…………。
…………。
……殺気!!
考えるより早く、思いっきり横に転がる。
フッ、と重力から解放された感覚がして−−−直後、思い切り背中から叩きつけられる。
だが、このままでいるわけにはいかない。即座に体を起こし、殺気の主へと向き合う。
こんなことをする人間は一人しかいない。浜面はその人物を睨みつけ−−−
「起こす時はもっと普通に起こせって言ってんだろ絹旗ァ!!」
「超惜しかったですね。浜面にしてはいい反応です」
そんな最近の、朝の光景。
−−−浜面くんちの絹旗さん 2
「ったく、殺す気かっつーの…」
今しがたまで浜面が寝ていたベッドには、なかなかに重量のありそうな椅子が鎮座ましましている。
「起こそうと思ったのですが、浜面の部屋に入りたくなくて。なので手近にあったものをひょいっと」
「初っ端からすげぇ失礼なことを言われたのはおいといて…百歩譲って投げるのはいいとしても、もうちょい適当なものがあるだろ!?」
「てへ☆」
「てへ、じゃねぇ!! あーもう、滝壺だったらきっと優しく起こしてくれるんだろうな…」
『はまづら、起きて。じゃないと、おはようのキスができない』
「とかそういうことを超考えてるんですね超変態の浜面は。うわー超キモいです超ドン引きです」
「勝手に人の頭ン中を捏造すんな! それとお前が滝壺のマネすんな、気色悪ぃ………っ」
「……………」
「………(ヤベ、言い過ぎたか…?)」
「…浜面超ぶっ殺しますがいいですかいいですね超ブチコロシ確定ですよ浜面ぁぁーー!!」
「うおぉぉ!! 朝からこれかよぉぉぉ!!??」
本当は、入りたくないわけではないのだ。
今朝もちゃんと普通に起こそうと思って、浜面の部屋に入って。
浜面の寝顔を覗きこんだら、もうちょっと見ていたくなって。
そんな時に、浜面がつぶやいた寝言の、その名前が気に入らなかっただけだなんて、言えるわけがない。
何でそれが気に入らなかったのかは、絹旗本人にもよくわからなかった。