「はふう…とうまの匂いがするんだよう…」  
 上条当麻が登校して数時間。まるで紅茶カップのような、純白に金刺繍を施した修道服  
の少女インデックスは、その朝まで部屋の主である少年がユニットバスの中でくるまって  
いた毛布を抱き枕のようにしながら、ベッドの上を転がっていた。  
 修道服のフードは当の昔に外れてベッドの脇に落ちており、彼女の長い銀髪がベッドの  
上に広がっているのだが、瞳を半分閉じて、半ば恍惚とした表情で毛布に顔を埋めるイン  
デックスはそのことにも気付かない。少女の相棒でもある三毛猫が『カマってくれー』と  
ベッドの上に飛び乗ったが、直ぐに、恍惚となった少女には全く相手にしてもらえないと  
悟ったか部屋の隅で丸まってしまった。  
 
 外は雨。  
 
 季節外れの早い台風の影響で前線が刺激されているとかで、ここ数日は同じような天気  
が続いている。  
 少年は洗濯物が乾かないし布団も干せない、と妙に家庭的な文句を呟きながら登校して  
いった。それ以前に『こんな暴風雨で授業やんのか?』とも言っていたが、まだ帰ってこ  
ないところを見ると、少なくとも学校の門は開いていたのだろう。  
 とは言え、インデックスもこんな天気ではこっそり外出しようという気にもなれない。  
 上条がやむなく部屋の中に干していった洗濯物も、晴れていれば上条のものが外へ、イ  
ンデックスのものは中に干すことになっているのだが、今日は部屋の中で男物のトランク  
スと小さな縞々の三角形が並んで吊るしてある。  
 なんだかその事が急に気恥ずかしくなって、思わずベッドに転がってみたのだが、今度  
は上条が畳んでベッドの上に乗せていた毛布に突っ込んでいくことになってしまった。天  
気のせいもあって何日も干していない毛布には上条の体臭が多少なりとも染み付いていて  
――  
 いけないと思いながらも、上条の『におい』に気持ちの箍のようなものが外れてしまっ  
た。その後、マタタビに酔った猫みたいに上条の毛布から離れられない。  
 
 ちょっと汗の匂いのする毛布に顔を突っ込むと、なんだかその毛布の主に抱きついてい  
るような気もする。もっとも、その少年に噛み付いているときには抱きつく以上に近くに  
くっついているのだが、本人にその自覚がない、と言うか薄い。  
 『噛み付く』という行為にしても、興奮した時の癖に過ぎなかったはずなのに、いつの  
間にか上条を取り巻く少女たちよりも近くにいたい、触れていたい――そんな思いが暴走  
してしまっているが故の行為になっているのだろう。これまたインデックス自身の自覚は  
まだ薄いのだが。  
 無意識に抱きしめた毛布を甘噛みする。  
「んっ…」  
 鼻腔いっぱいに上条の体臭が広がる。  
 全身に震えが走り、心臓の鼓動が早くなる。顔が熱くなってきた。  
 さらに強く毛布を抱きしめると、衣服が肌を擦って切ない感触が電流のように身体を巡  
る。  
 
「とうまのバカ…どうしてお風呂なんかで寝ちゃうんだよ…」  
 もちろん、なぜ上条がユニットバスに引きこもってしまうのかは――理屈は判る。  
 どうひっくり返しても上条は男、インデックスは女だし、それに高校生くらいの暴走し  
がちな時期、特に性に強く興味を抱く時期に同衾などして間違いが起こることを上条は避  
けたいのだ。  
 上条は、何かの拍子に間違いが起こったときにインデックスを傷つけるのではないかと  
恐れているのだろう。  
 
 
 でも。  
 
 上条だって覚えているはずなのだ。  
 少女自身も覚えていない『自動書記』と『首輪』術式を上条がその右手で破壊して、彼  
女が始めての自由を得たとき。  
 あの真っ白な病室で。  
 心の底から勇気を振り絞って言ったあの言葉―――  
 
『インデックスは、とうまの事が大好きだったんだよ?』  
 
 嘘偽りのない真実の気持ち。訂正するとすれば『大好きだった』ではなく。  
 今も大好きなのだ。何にも代えがたいほどに。  
 その気持ちは小さくなるどころか、彼女の小さな胸から張り裂けそうなほど大きくなっ  
ていっている。  
 修道女、つまりシスターは神にすべての愛を捧げる者、つまり神と結婚している立場だ  
という。もちろんそんな事は理解しているのだが、少女がイギリス清教のシスターという  
身分にあるのは、もっぱら頭の中の10万3千冊の魔道書のためだ。  
 信仰心が薄れたとか、イギリス清教から離れようとか、そんなつもりはないけれども。  
 むしろインデックスという少女が自分の在りようを振り返ったとき、そこにあるのは宗  
教や魔術、ましてや科学などといったものではなく。  
 
 上条当麻という、自分を自分たらしめてくれた少年。  
 その隣に居たい。  
 それが、インデックスという少女の望みであり、彼女にとっての存在意義なのだ。  
 
 毛布などでは物足りない。何にもなくてもいい。もし、何か間違いが起きてしまったと  
しても―――  
(…ち、ちょっとそこまでは……か、考えないほうがいいかも)  
 いろいろと生々しい妄想に至ってしまい、顔を火照らせながらもその生々しい部分だけ  
を意識から無理やり排除する。  
 深く息を吸い込んで、吐いた。窓の外で強さを増し始めた風が、送電線を叩きながら建  
物の間を駆け抜け、甲高い音を立てているのが聞こえた。風が強くなるのに合わせて、窓  
を叩く雨の音も激しくなる。あまり酷いようならシャッターを閉めとけよ、と上条が言い  
残していったが、電動シャッターの使い方は未だによく判らない。  
 ガタガタッ! 突然派手な音を立てて窓が風雨に揺れた。  
「ひゃうっ」  
 少しだけ落ち着いてみると、大丈夫だと判っていても雨風の音にちょっとビクビクして  
しまう。  
 が、今回はそれが彼女にとって有利な材料になるのではないかと閃いた。  
(たしか日本の台風ってすごいんだよね……大袈裟に怖がって見せたら、とうまもベッド  
まで出てきてくれるかも…)  
 どうも今夜台風が直撃するらしいと言うのは、朝、上条がテレビを見ながら言っていた。  
 ただでさえ季節外れなのに、さらに大型の台風のようだから、建付けが色々と悪いこの  
学生寮なら『か弱い女の子』が恐怖を煽られても不自然でない程度の騒音や振動も起きる  
だろう。そこを利用するのだ。  
(…今夜はこんな毛布じゃなくてとうまと…)  
 これと言った理由もなく、それでもこの思い付きが上手く行くような確信めいた感覚に  
頬が緩む。  
「えへへ…今夜は離さないんだよ、とうま…?」  
 
 上条が使っていた毛布を抱きしめて、頬が緩む顔をその毛布に押しつける。  
「へへ…とうまにぎゅーってしてもらうんだから…」  
 インデックスが半ば悶えるようにベッドの上を転がりながら往復していると、不意に玄  
関のドアが開いた。  
「あー、ちくしょうベタベタじゃねーか…! 傘の意味無いですよっ!」  
「ひゃうっ!」  
 上条が帰ってきたのだ。まだ昼には早い。台風の接近に授業も中断となったのだろう。  
買い物袋を抱えているところを見ると、無理やりスーパーに寄ってきたようだ。そう言え  
ば冷蔵庫の中はずいぶん閑散としていた。  
 
「とっ、とうま、私は別にとうまの毛布がとうまの匂いがするから抱きついてたワケじゃ  
無くって! ひ、ヒマだから寝ころんでただけかもっ」  
 
 上条が思っていたより早く帰ってきた上に、その毛布に抱きついてニヤけていたところ  
を見られたと思ったか、インデックスが慌ててまくし立てる。赤面していることに本人は  
気が付いているのだろうか。  
 しかし、それに対し上条は、  
「…? 何のことかよく判らんが…。昼飯、弁当作ってあるけど早く帰ってきたから何か  
暖かいのにしよう。でも、濡れちまったからちょっとシャワー浴びさせてくれ、悪いな」  
 と言って、鞄とスーパーの袋を部屋に置くと、着替えを掴んでユニットバスへと消えて  
いった。  
 一瞬心臓が喉から飛び出すかと思ったが、自分の恥ずかしい行為に上条の注意が行って  
いなかったことに安堵する。  
 インデックスは上条がユニットバスに消えたのを確認すると、慌ててフードを拾い上げ、  
乱れた髪と修道服の裾を整えてベッドの縁に腰掛けた。その際、また上条の毛布を抱えよ  
うとしたのに気付き、慌てて毛布をベッドの端に追いやった。  
 なんだか誤魔化しっぽい気もしたが、実際誤魔化しなんだからいいやとテレビのスイッ  
チを入れる。  
 テレビの中では、若い女性アナウンサーが雨合羽に今にも壊れそうなビニール傘という  
出で立ちで、どこかの港からマイクに向かって悲鳴にも近い声で台風の様子をレポートし  
ていた。上条も言っていたが、なんで危ないところにわざわざ女性アナを連れて行って中  
継するんだろう…と思いつつ、画面に集中しようとする。さすがのインデックスも、天気  
予報くらいは見れるようになってきているのだ。  
『台風は…このまま北東にルートを…ひゃあっ! し、失礼しました――』  
 朝の予報通り、台風は神奈川県を縦断して今夜には東京都西部に直撃するらしい。こん  
な露骨な上陸ルートを取る台風も稀有なのだが――。  
「…作戦決行かもっ!」  
 
 
「何だ? 作戦って」  
 気が付かないうちに上条がシャワーから出てきていた。案外長くテレビに気を取られて  
いたらしい。不意を突かれて、ガタタンッ! とベッドからずり落ちる。  
「…まあ良いけど。でも外に出れないから食いまくりー、とかは困るぞ。買い物行くのも  
危ないんだからな」  
 聞かれて恥ずかしい台詞を聞かれたと耳まで真っ赤になっていたインデックスだが、今  
回ばかりは上条の朴念仁っぷりに感謝する。なにしろバレては元も子もない。  
「そんなに食べることばっかり考えてないかも! ところで…とうまは今日はもう部屋に  
いて…くれるの?」  
 インデックスの言葉に、キッチンでまな板と包丁を取り出していた上条が振り向く。  
「あ? ああ、課題出されちまったからそいつを片付けなきゃならんけど、この天気だか  
らな、どこにも出かけられないな……。せっかく早く終わってもなあ。悪いな、インデッ  
クス、どこにも連れてってやれなくて」  
 予想外の上条の優しい言葉に、これまでの妄想が被さって再び顔が火照ってきた。  
「ううん、違うんだよとうま、こんな天気だもん出かけられないのは判ってるよ…。一人  
で待ってるんじゃなくて、とうまと一緒だからそれでいいんだよ」  
 必要以上に饒舌になってしまっていることに少し焦ったが、キッチンに立つ上条もイン  
デックスの台詞の後、一瞬目が会うと  
「そ、そうか、それならいいんだ」  
 と少し慌てて目を逸らした。その顔が少し赤くなっていたことは見逃さない。  
 
(私だけの思い込みじゃないよね…? とうまだって…)  
 
 
 それから、特に何事もなく一日は過ぎて――もちろん台風は接近中で天気は荒れる一方  
だが――、入浴も済ませた夜更け。  
 二人で漠然とテレビを見ながらも、インデックスが妙に擦り寄ってくることに時々不思  
議そうな目を向けていた上条だったが、ふと顔を上げると、  
「お? もうこんな時間か。明日休みってもさすがに寝るかー。じゃあ、テレビ消すぞイ  
ンデックス?」  
 と言って立ち上がった。  
 インデックスが一瞬ビクッと震える。  
「えっ、あっ、そうだね、私も着替えて寝るからっ」  
「おー、じゃあな、お休みー」  
 そう言うと上条は毛布を抱えてユニットバスのドアの向こうへと姿を消した。  
 寝巻きにしている上条のお下がりのシャツを取り出す。修道服を脱いで、シャツを羽織  
ると、その瞬間、シャッターが折からの暴風雨に大きな音を立てた。  
「ひゃううっ」  
 
 飛び跳ねるほど(実際飛び跳ねたかもしれない)驚いて、ボタンを嵌める手が震える。  
『大げさに怖がって見せる』作戦だったはずなのに、暴風雨の立てる物音が理由もなく不  
安を掻き立てて――本当に怖くなってきてしまったのだ。  
 テレビを見ながら上条に擦り寄っていたのも、インデックスの事前の作戦でもなんでも  
ない。ただ単に、外の様子が怖かったから少しでも上条の近くに居たかっただけなのだ。  
 激しい物音にビクビクしながらシャツのボタンを嵌める。ボタンホールが一段づつずれ  
てしまっている事には全く気づかなかった。  
 とりあえず部屋の電気を消して、ちょっとだけでも我慢しようと枕を抱いて横になる。  
 刹那、大量の弾丸でも叩き込まれたような雨音がシャッター越しに響いた。  
 
「きゃうっ、やだっ、とうま、とうまーっ」  
 
 思わずユニットバスのドアまで、何度か躓きながら走り寄っていた。そのままドアを叩  
く。ほんの数秒、しかしインデックスにとっては何時間にも思えた数秒が過ぎて、  
「どうしたんだよインデック……うわわっ」  
 大声を上げてドアを叩くインデックスに、テレビ機能を立ち上げていた携帯を脇に置い  
て立ち上がる。そのままバスタブから立ち上がると、ドアを開いた。  
 ドアの向こうには、枕をきつく抱きかかえて涙目になったインデックスが立っていて、  
上条の顔をその潤んだ碧眼で見つめたかと思うと、  
 
 枕を捨てて、飛びつくように上条へと抱きついた。  
「あうう…とうまぁ…」  
 インデックスは締め付けるように腕を回し、潤んだ…というより半泣きの状態で上条を  
見上げている。  
 強く抱きすくめられているせいで、銀髪碧眼の少女のささやかな膨らみが意外と強い自  
己主張をしていることに気がついてしまった。しかも、掛け違えたシャツのボタンのせい  
で色白な肩から胸元までが見えてしまっている。その上、上条にとっては訳もわからずに  
インデックスが興奮してしまっているために、その肌は頬から胸元に至るまでほんのりピ  
ンク色に上気していて――  
 
 驚きすぎて逆に冷静になった頭が、理性を裏切って蜂起しようとする下半身の状況を知  
らせてきた。慌ててインデックスを引き剥がし、それでも目だけは離さずに(ちょっと前  
かがみなのは許してほしい――誰に許しを請うているのかは知らないが――と考えつつ)  
涙目の銀髪少女に問いかける。  
「落ち着けインデックス、どうしたんだ? まず何があったか判るように話してくれ」  
 しかし、パニック状態の少女は再び上条に縋りつく。  
「とうまぁ…やなの、やなの…怖いんだよぉ…」  
 居候の少女が何かに怯えているらしいことは判ったが、  
(い…いんでっくすサン? 貴女のお腹がっ、貴女のお腹がっ!)  
 自由と開放を求めて蜂起した、もとい、してしまった青少年の主張がインデックスの柔  
らかなお腹に押し付けられた格好になっている。  
(カミジョーさんにも理性の限界というものがっ)  
 二人それぞれにパニックに陥る夜半過ぎ。  
 
 夜はまだまだ長い。  
 
                 ─*─  
 
 兎にも角にも、押しつけられたままでは上条も理性が持たない。もとより露出の高い格  
好で抱き付かれているのだ。インデックスの柔らかなお腹の感触以外にも、胸に埋められ  
た顔からの荒い吐息とか、気づいてしまった少女の胸の膨らみの柔らかさとか――そうい  
ったものが確実に上条の理性を削り取ってゆく。  
(こっ、このままではっ)  
 インデックスを引き剥がさずに某所からは離すべく、  
「ひゃあっ」  
 強引にお姫様抱っこに抱え上げた。  
 これはこれで充分恥ずかしいというか、逆に銀髪の少女の上気した鎖骨周りとか、そこ  
から南下して少しはだけた胸元とか、艶やかな太腿とか、さらにはその付け根の白い三角  
形が見えてしまった。閉じ込められていることに抗議活動を続けていた上条の分身が、そ  
の抵抗をさらに強める。  
 一瞬抱き上げられたことに驚きの表情を浮かべたインデックスも、上条の首に腕を回す  
とそのままそのうなじに顔を埋めた。  
 少しだけ落ち着いたのだろうか、口調に若干怯えが残るものの、上条のうなじに顔を埋め  
たまま小さな声で呟く。  
「とうま……おっきな音がして怖いんだよ…一緒に居て、お願い…」  
 とは言え、上条自身理性の制御からクーデターを起こされた某所が疼く。その理性自身  
も吹き飛びそうで、答えかねていたところに、  
 ガラガラガラガラッ!!  
 台風は雷まで連れてきていたようだ。大音響が響く。  
「……!! ふえっ、えぐっ、えぐっ、ううっ…」  
 とうとうインデックスも耐えかねたらしい。指が突き刺さるほど強く上条を抱きすくめると  
泣き出してしまった。うなじに涙の暖かな感触が広がる。  
「あー、判ったよ…。今晩だけだぞ?」  
「えぐっ、どっ、どこにも行っちゃ…ダメなんだからね、とうま…」  
 観念するしかないようだ。  
 お姫様抱っこのままインデックスをベッドまで連れて行って下ろす。下ろしてもインデッ  
クスは首筋に抱きついたまま離れないので、止むを得ず――上条いわくあくまで『止むを  
得ず』、その隣に寝転がる。寝転がると、インデックスは上条の胸元へ潜り込んできた。  
 定位置を決め込んだようだ。  
 
 少年の腰が少し引けていることについては、理解を示してやってほしい。  
 携帯をいじりながらも心地よく眠気が体を包みだしていた上条だったが、もはや眠気な  
ど完全に吹き飛んでしまった。  
 銀髪の少女は上条のスウェットをがっちりと掴んで離さない。さすがに涙は引いていっ  
たようだが、それでも大きな音がする度に体を振るわせ、  
「とうま、とうま…」  
 と、縋るように少年の名を呼び続ける。そうやって名を呼ばれるごとに心臓のドキドキが  
激しくなっていくし、不謹慎ながらも硬くなった部分が疼く。  
 しかし、何にしてもインデックスが落ち着かないことには話にならない。胸元に潜り込ま  
れながらも行く先に困っていた左腕を、思い切って少女の背中に回す。さらに、右腕でそ  
の頭を抱えるようにそっと抱いた。  
「俺が居るから…心配せずに寝ろよ?」  
 上条が小さく呟くと、インデックスは顔を上げてその少年を見つめる。  
 涙の跡の残るインデックスのその顔は、怯えからの興奮が冷めないのか何なのか、若  
干紅潮していて、宝石のような碧眼は未だ潤んだままだったが、確かに落ち着いてきたよ  
うだ。上条と瞳を合わせると小さく微笑んだ。  
「…ありがと、とうま……でも、離しちゃ嫌なんだよ…ぎゅって…しててね…」  
 言うとインデックスは再び上条の胸に顔を埋める。  
 
 逆に堪らないのは上条だ。  
(インデックス? そんな顔でそんなことを言われてはっ! カミジョーさんはどうすればっ!)  
 上条の耳元で、どっかで見たような幻視の天使と悪魔が交互に囁く。  
 
『ヤッチャエヨー。禁書だって嫌がるはずねーんだにゃー』  
『そんな誘惑に唆されてはダメなのですよ上条ちゃん! シスターちゃんの清らかな信頼  
を裏切ってはダメなのです!』  
『カミやんは禁書の命の恩人なんだぜい。相手だって既成事実が欲しいんだって』  
『無理やりされて喜ぶ女の子なんて居ないのです! 上条ちゃんにはそれがわかるだけの  
理性があるはずなのです!』  
『そんな理性もとっくに崩落寸前だにゃー。自分だってギンギンのカチカチでもう限界間近  
だろー? 左手をちょこっと下ろしたら禁書のお尻ぜよ? 嫌がるかどうか触ってみるんだ  
にゃー。嫌がりっこないんだぜい』  
 
 そんな、ワケの判らない囁きが頭で響くのを振り払おうと目を血走らせていた上条だった  
が、再び聞こえてきたインデックスのささやき声で我に返った。  
「とうま…起きてる?」  
「あ、ああ」  
「ちょっとだけ、静かになったね」  
 インデックスが、最前のあの堪らない微笑みで上条を見上げている。その笑顔に、再び  
理性がとろけそうになる。  
「とうまがぎゅってしてくれてたから…怖くなくなってきたよ?」  
 どうやら上条の理性は相当な時間を戦っていたようだ。言われてみれば、未だ風雨の音  
はするもののその激しさは成りを随分と潜めている。  
 ああ、そうだな…と口に出そうとすると、スウェットを掴んでいたインデックスの腕が上条の  
首に回る。上条を見つめる碧色の瞳が一気に距離を縮めてきた。  
 
「ねえ、とうま…、お願いがあるの…」  
 
 少しだけ瞳に不安を浮かべて、インデックスが数かな声を絞り出す。  
 インデックスにユニットバスの入り口で抱きつかれてから、休憩を許されることなく高速  
回転を続けていた心臓の鼓動がさらに高まった。  
「…な、何だ?」  
「このまま落ち着いて眠れるように、そのおまじないに、おやすみのキス…して…」  
 その言葉に心臓が破裂するかのような衝撃を受けた上条だったが、何とか落ち着こうと  
インデックスの瞳から一瞬視線を逸らし、再び戻すと、  
(穏便にっ、穏便に済ますんですよカミジョーさんっ)  
 インデックスの額に唇を付け、離した。インデックスのきめ細かな肌の感触が唇に残る。  
 しかし、  
「そんなんじゃダメなのっ…ちゃんと…ちゃんとキスして…」  
 頬を染め、瞳を潤ませたインデックスに詰め寄られた。  
 ごまかしは効かないようだ。覚悟を決める。  
 そのままそっと唇を重ねた。  
「んっ…」  
 少女の唇の、この上もなく柔らかな感触が伝わる。唇が合わさった瞬間、インデックスが  
喘ぐような吐息を漏らす。耐えられない――唇を離そうとすると、  
 インデックスの腕がぎゅっと力を込める。  
 ただ唇が合わさっているだけのキス――それでもお互いの全身に痺れが走り、永遠にも  
思えた十数秒が過ぎて、唇が離れた。  
「あふぅ…」  
 その瞬間、インデックスが再び喘ぎを漏らす。上条の脊椎に耐え難い痺れが走った。  
 それでも、唇を重ねたという照れくささを押さえて、銀髪の少女と瞳を合わせる。  
 頬をピンク色に染め、息を少し乱した少女はキスに酔ったように瞳をとろんとさせていたが、  
上条が自分の瞳を見つめていることに気づくと、  
「もっと…」  
 と、ねだるように呟いた。  
 
 上条当麻、陥落寸前。これが人生ここまでで最大の岐路かもしれないと心が騒ぐ。  
 
 
 焦る上条に、インデックスは表情を溶かしたまま再び呟く。  
「とうま…もっと……だめ…?」  
「なっ…」  
 なんですとー、と続こうとして瞬間的な呼吸困難に陥った。ここまでで、すでに破裂し  
そうなほど激しく動悸していた心臓がさらにレッドゾーンへと回転を上げた。  
 しかしそれは心臓だけのことではない。上条の理性というか自制心というか、そういっ  
たものもすでにオーバーレブぎりぎりだ。  
「ん…」  
 自らが縋りついている少年を見上げる体制になっていたインデックスが、心持ち唇を  
出すようにしながら瞳を閉じた。  
 上条の頭の中で糸のようなものが何本か切れる音が響く。瞬間、銀髪の少女の細く  
小さな体を腕が掻き抱いていた。同時にその薄桃色の唇を奪っていることに気が付く。  
 が、気づいても体は止まってくれなかった。  
「…くふっ…」  
 少女の嘆息に薄く唇が開いた瞬間、その奥に少年の舌が侵入する。  
 大胆な侵略行為に驚いて一瞬目を開けたインデックスだったが、背中や首筋を走る  
言いようのない痺れに身を任せて再び目を閉じた。上条の舌が口腔内を蹂躙する。  
 
 声が漏れた。  
 
「んふっ…ふあっ」  
 自然と、上条の首筋に回していた腕に力が篭る。嬲られる一方だった唇も、いつの間  
にかお互いを求めるように舌を絡み付かせていた。  
 
 唇と舌を求め合う水音が響く。  
 
 風音も雨音も止んでいた。学生寮の小さな部屋に響くのは、少年と少女の不器用なが  
らも淫らに求め合うその音だけ――。  
 
 
 唇と唇が離れた。キラキラと光る橋が二人を繋ぐ。  
 震えるような嘆息とともに、インデックスが上条を見つめる。  
 
 唇が離れたことで、上条に緊張と少しの理性が帰ってきた。  
(や、やってしまったっ……)  
 焦りとともにインデックスを見下ろすと、少女はすっかり表情を蕩けさせて上条を見つめて  
いた。少女のふたつの碧玉が潤む。  
「とうま…私…わたし……」  
 インデックスが、自らの頬に添えられた上条の手を握る。そのままその手をすっかりはだけ  
てしまった胸元へ導くと、緊張した上条が抵抗する間もなくシャツの隙間へと滑りこませた。  
「ちょ、インデックス――」  
 手のひらに、普段は意識していなかったが、それでもしっかりと自己主張をしていた胸のふ  
くらみの、この上なく柔らかな感触が広がる。  
「あふっ…とうまの…とうまの手だぁ…」  
 潤んだその目、今度こそは上条にも判る。  
 
 インデックスの目は、上条を求める目だった。しかし――  
 
 このまま流されてしまっても良いのか。  
 これまでの生活で、インデックスとはうち解けて暮らして行けていると思う。でも、上条当麻  
は記憶喪失なのだ。どうしてこの少女が自分を慕ってくれるのか――その理由は伝聞でしか  
知らない。  
 インデックスという少女が慕ってくれているのは、記憶を失う前の自分であって、今の自分  
じゃない…そう、そのはずなのに。  
 
 緊張でガチガチになった腕を動かそうとする。  
 インデックスの背中に添えられていた手はすっかり硬くなっていて、ようやく動いたと思った  
らぎこちなく肘だけが伸びていき、銀髪の少女の小さいながらも形の良いお尻へと手のひらが  
吸い込まれていった。  
「…っ、ぁあ」  
 慌てて戻そうとして、さらにお尻を強く撫でるように手が動いてしまった。顔をすっかり上気さ  
せ、酔ったように薄く目を閉じたインデックスの唇から切なげな喘ぎが漏れる。  
 手のひらに、インデックスのお尻の柔らかな感触が伝わる。動かそうとしても言うことを聞い  
てくれないのに、感覚だけが研ぎ澄まされているようだ。  
 ショーツの生地越しの柔らかくも張りのある丸みと、直接肌に触れた指が教えてくる、少女  
のきめ細かな肌の吸い付くような感触、さらにしっとりと浮いた汗――その全てが上条の理  
性を破壊しようと脳髄を攻める。インデックス自身も、  
「あん…とうま…ふぁ…」  
 と切なげな声を上げつつ上条の首に回した腕の力を強めていて、抵抗しようとはしない。  
むしろもっと強く少年の手が触れるように、そのお尻を押し付けてくるような感さえある。  
 そして、半ばインデックスに導かれるようにその胸のふくらみへ当てられた手のひらも、想像  
を超えた柔らかさで上条を刺激する。なにより、その真ん中に当たる小さな突起が、思わず手  
のひらに力が入ってしまったことを境に強く自己主張をし出した。そのことが、少女の――そ  
れも他の誰でもないインデックスの胸であることが、上条に限界を超えさせようと強引に背中  
を押す。  
 何とかしようと思っても、緊張した腕を動かそうとするたびに、かえって少女の柔肌を刺激す  
る結果となる始末だ。手を退かそうとする、何度目かの試みにまた失敗した。  
「ふぅっ、あ、あ、とうま――」  
 
 インデックスが嬌声を上げた。確実に艶を増して行くその声に、それでも上条の名を呼ぶこ  
とだけは忘れない。  
 とうま、とその名を呼ぶことだけは。  
 そうして上条を呼ぶ少女の姿に、閃くように上条の脳裏へある日のことが蘇った。  
 
 
 今、腕の中で上条を見上げる少女が、  
 それまでのことなど何も覚えていない病室で、泣き出しそうな顔をしながら言った言葉。  
 
『インデックスは、とうまの事が大好きだったんだよ?』  
 
 インデックスも、あの医者から上条の記憶喪失を聞いている。それが『記憶喪失』などという  
生易しいものではなく、『記憶破壊』であることも。  
 記憶のことは――右手の『幻想殺し』を言い訳にごまかしたが、この少女が、その嘘さえも  
許容してここにいるのだとしたら。あの言葉を言ったのだとしたら。  
 
(…どっちでも、いいじゃないか)  
 上条の緊張が解けていく。  
(でも、今流されちゃ駄目だ――だって俺は――この右手でもぶち壊せない、インデックスの  
想いを守るために…ここに、居るんだから)  
 
 
「インデックス」  
 上条の呼びかけに、潤んだ碧玉が少年の瞳を捕らえる。  
 上条自身は、一旦インデックスから手を離すと、その細い背中に腕を回してぎゅっと力を込  
めた。  
「なあ、インデックス? 正直言って、我慢できそうにない。でも、なんか、流されちゃ駄目な気  
がするんだよ。あの時から…守ってやりたいと思ってる。魔術なんてモノに関わって、色んなこ  
とにも巻き込まれたけどさ、それでも、インデックスが笑っていて欲しいし…俺がそれを出来る  
ならそうしてやりたい。そうしてやりたい――大事な、存在なんだ。だから今、簡単に流されち  
ゃいけないと思う」  
 銀髪の少女が、最初は不思議そうな顔で、次は微笑みながらも徐々に羞恥を堪えるような  
表情になり、最後に上条の胸に顔を埋めた。  
 小さくその肩が震え出す。上条の胸に、暖かい染みが広がった。  
「い、インデックス?」  
「…だ、大丈夫…だよ、あ、あのね、ち、違うの、嬉しいの…」  
 上条の胸元を掴むインデックスの指が力を増す。  
 
「とうまが、わたしのこと、だいじだって、いってくれて…」  
 
 上条の胸がきゅっと締め付けられた。きっと、この少女もそうなのだろう。  
「嘘なんかじゃない。それに、ちゃんと今夜は一緒にいるから、ぐっすり――」  
「うん、ありがと、とうま…とうまの腕の中…あったかいよ…」  
 そう言ってからしばらくして、少女は少年の腕の中で心底安心したような寝息を立てていた。  
 
 
 上条の胸元でインデックスの静かな寝息が響く。安らかな、むしろ満足げとでも言ったような  
寝息に少しだけ安心を覚える。  
 が、格好をつけてみたと言っても実際のところは――押さえきれない部分が残っているのも  
間違いないところで。  
 
 いや、上条自身納得したのだ。だからあの言葉が出て、格好を付けたワケではない。  
 身体のほんの一部が理性の制御を拒んでいるだけなのだ。ほんの一部。しかし。  
 何とかしようとしても胸元には銀髪の少女が納まっていて、この体勢ではどうしようもない。  
なんとかユニットバスに……と動こうとしたら、インデックスが身じろぎをする。起こしてしまっ  
た…?と覗き込んで、そうでないことに安堵したものの、ここから動くのも無理なようだ。  
 それに、約束――朝まで一緒に――は約束である。こう見えて、上条は律儀なのだ。  
 結局、上条当麻にとっては生殺しとしか言えない状態が朝まで続くことになってしまった。も  
ちろん、そんな状態で眠ったりできるはずもなく。  
 
 ぎらぎらと目ばかりが冴えて、眠りたいのに眠れなくて頭痛がして、冷蔵庫のモーターの音  
とか、時計の針の微かな動作音とか普段ならまったく気にもならないような音が頭に響く。そ  
んな機械音を無視しようとすると、今度はインデックスの寝息が聞こえてきて、胸元に収まる  
少女の温もりに再び野獣・上条が目覚めようとするのを必死で耐えてみたり、とにかく、上条  
当麻にとっては地獄のような数時間が待っていた。  
 
 何度かウトウトできただけでも僥倖というものだろう。いつしか、シャッターの向こう側から小  
鳥のさえずりが聞こえてきた。  
 
「あ、朝か…」  
 今度こそは起き上がっても問題あるまい。離れたことに対し何か言われたとしても、朝だか  
らでごまかせる。精神崩壊する前にとにかくこの柔らかくて暖かいものから離れなければ、と  
上条当麻は起き上がった。  
 インデックスが目を覚ます様子はない。  
 残念なような、ホッとしたような複雑な気分になったが、ともかくも自分から間違いを起こす  
可能性だけは激減したと納得することにする。インデックスに毛布を掛けてやろうとして、  
「ううん…とうま…むにゃ」  
 と寝言を言うのを聞き、思わず少女のうなじやら脚やらに目が行ってしまい心臓が跳ねる。  
目を閉じて毛布を掛けると、振り向いて小走りでキッチンまで走り出る。  
 キッチンの水道でバシャバシャと顔を洗った。  
 少しは落ち着いただろうか。  
 朝食でも作って気を紛らわそう。  
 そう考え、まな板に手を伸ばした。  
 
 
 朝食を卓袱台に並べ、シャッターを開けた。いい天気だ。身体も精神も疲労感でいっぱいだ  
が、ここは無理をしてでもインデックスをどこかに連れて行ってやろうか――などと考えている  
と、件の少女が目を覚ました。  
「あ…とうま…、おはよう…」  
 振り返ると、ベッドの上で毛布を抱え、上目遣いに上条を見上げるインデックスがいた。  
 目が合うと、インデックスはみるみるうちに耳まで真っ赤に染めていく。  
「あ、あのね、とうま…、あ、ありがと…」  
 インデックスの言葉に上条も顔が火照るのを感じる。いや、火照っていたのがさらに熱くなっ  
たのかもしれない。しかし、インデックスの感謝の言葉に、なぜか気持ちだけは落ち着いてい  
った。  
 
「ま、まあいいだろ? それより朝メシできてるぞ? あっちで待ってるから着替えたら教えてく  
れよ」  
 そう答えて、ベランダに出た。朝日が眩しい。今になって、光に刺激されてか逆に眠気が出  
てきたようだ。大きな欠伸が出た。その後幾度目かの欠伸をかみ殺していると、インデックス  
がベランダの引き戸を開けた。その笑顔が、朝日と同じくらい眩しい。  
「終わったよ、とうま? 朝ご飯、食べよっか…」  
 ところで今思えば、昨夜の出来事にはよほど緊張していたのだろう。朝食を摂りながらも、  
上条の頭がふらふらと揺れる。ガクン、と頭を落とすと、  
「いかんいかん、寝ちまうところだった」  
 と呆然と呟く。  
 そんな上条の姿を見ながらインデックスが微笑んだ。  
 卓袱台の向かい側にいる上条の湯飲みにお茶を注ぎながら、優しげに話しかける。  
「今日はとうまは学校休みなんだよね、もう少し寝たら? 邪魔しないから」  
 のろのろと湯飲みに手を伸ばしながら上条が答える。  
「…いや、よく晴れたのにインデックスも出かけたいだろ? ショッピングモールに行ってみた  
いとか言ってたじゃないか。ちょっとばかり眠いのは否定しないけどな」  
 などと言いつつ、その次に出てくるのは大欠伸だ。その姿を見て、すっかり空になった食器と  
箸を置くと、インデックスは上条を無理やり立たせてベッドへと押し込む。  
 
「…とうまが優しいのは――夕べちゃんと教えてもらったから、私は大丈夫なんだよ。それより  
いつも通りの元気なとうまのほうが良いんだから、今日は休むほうがいいかも…なんだよ」  
 
 少女の顔がやや赤面していることにも気づいたが、それよりも昨夜のことへの言及に焦りが  
走る。  
 
「なっ、あ、あれはだなインデックス…むぐっ」  
 枕を押し付けられた。そのまま、昨夜のあの瞳で純白のシスターが上条を見つめた。  
「いいから、今日はこの敬虔なシスターさんの言うことを聞くの! …ちゃんと、休んでね…」  
 この瞳には勝てないな――そんな思いが少年の意識を掠める。  
「判ったよ、お言葉に甘えさせていただきますシスターさま。ありがとうございます」  
 苦笑しつつ上条が答えた。  
「でも、寝てる間に襲うなよ?」  
「なっ…」  
 少年の最後の言葉に、インデックスの顔がみるみる赤くなる。耐えかねたかのように枕で上  
条をバスバスと叩き始めた。  
「わ、悪ぃ、悪かったよインデックス、ありがたく休ませてもらうからっ」  
 言いながらも、上条は笑顔だ。それを見て、頬を染めながらも少女も微笑む。  
「判ったら早く寝るんだよ?」  
「ああ」  
 横になると、それこそ糸が切れたように少年は寝入ってしまった。昨夜の出来事では本当に  
緊張していたのだろう。じっと寝顔を見つめる。  
 
 柔らかく微笑みながら、インデックスは上条の頬をつついた。  
「…とうまのいくじなし。でも、私のこと大事に思ってくれてるからって言ってくれた事、嬉しかっ  
たんだよ? 信じて良いんだよね…。 それでも、私はいつだって―――」  
 自然と、その顔が上条の顔に近づく。  
「……いつだって…」  
 自分でも意識をしないうちに、寝息を立てる上条と唇を重ねていた。  
「いつだって、良いんだよ…?」  
 唇を離し、ベッドに上半身を乗せた状態で呟く。眠る少年の耳にその言葉は届いてはいない  
だろうが、少女は言葉を続けた。  
「敬虔なシスターさん…じゃ、ないよね、私…。でも私…とうまのことが大好きなんだもん」  
 
 上条が眠っているとは言え、無性に恥ずかしさが込み上げてくる。ベッドの端に顔を埋めて、  
真っ赤になりながらううう、と呻く。  
 そのまま数分、顔を埋めて呻き声を上げていたインデックスだったが、突然顔を上げると、  
「いい? スフィンクス、事故はおこりうることなのっ。でも合意の上でなら事故じゃないのか  
もっ」  
 部屋の隅でうろうろしている三毛猫に話しかける。当然三毛猫には何のことやら判りはしな  
いのだが、とにかく口に出さないと間が持たないのだろう。  
「わ、私も寝ちゃう! ベッドはひとつだけなんだからとうまと添い寝になっちゃうのは仕方ない  
ことなんだよっ!」  
 わたわたと叫ぶと、上条の横に潜り込む。  
 それから、昨夜と同じように上条の胸元に張り付いた。  
 
「ほんとうに、大好きだよ、とうま…」  
 

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