ここはイギリス、日本人街にあるとあるアパートメント――と表向きはそうなっているが、その実天草十字棲教のイギリス国内の拠点として使われていた。  
 天草十字棲教とは日本を発祥とする多角宗教融合型十字教。  
 その教義は前教皇の意志を受け継ぎ助けを求められれば理由が無くても手を差し伸べる――。  
 そんな彼らも平時においては割とのんびり個々の自由を謳歌していた。  
 当然五和もこのアパートメントにある自室でのんびりと……、  
「上条さぁぁあああああん!! ひっく」  
 今日も思い人を酒の肴に酔っ払っていた――そんな姿を生温かく見つめる目がある事も知らずに。  
「五和の奴また呑んだくれて居やがるのよな」  
 屋根裏に潜む建宮祭司がそうポツリと呟くと、足もとの穴――実は五和の部屋の天井の穴――を覗き込んでいた香焼が顔を上げて、  
「いい加減五和から一升瓶取り上げた方がいいんじゃないっすか、教皇代理?」  
「じゃあお前がちょっくら行って取り上げて来るといいのよな」  
「俺がっすか!?」  
「言い出しっぺの法則なのよな、行けっ香焼!」  
 そう言って暗闇の向こうを指さす建宮に香焼は両手と首を振りながら、  
「い、嫌っす。つか無理っすよ無理無理。俺はまだ死にたく無いっす」  
「じゃあ牛深」  
 突然話を振られた牛深は大きな体をビクッと震わせて、  
「馬鹿言わないで下さい!? そんなに言うんなら教皇代理が行けばいいじゃないですか」  
「もちろん俺も死にたくない……ゆえにここは黙って静観なのよな」  
 そう言って今度は建宮が穴を覗き込む。  
 するとそこにはちゃぶ台に突っ伏してコップの端を咥えた五和の姿。  
「何れ1人で行っちゃったれすかぁ……。料理だってバイクの運転らって褒めてくれたのにぃ……。いっひょに神の右へきとも戦った仲らないれすかぁ……」  
 コップに反響してなのか酔っ払っているせいか、今一つ聞き取りづらいがどうやら上条当麻に対するグチだと言う事は判った。  
「五和の奴……相変わらずの受け身姿勢なのよなぁ。噂じゃ『新たなる光』のメンバーが上条獲得にロシアまで出張ったと言うのに……お!?」  
 ぽつぽつと零す様に喋っていた建宮が驚きの声を上げると他の2人も色めき立つ。  
「どうしたんすか!?」  
「五和がどうかしましたか?」  
「静かにッ!」  
 その言葉に3人が耳を澄ますと……。  
「あぁ……、暑っいですねぇ……んしょ」  
 続いてバサバサっと言う衣擦れの音。  
「!!」  
 ギョッとして凍りついた建宮を押し退けて香焼、そして香焼を押し退けて牛深が見たのは下着一枚で畳の上に寝転がった五和の姿だった。  
「「!!」」  
 3人は驚いた顔のまま暫し見つめ合うと、  
「(不味いっすよ!! もう止めましょうよ教皇代理!!)」  
「(何ィ!? これからがいいところなのよなあ!!)」  
「(あんたはホントに馬鹿か教皇代理!! 五和このままじゃ――)」  
 声を殺したままの牛深が建宮の胸倉を掴んだその時、  
「んっ……」  
 下から聞えた五和の艶めかしい声に3人は何故か頷き合うと、仲良く穴を覗き込む。  
「上条さん、上条さぁ……ん」  
 上条の名前を呼びながら、左の手はブラをずらしてはみ出た乳房を揉みし抱き、右の手は閉じた内腿の間に消えていた。  
「ん……う、ん……」  
 暫くすると何処からともなくクチュクチュと言う水音が聞こえて来た。  
 
「ぅ、ふ……上条さ、ん……いい……」  
 水音と五和の嬌声と共に右手の動きも一段と熱を帯びて行く――とその動きがピタリと止んだ。  
 もそりと気だるげに身を起こした五和の姿に男たちが一斉に穴から飛び退く。  
 まさかバレタ――と一同が肝を冷やしたその時、  
「何か、入れるもの……」  
 五和の呟きに一同安堵すると共に再び穴を覗き込む。  
 するとそこには一升瓶を手にした五和の姿が。  
(五和……それは流石に無茶なのよな……)  
 建宮の頬を冷や汗が流れ落ちる。  
 そして一方五和の方は、一升瓶の口に入念に舌を這わせて唾液をまぶした後、その濡れ光る先端を割れ目にそっと押し当てる。  
「先っぽだけなら……、んっ」  
 声と共に白い喉を見せた五和の中に冷たく硬い物が入って行く。  
「あふっ」  
 徐々に内部を押し広げられる感覚に思わず声が漏れたとの時だった。  
 五和は体の奥からピリピリと痺れるような感覚に襲われてぶるっと体を震わせる。  
「沁み……まだ残ってたんだ……」  
 粘膜に直接アルコールが沁み込んで来る――その不安に一瞬手が止まった五和だが、この時は不安よりも欲望が勝った。  
「いんだ……どうせ……私なんか……」  
 やや捨て鉢な物言いで一升瓶を無理やり押し込んだ。  
 すると一升瓶の口が柔らかな部分を突き上げる。  
「ひぃ……ぅぅ……」  
 そこで一旦ずるずると半ばまで引き抜いて、再びずぶっと打ち込む。  
「あうっ」  
 初めはゆっくりと、やがて慣れて来たのかスピードは増して、それに伴いじゅぶじゅぶと言う音が部屋の中に満ちる頃には、  
「なんか……へん……らろ……」  
 元からの酔いが回ったのかそれとも粘膜から直接吸収したのか、五和の呂律は完全にあやふやなものになっていた。  
 抽送はさらに激しさを増し、やがて五和は体をゆっくりと起こすと瓶を立ててその上にゆっくりと腰を落とした。  
「ウフ♪ かみろーひゃんもっとぉ……」  
 今の五和の目には下から彼女を突き上げる上条の姿が見えているのかもしれない。  
「いく、かみじょ……とうまさん……、い、いっ、いく……」  
 体を危ぶみたくなる程一心不乱に腰を振り続ける五和。その足もとに広がるシミは愛液なのか零れた酒か……。  
 上条の名を叫びながら自分の胸を揉みし抱いていた五和。  
「とうまさん、とうまさん、とうまさん、とうま、さ、あ、う゛……」  
 その体がビクビクっと痙攣したかと思うと糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちた。  
 ごろりと畳に瓶が転がり、五和の閉じた脚の間から透明な液体と一緒に黄色い液体が音を立ててぶちまけられるのを見て、  
「あーあー、目が覚めた後が大変なのよなぁ……あれ? どうした香焼」  
 呆れながらふと顔を上げた建宮は前かがみになる香焼におやっと言う顔をした。  
 対する香焼は恥ずかしそうに身を縮めると、  
「何も感じないんすか教皇代理?」  
 その一言に建宮は直ぐにピンと来てやれやれと言ったジェスチャーをしてから、  
「俺は一途なのよな。まして五和は妹みたいなもんなのよ。妹に欲情してどうするのよな」  
 それはとある魔術師で能力者の金髪少年を敵に回す一言なのだが、運良くそれを彼が知る事は無い。  
 とその時、  
「教皇代理……」  
 今まで黙っていた牛深が低く緊張した声で建宮を呼んだ。  
 
「ん?」  
 穴を指さす牛深。その指示に従い穴を覗きこんだ建宮はギョッとした。  
 床に転がった五和が顔面蒼白で細かく痙攣しているではないか。  
「馬鹿五和の奴。ありゃ急性アルコール中毒なのよな!!」  
 そう吐き捨てると建宮は猛スピードで屋根裏を移動して行く。  
 その後を牛深と香焼が追う。そして屋根裏に人影は消えたのだった。  
 
 
 
 五和がふと瞼を上げるとそこには対馬の顔が有った。  
「目が覚めたみたいね」  
 そう言われてこくりと頷いてはみたが今一状況が見えない。何故対馬が自分の顔を覗き込んでいたのだろうと言う疑問が沸き起こる。  
「あの……」  
「ああ、あなたお酒は控えなさいよ。もうあの後大変だったんだから」  
 そう言われて自分が憶えている最後の記憶が甦って顔面を沸騰させた五和は毛布の中に隠れてしまう。  
「あ、あの、あのぉ……」  
「大丈夫大丈夫。でも次は気を付けて頂戴ね」  
 そう言われても何が大丈夫なのかよく判らない五和だったが、  
「……申し訳ありません。ありがとうございました」  
 すると対馬は、  
「ああお礼なら教皇代理に言っといて。あの人が倒れているあなたを見つけたんだから。教皇代理ったら血相変えて……」  
 そう言ってフフフと笑う対馬だが、あの教皇代理に多分あられも無い自分の姿を見られたのかと思うと今直ぐにでも穴を掘って一生そこで生活したい五和だった。  
「そ、それでは教皇代理は……?」  
「罰としてあなたの部屋の全面改修をしてもらってるわ。うん、何も聞かないで頂戴ね」  
「は、はぁ……」  
 罰とは一体何なのか、憶えている内に顔を合わせられれば聞いてみようと思う五和だった。  
 
 
 
「教皇代理ッ!!」  
「何なのよな香焼!? 今畳の張り替え作業中でいっちゃん集中しなきゃあいけない状況なのよ!! で何なのよな!?」  
 そう言ってずぶりと太い針で畳に糸を縫い込む建宮の背後に立つのは重そうなロールを抱えた香焼と牛深の姿。  
「壁紙はどこに置いたらいいっすかぁ!?」  
「何で壁紙まで……畳だけで十分でしょうに……」  
「泣き言言うな牛深ァ!! 傷付いた乙女心を癒すには模様替えが定番なのよなッ!! つべこべ言ってる暇があったら後の壁紙もちゃっちゃと運んでくるのよな!!」  
 その言葉にげんなりする2人は、  
「どうせ五和が怒るのが怖くて先にゴマ擂ろうって考えなんでしょうけど……」  
「教皇代理は浅はかなんだよ。潔くブッ飛ばされりゃいいのに……」  
「う、うるさいうるさいうるさいのよなああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  
 アパートメントに建宮のやや引き攣って裏返った怒号が響き渡るのだった。  
 
 
 
END  
 

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