『それでは浜面、明日いつものところに10時半に待ってますから』
『そりゃ確かに俺は明日暇だし予想はできてたが、主語も承諾もなしでいきなりそれかよ!?』
『何言ってるんですか、こんな美少女と映画鑑賞なんて超有意義な休日の過ごし方じゃないですか。超感謝してくださいね』
『突っ込まねえぞ…で、10時半だな?』
『いえ、浜面は10時35分くらいに来てください』
『へ? 何だ、何か遅れた方がいい事情があるのか?』
『5分遅れた浜面に罰としてクレープをおごらせるためです』
『そんなことのためにわざわざ遅れろってか!? つか、一応同じ家なんだから一緒に出ればいいんじゃないのか?』
『超却下です。それじゃ、待ち合わせにならないじゃないですか』
−−−浜面くんちの絹旗さん 5
(そう思い通りになってたまるか…!)
最後の言葉の意味はわからなかったが、とにかく絹旗の思惑に乗せられるわけにはいかないと。
まだ10時も回らないという時間に、すでに浜面は待ち合わせ場所に到着していたのだった。
ちなみに、絹旗とは昨夜から別行動である。映画を見に行く時、絹旗は決まって本来の自分の部屋に帰るのだった。
絹旗自身にも居住空間は提供されているので、本来ならば浜面の部屋にいることの方がおかしいくらいなのだが。
(ふふふ、これで遅れるのは絹旗の奴の方…! あいつにクレープをおごらせてやるぞ…!)
と実に小市民的な思考に浸っていると。
「あら、偶然ね」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこにいたのは一人の少女。中学生か高校生か、そのくらいだろう。
しかし…。
「…えっと、俺?」
思わず聞き返してしまったのは、浜面がその少女に見覚えがなかったからだ。
一見した感じ、なかなかの美少女と言っていい。これだけ映える外見ならば、忘れるとは思えないのだが。
だが、浜面の言葉に少女が一瞬ムッとしたような表情を見せたところを見ると、やはり自分は少女と面識があるらしい。
「…忘れてるなんて、失礼ね」
なんとか思い出そうとしていると、唐突に少女が浜面の方に身を寄せてきた。
「おっ、おい…!」
慌てて体を引く。下から浜面の顔を覗きこもうとしているような少女と目が合った、その瞬間。
(…いや、待てよ)
記憶が蘇る。俺は、彼女を…こいつを知っている。この、罠にかかった獲物を見るような目を…。
硬直した浜面に、少女はからかうような口調で言った。
「お互い『スクール』と『アイテム』として、随分仲良くしたじゃない」
「て、てめぇ…あの時の、『スクール』の…!!」
『スクール』と『アイテム』の抗争時、浜面の心を弄んだ能力者。
少女は『心理定規』だった。