「あははははははぁー!」
「……」
牙を模したマウスピースが、唇の脇からちょんと出ている。
ステロタイプなシルクハットとタキシード。フレンダの手で身ぐるみ剥がされた浜面は、強制的に吸血鬼の格好をさせられていた。
大爆笑のフレンダと、コスプレまがいの様相に照れに照れた揚句不貞腐れる浜面。
「あーん怒らないでよーっ。いやいや、似合ってますって!」
背中をぷいと向ける浜面の両肩を揉みながら楽しそうにフレンダが話す。顔をそむけながら、浜面は思う。
なんとか一矢報いたい。っていうか、さっき携帯で写真撮られた。後々アイテムの皆に送信されて見世物にされるのは想像に難くない。
マウスピースの野暮ったい違和感を口の中でもごもごさせながら、浜面は考えを巡らせる。
と、実にシンプルな方法があることに気がついた。
「フレンダ!」
「んっ?」
振り返った浜面に、笑ったままフレンダが目を丸くさせる。続けて浜面は二の句を継いだ。
「トリックオアトリートだ!」
「え」
お菓子をくれなきゃ、悪戯してやる。
悪戯。浜面の悪戯。わ。わ。何それ。フレンダがストッキングの下で、足の指をぎゅっと縮み込ませた。
慌ててぱたぱたとポケットを探る。が、浜面をいじり倒すことしか考えてなかったので、そんな備えはない。
「えーっ……と……」
「お菓子」
空しい試みを続けるフレンダに、ぐ、と浜面が顔を寄せる。目を逸らして、白々しい笑顔を浮かべた。
「缶詰……しか……なかったり……?」
「……」
「えへっ」
「……がぁ」
「も、桃缶じゃ駄目!? ひぃ……!」
抱き寄せられる。
開けたシャツの襟と、引っ掛けるように下がったリボンを押し広げて、首筋に噛みついた。
「いっ……!?」
たく、ない。思ったよりは。流石に加減はしていた。
襟元を掴んでいた浜面の右手が離れる。それを、ぶらんと垂れ下ったフレンダの左手に繋いだ。抱き寄せた左手はずっと腰に回されていた。
「……はぅ」
尖った牙の感触と、触れる唇の柔らかさのコンストラストに頭がおかしくなりそうだった。
それでも、まだ終わらない。大きく開けた浜面の口が、首筋に噛みついたまま小さくなっていく。
キスの大きさよりも一回り大きいぐらいになってから、浜面は一気に首筋を吸い上げた。ちゅぅぅぅぅぅ、という音が身も蓋もなく下品に響く。
(わぁわぁわぁわぁわぁ音エロい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!)
目を瞑って、フレンダが耐える。
最後に、浜面がもう一度口の開け方を変える。
穴こそ開いてないが、さっき噛みついた牙の痕が肌にくぼみを作っていた。そこに唇を添えて、舌で舐める。わざと音を立てるように。
もう声も出せなくなった頃、首周りをびちゃびちゃにされながらようやくフレンダは解放された。
途端、フレンダは膝から崩れ落ちた。
「っふぁ……ぁ……」
「へへ」
腰に回した左手はまだ離していない。フレンダがガクンと膝から落ちないように、合わせて浜面もゆっくりとしゃがんだ。
それこそ、悪戯の成功した子供のような顔で浜面が笑った。
今度はフレンダがむすっとする番だったが、真っ赤になった顔では怒ったふりもできなかった。
「……き……聞きたく……ないけど……私の首、どうなってるわけ……?」
「出来立てほやほやのキスマークつき。悪戯成功ってな」
「あああ……やっぱりぃ……」
フレンダが両手で顔を覆った。明日、アイテムには集合がかけられていた。これを見られたら一体なんて説明すればいいのか。
「もーどうすんのよこれぇ……結局、バレてヤバいのは浜面も同じなわけでしょ」
「いや! まぁ! ……したかったから、としか!」
「無計画。馬鹿。チンピラ」
一通りの罵倒を浴びせる。タキシードの胸板を、休み休みぽかぽか殴りつけた。
最後に、浜面の顔を見上げた。
「……責任とってよね」
明日の服選びには難儀しそうだった。