ソファというものは見た目も明らかに一人用として製造されていない限り、  
 基本的には同じ空間にいる人間と共同で使用するものだと結漂は認識していた。  
 しかし今それの本来もう一人腰掛けられる場所には足がだらしなく伸ばされて、  
 これ以上他人が侵入するのを拒んでいる。  
 別に座りたいなんて思ってないけどね。  
 とある集会所の一角、ソファに我が物顔で寝そべる一方通行を前に、  
 結漂は背を屈めて彼をじっと見た。  
 普段見つめようものなら「何が気にくわねェんだァコラ」などと難癖を付けられるところだが、  
 一方通行は絶賛居眠り中である。  
 危害を加えられる心配はない……はずだ。  
 それにしても、人の寝顔って素直になるものね。  
 結漂の視線の先にある寝顔は、過去に彼女を殴り飛ばした学園都市最強の怪物とは思えないほどあどけない。  
 白い髪、女の結漂よりずっと色素の薄い肌。  
 死人のような色をした唇から出される規則的な呼吸に合わせて、白い睫毛が震えている。  
 いいえ、別に可愛いなんて思ってないけどね。  
 だからこうして人差し指を赤みのない頬に近づけているのは、決して邪な感情に流されたからではない。  
 ……だから私は変な性癖なんてないって言ってるでしょ!  
 結漂は聞き手のいない言い訳を脳内に並べてみる。  
 ぷに、と一方通行の頬を人差し指で軽く押し、て、みようと試みたが、  
 やはり起こしたときが怖いので押す真似にとどまる。うりうりと突付くふりをした。  
 何度か繰り返していると、その相手が一方通行であることが無性に可笑しくなる。  
 結漂は微かに喉を震わせた。  
 しかしながら突然。そんな些細な彼女の悪ふざけは、勢いよく胸元を引かれたことによって終わりを告げた。  
 
「何笑ってやがんだァ、足りねェ頭ン中身もっと足りなくなったのかよクソったれが」  
 いつの間に目を覚ましたのか、途中から狸寝入りを決め込んでいたのか。  
 ソファに倒れこむ寸前で踏ん張った結漂の下で、一方通行が不機嫌そうに眉根を寄せていた。  
「なっ……」  
 結漂が胸倉に何も羽織っていないことに対して機転を利かせたのか、  
 一方通行は彼女のサラシを剥がすように掴んでいた。  
 戦ってたらサラシが解けちゃったなどのラッキースケベのために下にヌーブラとか高レベルな対策はしていないので、結漂の胸の谷間はやや顔を出してしまう。  
「離して!」  
「あァ? 人の安眠妨害しといて何様だァオマエは、  
 ソレより先に言うべきことがあンだろうがよォ!」  
 寝起きで喉が渇いているのか、少し掠れた声で促された。  
 たったそれだけだというのに、その無駄な迫力に結漂は怯んでしまう。  
 その間にもサラシは更に引かれて、上から覗けば頭まで見えてしまいそうな状態になる。  
「やめてって、言っているでしょ!」  
 結漂はごく自然な羞恥に顔を赤らめながら、一方通行を睨みつけた。  
 ぴく、と片方の眉根を動かした彼だったが、やがて何に納得したのか、  
 はァ、フーン、と唸り始める。  
「何いっちょ前に恥ずかしがってンですかァ?  
 オマエの人並みでしかない胸が出てようと隠れてようと  
 これっぽっちも勃ちゃしねェから、安心しろってンだ」  
 馬鹿にしたような笑みを向けられて、結漂はかっとなる。  
「恥ずかしがってなんかないから!」  
 いらぬところで強気になる口は彼女が自分の中で嫌いなもののひとつだ。  
 余計なことに一度反論すると、圧勝するか粉砕されるか分かるまで動き続ける。  
「だから、か、勘違いしないで。私だって、恥ずかしがる相手を選ぶ権利とか、あるのよ! 貴方こそ何よ。嘘でしょ。実は私に興味があるから、こんなことするんじゃないのかしら? 思春期の子にありがちよね。したくて歳の近い子にちょっかい出すのは」  
 
「……おめでたいアタマだなァ、クソ女」  
 一方通行の声がひときわ低くなった。さらしにかかる力も強まる。  
「はァン、じゃあナニされても恥ずかしくないってかァ?  
 なら離す必要ねェよなァ、寧ろいらねェよなァ、こんな布」  
 結漂の心臓が嫌な鳴り方をした。呼吸が苦しくなった気がして、それでいて唾が喉に溜まる。  
 寒気が腹の下から這い上がる。脳からの警告だった。  
「オマエに欲情、――欲情? 笑わせンな。お前は自分が特別キレイだとか思っちゃってンのかァ?  
 思春期のクズがお前目当てに構うと思ってンのかァ? 自意識過剰も大概にした方がいいぜ。  
 例えお前が全裸になって喘いでたってなァ、突っ込みたいとも思わねェンだよ。  
 ――今から証明してやるよ」  
 聞き捨てならない言葉を最後に吐かれた。  
「ちょっと、貴方何を!」  
 結漂は後ろに大きく身を引いてもがいた。  
 だが逆に引き返され、一方通行の上に今度こそ倒れ込む。  
「そういや、このソファは二人用だったっけなァ」  
「離しなさ――」  
 言葉の途中で結漂の視界が暗くなる。顔を一方通行の手に鷲掴むように押し上げられたのだ。  
 彼が体勢はそのままに、上半身を起こす。  
 結漂と一方通行は向かい合うようなかたちになった。  
「ンだこりゃア、固てェな。チッ、こンなことに能力使ってられるかってンだよ」  
「い、……きゃ!」  
 思いがけず女の悲鳴が結漂の口をつく。  
 サラシを下にずらされたと思ったら、次の瞬間にはそれごと胸に噛み付かれていた。  
「や、あ……っ」  
「――――まじィ、汗くっせェしよォ」  
 ……死ね! と口に出来る相手なら言っていただろう。  
 この少年のデリカシーのなさは最早人外のものである。  
 
 しかし一瞬にして火のように湧き上がった怒りは、  
 一方通行の歯と舌によって一瞬にして消されてしまう。  
 さらしの上からぬるい水気と柔らかな肉の感触が伝わってくる。  
 ちょうど胸の頭の部分でそれは止まり、吸いにかかった。  
「う、」  
 結漂は唇を噛んだ。  
 声を出したら、彼にはこの先一生能力でもくだらない言い争いでも敵わない気がしたからだ。  
「あ、う、う……っ」  
 だが吸われ、舐められ、その感触がもたらす得たいの知れないものに  
 確実に結漂の喉は犯されつつあった。  
「んっ」  
 吸い上げられて、離される。  
 さらしと肌の間に生まれた違和感は、突起が硬く立ち上がった証拠だった。  
「イッチョマエに声なんて我慢しちゃってンのかァ、  
 いいぜェ、もっとやってみろよ、悪あがき」  
「……がまん、なんて……っ」  
「情けねェ声だなァ、あァ?  
 鳴くならもうちっと可愛げのある鳴き方したほうがいいンじゃねェのかァ?  
 つゥかよォ、やっぱり邪魔だ」  
「なっ……!」  
 するどい光がさらしの上を通過する。小型の携帯ナイフが見開いた目の隅に写った。  
 谷間の辺りに不自然な穴が開き、それは布の破ける音と共にだんだん広がっていき、  
 最後には結漂の胸をあらわにした。  
 唾液で湿らされた場所が冷たい空気に急に晒され、それだけで結漂は身震いしてしまう。  
「恥ずかしいんですかァ?」  
 ぴんと立った桃色の突起に、ふっとわざとらしく息を吹きかけられる。耐えられず身をよじった。  
「あっ」  
「喘ぎ声にボキャブラリーねェなァ」  
「やっ!」  
 一方通行はちゅう、と音を立てて結漂の右の胸を口に含んだ。  
 直に這う彼の舌が先程と同じ動きをする。  
 突起を先でつつく。一気に吸う。左の胸は強弱をかけて揉まれる。  
「あ、あぁ……っ」  
 結漂は気が遠くなりそうだった。指の先まで熱が浸透していた。  
 だがしかし頭は麻痺したように思考を薄めてゆくのに、刺激だけは鮮明だ。  
 結漂の脳は一方通行の手を舌を触れるその存在を、見失わないように追っていく。  
 彼の手は胸を離れて、下腹部に移動しつつあった。  
 
「――……ア、一方通行!」  
「うるせェ」  
 胸から離れた温度は結漂の靴を脱がしながら爪先まで通ったあと、  
 スカートの内側に潜って太腿をつねる。  
「ひ……っ!」  
 結漂は息を呑まずにはいられなかった。  
 ショーツの脇から滑り込んだ一方通行の指が、結漂の花をひと撫でしたのだ。  
 小さくあがった水音は、彼に弄られて喜んでいる事実を告げた。  
「どっろどろじゃねェか」  
「だまって……っ」  
「減らねェ口だなァ、おい、今ならゴメンナサイ一方通行さん  
 って素直に謝れば許してやらないこともないンだぜェ?」  
「だれが……」  
 言うものか。  
 ただでさえ普段から尻尾を巻きつつある結漂の、せめてもの遠吠えだった。  
 そして彼女もやられっぱなしという訳ではない。  
 これだけ女子の身体を弄り回したのだ。  
 表面上幾ら否定していようが、彼の中にある”男”は感化されているに違いない。  
 結漂は足の裏で彼の股間を押してやった。  
 ここで問題が発生する。  
 結漂は服の中でそそり立つ男性器の感触など知らないのだ。  
 足の裏に当たるものは硬い。しかしこれが骨だと言われれば、結漂は引き下がるしかなかった。  
 何より、仮にも触られているというのに一方通行の反応は乏しかった。  
「はーい、満足しましたかァ?」  
「きゃっ!」  
 片脚を軽々と持ち上げられて、結漂は体勢を崩す。  
 頭の落ちた場所がソファの柔らかな弾力の上で本当に助かった。  
 
「い……っ!」  
 ショーツは脱がされないまま、一方通行の指が結漂の蜜壺へ予告もなしに侵入を果たす。  
 裂けるような痛みが下腹に広がる。  
「い、た……っ、い」  
 自分のものではない皮膚と爪が奥に進んでくる。もう入らない、というところまで。  
「や、やめ……」  
 こわい、こわい、こわい。  
 指が挿し込まれているだけでこんなにも慄いてしまう。  
 なら動かされたら、どのくらいの恐怖になる? それは戦慄を覚えるのではないだろうか。  
 その感覚を身に刻まれるまでの時間は長く掛からなかった。  
「あっ、ああっ……!」  
 内部を擦られる。肉壁を引っかかれた余韻が痛みを快感に変換する。  
 ぐるりと大きく掻き回されて、はしたない音があがった。  
「んぁっ!」  
 大きく身体がこわばる。別の手がぷっくり剥けた肉芽を探し当てたのだ。  
 ぐり、と肉芽を撫で潰される。押し寄せる快感は内部のそれとは比べ物にならなかった。  
 潰されるたびに身体中に電気が走る。頭と目頭に熱が篭る。  
「ご、めんなさい……!」  
 快楽も恐怖も涙腺も限界だった。  
「ごめんなさい……ごめんなさいっ……」  
 敗北の証がぼろぼろと頬を伝った。電気が一旦止まる。  
 行為中、初めて彼の赤い瞳と目が合った。  
 血のような赤が、奥に言い知れないものを秘めて結漂を見つめていた。  
 結漂は泣きながら少しだけ胸を打たれるという器用な真似をしてみせる。  
「――いっそ最後までイッチマエよ。その方が楽だからよォ」  
「――!」  
 しかし一方通行は結漂の期待をたやすく裏切った。  
 収拾に向かいつつあった行為が再開される。  
 一方通行は右手で結漂の内部を優しく、左手では肉芽を乱暴に扱った。  
「んあぁ、やだ、ごめんなさい、って、あっ、あぁ!」  
 あまりの刺激に結漂の腰はだんだん突き動かされていた。  
「ヒャハハっ! なァにがごめンなさいだァ、腰振って喜んでるくせにかァ? オラ、こっち向け」  
 一方通行は指を引き抜くと、結漂の顎を掴んで持ち上げる。  
 結漂はぞっとする。べとりとした気色悪い液体が頬に付着していた。  
 まぎれもなく自分が出したものだった。  
「……貴方、性格わるすぎよ……」  
「お互いさまだろォがよォ」  
 端正な彼の顔が皮肉に歪む。  
 口付けられるのではないかと誤解するくらい目の前で。  
 でも口付けてはくれない。彼は彼自身をくれないのだ。  
 結漂は悲しいことに、彼の言った通り一人喘いで達しようとしていた。  
「ん、う……あぁ……!」  
 顎が離され、指が結漂の中に戻る。もう肉芽は腫れ上がっているに違いない。  
 摩擦だけが内と外で繰り返される。  
「――早く、しろってンだ」  
「……っ!」  
 耳を噛まれる。与えられるはずのない唇の温度。  
 ぶるりと身体が震え上がる。瞬間、結漂の視界に光が弾けた。  
 
 
 
 結漂はしばらく呼吸の仕方を思い出そうと必死だった。  
 ふぅふぅと肩で息をして、長く吐き出してからいくらか楽になる。  
「アー、いてェいてェ」  
 上を見ると、一方通行が手を振り子のようにしていた。  
 彼は本当に最後まで結漂の中に挿れてくることはなかった。  
 しかし心なしかその息はあがっているように映る。――いや、これは願望か。  
「しかもくs」  
「洗ってきて! お願いだからっ……今すぐ!」  
「言われなくても行くっつうンだよ、喚くんじゃねェよ、うるせェなクソ女」  
 一方通行の気配が遠ざかる。  
 ドアの閉まる音を聞いてから、結漂は床に落ちた上着に手を伸ばした。  
「……クソ男」  
 上着を頭から被った。  
 ついさっきまで自分が乱れていたソファの上で、身体を丸め直す。  
「今度は、最後までさせてやるから」  
 
 

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