麦野沈利は目覚めた時、自分が何故ここ――天井も壁も見えない程広く、床にはぽつりぽつりと薄暗い照明が付いた寒々しい場所――に仰向けに寝転んでいるのか判らなかった。  
 その上、全身が鉛の様に重く……、指の先所か瞬きすらもおっくうに感じられた。  
(何処だここは……?)  
 ぼんやりとした頭でそんな事を考えていると、何処からともなく足音が聞こえてくる。しかもその足音は、真っ直ぐ此方に向かって来ていた。  
 未だ何も判らずじまいの寝ぼけた頭でも寝ていていて良い状況で無い事位は直ぐ理解出来た。  
 しかし、  
(う、動け……う、ごけぇぇえええええええええええええええええええええええ!!)  
 今の麦野には理解する事と実行する事との間には天と地ほどの開きがあった。  
 やっとの思いで1ミリ動いたかどうかと言う所で、耳元にざりっと砂を踏む様な音が聞えて足音が止む。  
 半眼の瞳をそちらに向けるが、焦点が定まらないのか相手の姿はぼんやりとしか見えない。  
 全ては判らず仕舞いのまま麦野は追い詰められた形になり……、  
(は、つまんねぇ人生だったわねぇ……)  
 覚悟を決めた麦野は実にあっけなく全てを諦めていた。  
 所が、  
「おい大丈夫か? 生きてんだよな?」  
 その言葉と共に体を揺すられた瞬間、覚悟を踏みにじられた事にイラっと来た。  
「ぅ……、ぁ……、ごほっ、げほっ」  
 誰だテメエはさっさとブッ殺さねんならこっちがブッ殺してやる――そう言いたかったが舌も唇も満足に動かない。それどころか興奮した途端に呼吸もままならなくなり咳込んでしまう有様。  
(くそ……みっともないったりゃありゃしない……)  
 麦野の頬を涙が伝う。それは先ほどの息苦しさか、はたまた悔し涙なのか……。  
「泣いてんのか……? てか薬が効きすぎてんのかもしかして? おしちょっと待ってろ」  
 声がそう言うと暫くして首筋にチクリという感触がした。  
 いよいよ私もお終いか……だが、状況はまたも麦野予想とは反した。  
 まず暫くすると徐々にだが力が戻って来る。  
 そしてそれと共に身体中の気だるさが抜けて行き、視力も甦って来て自分の顔を覗き込んでいる人物の顔が見えて来た。  
「浜面ッ!?」  
「正かーい」  
 アンプルと短い針がセットになった小型の銃の様なものを構えた浜面がにっと笑う。  
 その笑顔に何故かホッとして、  
(な、何私はこんな奴の顔見てホッとしてるのよ!?)  
 そんな自分をすぐさま否定した麦野は体を起こそうとして、まだそこまで回復していない事を理解すると、  
「浜面、ここは何処だ?」  
「さぁな」  
 その瞬間麦野の頭の中で何かがぶっつりと音を立てて切れた。  
「さぁなじゃあねぇんだよ、はーまづらぁ。判んねえんだったらさっさと調べて来いこの愚図鈍間。テメエはあれか? 一々指図しねえとなぁんにも出来ないクソガキと一緒か?」  
 静かだが、静かなだけに恐ろしい程の怒りを込めた麦野の言葉――だが何時もならそれで飛んで行く筈の浜面が微動だにしていない。  
 それどころか白けた様な視線すらこちらに向けている事に気付いた時、麦野は視界が真っ赤に染まったかと思う程の怒りを覚えると、  
「ボケっとしてんじゃあああねぇぇえええええええええええええええよはまづらああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  
 暗闇を震わす絶叫――しかし、麦野は怒りを解き放ったと同時に微かな違和感を覚えていた。  
 何かが違うのだ。  
 いつもの自分ならこんな怒りの中に怯えを悟られまいとする虚勢が見え隠れする事などある筈が……。  
「おい麦野」  
「!?」  
 低い声。浜面のその一言だけで怒りの表情がビクッと強張る。  
 そして今更気が付けば、白けたとも思えた浜面の眼差しは痛々しい程に冷え切っていた。  
「は、ま、づ……」  
 
 先ほどとは違う混乱と恐怖で凍り付いた麦野の舌。その舌でたどたどしく浜面の名前を呼ぼうとしたその時、言葉を遮るかのように両の頬を掌で挟まれてグイッと顔を近付けられた。  
 驚いて喉をぐびっと鳴らす中、  
「馴れ馴れしく俺の名前呼んでんじゃあねえよ雌ブタが。ブタはブヒブヒ言ってりゃいいんだよ」  
 かつて浜面の口から一度も効いた事の無い様な単語の羅列……。  
(え、今何を言われたの……?)  
 その言葉に我が耳を疑うと共に頭が混乱してくる。  
 そしてその間にも浜面の話は続いて、  
「馬鹿なテメエにも判る様に説明してやるぜ。まず、俺たちが居るのは地図にも無え極秘地区(シークレットエリア)だ」  
「地図に……無い……」  
「そーだよ。だから助けも期待出来ねぇ。つか始めっから助けが来る筈ぁ無ーわなぁ」  
 それは直ぐに理解出来た麦野は唇を噛む。自分たち『アイテム』は仲良しこよしのおままごと集団では無い。一応麦野がリーダーを務めているが、他のメンバーに彼女を救う様な義理は無いのだ。  
 と、麦野の頬を挟む浜面の手に力が籠る。  
「何惨めったらしい面してんだ麦野よぉ」  
「何ぃ?」  
「テメエが黙って突っ込めっつったんだろーがよ。しかも罠だと知るや我先に能力使って逃げようとしやがって……危うくこっちはテメエの能力で蒸し焼きになる所だったんだぞ!!」  
「あ゛? 勝手に蒸し焼きにでも何でもなればいいだろうがテメエなんか!! 何か!? テメエと私とで比較する価値でもあるのかこの無能力者あああああああああああああああああ!!」  
 思わず至近距離でキレてから「しまった」と思った時には、  
「あぐッ」  
 麦野はまた冷たい床の上に転がされた。  
「判って無ぇなぁ麦野」  
 浜面はそう呟くと、よいしょっと重々しく立ち上がって「うぉ、とと……」とほんの少しよろめいた。  
 それから何事も無かった様に麦野を見下ろすと、  
「おら、指一本動かさねーで俺の事100回ブチ殺して見せてくれよ」  
 そう言ってかかってこいと言わんばかりに手招きする。  
 何を言うのかと思えば……麦野はそう考えてから戦慄した。  
 今の今まで感覚が鈍っているのは何かの薬のせい『だけ』だと思っていたのだ。だが――、  
「使えねえんだろ? あん時テメエの能力が中途半端に掻き消えた瞬間気が付いたんだ――ここは対能力者の為のトラップがごまんと張り巡らされてるんだって事をなあ」  
「あ、ああ……」  
 唯一の頼みの綱である筈の能力が使えない。ましてや体の自由も効かない状況が麦野の絶望感を否応なしに煽る。  
「テメエがこの分じゃあ他の連中もとっくの昔に全部始末されちまったかもしれねぇな。どうすんだよこのオトシマエはよ。何時もみたいにお偉い超能力者(レベル5)の力で何とかしてくれませんかねー、む、ぎ、の、さ、ん、よ?」  
 浜面からの決定的な一言。それを聞いた瞬間麦野の中で何かが音を立てて壊れた。  
 麦野はころっと脱力した様に横を向いた。そして……、  
「うぅ……、ぐすっ、ぐすっ」  
 子供の様に顔をくしゃくしゃにして泣く麦野に今までの威厳は無い……いや、そんなものはもう彼女には関係無い。能力を奪われた――最後の支えを失った彼女に今の重圧を耐える事など不可能だった。  
 すると、今の今まで無表情を通して来た浜面の顔にある変化が。  
「嘘だろ? 麦野を泣かせちまった……」  
 そう呟いた表情は眉間に皺を寄せてまるで困っている様な感じだ。  
 浜面はくしゃくしゃっと自分の髪を掻き回すとよいしょっと麦野の側にしゃがみこむ。  
 先程と同じように、だが相変わらず困った様な表情はそのままに、  
「麦野」  
 名前を呼ばれて始めて浜面が目の前に居る事に気が付いた麦野は、泣き濡れた瞳を見開いたかと思うと叱られる子供みたいにギュッと目を閉じた。  
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」  
 浜面はそんな麦野の姿に溜息を付く。  
 それは当然麦野の耳にも届いて、  
(あ、呆れられた……浜面に呆れられた……)  
 こんな無能者、今更呆れられて驚く事も無い筈なのに、やっぱり面と向かえば傷も付く。  
 
「ひ……い……」  
 絶望に泣き叫ぶ為に麦野は大きく息を吸い込んだ。このまま泣き叫んで心臓でも破裂してしまえばいいと絶望して。  
 だが麦野はその悲痛な心の叫びを口から発する事は出来なかった。  
 それは浜面に唇を塞がれたから……。  
 驚きに見開かれる瞳。そして初めてのキスは血の味がした。  
 ずるり……浜面の唇が麦野の頬を滑る。そしてそのまま浜面は横滑りして、麦野の上にどっと倒れ込んだ。  
「はま、づ、ら?」  
 呆然として名前を呼ぶ。しかし答えも無ければピクリとも動く気配も無い。  
「浜面ッ!? おい、どうしたのよ浜面ああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」  
 2度目は悲痛な叫びの様に。そして今度は流石に届いた様で浜面がゆっくりと体を起こした。  
 すると浜面の口から零れた何かが麦野の顔にポタポタと落ちる……鉄錆に似た臭いと共に。  
「いい雰囲気ん所で寝ちまったぜチクショウ」  
「は、浜面、アンタ口から血が……」  
 麦野の言葉に浜面は慌てて袖で口元の血を拭う。  
 そして頬に血の跡を付けた浜面は自嘲の笑みを浮かべると、  
「格好良く……ってのは難しいなぁ麦野。つか今回は全力で嫌われる予定だったんだが……」  
(嫌われる? 私に、何で?)  
 麦野が言葉に出さず相槌を打つ中、浜面は1人饒舌になって、  
「予定が狂った。罵倒は予測してたが……まさか泣かれるとは思わなかったぜ。で、だ。泣き顔見てたらお前の事が放って置けなくなっちまった。だから麦野。さっきの続き、最後までしていいか?」  
 さっきの続きと言われてドキッとした。  
 さっきと言われると、やっぱりさっきのアレ。つまりは……。  
「は、はま、は、は」  
 咄嗟に何を言っていいのか判らない。  
 ただ浜面はハッキリと言ったのだ――『お前の事が放って置けなくなっちまった』と。  
 まるでそれは愛の告白の様では無いか?  
 先ほどからの流れからすれば、この後どんなどんでん返しが待っているかもしれない。  
 だが、そんなリスクの事など百も承知だと麦野は思う。  
(私はそんな事ぜぇんぶどうでも良くってさ、結局浜面の気を引きたい訳だ)  
 誰かの口癖の様に心の中で呟いた。  
 思えば怒鳴り散らす時も使いっ走りにする時も何処かで彼の姿を目で追っていた自分を思い出す。  
 そしてついさっき、目が覚めて浜面の顔を見てどれ程ホッとした事か。  
 もう嘘は付けない。  
 この先地獄が待ち受けようともそれが浜面の与えるものなら甘んじて……いやむしろ嬉々として受けようと心に決めて。  
「す、好きにしな」  
 流石に面と向かっては恥ずかしかったのでプイッと横を向いて短く答えると、  
「お、そりゃまた太っ腹だな」  
 そう言って浜面が無遠慮に腰の辺りを撫でて来た。  
「テメエ今何触りながら言った!」  
 実は触られただけで熱くなった事をごまかず虚勢なのだが、怒鳴ってしまってからまた不安になった。  
 だがそれは顔中に降り注ぐ浜面からのキスであっと言う間に掻き消える。  
「ん」  
 くすぐったさともどかしさに声が漏れる。  
 本来直情径行の強い麦野は何でもストレートが好きだ。それをこんな前戯にもならない愛撫では燻りばかりが募ってしまう。  
 と、それを察したかのように胸を揉まれた。  
「ふ、ん」  
 その事に少し安堵しながらも、やっぱりもどかしさは募る。  
 
「……まづらぁ、ブラぁ……」  
「お、おう」  
 体が自由なら自ら外している所だが仕方ない。  
 浜面にされるがままにブラを外させた。  
「む」  
「何だよ麦野」  
「……手馴れてる」  
「ブッ……、ば、馬鹿言えッ」  
「そこで慌てるなんてあーやしーなぁ、はーまづら」  
「いやー、流石は麦野だ。やっぱブラもすげーなぁ。おい、Eか? Fか? まさかGなんて……」  
「……何に話しかけてるのかなぁ、はーまづらぁはぁぁ……つか恥ずかしいからあんまりじろじろ見んな」  
「へいへい」  
 場違いな状況でこんな場違いなやり取りをする2人の度胸は如何に。  
 いや、この先の事を考えればこれくらいは序の口だろう。  
「悪いな、こんな冷てえ床の上でよ」  
 麦野の耳元で浜面がそう囁く。  
「今更……ならお前が温かくしてくれればいいでしょ? それとも自信が無いか?」  
「ほほう、流石麦野さんはビックマウスでいらっしゃる……」  
 浜面はそう言って一度言葉を区切ると、  
「そんなら遠慮無く行くぞ」  
「テメエが遠慮してる姿なんか見た事……あんっ」  
 麦野の言葉を遮る様に浜面の手が麦野の胸を力強く鷲掴んだ。  
 服の上からでも判るくらいたっぷりとした肉の塊を堪能する様に揉みしだく。  
「ん、ん」  
 まだ足りない、まだ足りないとは思っても、麦野は感じる刺激に声が出てしまう。  
 ぎゅっぎゅっとまるで乳でも搾る様に先端に向けて扱かれると何かが出てしまいそうだ。  
 と、唐突にその破裂しそうな頂きを摘ままれた。  
「ああんッ!」  
 思わず大きな声が漏れて一番驚いたのは麦野だった。  
 ハッと我に返って浜面の顔を見ると、こちらも驚いた表情と視線がぶつかった。  
「あ、こ、これは……」  
 思わず意味も無く、だから何も考え無しに話し始めようとした矢先、摘ままれてジンジンしている先端をくるくると転がされた。  
「あんッ、んん、は、はっ、うん」  
 まるでダイアルでチューニングでもされている様に、摘ままれた個所を捻られる度に声が出る。  
 そのまま暫くいい様に泣かされた後、その手が胸から離された。  
「くぅん……」  
 思わず物欲しそうな声が出てしまうが今更と言う感じで麦野は先ほどの様な反応はしない。  
 浜面の指がみぞおちに当てられ、そこから臍へ、臍から更に下へと探る様に下りて来る。  
「ふ、ぅう」  
 期待に喉を鳴らす麦野。そしてそんな麦野の期待に答える様に、浜面は一旦膝の辺りまで手を下ろしてから太ももの内側をなぞる様にスカートの中へ潜り込ませた。  
 スカートの中は既に熱く湿り気を帯びていて、何処を責めれば良いのか容易に知らせて来る。  
 浜面はそれに従ってストッキングの上からそこを撫でてみた。  
「あはっ」  
 浜面の触れた部分からゾクゾクっとした感覚が走って麦野を悦ばせる。  
 ここが良いのかと確信した浜面は、指先に力を加えると少しだけ布を抉る様に何度もそこを擦ってみた。  
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」  
 
 浜面の指のリズムに合わせて麦野が切れ切れに歌う。  
 本当なら浜面にしがみ付きたい所だが、まだ力が入らない為成すがまま。  
 だがそんな不自由さが麦野の隠された被虐心に火を付けたのか、あっという間に布地はぐしょぐしょになって浜面の指に絡み付いて来る。  
 このままではイカされる……その事に麦野は慌てた。  
「あ、まづらぁ……」  
「おいおいついに名前すらまともに呼べなくなって来たか?」  
「んぅ、いい……」  
「いいのか? よしっ」  
 麦野の言葉に浜面の指の動きが更に大胆になる。  
「あ、あ、ち、ちがうちが……でも、いい……」  
 否定しようと思うのだがふわりとした感覚に思わず流されそうになる麦野。しかしこのままでは終わってしまう、と名残惜しさも振り払って、  
「馬鹿ぁ……しろってぇ……ぶち、こめよぉ……私……マ○コぉ……」  
 余りにもストレートな物言いに浜面も一瞬何を言われたのか理解出来なかった。  
 そして理解すると手を止めて溜息を付く。  
「んあ……あに……溜息ついて……?」  
「やっぱり麦野なんだなぁーって思ったんだよ」  
「当たり前だ……誰……相手してるん……うんん……」  
 途切れ途切れに毒づいていたのも胸を揉まれて軽く一蹴されてしまう。  
 それでも今の麦野はそんな自分の姿を受け入れ、愉しんでいた。  
 だが、  
「悪いな麦野」  
「ぅん?」  
 謝られた意味が判らず浜面を見つめると、その浜面は器用に片手で自分のズボンを下ろした。  
 そしてパンツの中から自分自身を取り出して見せるのだが、  
「どおやら血が足りねえみたいでな……ハハハ、すまねえ、じゃあすまねえよな、クソッたれッ!!」  
 最後は自分に向けての怒りなのだろう。浜面はだらりと力無く垂れ下がった自分自身をぐにゃりと握りしめた。  
「すまねえ……っっとうにすまねえッッ!!」  
 浜面の指が力を帯びて白く、そして相反する様に浜面自身はどす黒く変色して行く。  
 そんな様を見つめていた麦野。血が足りないと浜面は言う。それは多分さっきの出血の事だろう。  
 あの量となると内臓を損傷している可能性もある。  
 止めるべきた、そして浜面を止めるべきだと思う。  
 だが、今目の前でプライドをズタズタにされた浜面の姿を見て止められるのか?  
 そう考えた麦野は、  
「浜面、ちょっとこっちに来な」  
 その言葉にハッと我に返った浜面は、麦野の瞳の魔力に吸い寄せられるようにフラフラと近付いた。  
「ほら、テメエのお粗末なそれを私の口ん中に突っ込みな」  
「お、おい」  
 その言葉の意味を理解した浜面が躊躇する。無駄だとでも言おうとしたのだろうが、  
「早くしなよ。こっちも熱が冷めんだろーが」  
 その言葉に従って麦野の頭を跨いで口の中に自身を押し込む。  
「むぐ……」  
 麦野の口の中には妙な味が直ぐに広がる。  
(これが浜面の味……)  
 そう考えると否応無く芯が熱くなる。  
 この熱を浜面にも伝えたい……そんな気持ちのままに麦野は一心不乱に浜面を吸った。  
 舌を先の割れ目や余り皮に絡ませた。  
 
 時には喉の奥にまで押し込んで訳も判らぬままに締めつけた。  
 上顎や下顎に舌で擦りつけ、刺激を与える為に甘噛みもした。  
 そうして口腔の中で弄ぶ事暫し、  
「……ろあぅ」  
 唾液と一緒に吐き出すと浜面自身は隆々と立っていた。  
「む、麦……」  
「……いいから、喋ってる間に萎えたらブチ殺す」  
 その言葉に浜面は頷くと麦野の下半身に移ってストッキングと下着を一緒にずり下ろした。  
 一見するとどころかまるで強姦のそれ――だが麦野はそれでも良かった。  
「行くぞ」  
「間違えないでよね、まーまづら」  
「うっせ。処女膜ブチ破られても泣くんじゃねーぞ」  
「だ、誰が処じ――」  
 言い返そうとした瞬間、不意打ちの様に浜面自身が侵入した。  
「あぐッ」  
 圧迫感に声が漏れる。だが思ったより痛くないのは薬のせいか、それとも浜面の茶々で気が削がれたせいなのか。  
「あったけ……」  
 浜面の声が聞える。  
 それだけで麦野は何だか妙に満たされて……、  
「泣くなよ麦野。やっぱ……」  
「ば!? い、今更止めやがったら本っ当にブッ殺すんだから!!」  
「へいへい、色っぽいお話ですこ、とッ!」  
「あん!」  
 話ついでにズンと奥まで突き上げられて思わず叫んでしまった。  
「浜ぁ……」  
 カチンと来て怒鳴ろうとした所で、ずるりと半ばまで抜き取られてゾクゾクと来た。  
「ふああ……」  
 そこへもう一度。  
「んっ」  
 もう一度。  
「あんっ」  
 やがてたどたどしい動きはリズミカルな抽送に変わり、  
「んっ、うんっ、うんっ、うんっ、うんっ」  
 麦野はすっかり浜面の……正確には自分を内から突き上げる浜面自身の虜になっていた。  
「ん、うん、んんっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ」  
 徐々に上がるボルテージ。更にそこへある一点が浜面とぶつかり始めるとその刺激は倍速的に盛り上がり、  
「は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は」  
 それに合わせて浜面の動きもどんどん速くなって行く。  
 そして、  
「う、でッ!!」  
「はあっ!?」  
 浜面が叫びと共に抱きしめながら深く串刺した瞬間、麦野の奥の方で何かが弾けた。  
「あ、ひぃ……」  
 ビクッビクッと腹の中を満たすじんわりとした温かさ。それを麦野は呆けた頭の片隅で幸福として感じ取っていた。  
 
 
 
 あれからどれくらいの時間が経ったのか、麦野の側に座り込んでいた浜面が急に立ち上がった。  
「さて行くか」  
 その言葉と行動に麦野はつい今しがたの幸福感が音を立てて崩れる様な錯覚に陥った。  
 するとそれを察した様に浜面が頭をなでて来る。  
「んな捨てられた猫みたいな顔すんなよ」  
 それから視線を逸らすと、  
「嘘、なんだ……」  
「え?」  
 意味が良く判らない、と麦野がそんな表情をすると何故か浜面は照れくさそうに笑った。  
「助けは必ず来る。皆も平気だ。だから心配するな麦野」  
 もう一度麦野の髪をくしゃくしゃとしてから浜面はもう一度立ち上がる。  
 そしてくるりと背中を向けたその時、麦野はその姿に愕然とした。  
 腰の辺りに大きな黒い染みが有り、その中心には節くれだった鉄筋の様なものが生えている。  
「は、はま……」  
「1人くらい俺の彼女にってよぉー、お前らに初めて会った時はそんな事を思ったりもした訳よ。それがなぁ……どーしてこうなっちまったんだろうなぁ、俺」  
「…………」  
 言葉も無かった。多分あの時の吐血は『これ』が内臓を傷付けているのだ。  
 外傷と痛みは薬で押さえているのだろうが、あの出血は放っておけば確実に死ぬ。  
 死。  
「なぁんて言うと思ったかよ、麦野ぉ」  
 なのに浜面は何故笑いかけられるのだろう。  
「合図が来たら動け」  
「あ、合図って?」  
「でかい花火が上がる。その合図で走れ」  
「は、走れって私……」  
「もうすぐ動ける。能力も……多分使えるようになる」  
「え?」  
 言われて体を起こしてみると、まだぎこちないながら体を支える事が出来た。  
「ナノマシンは便利だよなぁ……。ホントはお前の方がヤバかったんだ。何で俺なんか庇おうとしたのかねぇ……」  
 麦野は浜面の言った言葉の意味を噛締める。  
 あれは床が抜けた瞬間咄嗟に原子崩し(メルトダウナー)の能力で辺りの柱を全て切り崩して落下を止めようとした時。  
 1人ならそんな事はしない。  
 他の連中でもきっとそのままだ。  
 浜面だったから。浜面が床に消えそうになった瞬間頭が真っ白になって……。  
「ごっつぉーさん」  
 ぼぉっとしていたら急にそんな事を言われて手を合わされて拝まれた。  
「お、お粗末さま……」  
 良く自分も切り返したと言う返事に、どうやら浜面は満足したのかまたにっと笑う。  
「じゃ、ちょくらパシって雑用こなして来るわ」  
 そう言って浜面は小走りに、床の証明に沿って暗闇の中に消えて行く。  
「……浜面」  
 麦野中の一抹の不安が言葉になって零れ落ちる。  
 と次の瞬間轟音が轟き、続いて爆風が麦野の体を木の葉の様に吹き飛ばした。  
 
 ごろごろっと転がってやっと止まって浜面の行った方向を見据えると、朦々とした煙が闇を引き連れてこちらに迫って来る。  
「はまづらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  
 血を吐く様な麦野の叫び。しかしそんな麦野も飲み込んで、暗闇は全てを己一色で染め上げて行った。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「う、うぅ……はーまづらぁ……」  
 薄型ノートサイズの液晶端末を抱きしめてぽろぽろと涙を流す麦野を、他のメンバーたちは遠巻きに眺めていた。  
「麦野さんは何を超泣いてるんですか?」  
「さあ。滝壺は何か知ってる?」  
 ボブカットにニットのワンピースを着た少女、絹旗最愛と、金髪碧眼に学生服をアレンジした様な格好の少女、フレンダはお互いに顔を見合わせると、隣でぼおっと立っているジャージ姿の少女、滝壺理后に話を振った。  
「麦野が気分転換したいって言ったから。ちょっと面白いものを教えたの」  
 そう言って滝壺は麦野が持っている物と同じ情報端末を取り出すと、その画面に指を走らせた。  
 するとそこに現れたのは、  
「携帯小説?」  
 絹旗が指差してそう聞くと、  
「私が友達の友達の知り合いから教えてもらったの」  
「それはまた超遠い所からの情報ですね」  
「で結局、その携帯小説と麦野の関係は? それだけじゃ話が全く見えない訳よ」  
 すると滝壺はまたも画面を操作した。  
 パッと画面に現れたのは、ジャンルやらシチュエーションやら背景やら登場人物やらの、それは事細かく設定選択出来るメニューの数々。  
「好きなものを好きな組み合わせで作ると勝手に小説が出来上がる。登場人物の性格設定もかなり詳細に出来るから実在の人物と自分を主人公にした小説なんかも出来るんだよ」  
「超難しそうですね」  
「結局、それって楽しい訳?」  
「大丈夫だよ、きぬはたもふれんだも。私が出来る位だから皆も出来る。結構楽しいんだよ」  
 そう言って滝壺が画面の再生ボタンを触れると『浜面仕上と滝壺理后の愛と欲望の蜜月』と言うおどろおどろしい題名が表示される。  
「な、何ですかその超いかがわしいタイトル!? C級、D級どころじゃ無い臭いが超プンプンします!」  
「映画じゃないよ、きぬはた。小説」  
「す、すいません」  
「こ、これって滝壺が作った訳? え、ええッ!?」  
 興味が無いのかと思えば急に食いついて来た2人に滝壺は携帯端末にチラッと視線を落としてから、それを2人の前に差し出すと、  
「読む?」  
 その言葉を待ってましたとばかりに絹旗とフレンダは奪い合う様にそれを手にとって部屋の片隅へ。  
 ポツンと取り残された滝壺は、  
「死なないでぇ……はーまづらぁ……ぐすっ……」  
(後でむぎのの小説読ませもらおう)  
 その後アイテム内でこの自動SS作成アプリが流行ったとか流行らないとか。  
 
 
 
END  
 
 

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