「あけましておめでとう」
「Happy new yearなんだよ」
「にゃー」
ここは学園都市第七学区にある、とある男子寮の一室。と言うか上条当麻の自宅である。
さまざまな事件を乗り越えて、この年の切り替わる瞬間にようやく自宅へと帰還する事に至った幻想殺しの少年と禁書目録の少女、ついでに飼い猫の三毛猫は、帰宅の言葉よりもまず新年の挨拶を交わす事により心機一転新たな年を迎える事によって
二人+αの生活を再スタートさせようとしていた……。
…………のだが。
「おうわー……改めて見直すと、なんじゃこの部屋」
「そういえば、去年イギリスに経った時は良くわからないうちに空港に居たね」
あの時は土御門からの電話があったと思ったらガスで眠らされ、気がつけば空港と言う引くに引けない状況だったので自宅がどのような扱いを受けていたのかまでは気が回らなかったのだが。
「一応窓とかは新調してくれたみたいだな……。ぐはぁ、冷蔵庫の食材が一部萎れてるぞ!?」
「とうまとうま! スフィンクスのご飯が真っ黒だよ!」
「にゃーん」
窓枠が妙に真新しかったり、ベッドや棚の周りも動かした形跡があったりと何らかのリフォームを行われた形跡がある一方で、上条がイギリスに行く前のままの状態で残された代物がそこかしこに散見されると言うちぐはぐな光景にこめかみを抑える上条。
まぁ大掃除の手間が省けたと前向きに考えるかー、と思考を切り替えた直後に、とある問題に思い当たる。
「つか、このままじゃ食うもんが揃わねぇじゃん」
そう。
折角の正月だと言うのに餅も何も無いのだ。日本の正月の風習に明るくないインデックスが特別な料理を求める事はまず無いだろうが、かと言ってかろうじて消費期限内のインスタント食品で新年を祝うと言うのもなんとも虚しいものがある。
しかし今は日付の変わった直後の時間帯。開いてるスーパーなど無く、コンビニも正月物は既に捌けていると思った方が良いだろう。何分、上条当麻は不幸なのだからそういった残り物には縁が無い。むしろ、目の前で売り切れる可能性だってある。
(色々と乗り越えて帰ってきた割に新年祝えないかー、って言うかその事にショックを受けてる辺り、まだ上条さんにも和の心と言うものが残っていたのですねうふふのふー)
「なんで乾いた笑いを浮かべてるの?」
微妙に引き気味のインデックスの問いかけに、
「いや、なんでもない」
と答えを返し、少ない無いなりにもあった荷物をベッドの横に放り置く。
「さて、と。とりあえずファミレスに何か食べに行くか? さすがに今から料理する気力はございませんのことよ」
「んー、別に良いよ」
な!? と驚きの声を上げかけて、それを寸でのところで飲み込む上条。
去年までのインデックスからはとても想像できない受け答えだったが故に、上条は驚愕とツッコミを織り交ぜた発言をする寸前だったが、次いで出たインデックスの言葉に飲み込まざるを得なかった。
「今はとうまが居てくれるから、それだけで良いよ。この部屋でとうまと一緒に居られるから、それで良いんだよ」
「……そうか」
インデックスの言葉に、了解の意を返す上条。そんな上条の胸元にインデックスはゆっくりと、しかし力強く抱きついた。
その抱擁に上条も答えるように、小柄なインデックスの体をしっかりと包み込む。
いつの間にか、三毛猫の姿も見えなくなっていた。
「おかえりなさい、とうま」
「ああ、ただいま。インデックス」