられているような気分だ。  
『迷惑かけるどころの話じゃねえぞ、本当に! あと一歩間違えば、本当に取り返しのつかないことに……』  
「と、取り返しのつかない…… あ、あんたまさか」  
ガン! ガン! と、自身の頭を極めてリズミカルに床に叩きつける黒子を尻目に、戦々恐々とする御坂。  
ああ手遅れだったか、と御坂が嘆く前に、上条の電話の後ろ側から聞き覚えの有る声が聞こえた。  
 
『ねえとうま、誰とお話してるの?』  
 
まるでビデオの一時停止ボタンを押したかのように、御坂美琴はピタリ、と一瞬停止した。  
『とうま、まさかこんな時にまで短髪とお話してるの?』  
聞こえてくるのは、間違いなくあの白いシスターの声。  
なぜ彼女が今、彼の近くにいるのだろうか。 そもそも『こんな時』とは何なんだろうか。  
ある程度の予測はできるものの、その想像はしたくない、受け入れたくない。  
「あんた、あんた今の声……」  
『あ、いや…… イ、インデックス、ちょっと待て! 今ちょっと御坂と話して、こうなった原因の究明を……』  
『もう原因なんかどうでもいいかも…… ねえとうま、もう1回さっきみたいに『ぎゅっ』てして?』  
さっきみたいに『ぎゅっ』って。 さっきみたいに。 さっきみたいに『ぎゅっ』って……  
何度も何度も、彼女たちの脳内にその言葉が反復して流れる  
ピシッという嫌な音がしたように、御坂の身体が石化したように動かなくなる。  
『とうまぁ…… ねえ、おねg『わ、悪ぃ御坂! その話、また今度な!』』  
インデックスの甘えた声を打ち消すように、上条が慌てて電話を切った。  
御坂の手から携帯電話がスルリと抜け落ち、大きな音をたてて地面に叩きつけられる。  
状況から察するに、二人がコトに及んでしまったことは想像に難くない。  
しかもあのシスターの甘えた声と言葉から考えるに、恐らくそれは合意によるものだったのだろう。  
以前からそういった関係だったのか、それとも薬がきっかけになって今日やっとベッドインしてしまったのか。  
間違いないのは、二人はもう『事後』であること。  
思考力が極限まで低下した御坂にだって、それくらいは理解できた。  
 
「ふ、ふふ、ふふふふふふふ……」  
御坂美琴が、力無く笑った。 まるで、この世の終わりでも悟ったかのように。  
 
「お、おねえさま……?」  
認めたくは無かったが、御坂美琴があの上条当麻に恋心を抱いていることくらい、黒子にだってわかっていた。  
寝言で何度も上条の名前を呼ぶし、彼の話になれば途端に饒舌になるし、時には不自然なまでに顔を赤らめるし。  
自分だって、彼には助けてもらったこともあるし、その姿にほんの少し心惹かれてしまった記憶もある。  
彼女が上条に惹かれるのも、全くわからなくは無い。  
だからといって御坂を諦め、二人のために身を引こうという気は毛頭無いのだが。  
普段なら、恋敵が消えたことを諸手をあげて喜んでいただろう。  
だが、自分のせいでこうなってしまったと考えると、意図的ではなかったにしろ、凄まじく後味が悪い。  
自身の軽率な行動で御坂の心を酷く傷つけてしまったと思うと、罪悪感が重く圧し掛かってくる。  
 
だが、今はそんな悠長なことを考えている暇は無い。  
御坂美琴のあの様子は、絶対におかしい。  
八つ裂きにされる! 先ほどのネック・ハンキング・ツリーの比ではないほどの、超ド級の殺人技が来る!  
そう感じた彼女は、寮則を無視して自らの能力を……  
 
 
ガシッ、と御坂の手が、黒子の太腿を後ろから掴んでいた。  
気がつけば御坂は彼女の後ろに立っており、彼女の太腿を掴んで、そのまま身体を持ち上げようとしている。  
「アワワ…… お、おねえさま……?」  
何時の間に後ろに回りこんだのだろうか。  
彼女の手が自身の際どい所に当たっているが、黒子にそんなことを考える様子は無い。  
まずい! この体勢は下手をすると本当に殺される!  
テレポートを使おうにも恐怖で頭がいっぱいで、正確な座標の計算ができるはずもない。  
泡を食っている間にも、御坂の手から伝わる力はどんどんと増していき、身体が宙に浮き……  
 
「ちぇぇぇぇいさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」  
自分が感じた不幸と、不条理と、愛と、怒りと、悲しみを全て叩きつけるように、御坂美琴は叫んだ。  
太腿から彼女の全身を持ち上げ、そのままスープレックスの形で後ろの床に頭から叩きつける。  
黒子の大きく開かれた両足の隙間から派手な黒い下着が見えているが、この状況では色気もクソも無いだろう。  
(ああ、ごめんなさいお姉様…… でも、怒り狂って超人技をかけてくるお姉様も、また素敵ですわ……)  
頭から硬い地面に叩きつけられた黒子は、部屋どころか寮全体が軋みそうな衝撃と共に、ブクブクと白い泡を吹きながら意識を失った。  
 
(※この技を硬い床で使えば、下手をすると、どころか間違いなく死にます。  
  彼女たちは特別な訓練を受けているので大丈夫でしたが、皆さんは絶対に真似をしないでください)  
 
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あの事件から、1週間ほど経っただろうか。  
上条当麻の寝不足は、以前に増して深刻な問題になっていた。  
 
あれ以来、硬い床にせんべい布団を敷いて寝る必要は無くなった。  
インデックスと共に、ふかふかのベッドで眠るようになったからである。  
布団に侵入してくるインデックスを撃退する必要も無くなった。  
そもそも布団に入って眠る時から、彼女は自分の横にいるのだから。  
最初こそドキドキしたが、人間とはだんだんと状況に慣れてくる生き物のようである。  
彼女の柔らかい身体を抱きしめていると、普段よりもぐっすりと眠れる気さえしていた。  
では、なぜ彼の目の下に、以前よりも大きなクマができているのだろうか。  
 
答えは実に明白、睡眠時間そのものが大幅に削られるようになったからである。  
彼の眼前で淫らに腰を振る、白い少女のせいで。  
 
「ふあっ、あは、はぁっ…… とうまぁ、おく、おくすごぃぃ……」  
インデックスは一糸まとわぬ姿で、同じく服を纏っていない姿の上条当麻の腰の上に跨っていた。  
両手を彼のお腹の上に置き、まるで暴れ馬か駱駝でも乗りこなすかのように、激しく腰を振っている。  
彼女が上下する度にじゅぷじゅぷくちゅくちゅと、性器同士が擦れあう淫らな音が室内に響く。  
「はふっ、ひ…… んはぁ…… はっ、はぁ、はふっ……」  
上条の肉棒が彼女の弱い部分を抉るたびに、インデックスは悦びの声を上げる。  
彼女が腰を動かす速度は次第に上がっていき、ベッドのスプリングがギシギシと軋んでいた。  
 
「んぁ、あ、あぁ、あ…… は、はひぃ…… もっと、もっと……」  
更に貪欲に、インデックスが上条を求める。  
「あぁぁっ! あは、はぁぁ…… とうま、とうまぁ!」  
上条のそれが子宮口をぐりぐりとノックすると、彼女の嬌声のボリュームが最大になった。  
女としての最高の悦びを感じているようなその淫猥な表情には、いつものあどけない笑顔は全く見られない。  
ぐりぐりと円を描くようにしながら、上条の身体に腰を打ち付けるインデックス。  
「あ、いい、とうまこれ、すごいぃ…… いく、わらし、もういくから、とうまも……!」  
上下運動が更に激しくなったかと思うと、インデックスが突如その身を震わせる。  
敏感な膣内を掻き回され、抉られ、打ち付けられ、禁書目録の少女は上条の上で果てた。  
「っ…… い、インデックス……!」  
同時に上条も果てたらしく、僅かに声を漏らし、身体を震わせる。  
 
「はぁぁ…… あ…… あ……」  
どうやらインデックスにはまだ絶頂の余韻が残っているらしく、限りなく淫らでだらしない表情のまま、身体をぶるぶると震わせている。  
碧色の瞳はとろん、とだらしなく蕩けていて、半開きになった口からは唾液にまみれた舌がほんの少し覗いている。  
数秒の静寂の後、インデックスは身体を持ち上げて、自身から上条の性器を引き抜いた。  
「んん、んっ……」  
それには避妊具がかかっており、彼女は口を使って器用に薄いゴムのスキンを剥がす。  
先端部分の液溜めから、薄まった水っぽいような精液が漏れて、ベッドに新たな染みを作り出した。  
「ふはっ…… ねえとうま、もう1回したいかも」  
そして避妊具を咥えたまま、小悪魔的な微笑を浮かべて上条にそう迫る。  
「い……いんでっくすサン? もうそろそろ終わりに……」  
だが上条当麻は、まだやる気まんまんの彼女を見て思わずそう呟いた。  
 
先ほどから彼は、動いていないのではなかった。  
腰の痛みとか身体の疲れとかのせいで、動くに動けなかったのである。  
前の日だって、その前の日だって、何回も何回もしていたのだから、当然腰がやられるわけで。  
もうこれ以上は無理と毎日何度も言うのだが、下半身は言うことを聞いてくれずに何度でも立ち上がる。  
何度やられても立ち上がる不屈の闘志を持っているのは、何も上半身だけではなかったようである。  
 
あれから二人は夜が来る度、何度も何度も交わった。  
若い二人が同じ部屋に住んでいれば、それはもはや必然と言えるだろう。  
上条としてはこのままではいけないと毎回思うのだが、インデックスに求められると断ることなどできなかった。  
『もう1回ヤッちゃったんだから何度やっても同じだぜ』というデビル上条の誘惑に、毎度毎度屈する自分が情けなく見えてしまう。  
結局勢いに流され、爛れた行為に耽ってしまうのがお決まりの流れである。  
そりゃ仕方ないさ、若いんだし。  
 
だが正直な話、インデックスがこれほど淫れるとは思ってもいなかった。  
よくよく考えてみれば彼女は元々、自身の欲求にたいへん忠実なほうだった。  
食欲に関しては言わずもがなであるし、上条が他の女の子と喋るだけで顔を膨らますくらいに独占欲も強い。  
そんな彼女がこっちのほうに関しても貪欲なのは、よく考えれば不自然なことではなかった。  
 
昼間はいつも通りの可愛らしい純白のシスターである彼女が、夜はこれでもかと言わんばかりに淫れてくる。  
自ら進んで上条のモノにしゃぶりつき、彼の愛撫によって切ない声を上げ、奥に突き入れられると舌をだらんと出して歓喜の声を上げる。  
そのギャップに、上条の理性は毎度毎度簡単に破壊されてしまう。  
自身では鉄の理性だと思っていたようだが、やはり彼の理性は紙粘土細工だったらしい。  
正直な話、毎回簡単にコトに及んでしまう自分も悪いとは思う。 だが……  
 
「流石に毎日毎日、10回近くするのは無理だからな、インデックス!」  
「とうま、まだこんなに硬くしてるのにそんなこと言っても、全然説得力無いんだよ?」  
「げっ……! も、もう勃たなくていいんだぞ俺、というか俺の息子!  
 もう戦いは終わったんだ! もう6回も射精したら充分だろ!? そのまま寝て…… 勃つなぁぁっ!」  
もうスッカラカンだと思っていたが、どうやらまだ上条の下半身には力が残っていたらしい。  
彼と正対した敵は、何度倒れても立ち上がるその姿に心から恐怖すると言うが、上条が自身のその特性に恐怖するとは皮肉なものである。  
「何で今ので萎えねえんだよ俺ッ!? ここで萎えなきゃ全部破綻しちまうだろうがよぉおお!」  
「身体は正直ってやつかも、とうま。   
 んっ…… 次はお口でしてあげるんだよ? とうまはこれ大好きだよね?」  
どこか遠い北の地で聞いたような台詞を吐く上条を無視して、銀髪碧眼の少女は上条のモノを再びその小さな口で加え込んだ。  
いくらもうダメだとは思っていても、彼女がその可愛らしい舌が絡み付いてくると、また射精感がムクムクと首をもたげてくる。  
上目遣いで上条を見上げるインデックスの表情も、また実にいやらしくて堪らない。  
 
もはや抵抗する力など残っていない。  
あとはインデックスによる、一方的な嬲り殺し(性的な意味で)が残るのみである。  
 
基本的に、いつもいつもこのパターンだった。  
たまには攻勢に出てみようと張り切ることもあるが、そういう時はたいてい3回戦くらいでエネルギー(性的な意味で)が底をつき、そのまま残り7回分を搾り取られたり。  
ならば力を温存しようと後手に回ろうとしても、彼女の底知れぬ体力(性的な意味で)には勝てるわけもなく、結局いつも通り太陽が昇るまで(性的な意味で)攻め立てられたり。  
どうやらこの少女には、ベッドの上では何をやっても(性的な意味で)勝てないらしい。  
 
不幸だ、と思わず嘆きそうになるが、眼前の少女を見ると口が裂けてもそんなことは言えない。  
あれ以降のインデックスは日常生活の中でも、上条の背中に抱きついてきて幸せそうにはにかんだり  
学校から帰ってくると笑顔で飛びついてきたり、やたらと甲斐甲斐しく家事を手伝うようになったり(大半は悲惨な結果に終わるのだが)  
TVを見ているとちょこんと膝の上に乗っかってきたり、昼寝をしているといつの間にか横で添い寝をしていたり  
修道服以外の服を着てみて上条に評価を伺って来たりと、以前よりも可愛さ3割増しになっていた。  
正式にはそうなってはいないが、甘ったるい恋人生活そのものである。  
何よりも、事後に髪を優しく撫でたり頬をこちょこちょと擽ってやったりすると、とても可愛らしい顔をする。  
その何とも言えない笑顔を見ていると、嫌なことを全て忘れてしまうような気になれた。  
 
はっきり言う。 上条当麻は、今とても幸せだ。  
だがその幸福が、彼に何とも羨ましくかつ悲惨極まりない悩みを与えているだけである。  
 
 
 
「ふ、不幸だっ! 幸せすぎて不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」  
 
 
 
深夜の学生寮に、彼の叫びが響き渡った。  
上条当麻の受難は、まだ始まったばかりである。  
 
 
なお、二人が毎日ギシギシアンアンするせいで、隣の住人である土御門元春が上条や御坂に輪をかけた寝不足になったとか  
どこからか二人の爛れた関係を知ったステイル=マグヌスが炎剣を持って突撃しようとしたが、幸せ一杯の禁書目録の少女を見て複雑な心境で中止したとか  
あの後、騒がしいという理由で寮監にも制裁(首コキ)を喰らった白井黒子は、ドリンク剤の瓶を見るだけで色々と思い出して震え上がるようなったとか  
初春飾利が白井黒子を見る視線が明らかにおかしくなって、二人がいつも一緒にいるようになったと佐天涙子が愚痴を漏らしたとか  
なぜか上条とインデックスの関係がイギリス女子寮に漏れて「何でもあの幻想殺しの少年が、酔った勢いで禁書目録を無理矢理手篭めにしちまったそうですよ」  
「う、うわー…… あの二人、いつかはそうなるとは思ってましたけど……」「シ、シスターアニェーゼ! そのような話を貴方のような敬虔な十字教徒が……」  
「あらあら、私はあの禁書目録のシスター様のほうから、あの方に迫ったと聞いたのでございますよ?」などという無責任な噂が流れ、シスター中の話題の種になったとか  
打ちひしがれる神裂火織を見た英国第二王女が、騎士団長に「何をしている、今のうちに奪い取れ、今は悪魔が微笑む時代だしー」と悪魔の囁きをしたが  
結局彼を神裂に嗾けることはできず、心底つまらなさそうな顔でぶーたれていたとか  
芋焼酎を飲んだくれて泣き崩れる五和を、建宮が面白半分でからかってやろうとしたらカウンターでちゃぶ台返しを喰らったとか  
朝のHRから最後の時間まで一貫して眠りこける上条当麻に注意しようとして近づいた月詠小萌が  
寝ぼけた上条にインデックスと間違われて抱きつかれ、頭から煙を出して卒倒してしまったこととか  
それを見た吹寄制理が今までに前例を見ないほどの凄まじい威力の鉄拳を、上条の頭頂部に喰らわせて保健室送りにしてしまったこととか  
病院にいる妹達が頻繁に集まって「こうなれば武力による奪還を……」「いえ、こちらも薬を使って既成事実を作るべきだとミサカは…」などと物騒な相談をしていたとか  
 
家計に避妊具代が追加され、火の車が炎の大車輪に進化して上条当麻が頭を痛めたとか  
当のインデックスは毎日毎日上条の返事を待ちながらも、この関係にとても満足して幸せそうに過ごしているとか  
 
そういうのはまた別のお話。  
 
 
そしてまた後日、諦め切れなかった御坂美琴が玉砕覚悟で上条に想いを告げたというのも、また別のお話である。  
え、結果はどうなったかって? それは……  
 
 

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