夕闇の勢力が学校の教室に版図を広げ始めた頃、席に1人ポツンと座る影が有った。  
 その席はとあるツンツン頭の少年の席なのだが、机の上に突っ伏すシルエットは明らかに少女だ。  
 近付けばまず目につくのは黒く長い髪。  
 ただこれはもっと長くて、もっと綺麗な黒髪をした日本人形の様な少女がクラスにいる為普段は余り目立つ事は無い。  
 そんな長い髪は制服の肩や背中、そして机に頬を付けたままの横顔を滝が流れ落ちる様に覆うと、更にそこから机の上に落ちて放射状に広がっている。  
 髪に隠れた表情は俄かに捉えにくいが、汗で髪を張り付けた額には深い縦皺が刻まれ、固く閉じた瞳と共に苦痛かもしくは苦悩している様に見えた。  
 それは綺麗な鼻筋に浮かぶ玉の汗や、これも中々注目されない薄く艶やかな唇から漏れる荒く熱い吐息からも同じ印象を受ける。  
 まるで熱病にでも魘される様なそんな印象……そして確かにその時、少女はある熱病に侵されていたのだった。  
 少女の唇からチラリと覗いた紅い舌が渇き始めていたそれをぺろりと舐めると、  
「とう、ま……」  
 吐息と共に漏れたのは、この席の本来の主の名前……。  
 今日、罰としての清掃の筈が何時の間にやら野球談議に発展して、最後はボールを投げる羽目になった。  
 そこまでは良かったのだ。  
 お互い憎まれ口を叩きつつも和気あいあいとやっていたと思っていた。  
 普段も気さくに、時には怒りのまま、それでも必ず自ら課した防衛ラインは必ず守って来た……筈だったのに、それなのにあの時は油断していたと反省する。  
(……無防備に上条当麻にスカートの中を拝ませてしまった)  
 その時の事を思い出すとスカートの中に忍ばせた指の動きが激しくなる。  
 あの時、上条の驚いた様な目を見てしまった時、少女は……吹寄制理は少年の視線が薄布を突き抜けてその奥に有った女の秘密を突き抜けた様な感覚に、身体の芯からムズムズと湧き上がる欲望を感じてしまった。  
 あの瞬間その場で上条を押し倒さなかった自分を褒めてやりたいと思う。  
 ほぼ生まれたまんまの姿も既に見られていると言うのに……あの時は上手く冷静に立ち回れたと言うのに……二度とあんな事は無いと思っていたのに……。  
(何で貴様はそうずけずけと私の心に入って来るの上条当麻ぁ――――)  
 心の中でそう罵るも指の動きは止まるどころか激しくなるばかり。  
 どうせ見せるならもっと派手な印象に残るものが良かったなと思った下着は既に見せられる様な状態にすら無い。  
 いやいっそ愛液でぐしょぐしょになった下着を机の中に突っ込んでやったらどうなるだろうと言う自虐にも似た悪戯心が鎌首をもたげる。  
 あの不幸体質の事だからさぞや大騒ぎになるだろう。  
 大騒ぎになって困ればいいのだ、と吹寄は心の中で毒づいた。  
「きさまがわるいっ、のよ……んっ……だれも……えらばない……ぅ……から……き、い……たい……しちゃう……」  
 その怒りの発散の求めるかのように、吹寄は今まで擦りに擦ってぷっくりと充血した肉豆を爪の先で引っ掻いた。  
「っぅ……ぎぃ……」  
 教室と言う事も有って余り声が出せない為に吹寄は歓喜の悲鳴を噛締めた奥歯ですり潰す。そしてその代わりと言っては変だが新しい愛液で下着を更に湿らせた。  
 そのまま爪でぐりぐりと苛める度に腰が跳ねあがるが吹寄は我慢強く声を殺し続ける。  
 やがて下着から溢れた愛液が椅子を濡らし、太ももから脚を伝って靴下までも濡らし始めた頃、吹寄はようやく肉豆から指を放した。  
「はぁ……」  
 ここで大きく一息つくのはこれで終わり、と言う訳では無くて終わりの始まりを意味していた。  
 それは、  
「んっ」  
 吹寄は下着の中でふやけた人差し指をぐしょぐしょの割れ目に宛がうと、そのぬめりをすくう様に掻き回した。  
 やがてその指はある引き攣れのある一点、肉穴が息づくそこに押し当てられる。  
「ぁ……」  
 大きく開いた口から小さな声が漏れる。  
 この指が上条の指ならどんなに嬉しい事か。耳元で甘く囁きながら硬くしこった乳首を転がされながら卑猥な肉壺を乱暴に掻き回してくれたらどんなに幸せな事なのか。  
 その時は我慢しない。こんなコソコソ声を殺して自分を慰めるなんて事は二度としない。  
 だから今はこの幻想を殺さないで欲しい。  
「私を愛して……とうまッ! ぁ……」  
 その言葉と共にぐちゅりと指が卑肉掻き分けで潜り込んだその時、  
 
「誰か居んのかぁ……?」  
 ガラリと無造作に扉を開けて声と共に顔を覗かせた上条の姿に吹寄はギョッとした。  
 更に悪い事は重なる。驚いた拍子に手に力が入ってしまい、吹寄は自分も知らなかった自分の最も敏感な部分を思いっきり引っ掻いてしまったのだ。  
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」  
 押し殺せなかった悲鳴が口を突く。  
 今までの我慢と驚いて無防備になった体に快感の波が一気に押し寄せた吹寄に抗う術も無い。ただただ机に頬を押し付けて、椅子の上で目一杯身体を縮めて暴力的な快感の津波を木の葉の船で漂うのみ。  
 だがそんな大波も何時までも続く訳も無く、やがて何事も無かった様に引いて行くと、吹寄は涎と涙にまみれた机の上で大きなため息を突いた。  
(凄かった……)  
 危うく気が狂うかと思う快感の余韻は、今も中に有る指を締めつける感触にも残っている。忘れない内にもう一度、と指を動かそうとしたその時、  
「吹寄……か?」  
「!!」  
 消え入りそうな上条の声に改めてハッとした吹寄は、下着から手を抜き取ると咄嗟に立ち上がって側に有った椅子を掴んで上条目掛けて投げつけた。  
 上条の「うおわッ!?」と言う叫びと共にドンガラガッシャーンと絵にかいた様な破壊音が鳴り響く中、  
「……上条当麻」  
「あ、危ねえじゃねえか……え、何?」  
 上条は怒鳴ろうとした所に吹寄が名前を呼んだので押黙る。  
「貴様何時から……何処から聞いていたの?」  
「いや、あ、あの……」  
 何かとても悪い所に出くわした――暗い中で吹寄の表情は読み取れないが、雰囲気でそれを悟った上条はしどろもどろになりながら、ゆっくりとこちらに近づいて来る吹寄と距離を取る様に後ずさる。  
「逃げないで答えなさいよぉ、上条当麻ぁ」  
 やや間延びした声が怒りを押し殺している様で、そんな時の吹寄の怖さを誰よりも知っている上条は顔面蒼白になるり、そして……、  
「ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」  
「待て上条当麻ッ!! 貴様答えなさいって言ってるでしょうが!!」  
 叫びを上げて逃げる上条を追って廊下に飛び出した視線の先に上条の後ろ姿が見える。  
「逃げるんじゃ無い上条当麻あああああああああああああああああああああああああああ!!」  
「何で俺がこんな目にぃ!? 不幸だああああああああああああああああああああああああああ!!」  
 そんな声を上げる上条の背中を追いかけながら考える。  
(このまま上条当麻を追い払ってしまえば……後は戻って来て片付けてしまえばバレはしない)  
 上条にはこの思いはまだ秘密にしておきたい。愛よりも今はまだクラスメイトでいる事の方が大事。2年と少し……吹寄はこの関係を続けたいと思っていた。  
 だから今は上条の背中を追いかける事で満足しておこう。  
 いつか本当にその中を捕まえてやるんだから――その気持ちを胸に。  
 
 
 
END  
 

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