ハロウィンの風習の一つに、「Trick or treat.」というものがある。  
ハロウィンの夜、お化けや魔女に仮装した子供たちが家々を回り、「Trick or treat(お菓子をくれなきゃいたずらするぞ)」と唱えるものである。  
それに対して大人たちはお菓子を与える、というのが慣例となっている。  
現在ではカトリックでない日本でも、子供たちが冗談交じりに「Trick or treat?」と言う光景も見かけるようになったが…  
 
「トリックオアトリート? そんなこと言うまでもなく、浜面のお菓子は全て私の物です。お、これ超美味しいですね、掘り出し物です」  
「勝手に人の菓子食っといてその態度かよ!?」  
 
−−−浜面くんちの絹旗さん 3  
 
「てめぇジャイアニズムもいい加減にしろよ…? この浜面様を怒らせるとだな、」  
と、精一杯凄んではみるものの、当の絹旗は意に介した様子もなく。  
「あーはいはい、映画終わったら相手してあげますから黙っててくださいね」  
じゃれつく犬を追い払うような仕草一つで、あっさりとスルーされてしまうのであった。  
いつもの光景とはいえ、さすがの浜面も今回ばかりは我慢できなかった。  
(上等だ…いつまでもこの俺がやられっぱなしと思うなよ!?)  
ふっふっふ、と暗い笑みを浮かべながら、ソファで映画に見入る絹旗の背後に忍び寄る。  
「絹旗。トリックオアトリート」  
「…は?」  
「だから、トリックオアトリートだ」  
「何言ってるんですか浜面」  
「そうか、菓子をくれないか…ふっふっふ…」  
「…とうとう頭がおかしくなりましたか? これからは頭を殴るのは勘弁してあげますか…」  
「そうかそうか…ならば…」  
 
「いたずらさせろぉっ!!」  
 
絹旗の背後からルパンダイブのごとく飛びかかる浜面。絵面だけ見ればどう見ても犯罪者である。  
それに対し、絹旗は振り向くと同時に左手を薙ぎ払う。『窒素装甲』を纏ったその一撃は浜面の身体を簡単に跳ね飛ばし−−−は、しなかった。  
絹旗の手に触れたのは、浜面の上着のみ。  
「なっ、囮!?」  
さすがに絹旗も一瞬呆気にとられる。そして、浜面はその隙を見逃さなかった。  
身を隠したソファの背から、両腕を絹旗の細い腰へ伸ばし−−−。  
「くらえっ!!」  
脇腹を思いっきりくすぐったのだった。  
 
「ひゃきゃうううぅぅぅぅんんんっ!!???」  
「!?」  
が、それに対する絹旗の反応は…浜面の想像よりも、もっとずっと激しいものであった。  
いたずらを仕掛けた浜面の方が面喰うほどの、嬌声と言っても差し支えないような声。  
慌てて手を離す。絹旗はまだ、身体を小刻みに震わせている。  
「お、おい絹旗、大丈夫か!?」  
「…はっ、はぁ…はまづらぁ…」  
うつむいたまま、浜面の名を呼ぶ絹旗。  
浜面はうろたえながらも、ソファの前に回って絹旗の顔を覗き込む。  
「す、すまん絹旗…まさかそこまでとは…」  
「はぁ、はぁ…」  
「ど、どっか痛かったか? 変なとこ触っちまったか?」  
「…はまづらぁ…」  
「な、何だ…?」  
 
「超殺しますがいいですか答えは聞いてません超殺します浜面ぁぁぁーーー!!」  
「ごっはぁぁっ!!!」  
絹旗の言葉よりも、浜面が吹っ飛ぶ方が早かった。  
 
 
(…あ、あれは…どうして、あんな…?)  
 
 
番外編  
「はまづら。とりっくおあとりーと」  
「おっ、滝壺。魔女の衣装か、似合ってるぜ。でもすまん、今菓子持ってないんだ…」  
「わかってる。だから、…いたずら、して?」  
「い、いたずらか、そ、そうだな…って滝壺!? そ、その衣装の下って!?」  
「…うん、はまづらにいたずらしてもらおうと思って…ちょっと、寒いけど…」  
「お、おおおオーケイ、こここれは据え膳食わぬは高楊枝というやつですな? よよよよよーし…」  
「何鼻の下伸ばしまくってんのよ、はーまづらぁ」  
「む、ムギノサン!? …お、おお麦野はミイラ男…もといミイラ女か…」  
(…なんつーか、包帯姿ってのは笑えないような…?)  
「…ト、トリックオアトリート」  
「え? …あ、いや、今俺菓子がなくて…」  
「そ、そうなの…じゃあ、いたずらしてもらわないといけないわね…」  
「いや別にしなきゃいけないってわけじゃ…ああぁぁ!? 麦野、お、お前もまさかその包帯の下…!?」  
「な、何よ別にいいじゃない! こっちだって恥ずかしいんだから、早くいたずらしなさいよ!?」  
「いやおいちょっと、それは理不尽じゃあ!?」  
「全くこれだから浜面は…女性に恥をかかせるなんて超最低ですね、全く超浜面です」  
「き、絹旗いいところに助け…ってぶはぁ!? 絹旗お前もうちょい隠すつもりとか、とか!?」  
「ど、どうせ浜面は超浜面なんですからいたずらするに決まってます! だ、だから、超着るだけ無駄、かと…」  
「だからってお前、悪魔の角と尻尾だけってのは…」  
「はまづら。どうしたの?」  
「は、早くいたずらしなさい、はーまづらぁ」  
「こここっちだって寒いんです、から、その、早く超温めてください、浜面…」  
「え、えええ、何これ、何この状況!? どうするよ俺!? どうする」………  
 
 
「へ、へへ、じゃあじゃあ順番に…ごぶっ!!」  
昇天したまま笑っている浜面が超キモかったので、とりあえず殴ることにしました。  
 
 
 

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