潔癖なほど剣と戦で鍛えた躯の中で、其処ばかりはふっくらとなだらかな恥丘の輪郭を覆う叢の金へ、
銀のやすりが再び宛がわれると、丈を整えおわった毛の先を摘み一本ずつ丁寧に慇懃に摩りはじめた。
見掛けによらず、本当に器用な十指だ。
いつものロングソードを振るう無骨さは成りを潜め、今は己に傅きながら上機嫌に優雅な奉仕をこなしている。
名に聴こえる画家が絵筆を操るよう、あくまで其の物腰は美の探究心と云う湖の畔を離れていないらしい。
見慣れたサロンの天蓋の燭環や柱の彫刻などを視線が一周する暇も無く、
しゃり、と、アンダーヘアから伝わってくる微小な刺激に愁嘆した。
「疲れてきましたか?」
頤も上げない侭でめざとい情夫は、質問を一つ投擲してきた。
「別に。何でもねーし。続けろよ」
「そうですか。……もし貴方様が厭になったなら、いつでも云ってください」
はいはいと頷きながら軽く聞き流して、視線はやっと騎士団長に向かった。
ひとみの角度。
饒舌と沈黙の間で踊る口元。
暗めの金にきらめく硬そうな髪。
そうした破片の集合で変貌してゆく僅かな表情の機微に何となく眼を据えていると、彼の虹彩が俄に揺れうごいた。
しどけもない此方の下腹部に、擽ったいほど慎ましく紳士的に添えおかれている指と同様の気配を忍ばせた双眸が、
乳房の凛々しい形と其の頂につんっと凝る蕾を愛であげ、彷徨いながらまもなく頸に到達する。
こうして艶っぽくみつめられる事は嫌いではない。
会話や抱擁を省いて欲望も懸想も伴う雄の眼差しにひたすら性感帯を隅々まで爪弾かれては、
脚のつけ根に溜まってゆく熱に倒錯的に酔う。
この愉悦には勿論のこと酒の力も借りているのだけれど、
頭の芯がおもたく麻痺する独特の恍惚は、他の人選では味わえまいと思っている。
だからこそ、快楽の価値も増す。
まろみよりも刃の硬質性や鞭の撓る様を思わせる肩や喉のミルク色の肌へ、
身も蕩かすように熱視線を戯れさせていると、そ、と、左右の膝頭を外向きに軽くひらかされた。
ベッドに紅い幕を被せ前衛的に丸めたような長椅子に横たえられた己の股座に、犯人は陣どっている。
当然あられもなく其処に華咲く雌の生殖器を観賞させなければいけない訳で、
羞恥で調律を狂わせた動悸は呼吸に波及したけれども、併し戦慄かずにはおけない程の昂揚は歓喜の扉の鍵ともなった。
「小さいですね」
腿をなでまわしてきた掌が鼠蹊部を暫く嗅ぎまわった後に貝のあわいを優しく嬲った。
「ん、……お前……」
「よくこれだけ狭い口で私の物が咥えられるものだと思いますね。
いや、一応私も負担かけないようにはしてるつもりですが。ただ、貴方の痛そうな貌も悪くないですし」
「……支離滅裂じゃねーか。何が云いたい?」
持ちあげたのびやかな片脚の爪先で喉を突いてやれば、くすり、と、
頬は歪んでサファイアの瞬きには世辞にも貞淑とは表現しがたい野蛮な獣性が一瞬だけ爆ぜてみえた。
「貴方様の……キャーリサ様が恥ずかしがる事が一杯したいんですよ。恋人としては」
「……もうさせねーし」
「剃られる方が好きなら御望みの侭に」
「そんな訳は、……」
合歓の木々の眠る葉のよう、ひたりと鎖された莢を幾度もなぞる傍らで囁かれた卑猥な台詞が、骨盤にじんと忌々しく木霊する。
処理の工程は完了したのだろう。
男の佇まいに相応しい白磁の両掌が、散らばる小道具一式を箱へ戻して脇へ追いやる様子を淡々と俯瞰しながら刻を数えまつ。
まもなく己は、女主人の如く薔薇の香水を纏うこの腕を差しのべ項へ廻し―――
彼の為に磨かれた躯を以て愛玩者の道へ一想いに堕落するのだ。