上条当麻は、数日ほど前から違和感を感じていた。
いつもはやかましいほどにひっついてくる、同居人であり恋人でもある彼女がなぜかよそよそしかった。
いつもは出不精だった彼女が、しきりに外出したがっていた。
どこにいくのか問いただしても言葉を濁すばかりで、帰ってくるのは夜遅くである。
心配して何度も尾行してみることもあったが、毎回上手い具合に撒かれてしまう。
何が彼女に起きているのか、もしかしたら何かとんでもないことを抱えているのではないか。
そのことが気になって、眠れぬ夜を何度過ごしたことか。
その疑問に終止符を打ったのが、学生寮の郵便受けに入っていた、ある一つの映像ディスクだった。
何の変哲も無い市販のDVDディスクだが、小さなメモ用紙がつけられている。
『親愛なる三下(ヒーロー、とルビ振り)くンへ』と書かれた、小さな紙が。
はやる気持ちを押さえて、ディスクをプレイヤーに押し込む。
映し出されたのは、何の変哲も無いベッドの上で一組の男女がまぐわっている映像だった
男の方はどこかで見たことがある。
あの白髪に、不自然なまでの白い肌、細い二の腕、少々おかしな模様をしたブランド物の服…… 学園都市の第一位『一方通行』だ。
何度か直接対峙したことがある彼にとっては、見間違うはずも無い男である。
だがそれよりも目を引かれたのは、その少年に抱きついて腰を振っている少女のほう。
長い銀髪をキラキラと輝かせながら、見たこともないような蕩けた顔をしている少女。
それは彼の同居人であり恋人でもある、インデックスその人に間違いなかった。
『おい、呆けてンじゃねェよ。 カメラの向こうの三下に挨拶してやれ』
インデックスを背後から押さえ込み、彼女の秘所に自身の性器を出し入れしながら、一方通行は耳元でそう囁いた。
彼は赤い瞳を爛々と輝かせて、嗜虐心に溢れた様子を隠すこともなくインデックスを犯していた。
そして彼女をカメラのほうに向け、カメラの前にいる上条に『挨拶』をするように促すと
『あはぁ…… とうま、ねぇ…… 見てる?』
聞いたこともないような甘ったるい声で、カメラに向かってインデックスが喋りかける。
碧眼をとろんとさせながら、見たことも無いような淫靡な表情を浮かべて。
『もうだめなんだよ…… ぁは…… 私の身体、もうこの人のものになっちゃったんだよ……』
『だとよォ…… なァ、聞いたか? 街中で会う度にメシたかってくっから、ちょっと教育してやったらこのザマだ。
テメエの恋人さンは、三下のセックスじゃ満足できねェような、とんだド淫乱シスターだったみてェだぜ?』
一方通行が後ろから突き上げるたびに、彼女は歓喜の声を口から漏らす。
まるでカメラを向けられていることが、上条に見られていることが至上の喜びであるかのように。
『とうまがいつも優しくしてくれるのは嬉しいんだよ? とうまのことは大好きだし……私の一番大切な人。
でも、私の身体はもうそれじゃ満足できないんだよ…… ごめんね、とうま』
涙を浮かべながら、ベッドに四つんばいになって喘ぎ声を上げる少女。
その涙は、恋人を裏切っているという行為への自責の念故か、カメラの前で背徳的な行為をしているためのものか、はたまた快楽によるものか。
『とうま、私はね…… んひぃ!』
バシン! と、何かを引っぱたくような快音がした。
一方通行が、インデックスの白い肌を平手で叩いたのだ。
そして彼女は、それを拒絶するどころか、痛みの余韻にうっとりとした表情を浮かべながらこう続ける。
『あひっ! こうやって叩かれたり! 焦らされたりしたほうが悦ぶっ! 変態なんだよっ!
とうまの優しいセックスじゃ全然満足できないんだよっ! はぁぁ!』
バシン、バシン! と音が響くたびに、彼女の絹のような肌に赤い痕が残される。
まるで新雪に残された足跡のように、征服感をそそるような傷跡が。
『ま、そういうワケだ。 テメェのやり方じゃ満足できねェンだってよォ…… かわいそうになァ』
『ぁ、だめ…… いや、いいのっ! 私のエッチな姿、とうまに全部見て欲しいんだよっ!』
一方通行は彼女の身体を起こし、体制を背面座位に入れ替える。
カメラに向かって、二人の結合部分が強調されるような姿勢になっていることに気づいたのか、インデックスは思わず嬌声を上げる。
『んぁぁっ! この人っ! とうまよりずっと上手なんだよっ! 私の気持ちいい場所、全部わかってるみたいにっ!』
涎を垂らしながら、目の焦点を滅茶苦茶にしながら、インデックスは叫ぶ。
一方通行の手が、彼女の柔らかな太腿を叩く度に、舌をだらりと出してだらしない嬌声を上げる。
いつものあどげかい笑顔も、時折見せる聖母のような包容力に溢れた顔も、最早どこにも無い。
そこにいたのは、恋人以外の男に引っ叩かれ、嬲られて歓喜の声を上げる、ただの雌だった。
『ココだよなァ? 奥突かれながら、太腿をブッ叩かれンのが弱いンだよなァ!
画面の前のヒーローに…自分の女も満足させらンねェ三下にもっとよく聞かせてやれよッ! 誰がテメェのご主人様かよォッ!』
『あっ、あっ―――! あくせられーたっ! あくせられーたーがご主人様っ!
いいの! とうまよりずっと激しいんだよっ! もっと、もっとぶって! もっと気持ちよくしてっ!』
画面の向こうにまで振動が伝わってきそうなほどの激しいストロークに、インデックスは既にグロッキー寸前である。
一方通行の手が彼女の身体を叩く度に息絶え絶えな声を上げながら、身体を弓なりに仰け反らせる。
『それはそうと、もうイきそうなンだがよォ…… なァ、どうして欲しい?』
『はひっ! ひっ―――ひぃぃ! らめ、らめぇ! 膣内っ! ナカに出してぇっ!
とうまに、とうまに見られながらイッちゃううっ! 一番好きな人に、一番だらしない顔見られて種付けされちゃうんだよっ!』
自ら足をがっちりと一方通行に絡ませ、膣内射精を要求するインデックス。
そして……
『とうまぁ、見てぇ! 淫乱シスターのだらしないアクメ顔見てぇ! んぁ、ああ――――――っっっ!!!!』
そして感極まったのか、画面に向かって両手でピースサインをしながら、禁書目録の少女は果てた。
背徳と羞恥と、悦びに塗れた表情をしながら。
直後、画面が切り替わる。
全ての映像が流れきったのだろう。
ザー、という砂嵐の音だけが、学生寮の部屋に響いていた。
普通の人間であれば、この映像にどのような感想を抱いただろう。
恋人を汚されたことへの怒りだろうか。
それとも、自分が満足させられなかったせいでこうなってしまったことへの後悔だろうか。
もしくは、何もかもが嫌になって、世界に絶望してしまう人間もいるかもしれない。
だが映像を見た彼の頭に浮かんできた感情は、怒りでも嫉妬でもなかった。
彼はプレイヤーからDVDを取り出すと、はぁ、とため息でもつきながらそれをケースに収める。
彼は机の上に置いてあった、別の映像ディスクに目を移す。
そこにあったのは『親愛なる第一位へ』と表面ラベルにマジックで書かれた、一枚の映像ディスク。
今日、あるマンションの一室に届けたものと、全く同じものである。
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所変わって、こちらは一方通行の部屋。
彼の恋人である(にしては、少し幼すぎるが)打ち止めも、最近どこかおかしかった。
彼に会いに来る頻度が少し減ったような気がするし、他にも色々とおかしな点はあった。
だが、彼に郵送されてきた映像ディスク(『親愛なる第一位へ』のメモ用紙付き)を見て、全ての疑問は氷解した。
そこに映っていたのは、何の変哲も無い学生寮の一室。
ベッドの上で交わっているのは、見知った無能力者(レベル0)と、自分の恋人である打ち止めの姿だった。
一方通行が、この二人を見間違えるはずもない。
『あはぁ! すごい! あの人のよりずっと凄いのぉ! ってミサカはミサカはあなたのモノの大きさに感激してみたりぃ!』
上条のイチモツが打ち止めの小さな膣を出入りする度に、彼女はまるで娼婦のような淫らな声を上げる。
一方通行が見たこともないような、快楽に満ちた表情を浮かべながら。
『そんなに気持ちいいのか? ほら、画面の向こうの一方通行に挨拶してやれよ』
まるでどこかで聞いたような台詞を打ち止めに囁きながら、上条が少女の顔をカメラのほうに向ける。
『み、見てる…? 一方通行ァ……ってミサカはミサカは画面に向かって問いかけてみる…』
その年齢に釣り合わない、淫靡な表情を浮かべながら、少女はカメラを覗き込んだ。
そしてもっと見て欲しい、と言わんばかりにカメラに接近し、痴態を晒す。
『あなたのことは大好き…… でも、ミサカはあなたのセックスじゃ全然満足できなくて……
火照った体を慰めてくれるこの人のところにずっと通ってたの、ってミサカはミサカは昼下がりの団地妻みたいな告白をしてみる……んひっ!』
上条に正常位で突き上げられて、打ち止めは女性として至福の表情をしながらそう叫んだ。
『打ち止めは奥をガ突かれまくるのが好きなんだよな?
まだ小さいのに、こういう所は御坂や御坂妹と同じなんだよなぁ…… そういう遺伝子なのか?』
『あっ、あっあっあっ! そこがいいのぉ! 一方通行はいっつも優しくて、奥なんか全然突いてくれないの!
ってミサカはミサカは旦那のセックスに対する不満をここぞとばかりにぶちまけてみたりっっっ! ひぃぃ! あひっ! 死んじゃうっ!』
打ち止めの小さな身体が上下に動く度に、彼女の可愛らしい髪の毛が揺れ、淫れきった嬌声を上げる。
純粋無邪気な打ち止めの姿とは、正反対の顔がそこにあった。
『なあ、俺と一方通行、どっちがご主人様だ? カメラに向かって言ってみてくれよ』
『あなたのほうがずっと上手っ! あなたがご主人様なのっ! ミサカもお姉様や10032号みたいに、あなたに無理矢理種付けされたいのっ!
見て、一方通行ぁ! ミサカの受精シーン見てぇっ! ってミサカはミサカはっ! アクメ顔を向けながらっ! 画面に向かって両手でピースっ!』
見知った名前をいくつか挙げながら、打ち止めはカメラに向けて両手でピースサインを取りながら、小さな身体を痙攣させて果てた。
口の端から涎をだらだらと垂らして、上条当麻に身を預けながら。
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遠いところで、二人はほぼ同時に頭を抱えていた。
笑い話にもならない。 互いに互いの恋人を寝取って悦に入っていたなど、どこの国のジョークだと言いたくなる。
だが、今の少年たちには、そんな事実などどうでもよかった。 彼らにとって最も重要だったのは
「つーか、あァ、そうですかァ…… あのクソガキは、そういうほうが好きなンだな? もう加減する必要はねェってことですかァ?」
「にしても、そうだったのかインデックス…… じゃあ、本気でヤッてもいいんかよ」
少年は気がつけば、少女の前では決して浮かべないような笑みを浮かべていた。
最高に最低な、下衆のように下卑た笑みを。
一番愛しい少女だからこそ、一番壊したくない少女だからこそ、今まで自分の衝動を抑えながら、精一杯優しく愛でてきたというのに。
なんだ、『ああいうやり方』のほうが好みだったのか。 だったら、もう遠慮なんかする必要など、どこにも無い。
たっぷり汚して、壊して、あいつよりもずっと愛して、もう一度自分のモノにしてやる。
玄関が閉まる音がした。 どうやら彼女が帰ってきたようだ。
とりあえず、恋人を汚した『あいつ』に制裁を加えるのは後の話だ。
どうしてやろうか。 まずは有無を言わさず黙らせて、ベッドに押し倒してやろう。
そしてわけもわからず混乱している少女の頭を掴みながら、丸裸に引ん剥いて犯してやる。
他の女にするように乱暴に、それでいて愛情をたっぷりと込めながら。
お望みどおり滅茶苦茶になるまで嬲って、狂うまで突きまくって。壊れるまで愛してやる。
『あひっ! いいのっ! こんな激しいなんてっ! やっぱりとうまのほうがずっと好きっ!
やっぱり身も心も、全部とうまのものっ!とうまは一番好きっ! あああ―――――っ!!』
『すごいひぃっ! おくっ! ミサカの子宮の奥まで突かれてるっっ!
ってミサカはミサカはっ! あなたの隠していた本性に驚きながらもよがり狂ってみるっ! 好きっ、大好きぃっ!』
遠く離れた二つの部屋で、少女の歓喜の悲鳴が響くことになるのは、それから数分後のことだった。
めでたし、めでたし