ここはとある海水浴場。  
 完全に時季外れとあってひとっこひとり居ない波打ち際を歩く2人の姿――いや、1人は波との追いかけっこの真っ最中だから歩いているのは真っ白な髪をした少年だけだ。  
「おいクソガキ! それ以上海に近寄ンじゃねェ! それ以上潮塗れンなりやがったらここに捨てて行くぞォ!」  
「えぇええ!? 今勝率は五分と五分、後一回ミサカが波をかわし切ればミサカの勝利がけっうわわわわわわああああああ!? ってミサカはミサカは波にやられてズブズブのヌレヌレになってみるぅ」  
 制止の声に気を取られた隙にひと際大きな波に襲われてスカートをぐしょぐしょにした少女、打ち止め(ラストオーダー)の姿に、杖を砂に取られて歩きにくそうにしていた少年、一方通行(アクセラレータ)は大きなため息を突いた。  
「テメエは居残り決定だ」  
「まだだよ……まだ終わらないんだから! ってミサカはミサカはリベンジの為に燃えてみる!」  
「ンな無駄な事に労力使ってンじゃねえよ」  
 海に向かって拳を突きだす打ち止めに、一方通行は付き合い切れないとまたも大きなため息を突くと踵(きびす)を返そうとした。  
 その時、  
「痛ッ!?」  
「どォした打ち止め?」  
 背後で上がった小さい悲鳴に一方通行が振り返る。すると波から逃げる様に打ち止めが右の片足でケンケンする様に逃げて来た打ち止めが、  
「何かふんじゃったみたい! ってミサカはミサカは怖いのを我慢して確認してみるー」  
「チッ。だから靴ゥ脱ぐンじゃねェっつただろォが」  
 そう吐き捨てる様に言って打ち止めに近付く。  
 その打ち止めは左の足の裏を見つめたまま固まっている。  
「どォした?」  
 一方通行が声を掛けるが返事は無い。  
 仕方なく打ち止めの足の裏を見てみると、  
「切れてンなァ」  
 足の親指と人差し指の付け根の間辺りから2センチくらいぱっくりと切れて真っ赤な血が溢れていた。  
「ど、どおしよう……、ってミサカはミサカはジンジンする足に戦々恐々してみたり」  
 先ほどのはしゃぎぶりも何処へやら、すっかりしゅんとしてしまった打ち止めの姿に一方通行の心の中にちょっとした悪戯心が芽生えて来る。  
 しゃがみ込んで打ち止めの左足を考え深げに眺める事しばし、  
「こりゃ毒でも回っちまう前に足を切断しておくかァ。なァ?」  
 
 その言葉に打ち止めの顔が見る間に真っ青になる。まあ足を切るなんて言われたら打ち止めで無くても青くなるだろう。  
「せ、切断って切るに断つって書くあの切断!? ってミサカはミサカは痛みも忘れて驚いてみたり……」  
「一瞬で終わらせっから安心しろ。なァに、帰ったらあの医者に元通りにさせっから問題は無ェ」  
 そう言いながら一方通行の手が足首からふくらはぎ、膝、太ももへと這い上がって来ると、打ち止めが歯の根も噛み合わない程震えだす。  
「や、ちょ、ま、ほ、本気!? ってミサ、ミサミサミサササ……」  
「目ェ瞑って歯ァ喰いしばれ。ぐずぐずしてっとこのまま解体ショー始めちまうぞ?」  
 その一言とチラリとも目を合わせない真剣な表情の一方通行の姿に、打ち止めは諦めて言われた通りギュッと目を瞑り、その上から両手で押さえ、歯の方も砕けんばかりにぎっちり噛み合わせた。  
(面白ェ……)  
 その姿に思わず吹き出しそうになるのを堪える一方通行。  
 そして当然の事ながらここまでの話は全部嘘。懲りない打ち止めを懲らしめる為に一芝居打ったのだが、  
(さァて、コイツの治療でもすっか)  
 いい加減傷からの血が止まらない事に本気で心配になって来たのだ。  
 まずはチョーカーに手を伸ばして能力を解放する。これで一方通行はあらゆるベクトルを操る力を取り戻した。  
 続いて一方通行は打ち止めの足を持ち上げる。  
「んぃぅ」  
 打ち止めがビクッと体を震わせたかと思うと小さく悲鳴を上げた。多分今から足を切られると思ったのだろう。  
 そして一方通行はそんな少女を一瞥すると、その小さな足に唇を付けた。  
 瞬間ジャリっと言う砂の感触と海水の塩辛さに眉間に皺が寄る。  
 続いて訪れるのは生臭い香りと鉄の味――血の味が口の中にじんわりと広がって行く。  
 その味に過去の自分の暴挙の数々が思い出されて胃袋が波打つが、そこは気のせいだとばかりに気力で抑え込むと、  
(ここまでやるからにゃあ、傷なンか残りやがったら承知しねェぞ)  
 心の中でそう呟きながら傷口に舌を這わせて行く。  
「ひぐッ!?」  
 打ち止めのくぐもった悲鳴が聞こえるが、恐怖の為か痛みの為か判らない。  
 一方通行にはそんな事はどうでもよかった。今彼の頭の中にあるのは打ち止めの傷を治す、ただそれだけだった。  
 まず自身の唾液に含まれる殺菌酵素を活性化して傷口周辺を殺菌する。そして打ち止め自身の血液を操作して血管へと血を押し戻しながら、血液に含まれる殺菌効果でこちらは内部から雑菌を排除させた。  
 出血と殺菌が終われば、今度は打ち止めの体組織の働きを活性化させて傷口を塞いで行く。  
 舌を使ったのは傷の状況からそれが最適だと一方通行が判断したためだ。  
 かくして傷口が塞がるまでの間一方通行の献身的な愛撫に晒される事になった打ち止め。  
(ナニナニ!? 最初は痛かったのに気持ち良くなって来ちゃったのって一体何が起きてるのかな!? ってミサカはミサカは何が起きてるのか誰かミサカに教えてええええええええええええええええええええええ!!)  
 その後少女が変な性癖に目覚めたかどうかはまた別のお話。  
 
 
 
おわり  
 

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