「……綺麗だ」
ベッドの中の女の身体を見て、浜面の口は思わずそう漏らした。
すぐに自分の顔めがけて平手が襲い掛かったが、なんとか押さえ込めた。
「ふざけんな。誰のせいでこんな身体になったと思ってやがる」
口調こそ怒っているかの様だったが、麦野の左目に敵対の気色はなかった。
ついでに若干、頬に赤みが増した気もするが、それは気のせいだと浜面は思っておくことにした。
「いや、あれは仕様がなかっただろ、お互い……」
あらためて麦野を見る。
彼女の右目は、無い。
眼窩に空いている空洞と、右顔面を縦に走る傷痕。
普段なら麦野の能力による電子の光が点っているが、今はそれも弱々しく、小さくなっている。
―まあこの距離で波形粒子が渦を巻いていれば、確実に浜面の頭部は吹っ飛んでいることになるのだが―
そして彼女の左腕も、無い。
義手を外し、能力も顕現させず。
―今の麦野は、本当に何も身に着けてはいなかった。
それらを見るほどに、浜面の中にフラッシュバックしてくる凄惨な記憶。
そして、その傷は自分がつけたものだという事実。
―自分が、彼女をこんな風にした。
後悔などない。互いに生きるか死ぬかだった。だが……
―自分が、彼女をこんなにした。
その思いが強く脳裏に貼り付いてしまう。
それでも―
「でも、よ……」
それでも、浜面は麦野から目を逸らすことができなかった。
「やっぱり、綺麗だよ」