上気してピンク色に染まった尻たぶに、ベチッと音を立てて細い乗馬鞭が振り下ろされる――。
「ぐっ」
歯を食い縛って痛みに耐えるが、打ちすえられた柔肉には痛々しい蚓腫れが赤く筋を引いた。
それは幾度も繰り返され、
「んぐっ……、ん゛っ……、ん゛ぎっ、いっ……」
振り乱される美しい金髪と、汗を飛ばしてくねる艶めかしい肢体。その張りと瑞々しさをたたえた肌には、荒々しい縄を幾重にまとわり付かせたキャーリサの身体が、天井から吊り下げられた両手を支点にくるくると回る。
片足は太ももの辺りで一まとめに縛られ、これも両手と同じく縄で吊られている――故に今彼女を支えるのは、天井から伸びた縄束と片足のみ。
必死に床を掴もうとする足指の動きが、まるで快感に身悶えているかの様に見える。
ひとしきり独楽か憐れなバレリーナの様にくるくると踊ったキャーリサは、その回転が止むと同時にキッと正面を睨み付けた。
と――、
「もっと心を込めて鞭を振るえんのかこの馬鹿者がっ! これじゃー全然屈伏出来ないし!」
「無茶言うんじゃねえ! 一介の高校生に鞭に愛を込めろって言ったって判るかよ! てか判ってたまるかっ!」
キャーリサの怒号にそう叫び返したのは上条当麻だった。
内々で重要な話があると呼び出され来てみれば、キャーリサ本人直々に自らを調教して欲しいなどと、その内容とは裏腹な尊大な態度でのたまわられたのだ。
何で俺がと上条が聞き返すと、目の前に差し出されたのは一枚の写真。
そこには縄に縛られて嬉しそうに身悶えるインデックスの姿がはっきりと写っていたのだ。
それは以前――とある事件から『縄縛術』と言うものが有ると知った事から始まる。
初めはただの興味だったものが、やがては自分でも出来るようになると、どれだけ実力が付いたのかと試したくなるのは止むを得ない事ではないだろうか?
ただそれを誰かに見られていようとは……。
「私に意見するのかお前は」
キャーリサがジト目をして低い声を出すと、上条は背中に冷たい何かを感じて背を伸ばす。
「折角お前の秘密を分かち合ってやろーと言う私の優しき心遣いが判らないと言うのだな、そう聞こえたし、ん?」
「あ、いや、ぁぁ……」
上条は何かに気圧されて後退りした。
「判っていないよーだから言ってやるの。お前に選択肢は無いしー。もしそれでも断ると言うならば……」
そこでキャーリサは考え込むように視線をさ迷わせた。
そして、
「そうだな。この私を辱めた。それだけでも十分なのだがもう一つ罪状を追加してやろーか。お前は我が英国の宝『禁書目録』をも性の対象に使ったのだしー。これだけ口実が揃えば戦端を開いても問題無い。なー、そうは思わないかお前も?」
そして置かれた状況に不釣り合いなくらいに勝ち誇った笑顔を見せる。
「私としても英雄殿と事を構えたくは無いのだがいた仕方無しだの。さあ縄を外して私を自由にするがいー。忙しくなるぞー。何せ相手は学園都市だし。さぞや華やかに命が舞い散る事だろーよ」
上条はその言葉の重さと大きさに唖然とした。
これはもう正気の沙汰とは思えなかった。
「本気……か……」
「今更だし。それを疑うならもー少し早めにするべきだったなー少年♪」
そしてキャーリサは上条に向かって飛びっきり最高のウインクをして見せたのだった。
暫くして正気に戻った上条は盛大な溜め息を吐き出す。
「ふ、不幸だああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「何、私を屈伏出来るのがそれ程嬉しーか? ふふふ、頼もしー事ではないの。私は強いモノなら何でも好きだし。強い国家、強い軍隊、強い国民、そして……強い男」
キャーリサはそこで一呼吸置いてペロリと真っ赤な唇を舐めた。
「大体にして私を奴隷にする男なんてサイコーじゃない……って何処に行こーと言うのだ?」
今の今まで勝ち誇っていたキャーリサは、頭を抱えていた上条が急に立ち上がって背中を見せて、更には離れていった事にキョトンとした顔になった。
今更逃げる筈は無い筈――果たして上条は、
「喧しいからこれでも咥えてろよ」
「う゛ぶっ!?」
上条はキャーリサの口に無理矢理ボールギャグを押し込むと、外せない様にベルトを戒めた。
「やってやるよ。ただな……やっぱり俺はこう言うのは苦手なんだよ」
そう言ってから先程の鞭をひゅんと何も無い所に向かって振り下ろす。
「ぶふっ?」
「だからさ……慣れるまで俺に付き合ってくれるか……」
上条はついに覚悟を決めた――それがひしと伝わったキャーリサは、目元を細めて器用に笑ってみせる。
「そうか、じゃ……いくぞっ!」
その言葉と共に頭上に振りかぶられた乗馬鞭は――――。