唐突だけど上条当麻は不幸である…と彼自身は思ってる。  
 
「うえ!? いきなりなんですか!? っつーかココ何処!? アンタ誰!?」  
 
周りから見れば、沸き出る殺意で人をブッコロ出来そうな程羨む状況に置かれているのに、これでもかってくらいに不幸である…と彼自身は思い込んでる。  
 
「いやいやいやいや!! 実際にカミジョーさんはたっぷりもっぷりと不幸ですのことよ!?」  
 
………ふむ、ではどのくらいの不幸っぷりなのか、その一日の軌跡を辿ってみよう。  
 
「いや、アンタそれ人権侵害!! ってゆーかマジでココ何処だよ!? なんで俺簀巻きにされてんの!?」  
 
なんでって…罪人にはお似合いの格好だと思のだが?  
 
「いや、罪人てアンタ! 俺が何したっつーんだ!!」  
 
よし。じゃ、納得したところで逝ってみようか。  
 
「全っ然納得してないし! っつーか人の話を聞けーーーー!!! 不幸だーーーーーー!!!!!!!!!」  
 
聞こえない。  
 
 
チチチ、チュンチュン  
 
小鳥たちの朝の到来を知らせてくれる柔らかい歌声に上条当麻の意識は次第に浮き上がっていく。  
 
「(……ん? …もう朝か?)」  
 
眠りから覚め、少々ボーっとした様子で朝が来たことをゆっくりと知覚する。  
 
「(あ〜、眠て〜。なんかあんまり寝た気がしないにゃ〜)」  
 
等と、クラスの三バカ(デルタフォース)の一角、金髪グラサンの口調を真似ながら意識をはっきりとさせていく。  
 
なんら代わり映えのしないいつもの朝。  
 
以前の上条当麻ならばここで睡魔に負け、再び夢の世界に落ちていき結局遅刻してしまうのが普通だったのだが、とある事件をきっかけに知り合った銀髪ロリロリハラペ  
 
コシスターが居候(というか同棲?)を開始してからそのような愚行をしなくなった。  
 
何故なら彼には彼女の朝食の用意しなければならないという使命が出来たからだ。  
 
そしてそれを怠ると変わりにぱっくりと食べられてしまうのだ。  
 
上条当麻が。  
 
それは比喩でもなんでもなく、過去に於いて実際に食べられた。  
 
そのときの事を上条当麻はこう振り返る「銀髪の大口お化けが襲ってきた」と。  
 
「(あの時はマジで死ぬかと思ったな。なんか綺麗な花畑にでっかい川が流れてて船頭さんに「乗ってくかい坊主?安くしとくぜ?」って言われた時に目が覚めて…あの  
 
まま乗ってたら何処行ってたんだ?)」  
 
過去の惨劇を思い出しながらボーっと天井を眺めること暫し、漸く頭がはっきりして来たようだ。  
 
「(ふう、さーて、今日もインデックスに齧りつかれないうちに朝ごはん作りますか……ね……………アレ?)」  
 
等と、彼女に聞かれたらそれこそ頭蓋骨を貫通するほどガジガジ齧られてしまうような事を考えながら、上半身に力を入れて起き上がろうとした。  
 
が、そこでふと気付く。  
 
何かがおかしい。  
 
「(あれ?上条さん確か昨日は風呂場に入って寝ましたよね? ちゃんと鍵も閉めた…うん、間違いない。じゃあなんで、なーんか見慣れた天井が目の前に広がってるん  
 
ですか? しかも先ほどから上条さんとは違った息遣いが聞こえるのもなんでなんでしょう? 更には体を誰かに抱きしめられてる様な感覚があるんですが……)」  
 
そう、昨日は確かに風呂場で寝た。  
 
それは間違いない。  
 
鍵を閉めた記憶も確かにある。  
 
ならばこれは夢か?性質の悪い夢なのか?  
 
自分の眼前に映る同居人の少女が来るまでは寝起きに毎日見ていた天井と、寝ている体の右半身を誰かに抱き枕代わりにされている感触に、じわじわと真綿で首を絞めら  
 
れているような感覚に陥って、嫌な汗がどばどば流れ出してくる。  
 
「(ああ、そっか。最近疲れてるからいつの間にか二度寝しちまってたんだな。はは、早く起きないとな)」  
 
と自分のほっぺたをむぎゅっと抓ってみる。  
 
「うん、痛い」  
 
夢からは覚めない。要するに  
 
「(誰かが…抱きついて寝てる? ……マジで?)」  
 
嫌な汗を垂れ流したまま目線をチラッと右側に移す。  
 
そこには丁度ひと一人分くらいにこんもり膨らんだ布団が、布団に包まれて隠れている人物の呼吸に合わせて僅かに上下していた。  
 
布団に包まれて誰かまでは分からないが、この家でもう一人誰かが存在するとしたら彼女しかいない。  
 
「ごくりっ」  
 
思わず唾を飲み、覚悟を決めてゆっくり布団を捲っていく。  
 
「(なっ! イ、インデックス!?)」  
 
そこには上条当麻の右半身を、絶対に離さないとばかりに体全体で抱きしめ、安心しきった穏やかな顔で寝ている同居人の少女がいた。  
 
そしてその少女を目にした途端、もっというならば少女の寝姿を見た瞬間、上条当麻はビシッ!と思わず固まってしまった。  
 
それもそのはず。  
 
何故ならその少女は上条当麻のお古のカッターシャツ一枚というなんとも扇情的な格好で寝ていたからだ。  
 
しかも、着込んでいるカッターシャツのサイズが大きい為か、彼女の胸元ははだけその慎ましやかな胸元のみならず、薄いピンクの色素っぽいものが呼吸のたびにちらちら見えてしまっている。  
 
更には右足を上条当麻の体に巻きつけるようにしている為に見えてしまうそのほっそりとした、しかし柔らかなそうな腰から足にかけての丸い曲線も上条当麻の精神に多大なダメージを与えていた。  
 
「(あ、あ、あ、イ、イ、イ、イ、イン、デックス、ス、ス)」  
 
上条当麻も年頃の男の子である。  
 
こんな素晴らしい眩いばかりの桃源郷を見せ付けられては堪ったものではない。  
 
しかし、そんな上条の熱いパトスを全く知らない聖少女は  
 
「……ん……とう…ま…」  
 
と、布団を捲られて肌寒くなったのか先ほどよりも体を密着させてきた。  
 
その際、インデックスの着込んでいるシャツが上条当麻の胸板によってずれてしまい、ただでさえ危うかった胸元が完全に開かれそれが更に上条当麻の精神に(ry  
 
「(―――いいか落ち着けこれは神が俺に与えた試練だコレぐらいのこと乗り越えられなくてどうする今まで散々不幸だったんだから今さら神の試練の一つや二つ何だって言うんだ  
いやいやインデックスの裸を見たことを試練だなんて思ったらインデックスに失礼じゃないかそれにすっげー白くて綺麗だし白いはずなのになんかピンクだし小さくて可愛いしって  
違うだろ俺は年上属性だろがそうじゃなくて別にこの試練は誰かに襲われたり獲って食われるわけでも無いしいやでもこの場合は俺が襲って喰う側になるのかーってそうじゃねぇっつってんだろーが何考えてやがるううう!!!」  
 
必死に己の理性に制止を訴えかけ、獣欲と戦っているようだが相当テンパっているのだろう。  
 
言ってることがかなりヤバイ。  
 
しかも最後の辺りを口に出して絶叫したものだからゼェゼェと荒い呼吸をしており、見ようによってはこの幼少女シスターの寝込みを襲おうとして興奮している変態にしか見えない。  
 
色んな意味でいっぱいいっぱいの上条当麻だった。  
 
「(はぁ、はぁ、と、とにかく早く起こさないと俺の身が(というか理性が)持ちそうに無いな)」  
 
先ほどの絶叫で少しは落ち着くことが出来たのであろう。  
 
彼女の魅惑的な胸元をなるべく視界に入れないようにしながら、軽く揺すって起こすことにした。  
 
「インデックス、起きてくれ。インデックス。起きてくれないと上条さん人様に顔向けできないような桃色空間に突入しちまいそうです」  
 
ゆさゆさゆさ  
 
と、軽く揺すって声をかけると  
 
「……んぅ〜……にゅ」  
 
と、なんとも可愛らしい甘えた声を出しながら更に密着してきた。  
 
上条当麻硬直。  
 
再起動までしばらくお待ちください。  
 
「(―――――ああ胸の上にぷにぷにしてて柔らくてなんかちょびっとだけ硬いものの感触がインデックスってばぺったんだと思ってたのにいつの間にこんなに成長して  
たんだお父さんは嬉しいですよ前に「インデックスはちゃんと成長してるもん!なんなら見てみればいいかも!!」って言って本当に修道着を脱ぎそうになってたっけあ  
の時は流石に必死になって止めたけど成長してるっていうのは本当だったんだな疑ってごめんなインデックス俺が悪かったよ謝るよお詫びに金欠だけど今晩の夕食はとび  
っきり豪勢にするからだからさそろそろ離れてもらわないと上条さん満月じゃないのに狼に変身しちゃいそうですよっつーかこれはもう誘ってるとしか思えないんだがあ  
あそうかそうなのかじゃあもうゴールしてもいいんだよな今までよく耐えたよ俺うん俺は頑張ったほらもう我が愚息も戦闘準備万端じゃないかという訳で…)」  
 
インデックスに向かい「ぱん!」っと行儀良く両手を合わせ  
 
「いっただきまーす!!……って出来るかーーーーーー!!!!」  
 
と、一人ボケ突っ込みを思う存分炸裂させつつその勢いでガバっと起き上がり、インデックスの拘束を瞬時に外し布団から飛び降りる。  
 
この間1秒ジャスト。  
 
数多の修羅場で培ってきた瞬発力は伊達ではないようだ。  
 
「はぁ、はぁ、あ、危なかった。もう少しで…」  
 
行き着くとこまで逝ってかも…と、額から流れ落ちる汗を右手で拭いホフゥ〜と安堵の息を吐く。  
 
「しっかしなんでまた俺こんなとこで寝てたんだ?風呂場の鍵も閉めたしバスタブの中で寝た記憶だってあるっつーのに…」  
 
む〜、といくら考えても答えなど出る筈も無く、  
 
「はぁ、まぁいいか。んなことより早く朝食作らねーとそろそろやばいな」  
 
と、部屋にかけられている時計で時間を確認しつつ、フラフラと覚束ない足取りでキッチンへと消えていく。  
 
その際、その背中に向けてベットの上で未だ寝ているはずの少女の口から「とうまの…いくじなし…」という呟きが零れていたが上条当麻がその呟きに気づくことは無かった。  
 
 
 

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