「ぐぎゃあああああああ」
学生寮の薄い壁を通して、くぐもった絶叫が隣室からもれ伝わってくる。
「……あいつら朝っぱらから元気だにゃー」
土御門元春はいささか呆れつつも呟いた。
現在、学園都市は日曜の朝7時ちょっと前。厳しい規則のあるところ(たとえば常盤台中学など)や、
朝のアニメ番組などを見ようなどというオタクちゃん以外の、大抵の学生たちはおそらくまだ夢の中だろう。
土御門の場合、『必要悪の教会』との定時連絡のため、1時間ほど前にベッドを抜け出していた。
定時連絡自体は報告することも、向こうからの行動指示も特に無かったので実質5分で終了した。
後はそのままベッドに背を預け、窓の外が明るくなっていくのをただ眺めていた。そうしているうちに
隣室からクラスメートの絶叫が聞こえてきたのである。
隣室には土御門のクラスメートである家主の他に、男子寮にもかかわらず、年のころなら14,5の
銀髪シスターが同居してる。空腹に耐えかねた銀髪シスターが家主を起こそうとしてこの騒ぎになった
のだろう、と土御門は推測する。
(まぁ、男子寮にもかかわらず……ってのは人のこと言えんかにゃー)
微かな気配を感じてベッドに目をやると、山のように盛り上がった掛け布団がもぞり、と動いた。しばらく
もそもそと動いた後、布団の端が内側から捲られた。土御門が声をかけた。
「おはよう」
短いながら、平素のおちゃらけた土御門からは想像もつかない優しい声音。
捲り上げられた布団から土御門の義妹、舞夏の顔が覗いていた。あまり表情の変化の少ない彼女
であるが、今は違った。蕩けるような笑みを浮かべて。
「おはようだなー」
いつも通りのちょっと間延びした口調だが、そこには普段にない甘えた響きがある。
布団から、常日頃は長袖のメイド服に隠された真っ白で華奢な腕がそろそろと伸ばされる。その腕が後ろ
から土御門の首にゆるゆると巻きついた。腕の動きに合わせて舞夏の一糸まとわぬ上半身が布団から抜け出した。
「いないから探したぞー」
首に抱きついた舞夏が土御門の耳元で囁いた。
「ごめんな」
舞夏の腕をなでながら土御門が答えた。その指が普段はヘッドドレスできっちり固められ、今は降ろされて
いる舞夏の髪を巻きつける。
「んー」
舞夏の唇が土御門の耳に軽く触れる。土御門は体を反転させ舞夏に向き合った。額が触れ合うくらいの
至近距離。互いの唇が互いを求めるように近づき、重ねられた。
土御門の舌が舞夏の口中を探り、舞夏の舌がそれに応える。明るい朝日の差し込む部屋に不似合いな
淫靡な水音が響く。
唇が離れる。互いの唾液が糸を引き、二人の間に短いつり橋を形作る。それを見て二人は思わず吹き出した。
「大好きだぞー」
「あぁ、俺もだ」
いつも通りのこんな休日の朝。