†††  
 
「熱ッ!? ……ってミサカはミサカは大仰天してみたり……〜っ!」  
一方通行の傍らに座ってテレビを見ていた打ち止めが、突如苦悶の叫び声を上げた。  
「……あン?」  
「あううう……なにこれ舌がジンジンするよぉ……ってミサカはミサカは口元を両手で押さえてみるー……」  
そう言ってソファの上で背中を丸める彼女の近くにある机の上には、湯気が立つマグカップがあった。  
よほど慌てて置かれたのか、マグカップは中身をこぼして、机に小さな水溜まりが出来てしまっている。  
どうやら、油断しながら口をつけたココアで舌を火傷したらしい。  
「ちゃんと冷ましてから飲めば良かった……ってミサカはミサカはへこたれてみたり」  
「……」  
普段の一方通行なら小馬鹿にしているところなのだが、残念ながら彼にも似たような事で苦い思い出がある。  
常に能力を行使できなくなってからは、それまでの感覚とのギャップに散々悩まされてきていたのだ。  
かつてホットコーヒーを無造作に飲んで思いっきり悶え苦しんだ屈辱の記憶が蘇り、一方通行は舌打ちをする。  
「クソガキ、こっち向いて口開けてみろ」  
「??? ってミサカはミサカは疑問を抱きつつもとりあえず従ってみる」  
そう言って、歯科医に歯を見せるような仕草で口を開いた打ち止め。  
小さなその舌は、確かに少し赤くなっていてこちらにもその痛々しさを伝えてきた。  
「……」  
一方通行は首に巻き付いたチョーカーのスイッチを弾いた後、左手で打ち止めの顎を軽く持ち上げると、  
右手の人差し指を、その舌の上に直接這わせた。  
「っ……!?」  
突然入り込む指先の冷たい感触に、びくりと震える打ち止めの身体。  
だが、何か得体の知れない恍惚がその驚きを塗りつぶしていくのに、そう時間はかからなかった。  
ひりひりとした痛みを発する舌を、細い指が執拗に追いかける。  
くすぐったさにも似た感触が、電気のように打ち止めの背筋を駆け巡り、視界を眩ませた。  
濡れた咥内をかき回され、くちゅくちゅといやらしい音が彼女の鼓膜をも侵していき、ざらついた表面に  
その指先が触れるごとに、痛覚と引き換えにして言い知れない心地好さを与えてくる。  
気付いたときには、もう打ち止めはその指に自らの舌を絡ませていた。  
「はぁっ……、ん、あ、……ん……んう、――っ」  
気持ちいい、気持ちいい、どうしようもなく気持ちいい。それだけが幼い少女の思考を麻痺させていく。  
それまで味わったこともないようなその感覚が、学習装置で脳に叩き込まれた無数の知識の中の、  
『官能』なる言葉で示すものだということにすら気が付かないで、彼女は与えられる陶酔にただ夢中になった。  
一方通行の方は、火傷の治療のために用いた能力が何らかの作用を及ぼしたのかと一時は危惧したが、  
計算式をいくら組み直しても打ち止めの様子が元に戻らないため、ひとまず演算に意識を戻すことにする。  
打ち止めに、口をもっと大きく開けるようにと促し、薄赤色の舌を繰り返し撫でつけた。  
やたらと熱い内壁の艶めかしい触感に眉をひそめながらも、先端からゆっくりと、吐き気を与えない程度の力で  
指を滑らせる。許容量を超えた唾液が少女の小さな顎からぼたぼたと零れ、ソファの表面を濡らしていった。  
 
しばらく経ち、打ち止めの瞳に薄い涙が浮かび始めたころ、ようやく一方通行は治療を終えて指を引き抜いた。  
関節の細い指先はねっとりと濡れ、薄く開いた彼女の唇との間に銀糸を伝わせる。  
「……、」  
先程まで触れていた体温が指から急速に消えていったことに、一方通行が何かを考えかけたその時、  
「……にゃう……」  
耳の先まで真っ赤になった打ち止めの身体がふらりと揺れ、ソファの上に倒れ込んだ。  
「――ッッ!?」  
「なんか、すごくえっちだったよぅ……ってミサカはミサカは、ネットワークのコメントを引用してみたり……」  
途切れ途切れに何かをごにょごにょ呟いた打ち止めだったが、珍しく心底からテンパった様子の一方通行には、  
結局その言葉の意味は全く理解出来なかったのだった。  
 
この二人の子供が、その日味わった理解不能の感触の正体を知ることになるのは、まだしばらく先の話である。  
 
END  
 
 

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