俺、上条当麻と、うちの居候のシスターであるインデックスは、食事も、その後片付けも終えて、後は寝るまでの時間を怠惰に過ごす様な状態だった。  
 そんな俺がぼぉっと頬杖を突い見るともなしにテレビの画面を眺めていると、胡坐に組んだ膝に何か温かいものが触った。  
 それに気が付いて視線を向けると、インデックスが俺の膝に手を添えていた。  
 食事も無事に終わって穏やかの表情をしたインデックスの顔が目の前にあった。  
 白い肌、長いまつ毛、青い瞳……その中に俺の間抜けな顔が映っている。  
 風呂に入ったせいかサラサラと落ちた銀髪から微かに石鹸の香りがする様な気がした。  
 そう言えば最近は寒くなって来たので、インデックスにフリース生地の真っ白な上下一体のナイトドレスを買ったのだが、こうして見ると何だか雪の妖精かお姫様の様だ……なんてそれはちょっと言いすぎか。  
「ねえ、とうまぁ」  
「ん? 何だインデックス」  
「今日はクリスマス……聖なる夜なんだよ」  
「はあ?」  
 唐突に何を言い出すんだこいつは? 大体……、  
「クリスマスってお前、今日はまだ2い――」  
「細かい事はいいんだよ!」  
「な、何言ってんだお前? 細かい事って全然細かくな……」  
「あんまり小さい事ばかり気にしていると禿げるかも」  
「な!? カミジョーさんは禿げません! 見なさいこのふっさふっさの黒髪を!!」  
 俺がつむじの辺りを指差しながら猛烈に言い返すと、インデックスはやれやれと言った感じで肩をすくめて、  
「そう言っている人が二十歳を過ぎたら突然髪が抜けだして……」  
「嫌ああっ! そ、そんなネガティブな情報聞きたくない!」  
 何て酷い事言うんだこいつ! もし禿げたとしてもそれは全部お前のせい何ですからね!  
「そんな事はどうでもいいんだよ。うん、どうもとうまと話していると中々本題に入れないかも」  
「いや、それはどうもスマン」  
「いいんだよ。今日は聖なる夜だから特別に赦してあげるんだよ」  
 赦すの響きが明らかにおかしい気がするんですが……。  
「ところでとうまっ!」  
「は、はい何でしょうかインデックスさん!?」  
 先ほどよりも更に近い位置にインデックスの顔が近寄って来て、俺は思わず逃げ……と思ったらインデックスの手ががっちり俺の両膝を押さえていたので、胡坐のままのけ反ると言う器用な格好をした。  
「聖なる夜は家族で過ごすのがイギリス式なんだよ」  
「そうか、家族か……俺たち家族みたいなもんだからなぁ」  
「そこで、なんだよ」  
「ん?」  
「真に家族になろう」  
「はぁ」  
 咄嗟に意味が判らなくて思わず気の抜けた相槌を打ってしまったが……いや待てよ。  
「俺が兄でお前が妹」  
「違う!」  
 むむっ、違うと来たか。  
「よし、俺がお父さんで、お前がお母さん」  
「とうまぁ……」  
「で、スフィンクスが俺たちの子供」  
 俺がそう言った次の瞬間、幸せそうに頬を染めていたインデックスの顔が消えて、代わりに直ぐ側でドカッと何かが倒れる様な音がした。ま、言わずもがなインデックスが倒れた訳だが。  
 と、そんなインデックスがむくっと無言で立ちあが……あ……、  
「とぉ、おぉ、まぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!」  
「うぉおおおわああああああああああああああああああ!!」  
 きっと彼女には獣の血が流れているに違いない。  
 だって獲物に飛び掛って押し倒すのが余りに手馴れている。  
 
「ちょ、ちょっと待て!!」  
「待てる訳が無いんだよ!! とうまはどうしていつもいつもそうやって乙女心を踏みにじるのかな!? それってもはや弁解の余地が無いくらいに……トウマノズコツヲカミクダク……」  
「コラコラ途中から変に日本語が片言になった上に不穏な事を仰ってな……」  
 いつ見ても綺麗に並んだ白い歯は、この時ばかりは地獄の断頭台の様に見える。ガッキンガッキン言っているのが正直もう何時もの事ながら、  
「ヤメテトメテ噛まないでええええええええええええええええええええええええええええ!!」  
 もうこれ以上の直視は心臓が持ちませんとばかりに、俺は絶叫と共に次に来る痛みに備えてギュッと目を瞑った。  
 だが、待っていたのは、大口開けた俺の口を塞ぐ柔らかい何か……ってオイッ!?  
「ン゛!?」  
 目を開けたらインデックスの顔がドアップだった。  
 何かでガツンと殴られた様な衝撃に目が霞む……と、いつの間にかインデックスが俺の事を見下ろしていた。  
「家族になろう、とうま」  
 また『家族』かよ。  
「何だよ。ただ俺と一緒じゃ不満なのか? 何か足りないなら言えよ。出来る事は限られてるかもしんねえけど、まだ何もしちゃいない内から諦めるのは俺の性分じゃ無い」  
 するとインデックスの奴、瞳一杯に涙ぐんだかと思うとそれを隠す様に袖でゴシゴシと拭った。  
「も、もう! とうまは何で急にそんな事を言うのかな!? 思わず決意が揺らいだんだよ!」  
「イテッ! イテイテテ……、な、何で急に殴るんだよ……コラコラ、マウントポジションからパンチはマジでヤバいから止め、イタ、アダダ……、ごめ……、ごめんなさいいいい!!」  
 どうなってんだ今日のインデックスは何時にも増して情緒不安定だな。と思いつつもちょっと心配してしまうのは、さっきの『アレ』のせいかな……?  
「とうま顔が赤い」  
「ばばッ!? 馬鹿な事言っちゃいけません! そ、そうこれは今お前に殴られて顔が真っ赤になったんです! け、決して先ほど……」  
「先ほど?」  
 あ……。  
「とうま☆」  
「な、何ですかその勝ち誇った笑顔は!? お、俺はまだ何も言ってない! 全然これっぽっちも言ってない!!」  
「何を?」  
「もちろんキ……」  
「キ?」  
「あわわわわ!?」  
 だ、駄目だ……これ以上話をしていたら俺は誘導されてしまう。そして何か越えてはならない一線を越えてしまうに違いないんだ。そう俺の不幸センサーがそう言っている。  
「イ、インデックス。もう遅いから寝ないか?」  
「『寝ないか』だなんて、とうまのエッチ」  
「い、いやちょっと待てインデックス!? 今のは睡眠を意味する『寝る』であって同衾を意味する隠語などでは決してありませんからッ!」  
 何だ今日は何かがおかしい。俺は一体どこで選択肢を間違ったと言うんだ? と言うかインデックスはナイトドレスの裾なんか持ち上げてそれ以上上げたら中が見え……え? あれ? 何で?  
「インデックス……?」  
 俺の腹の上に乗っかっているそれは、その本来なら布で覆われている筈の部分が……ミエチャッテイルノハイッタイナンデスカ?  
「家族になろうね、とうま」  
 家族ってやっぱり契りを交わす(そういう)意味ですかああああああああああああああああああああああああああ!!?  
 
 
 
 
「ん、んんっ」  
(とうまが私の中にっ、幸せだよ……とうま……もっと私をとうまでいっぱいに……)  
 
 
 
おわり  
 
 

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