上条当麻にも、アンニュイな気分になるときくらいはある。むしろ普段から不幸を一身  
に背負っている身だ、アンニュイな気分に浸ったって良いじゃないか――と、少年は教室  
の窓に寄りかかって外を眺めつつ溜息を吐いた。  
「あー、・・・」  
 独り言を呟こうとして、背筋に寒気が走ったので左右を見渡す。誰もいなかった。  
 再び、気怠さの中に落ちてゆく。  
「出会いが欲しい・・・」  
 呆然と呟いた。  
 拳は飛んでこない。今回は飛んでこなかったが、上条を知る男子生徒がこの台詞を聞け  
ば、青髪ピアスや土御門元春で無くとも怒りの鉄拳を食らわせただろう。  
 それほど上条当麻には立てたフラグへの自覚が無い。全く無い。全国の男性諸君一人一  
人に土下座して謝っていただきたい程に無い。  
 自覚が無いまま、再び呟く。  
「幸せな出会いが欲しい・・・」  
 その瞬間、背後から腕が伸びて、上条の肩を抱いた。その感触に、一気に現実に引き戻  
される。驚いて声まで出てしまった。  
「ひいっ!」  
 慌てて振り返る。  
 
「君には。これ以上新しい出会いとか言ってて貰っては」  
 振り返ると、鼻と鼻が触れそうな所に黒髪の少女の顔があった。とある事情でとある事  
件からの救出に関わり、気が付いたらクラスメイトになっていた和風の美少女、姫神秋沙  
である。  
 慌てて顔を下げる。あまりの近さに上条の顔が火照った。焦りながらもよく見れば、姫  
神の顔も少し赤く染まっているようだ。  
(――って、なんでこんな近くに顔が?)  
 思ってしまってさらに焦る。姫神の両手は上条の肩にそれぞれ置かれているのだが、こ  
れだけ近くに顔を寄せてくるのに、ぴったりと上条の背中に身体を寄せてきていたのだ。  
 決して小さくない少女の胸が背中を押している。  
「ひ、姫神? これは一体?」  
 気が付くと、クラスメイトが遠巻きに様子を伺っているのが見えた。反応は例によって  
例のごとくである。嫌な汗が伝う。  
「だから。君は一体何人泣かせたいのと」  
「姫神さん? カミジョーさんにはそんないかがわしい経歴はありませんのことよ? そ  
れからどうしてこんな体勢に? 周囲の目がカミジョーさんは大変気になるのですがッ」  
 
 その言葉に、姫神秋沙はさらに顔を赤く染めながらも、身体を強く密着させてきた。  
 極上の感触が上条の背中に広がる。  
「私だって。恥ずかしいのだけど。見せつけておかないと悪い虫がまた君に」  
 背中に広がる素晴らしい弾力と姫神の言葉に、上条の頭はパニック寸前に陥る。  
「だっ、だからカミジョーさんにはそんな素敵フラグなんて無くって! ハッピーイベン  
トなんかには決して繋がらない駄フラグばっかりで! だからその・・・」  
 上条の言葉に、姫神は頬を染めながらも小さく溜息を吐く。  
 
「…君は。本当に無自覚。言葉にしないと判らない?」  
 

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