知の実を前に立ちすくむ
インデックスの歯の固さは文字どおり痛いほど知ってる。
唇の柔らかさは偶然知った。
あれは不幸で、勢い余った事故で、感慨に耽る暇もないほど
あっさりと通り過ぎたハプニングだ。
―――― 頬とはいえ、初めてのキスだったのに。
「ん、うんん、……あ、ぁぷ、んん」
窓の外は燃えるような夕焼け。夕日が差し込む部屋の中、
ベッドの上で交わすキスは熱くて苦しい。
俺の下で息を漏らすインデックスは夕日に染まっている。
長い髪や丸い頬、震えるまぶたまでオレンジ色。
まつ毛は光をはじいてキラキラ揺れる。
超至近距離で見るインデックスは繊細でキレイだ。
共に過ごす日常の中で、見て、眺めて、目で追っていた、
いつものインデックスを思い浮かべる。
認識よりもキレイなリアル、なんて。
妙な感動が全身を満たして、俺の辛抱を遠くへ追いやろうとする。
「ふ、ん、んんぅ、ひょ、うま、ぁ……」
息苦しさに喘ぐインデックスを貪る。
吸って、啜って、舐めて、甘く噛む、味わう。
唇と唇が触れ合う感触を初めて知った。
吐息が行き交う熱さを初めて知った。
絡まる唾液の甘さを初めて知った。
インデックス。インデックス。インデックス。インデックス!
おまえをもっと知りたい。
知りたいことがたくさんあると気づいたとき、知らないことが
たくさんあることにも気づく。
ひどい焦燥を感じる。
もっと知りたい。
全部知りたい。
めちゃくちゃな願望が、きりきりと胸を締め上げる。
シーツに付いた左手を動かして、そっと修道服の上から胸を撫でた。
少し力を入れただけで沈み込む柔らかさ。
びくっ、とインデックスの体が揺れ、きつく閉じられていたまぶたが
勢いよく見開かれた。
「っ、め」
潤んだ緑の瞳が、どうか誤らないでくれと訴えている。
一気に頭が冷えた。
「…………ごめんな、インデックス。がっついちまった」
俺は右手を伸ばして頬の涙をすくい、インデックスの小さな体を抱きしめた。
謝らないでくれ、そう言うかわりに。