「ふ・・・ぁ、く・・・ぅんんン・・・」
3月14日の深夜に、4度目の嵐はやってきた。ベッドの上で膝立ちになった打ち止めは、ぎゅっと一方通行にしがみつくことで何とか姿勢を保っている。
打ち止めが甘噛みするように一方通行の方に口を押し合てているため、彼女の甘い嬌声はくぐもったように小さく響くだけだった。
一方通行は、片手で少女の背を支え、もう片手で少女の秘所を刺激する。終わりの時は近い。
びくんびくんと震えながら達した後で、力の抜けきった打ち止めの体は一方通行の腰に緩く手を回すような風にして、ずるずると崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
少女を心配して声をかけた一方通行は、一つの事実にふと気がついた。――打ち止めの顔が、自分の腿のちょうど付け根に近い部分にあることに。
そして。
「・・・・・・・・・」
内側からパジャマのズボンの生地を押し上げている『何か』を、少女が色ののった濡れた眼差しで、ぼんやりと眺めていることに。
その距離、僅かに5cm足らず。
(・・・・・・・・・今すぐ死にてェ・・・)
彼岸に目をやり一瞬思考を放棄しかけた一方通行だが、この現実をぶち壊さないことには死んでも死に切れない。
学園都市第一位の頭は状況の打開にむけた次の行動を打ち出して、神経にすかさず伝達する。
しかし、その行動は空振りに終る。何故ならば、力の抜けきっていたはずの打ち止めが、緩慢な動作でゆっくりとその身を起こしたからだ。
「・・・これ、」
年齢に似合わない気怠げな様子で、少年の足の間に座った少女は、少年の股間を見つめていた。
(もう嫌だ死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にjhpogugfdgobzaym)
思考することを完全に放棄した一方通行に対して、打ち止めは一生懸命思考する。
性の知識はそこまでない打ち止めだが、一方通行の身に何か変化が起こっていることは理解していた。
そして確か、こういった変化は、自身が苦しめられた、体の内側から身を焼くような、どうやって解消すれば良いのか解らないような、もどかしい『疼き』によって起こるものだったはずだ。
一方通行が自分と同じように苦しんでいるのなら、自分と同じようにして解消すればよい。
自分はいつも助けてもらっている。ならば、今度は自分が彼を助けよう。
そう結論付けて、打ち止めはゆっくりと一方通行の股間に身を埋めるようにして近づいて行く。
「ミサカがしてあげるね、って、ミサカは――」
「やめろやめてくれやめてくださいお願いしますゥっ!」
物凄い速さで一方通行は打ち止めを自分から引き離す。いったい何が起こったのかわからず、きょとんとした表情を浮かべた打ち止めの肩を掴んで、
腕を伸ばして精一杯距離をとると、一方通行は荒い息を吐き出した。打ち止めに処理してもらうという事態になったら、本気で死ねる自信がある。
「・・・余計なことをすンじゃねェよ、クソガキ」
そう言い捨てると、一方通行は打ち止めをベッドの上に残したまま、乱暴な動作で部屋を後にした。
一方通行は風呂場に駆け込み、既に限界に近くなっている性器を乱雑に取り出した。
先ほど打ち止めが自分に対して何をしようとしたのか、思わず想像した。
あどけなく笑いかけてくる彼女の、何度も繋いだことのある温かくて柔らかくて小さな手のひらの感触が、己の性器をすりあげる己の手のひらの感触に重なって、置き換えられて、そして――
(最悪だ)
風呂場の冷たい壁に身を預けながら、一方通行は罪悪感に襲われる。居た堪れなくて暫く手を繋げなくなるかもしれない。
大切にしたいと思っているのに、愛おしいと思っているのに、どうしてこう邪な方向に結び付けてしまえるのだろう。
無機質なタイルの上に飛び散った吐精の結果の白濁と、頬を紅潮させ潤んだ瞳で己を見上げて来た少女の面影とを無意識に脳内でコラージュしてしまい、一方通行は吐き気のするほどの自己嫌悪を抱いた。
自分、死ねばいいのに。
なお、容易くコラージュがなされたのには、自分の性癖がロリコンになってしまったのではないかと不安に思った一方通行が、密かにロリネタ18禁の映像を見てしまったからである。
精液を頭からかけられて陵辱される画面の向こうの幼女を見たところで、何が楽しいのかわからなかったし興奮の気配もなかったというのに、こんなところでその映像を結果的に活用するような形になってしまった。死にたい。
(・・・調子にのって『おしゃぶり上手なツラ』とか言って、すいませンでしたァ・・・・・・・・・)
彼は名も知らぬ『猟犬部隊(クソったれ)』に思わず懺悔してしまうほど、混乱し後悔し苦悩していた。
一方通行が重い足取りで部屋に戻ってみれば、打ち止めはベッドの上でしょんぼりとした様子で座っていた。アホ毛も心なしかへにょりとしているし、双の瞳からぽろぽろと涙を零している。
自分は何をやらかしたろうか――いや、いろいろとやらかしているが、と、後ろめたさに冷や汗が伝う。
「・・・どォした?」
ベッドに適度な距離をあけて、一方通行は腰を下ろす。ゆるりと打ち止めが顔を上げる。
「あなた、は、」
涙に震える声で、打ち止めは言葉を紡ぐ。
「ミサカにされるのは、イヤ?」
「ぶふォっ!」
打ち止めに処理してもらうのが嫌だとか大歓迎ですゥとかいう話ではなく、見かけ及び設定年齢10歳実質的な年齢半年の少女に性欲の処理をさせることは越えてはならない一線だと一方通行は思っている。
まだ彼女には、清らかなままでいて欲しい。もう手遅れになりつつある気もしないではないが。それも自分のせいで。許してください。
酷く動揺している一方通行を潤んだ視界にとらえながら、打ち止めはすっかり落ち込んでしまった。彼の沈黙は肯定なのだろう。新たな涙が頬を伝う。
「ミサカに、さわられるのはイヤなの、って、ミサカは――」
「そォ言うわけじゃねェよ」
「・・・・・・じゃあ、どおしてなの?」
絞り出されるように吐き出された少女の言葉に思わず反射的な否定の言葉を紡いでしまった一方通行は窮地に立たされる。問い詰めるような打ち止めの眼差し。
10歳の子どもに処理させるのは罪悪感がありすぎて無理です勘弁してくださいといったところで、打ち止めは気にしてこないだろうし、そもそも10歳の子どもに半ば手を出して
自慰のネタにしている自分が果たしてそれを言い訳にできるものかと思い、一方通行は苦悩する。
「あー・・・うン、」
(助けてェェェえええ木ィィィィいい原くゥゥううううン)
思わずどこか彼方で星になっている木原数多に救いを求めるほど、一方通行は苦悩していた。
「あれだ、」
真っ直ぐな打ち止めの瞳から視線をそらして、言い訳じみたぶっきらぼうな調子で彼は吐き捨てる。
「オマエに触られンのは嫌じゃねェけど・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・別にオマエにシてもらわなくても、オマエにシてるだけで充分気持ちイイからいいンだよ」
「・・・・・・・・・」
「・・・うン、だから気にすンな・・・・・・」
何かぽろりと恥ずかしいことを言ってしまったような気がする。そして地味に何かの地雷を踏み抜いた気がする。一方通行は真っ赤になって俯いた。今度は羞恥心で死にそうだ。
打ち止めもフリーズしているらしい。間が、沈黙が、痛い。
「そっか」
停滞した空気を破ったのは、彼女の方だった。
「あなたはミサカのこと、イヤじゃないんだね、ってミサカはミサカは大切なことなのでもう一度確認してみる」
「・・・・・・・・・まァ」
「・・・よかった」
ふわりと打ち止めは笑みを浮かべ、勢い良く一方通行に飛びついた。
なんとかなったらしいことに安堵した一方通行は、次の瞬間彼女の落とした爆弾に再び動揺することとなる。
「――でもいつか絶対あなたを気持ち良くさせてあげるからねって、ミサカはミサカは目標を宣言してみる!」
「はァ?!」
「それまでに女を磨いておくからって、ミサカはミサカは小悪魔の笑みを浮かべつつあなたの耳に息を吹きかけてみるー♪」
「ばか、やめろボケ!」
「だから、6年後は覚悟しておくようにねって、ミサカはミサカはあなたに最後通牒をつきつけてみたり! ね?」
終わり
おまけ
「ところで、何でいきなりオマエは盛るようになったンだ?」
「盛るって言い方は良くないと思うのってミサカはミサカはあなたの言葉遣いを正してみたり。どこから説明しようかな・・・そう、
ヒーローさんと『妹達』がお付き合いすることになったんだよって、ミサカはミサカはまずはそこから説明してみる」
「はァ? 初めて聞いたぞンな話。・・・ってかよォ、『妹達』っておかしくねェか? 何番目の個体だ?」
「ううん、おかしくないよってミサカはミサカはあなたの問いは意味のないことだと教えてみる。ヒーローさんは去年のクリスマス・イブの日から、
9969体の下位個体全てと男女の交際を開始したのってミサカはミサカは衝撃の事実を告げてみたり」
「・・・・・・はァ? え?」
「クリスマス・イブに交際を始めてから、交際を開始した日、1月1日未明、バレンタインディ、そしてホワイトディである今日、複数人の下位個体がヒーローさんと交流・接触――」
「まァ正月以外はカップルがちちくりあうよォなイベント日だがよォ、それ以前に気にすることが」
「――性交を行なったらしい、とミサカはミサカは事実を端的に告げてみる」
「ぶふォっ、ちょ、ちょっと待てオマエ!」
「その際に上位個体であるこのミサカを除く第二次製造計画で生まれた『妹達』9969体が感覚共有を行い、その結果としてこのミサカにも性的衝動?が起こったと推論されるのってミサカはミサカはおおまかな説明を終了してみる」
「え? え? えェェェえ?」
「ミサカはその時感覚共有はしてないし、ヒーローさんに恩は感じてるけどそれ以上でも以下でもないよ、って一応補足説明してみる。
でもMNWの特性上、ミサカたちは『個』であると同時にその総体でもあるわけだから、9969体の下位個体の性的衝動と全く無縁でいることは出来なかったみたい、って
ミサカはミサカは混乱しているあなたの頭をよしよしと撫でながら落ち着けることを願ってみる」
「すみませェン、全くついていけないンですけどォ」
「ミサカも実は詳しいことは解らないから、下位個体たちに『上位個体はまだ年齢的に見てはいけません』って言われているし、このミサカとしても興味はあんまりないんだど、
ネットワーク上の記録をあさって下位個体とヒーローさんの成り行きについて調べてみるねってミサカはミサカは接続してみる。うーんと、『聖夜の告白――伝える思い、伝わる思い』編からなんだけど、
でも閲覧不可なのは『聖夜の告白――初めてを君に捧ぐ』編からだよってミサカはミサカはあなたに意見を求めてみたり」
「如何にも地雷そうなタイトルのものを観ちゃいけませン! 今後も閲覧不可! 関連作品も禁止ィ!」
「鬼気迫る勢いのあなたに、ミサカはミサカは閲覧しないことを誓ってみたり。でも『ミサカ100人斬り』なんて、アクションっぽいタイトルのものもあるよって」
「やめろォ! 絶対観るなァっ! 地雷だから! それあからさまにアウトなヤツだから!」
「ちょっと怖いよって、ミサカはミサカは激しく動転しているあなたにちょっぴり恐怖を抱いてみたり」
ホワイトディもあけた、3月15日の昼間のことだった。
一方通行は、コーヒーが切れてしまったために最寄のコンビニに立ち寄っていた。籠の中に適当に商品を掴んで放り込むと、レジへと向かう。
と、思いもよらない人物を発見した。
(・・・三下?)
そこにいたのは、9969人の彼女(?)を持つ男・上条当麻だった。覇気のない様子の彼は、栄養ドリンクの並んだ区画をぼんやりと眺めている。
「よォ」
「・・・あ、一方通行か」
少年は明らかに疲れた表情をしていた。げっそりとやつれた雰囲気を漂わせている姿は、この人物にしてはありえないような状態だった。ツンツン頭にもいつもの切れがない。
「詳しいことは知らねェが、クソガキから話は聞いた。オマエ、『妹達』と付き合ってるらしいなァ」
「・・・ああ」
「・・・死にそうな顔してっけどよォ、大丈夫か?」
「人間、死なない限りは大丈夫なんだよ」
消え入りそうな様子の少年は、最早お決まりの「不幸だ」のフレーズを口にする気力もないらしい。一方通行は並んだ栄養ドリンクに目を走らせると、
物凄く効き目が高そうでそれゆえにいろいろと危険そうな、どぎつい色の瓶を籠に放り込んだ。税込み9987円。
「奢ってやる。あと話くらいなら聞いてやる」
コンビニの裏手のブロックに腰を下ろした上条は、一方通行から栄養ドリンクを受け取ると、力のない様子でキャップを開けた。一方通行も隣に座って、ブラックコーヒーのプルタブを開ける。
「・・・クリスマス・イブにさ、告白されたんだ」
ぽつりぽつりと、少年は語りだす。
「正直言って俺は彼女欲しかったし、良いヤツだって知ってたし、満更でもなかったからオッケーしたんだ。でも俺の想定とは違ってた。俺は目の前にいる『妹達』の一人に
返事したつもりだったのに、なぜか『妹達』全体と付き合うことになっていたんだ」
「・・・あのクソガキが、ミサカは「個」であると同時に『妹達』による総体だと言ってたぞ」
「よく解らないけど、そういうことだったんだろうな。でもその時の俺は混乱していた。でも頭を整理しきる前に、学園都市在住の4人のミサカに食われたんだ」
「・・・三下、」
「正直言って気持ち良かったし、可愛い女の子にエロいことされるのは悪くはなかった。でも何が何だか解らないままに、俺は童貞を卒業して、ついでにそこにいた4人のミサカたちの処女も散っていた」
「大丈夫、か?」
「・・・ありがとう。こうなった以上、俺は責任を取ろうって決めたんだ」
「さすがヒーローだな」
「そんなたいそうなもんじゃないさ。あいつら可愛いし、それに個性もうまれてきてるんだ。最低だと思いつつも、1万人の女の子とお付き合いできるんだラッキーくらいの
気持ちになろう、って思ったんだ。そして元日の夜、俺は家から拉致されて、今度は調整で帰って来てた10人のミサカに囲まれた。『姫初め』って言ってた」
「(それで正月からクソガキがあンな風になったのか)」
「さすがに10人はきつかった。でもそれだけじゃなかった。一人、Sっ気の強いミサカがいて、さ。・・・・・・ディルドで掘られた」
「!」
「思ってもみなかったからさ、さすがに泣いたわ」
「・・・辛かったら、話さなくて良いンだぞ?」
「いや、実は誰かに聞いて欲しかったんだ・・・。その後、三日に一度くらいずつ、入れ替わり立ち代り別々の個体が来てはデートしてエッチした。こっちは一人ずつが相手だったから、気が楽だった」
「そォか」
「これだったら、って思ったんだ。ところがだ。バレンタインにまた拉致られて、でっけえホールに案内された。入ったら、垂れ幕が掲げられていた
――『その(性的な意味での)原液をぶっかけて〜ミサカ100人斬り〜 in20XX年バレンタイン』って書いてある、な」
「まさかの『そげぶ』だなァ」
「48手一周、48手+チョコレートプレイで一周した。残りの4人はS担当だったらしくて、そっちは俺を掘っていった」
「三下ァ・・・っ!」
「そのうちの一人が、電流で俺を強制的に勃起させて射精させたんだ。痴漢とかレイプとかみたいな感じでさ、悔しくて泣いた」
「言わなくていい、言わなくていいンだぞ、三下っ」
「それを見てたせいもあって、俺が勃たなくなると、皆強制的に勃たせてくるんだ。終ってからちょっぴり人間不信になってさ、一週間くらい家から出れなかった」
「・・・よく立ち直れたなァ」
「さすがにあっちも反省したのか、ホワイトディは人数減らして、選抜された48人による『MSK48 あなたの白いのいっぱいください! in20XX年ホワイトディ』に変更になった。・・・・・・今先刻漸く解放されたんだ」
そしてヒーローは、栄養ドリンクを飲み干して笑う。戦士の、勇者の、英雄の笑みだ。
「ごちそうさま。これ、ありがとな」
その笑顔は、どんなものよりも清々しく、そして何かを悟ったように見えるものだった。一方通行はヒーローの偉大さを痛感した。
「三下」
一方通行は思わず声をかけた。ん? と言って振り返ったヒーローに向かって、一方通行は呼びかける。
「話くれェならいつでも聞く。栄養ドリンクだって奢ってやる。だから――」
「頑張れ」
「――ああ、ありがとう」
一瞬眩しそうな表情をした後で、上条当麻は力強く頷いた。
二人の少年の道は続いている。二人の少年の戦いはまだまだ終らない。
終わり。