おまけ@  
 
とある喫茶店では、よく似た二人の女性がお茶をしていた。一人は『妹達』のうちの一個体・10032号――通称『御坂妹』である。もう一人は、第三次製造計画の中で誕生した番外個体だ。  
どちらも『御坂美琴』のクローンであるが、その製造の目的やその後の環境の違いによって、それぞれがそれなりの個性をもっている。  
明るい昼下がりの窓際のテーブル。席は適度に埋まっているが、特殊なシステムのために他のテーブルの会話は内容がわからない程度にしか流れてこない。  
 
「・・・で」  
 
ショートケーキの上の苺をフォークで突き刺して、番外個体は目の前の相手にうんざりした視線を向ける。  
 
「いいかげんにMNWで全員感覚共有してエロいことすんのやめてくれない? ミサカは上位個体と違って、けっこうガチでアンタらの性欲が流れ込んできて、正直たまったもんじゃないんだけど」  
 
「そう言われてもこれは『妹達』の総意なのでどうしようもできませんと、ミサカは番外個体の意見を光の速さで却下します。  
ちなみに最近のMNW接続系イベントはS系ミサカのみが参加した『満淫電車は痴女だらけ〜ミサカに乗って出発ちんこう〜』と、  
視覚・聴覚のみ共有可の『上条をイかせるのは誰だ?! 20XX年度『妹達(シスターズ)』棒抜き選手権 予選B‐3組』でした、とミサカは確認します」  
 
「・・・そのやっすいアホ丸出しAVみたいな企画、よく思いつくよね。エロ『妹達』。日々欲求不満とかないわ」  
 
呆れた口調の番外個体に、普段はあまり表情の動くことのない御坂妹は、眉根を寄せて抗議の意を示す。  
 
「失礼ですね、普通に考えて見て下さい、とミサカは番外個体に自戒を促します。現在ミサカたちは一個体が最低一回以上、個人であの人とデートする日を設けることを決定していますが、自分の番が回ってくるのにどれくらいかかるか解りますか?  
 とミサカは番外個体に問い質します。それぞれの個体が実際にあの人とセックスする機会は、実際は限りなく少ないのですよ、とミサカは番外個体に懇切丁寧に説明します」  
 
「実際の回数が少ないからって、アレな企画で大乱交してそれをネットワークで共有するのは変態だとミサカは思うけどね・・・」  
 
何を言っても無駄なのだろうか。番外個体は窓の外に視線をおくる。と、よく見慣れたアホ毛少女が歩いているのが見えた。  
 
「上位個体はどうやら調整帰りのようですね。誘っても良いでしょうかと、ミサカは番外個体に許可を求めます」  
 
「好きにすればー?」  
 
ネットワーク上でメッセージを送信すると、ビビっとアホ毛を反応させて、少女がきょろきょろと周囲に視線を走らせる。  
喫茶店の窓辺の席にいる二人を見つけたらしく、満面の笑みを咲かせて大きく手を振ると、元気いっぱいに喫茶店の入り口に向かっていくのが見えた。もうじき高校二年生になるのに、随分と無邪気である。  
 
「久しぶり! 元気だった? ってミサカはミサカは確認してみたり!」  
 
カランカランとドアベルの音を立てて入って来た打ち止めは、仔犬のような様子で二人のいるテーブルに駆け寄って来た。  
 
「久しぶりー。相変わらず良いアホ毛だね」  
 
「店内ではもう少し大人しくするべきですと、ミサカはお姉さんぶった口調で上位個体を嗜めます」  
 
アホ毛じゃないもんーなどと言いながら、ちょこんと席についた打ち止めは、タッチパネル式のメニューに手を伸ばす。と、その左手の薬指に輝くものを目敏く発見して、御坂妹はばしっとその手を掴む。  
 
「この輝くものはなんですかと、ミサカはあえて上位個体に尋ねます」  
 
「あの人がミサカにくれたんだよーペアリングなんだよーって、ミサカはミサカは顔がにやけるのが止まらなかったりー。しかも絶縁体で特殊コーティングしてくれたミサカ特別使用なんだよって、ミサカはミサカはちょっぴり自慢してみる。  
あの人も何だかんだ言ってつけてくれてるみたいなのってミサカはミサカはえへへへへー」  
 
でれっとした表情を浮かべた打ち止め。そんなデレた第一位が想像できないいや想像するのを脳が拒んでいると口の中で呟く番外個体。  
シルバーの地にピンクシルバーのラインの入った細いシンプルなリングは、控え目ながらもしっかりとその存在感を主張している。毎日専用のクロスで磨いているので、プレゼントされたときのままの輝きを損なっていない。  
その指輪を見て、御坂妹はほう、と小さく溜め息を吐く。  
 
「むむむ、羨ましいですね、とミサカは上位個体に羨望の眼差しを送ります。さすがに9969人もいる我々がペア・・・というには若干の語弊を感じますが、そういったものをあの人に強請るのはほぼ不可能ですから、とミサカは残念に思います」  
 
例え100円の玩具の指輪でさえ、9969個+1個そろえれば997000円。近隣にいない個体たちへの送料を考えれば、それはさらに膨らんで行く。相変わらず金欠大学生である上条当麻に捻出させるには心苦しい金額だった。  
 
「うーん、ヒーローさんからのプレゼントじゃなくて、ペアリングを持っていることに重点を置きたいんだったら、あなたたちがそれぞれ自分の分を買って、  
ヒーローさんの分は皆で割り勘してプレゼントすれば良いんじゃないかなって、ミサカはミサカはちょっとした妥協案を提示してみたり」  
 
タッチパネルで紅茶とフルーツタルトを注文しながらアドバイスする打ち止めに、それも一つの案として検討してみるべきですね、と、御坂妹はMNWに繋いで他の妹達に情報共有を行なう。そんな平和な昼下がり。  
 
そんなのほほんとした空気を破るのは、やはり番外個体だった。  
 
「そういえばぁ、最終信号ちゃんは前よりおっぱいでっかくなったみたいだけどぉ、どうしたのっかなー?」  
 
「へ?」  
 
「はっ! また大きくなったのですか、とミサカは一人だけ成長を遂げる上位個体に嫉妬と憎悪の視線を送ります」  
 
「そんなことなっ、ちょ、触んないでよってミサカはミサカはぁっ! そこ、だめっ」  
 
「良いではないか良いではないか。うっわ、やっぱりこんだけあると揉み甲斐あるわ。エロっ」  
 
「ちくしょう揉み心地良いじゃねーかよ、とミサカは自分では得られない感触にこんちくしょおおおおおっ! ベクトル操作か? ベクトル操作の効果なのか?! ベクトル操作で日々育てているのか?!」  
 
「や、やめて・・・はぅ、やめてって、くぅ・・・っ」  
 
「さすがエロ『妹達』の統轄個体だけあってエロエロだね。ミサカ、そっちの趣味はないけどソソラレちゃうかも」  
 
「巨乳=感度が悪いと言われる俗説も打ち砕くようですねと、ミサカはさすがあのセクハラ第一位よく調教してやがるそれにしてもちくしょうなんなんだこの胸は」  
 
似たような顔をした女性二人が、こちらも同じような顔をした少女の胸を揉む光景はなかなかにシュールである。  
 
なお現在の彼女達のスペックを確認するならば。  
オリジナルである御坂美琴は、胸の膨らみにはやや乏しいものの、170センチ近い身長と均整のとれた体型はモデル顔負けで、女の子たちに憧れられるようなスタイルに成長した。  
番外個体は恐らく一番バランスが良い。戦闘で鍛えた肉体はしなやかで猫科の動物を思わせる。胸もそれなりの大きさだ。  
打ち止めは160センチに足りない身長ながらも、Eカップ(現在まだ成長中?)と姉妹一胸は大きくなった。戦闘個体ではない上実質6歳であることもあってかやや無防備で、総合的に男性受けするタイプである。  
『妹達』は、それぞれ個体のすごした環境により体型にばらつきは出ているものの、比較的オリジナルのスタイルに近い。故に、胸元はやや寂し目だ。  
そんなわけで、バストアップ体操を繰り返す『妹達』的に、上位個体のけしからんおっぱいは敵らしい。「この胸がっこの胸がああああ」と背後に何かを背負いながら、打ち止めの胸を揉む姿には鬼気迫るものが混じっている。  
 
このセクハラは、周囲の好奇の目を引きながら、最終的に店員が紅茶とフルーツタルトを運んでくるまで続けられた。  
 
 
「・・・酷いよ二人ともって、ミサカはミサカは汚されたことにショックを覚えてみたり」  
 
「エロい身体してんのが悪いんじゃない? ま、ウエストはミサカのが細いけどね」  
 
「申し訳ありませんでしたと、ミサカは上位個体に謝罪しつつ、これを毎晩のように第一位は堪能しているのかと上位個体の夜の生活に思いを馳せます」  
 
「っていうか、先刻から聞いてるとミサカとあの人が・・・その、エッチなことばっかりしてるって思ってるみたいなんだけど、ってミサカはミサカはそう認識されることに遺憾の意を示してみる」  
 
フルーツタルトをフォークの背で切り分けながら、打ち止めはぷくと頬を膨らませる。それに対して、御坂妹と番外個体は、顔を見合わせ頷きあった後、一気にまくしたて始める。  
 
「えー、だって中学生男子みたいなエロセンスの持ち主の『妹達』の上位個体なんだからそっかなーって思って。つーかアンタら、マジであの企画はないわ」  
 
「実験のときの第一位の発言や行動、そして現在の上位個体の発育状況から考えて、第一位の性欲がそれなりの状況であることが導き出される当然の結果ですと、ミサカは端的に指摘します。  
そして今後の上条当麻との性活のために、よろしければ参考までにどのような感じなのかをうかがいたいところですと、ミサカは胸に秘めた願望を思わずポロリと口にします」  
 
「ってかさ、否定するってことはもうアレ? もうセックスレスとか? それとも第一位はインポとか? 第一位が勃たないとか超うけるっ! あひゃひゃひゃひゃっ」  
 
「はっ! 既に倦怠期だったのでしょうかと、ミサカは気遣いが足りなかったことを上位個体に謝罪します」  
 
「もう好き勝手言わないで、ってミサカはミサカは下位個体と番外個体に怒ってみるっ!」  
 
あまりの言われように不満を露にした打ち止めに対し、番外個体は大爆笑し、御坂妹は宥めにかかる。傍から見れば仲の良い姉妹の光景だ。紅茶を一口飲んで落ち着きを取り戻した打ち止めは、大きく息を吐いてあのね、と切り出した。  
 
「確かにすることはするし、好きではあるけど、そればっかりじゃないもんってミサカはミサカは認識の是正を二人に強く求めてみたり。  
それに恐らくあの人は、性欲以前の段階の交流をかなり求めてる節がある、ってミサカはミサカはミサカの見解を提示してみる」  
 
「・・・それはどういったことなのでしょうか、とミサカは上位個体に尋ねます」  
 
打ち止めの言葉を受けて、御坂妹は僅かに小首を傾げた。下卑た暴言を浴びせてきた第一位の第一印象からはややずれている。打ち止めは言葉を選びながら話し出す。  
 
「うーん・・・何て言えば良いかな・・・、そう、あの人はもっと単純なところで、他人と触れ合うような機会が根本的に足りてなさすぎた子どもだったってミサカはミサカは結論付けてみたり。  
あの人、大きすぎる能力せいで、本当に小さい頃から『実験対象』か『バケモノ』としてしか周囲に認識されていなかったみたいだから、きっと普通の子どもだったら経験しているような、  
誰かと手を繋ぐだとか誰かに抱き締められるだとか、そういった経験を殆どしていないんじゃないかなってミサカはミサカは推測してみる」  
 
「あの人の能力はデフォルトで『反射』を設定していたけれど、それはあらゆるものとの直接的接触を拒むことに他ならない。  
『絶対能力進化』実験のときは、まだ感情なんて存在しない『実験対象』でしかなかったミサカたちを殺す以外のことはできなかった。  
そもそもあの人があの実験に参加した理由は、誰も寄せ付けない『無敵』になるためだった。・・・結局のところあの人は、自分からも、置かれた環境的にも、他人と触れ合うことが出来ない人だったんだよってミサカはミサカは判断してみたり」  
 
「だからあの人は、人間が柔らかくて温かくて、その肌の下では心臓がトクトク音を立てているってことを、知識としては知っていても経験していなかった。  
・・・あの人が能力を失って入院した最初の頃は、当たり前だけどいろいろと戸惑っていたし、ミサカが手を繋ごうとしても、避けられたりとか落ち着かない様子だったの、ってミサカはミサカはちょっと懐かしい出来事を思い出してみる」  
 
「でもあの人はそういった接触を心のどこかで希求しているところがある。だからこういた形でミサカを受け入れてきたんだし、他愛のない接触でも満たされるところがあるんじゃないのかなってミサカはミサカは一つの推測を導き出してみる。  
それに、だから――最近になって漸く、あの人の方から抱きついてきたり手を握ってくれたりするのを普通にしてくれるようになってきたことを、ミサカはミサカは二重の意味で嬉しく思ってみたり」  
 
ふわりと笑みを浮かべた打ち止めは、再び紅茶のカップに手を伸ばす。一方向かい合う二人の表情は若干引きつり気味だ。  
 
「・・・一方通行検定一級のあなたが推論したことですのでそれは恐らく正しいことなのでしょうと、ミサカは上位個体にコメントしつつ結局はただの惚気だったという事実に愕然とします」  
 
「無理っ! かゆいっ! 微妙に乙女思考っぽい第一位とか、キモすぎて訴えたら勝てるレベルだよ。うわ、砂糖吐きそう・・・キモい・・・もう無理もう無理もう無理」  
 
「えー! って言うか番外固体、椅子の上でのた打ち回りながら『無理』とか『キモい』連呼しないでよーってミサカはミサカは突っ込んでみたりっ」  
 
詰め寄ってくる打ち止めをぱたぱたと手を振って追い払うと、番外個体はテーブルの上のブラックコーヒーを一気に飲み干し、がたりと立ち上がる。  
 
「何か殺意が湧き上がりつつもどうでもよくなる勢いの惚気にこれ以上堪えられないから、悪いけどミサカは帰るね。砂糖吐きそうな気分だから、そのケーキはもういらない。二人で残りつついていいよ。じゃあね」  
 
「ってちょっとー! 酷すぎない? ってミサカはミサカはブーたれてみたりっ」  
 
「無理なもんは無理なの。じゃあね、頭の中春真っ盛りのお花畑ちゃん。今度は惚気禁止な時に会おうね。あ、とりあえず千円置いてくから、お釣分はおごり。ケーキセットは780円だったよね」  
 
文句を言う打ち止めをいなしつつ、番外個体は財布から千円札を一枚抜き取ると、伝票を入れるケースの脇に置く。  
 
「ありがとうございますと、ミサカは番外個体に感謝します。また機会があったらお茶でも食事でもしませんかと、ミサカは社交辞令的な言葉を口にします」  
 
「気が向いたらね。あと惚気は禁止で。むしろ最終信号禁止でよろしく」  
 
「ひーどーいーっ! そんなことばっかり言って、番外個体に好きな人ができても相談とかのってあげないんだからねって、ミサカはミサカは不満たらたら!」  
 
その打ち止めの発言に、番外個体は一瞬表情を強張らせた後で、すぐにバカにするように鼻で笑った。  
 
「アンタみたいなお子ちゃま個体に、恋愛相談なんてしないっての。バーカ」  
 
そういって踵を返した番外個体の背に向かって、「だめー! やっぱり相談してー!」などと喚く打ち止めを横目に、御坂妹は番外個体の残したショートケーキを二つに切り分ける。  
カランカランとドアベルの音を立てて、振り返ることなく番外個体は店を出て行った。  
 
「どうぞ、とミサカは上位個体にショートケーキを勧めます」  
 
「ありがとう、あなたは番外個体と違って優しいのねって、ミサカはミサカは傷心の心を慰められてみる」  
 
「まあこれは番外個体のものだったんですけどね、とミサカは番外個体のフォローに回ります」  
 
でもでも、と言葉を繋ぎながら、番外個体は自分の『妹』にあたるのに自分を子ども扱いしてからかってばかりだとぶつぶつ文句を零す打ち止め。それを見ながら、御坂妹はショートケーキを口に運びつつ考える。  
 
(・・・それにしても上位個体はなかなか残酷ですねと、ミサカは番外個体に少々同情せざるを得ません)  
 
ショートケーキの甘味が口に広がる。確かにあれだけ甘い話を聞かされた後には、ちょっとうんざりしてしまいそうな甘さかもしれない。それも、『自分の好きな人』と『自分ではない誰か』の甘すぎる『恋愛』話を聞かされるのであれば尚更だ。  
 
(上位個体はもとより、第一位も、番外個体の想いには全く気付いていないのでしょうねと、ミサカは推測します)  
 
第一位にしろ上位個体にしろ、共に行動したりあるいは話を聞いたりしている限りだと、恋心的な好意を寄せてきているらしい人物は複数人存在している。  
しかし恋心やそれに類する感情に関しては、互いに互いが向けているもの以外のベクトルは、彼らにとっては何の意味も価値もない。興味すらひかない。故にあっさりと切り捨ててしまう。  
無意識に無自覚に、残酷と言って良いほどの鈍感さで、彼らは周囲を傷付ける。  
それは彼らにとっては言いがかりかもしれないけれど、鈍感すぎることもまた一つの罪だと、恋する乙女であり散々恋人の鈍感さに苦しめられてきた御坂妹は判断する。  
 
(まあ第一位と上位個体がそんな風になってしまう理由は、解らなくもありませんが、とミサカは同じ恋する乙女である上位個体にもフォローを入れます)  
 
第一位にしてみれば、研究者たちも、一万回以上殺されてきた『妹達』も、『妹達』を救ったオリジナルや上条当麻でさえ、――それどころか自分自身も気付いていなかった感情を見出し救い出した唯一の存在が上位個体なのだ。  
世界を拒絶し世界に利用されてきた不器用な少年を、信頼し受け止め理解し好意を寄せてくる存在に、惹かれてしまわないわけがない。  
上位個体にしてみれば、生命の縁に立たされるそのたびに、何度も何度もぼろぼろになりながらも守ろうと必死になって闘ってくれる存在に、恋をしてしまわないわけがない。  
それは上条当麻によって救われ、恋に落ちた『妹達』が一番良く知っている。そんな存在が、培養器を出てから今に至るまでずっと傍にいたのなら、他の誰かに目移りする可能性など皆無と言って良いだろう。  
 
(いろんな意味で『二人の世界』を地でやっているような奴らですねと、ミサカは分析した結果を端的にまとめてみます。番外個体ではありませんが、本当に砂糖を吐きそうです、とミサカは紅茶で口の中をリフレッシュします。)  
 
片方が死んだらもう片方も死んでしまいそうな、そんな危なっかしい雰囲気さえも孕んだ二人の間に割ってはいることは、恐らくは不可能で。  
それでも諦めきれないものが、恋心というもので――番外個体が抱えているものなのだ。  
 
(・・・それにしても、全く同じ遺伝子を持つものであっても、恋愛では全く異なった運命をたどっていることを、ミサカは興味深く思います)  
 
9969体でただ一人の大好きな人を、共有しシェアしている『妹達(シスターズ)』。  
クローンでなかったため、好きな人と結ばれなかった『超電磁砲(オリジナル)』。  
愛する人の唯一絶対の位置に最初から居続けた『打ち止め(ラストオーダー)』。  
憎悪の対象を愛し、叶わない片想いを続けている『番外個体(ミサカワースト)』。  
 
(好きになる相手がここまで被ってしまうとは、似過ぎた姉妹もなかなかに難儀なものですね、とミサカは心の中で溜め息を吐きます。やれやれ)  
 
 
「もー、聞いてるの? ってミサカはミサカは先刻から無言でケーキを食べている下位個体に向かって確認してみたりっ」  
 
御坂妹の思惟は、打ち止めの声によって破られてしまった。御坂妹は自分が頼んでいたモンブランを口に運び飲みこむと、打ち止めに向かってほんの少しだけ頭を下げてみせる。  
 
「いえ全く聞いていませんでした申し訳ありません、とミサカは悪びれる様子もなく適当に謝罪します」  
 
「あなたも最近ミサカの扱い悪くなってない? ってミサカはミサカはそろそろ上位個体としての威厳を取り戻す手段を考えざるを得ない」  
 
「第一位に慰めてもらってくださいと、ミサカは最も効果的な上位個体のご機嫌取りを持ち出します。ところで、話はかわりますが」  
 
不満そうにフルーツタルトを突いていた打ち止めが、「なになにー?」と言って興味を示してきたのにあわせて、御坂妹はおもむろに言葉を紡ぐ。  
 
「そろそろ第三者に見られた状態で言葉攻めを受けながらセックスをする『羞恥プレイ』なるものをやってみるべきではないのか、と言う意見が出始めており、是非とも第一位と上位個体に協力を仰ぎたいとミサカたちは考えています」  
 
「・・・はい?」  
 
「やはり全く知らない第三者に見られるのは立場上アレですし、逆に親しい人に目撃された方が背徳感等々があって興奮するのではないかと、ミサカは第一位と上位個体が協力者に選ばれた意図を解説します」  
 
「待って、言ってる意味が解らないってミサカはミサカは困惑中」  
 
フリーズしたような状態になっている打ち止めに向かって、御坂妹は少しだけ肩を竦めて見せた。結局まだまだ打ち止めはお子様個体なので仕方ない。  
一方通行も『プレイ』といわれるような行為は行っていないのだろう――あの過保護なら大いにありえることだと予測し、具体例を挙げて説明すべきだと判断する。  
 
「そうですね、つまりは  
 
 上条『おいおい、いつもより濡れてんじゃねえか?』  
 ミサカ『そ、そんなこと。ひぐ、ありませっ、んん・・・っく』  
 上条『嘘吐け。一方通行と打ち止めに見られて興奮してるんだろ?』  
 ミサカ『・・・っ、ち、ちが・・・ああふ』  
 上条『ほーら、お前がいつもよりもギチギチに締め付けてるところ、二人に見てもらおうか』  
 ミサカ『や、やらっ! やめてぇええええっ! (恥ずかしい、でもいつもより感じちゃうのと、ミサカはぁ・・・ッ)』ビクンビクン  
 上条『はっ、見られただけでイっちゃうとかさ、いったい何だよ?』  
 ミサカ『・・・・・・っ、』ビクビク  
 上条『あーあ。躾のなっていない犬には、罰を与えないとだよなー』  
 ミサカ『?!』  
 上条『・・・先刻さぁ、何のために、あんなにポカリ飲ませたか解るか?』  
 ミサカ『あ・・・あ・・・アア・・・』  
 上条『ホントはさ、ちゃんとトイレ行かせてやろうと思ってたんだけど、でもやっぱやめた』  
 ミサカ『や・・・、ゅ、ゆりゅし、・・・』  
 上条『さあ、二人の前で お も ら し してみよっか♪』  
   
であったり、あるいは  
 
 ミサカ『いつもよりもギンギンに硬くなっているようですねと、ミサカはあなたの勃起したペニスをなぞります』  
 上条『はぅ・・・、く、・・・ゆるして、くだ、さぃ・・・っ』ビクビク  
 ミサカ『第一位と上位個体に見られて興奮しているのでしょう? とミサカはあなたの胸の内を指摘します』  
 上条『そ、そんな、・・・は、こと・・・っ、は、』  
 ミサカ『辛いのでしょう? もうこんなに先走りが出ていますよ? さあ、ミサカが言ったことを復唱したら楽にしてあげますよ、とミサカはあなたに囁きます』  
 上条『・・・っ』  
 ミサカ『さあ、早く』  
 上条『・・・、おれ、は、あくせ、』  
 ミサカ『あの二人に聞えるように大きな声で言って下さい、とミサカは指示します』  
 上条『お、ぉれは、アクセラ、レータと、ラスっ・・・ぉおダーに、み、みられて、オチ、ぽを、おっきくしちゃう、へ、へんたひ、れす・・・』  
 ミサカ『・・・続きは?』  
 上条『・・・・・・はやく、おれの、ぉしりに、ふ、ふとくて、おっきぃ、の・・・くださ・・・、い。ぉちん、ぽミルク、ださ、ださせて、くださ・・・っ』  
 ミサカ『まあ良いでしょう、とミサカはあなたのお気に入りのディルドを装着しつつあなたのおねだりにこたえます』  
 上条『はひ! おれの、おしぃに、ぉ、おっきいの、つっこまぇるとこ、み、みて、くだ、さいっ!』  
 
と言ったことをしてみたいのです、とミサカは上位個体に説明します。なお第一位と上位個体も盛り上がって相互羞恥プレイに発展する展開もドンと来いですと、ミサカは上位個体に比べ寂しい胸を叩きます」  
 
いかがでしょうか、と同意を求める御坂妹の目の前では、真っ赤になった打ち止めが、拳を固めてふるふると震えていた。そしてゆっくりと顔をあげると、少しだけ涙目になった状態で御坂妹を見据えながら、はっきりと自分の意志を告げる。  
 
「絶対イヤ! ミサカとあの人をあなたたちのアブノーマルすぎる趣味に巻き込まないでって、ミサカはミサカは絶対拒否の態度を示してみたり! そもそもそんなヒーローさん見せられたら、あの人が泣いちゃうってミサカはミサカも見たくないもんっ!」  
 
「おやおや、ミサカたちのあの人はドSっぷりもドMっぷりもかなり極めていますよと、ミサカは指摘します。調教し、調教され、そんな大人の関係なのですよと、ミサカは複雑な大人の愛の世界の一端を垣間見せます」  
 
「そんな情報聞きたくなかったぜイッエーイ! ってミサカはミサカはもうヤケクソになって叫んでみるぅっ!」  
 
 
 
おわり  
 
 

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