絹旗と関係を持ってしばらくたった。初めは滝壺に悪いと思った。  
今も多少の罪悪感はある。だけど、絹旗は多くを語ってはいないけど俺が思った以上に俺を必要としているらしい。  
まあ、それが俺の勘違いで絹旗は誰でも良いのなら滝壺に刺されても文句は言えないだろうな。  
ともあれ、最初の歪んだ関係からは少しマシにはなったと思う。絹旗に無理矢理ヤラれる事も、誘って拒否される事もないしな。それでも最悪以上ってところか。  
問題は滝壺にいつ打ち明けるのか、あるいは隠し通せるのかって事だ。内容が内容だけに下手すれば別れを告げられるからな。  
「はまづら、聞いてる?」  
おっと、愛しの滝壺の前だというのに、ぼーっとしてたみたいだ。  
「悪い、何の話だっけ?」  
滝壺はそっぽを向いて何かを考えている。少しして、俺の手を掴むとそれを自分の胸にやった。  
見た目以上の触感だ。じゃなくて、  
「た、滝壺?」  
いきなりどうしたのだろうか。  
「して?」  
何を、は無粋だ。だけど、  
「それとも、小さい子じゃないとダメ?」  
いや、待て。バニーなら散々からかわれたから分かるがロリコン扱いは……!  
まさか、  
「もしかして、」  
初めっから  
「私が出来ないと思ってたからはまづらはきぬはたとシタんだよね?」  
気づかれたーー!  
「い、いや、悪い。本当に悪かった。謝るし、俺に出来ることなら何でもするから」  
滝壺はくすんだ笑みを浮かべると耳打ちをしてきた。  
「はまづらは悪くないよ? どうせきぬはたが無理矢理手込めにしたんでしょ? だって、きぬはたは大能力者だから。はまづらがどうにか出来るはずないし」  
確かに、その通りだ。絹旗を犯せる奴なんか七人くらいしかいないだろう。  
「でも、お願いしても良いならーー私を抱いて欲しい、はまづら?」  
それに一も二もなく同意すると、滝壺に場所はどうするか聞いた。ここ、つまり病室で良いと言われた。  
警備員捕まる覚悟で滝壺のベッドに入った。  
俺が下になろうとした瞬間、滝壺の表情が崩れた。  
うわごとのように「帰って、はまづら」と繰り返す。伏せた顔はもう見えない。  
「ごめんな」と呟くと病室を後にした。  
 
 
どうしたって、神様はこんなふざけた目を出しやがるのかね。  
帰り道、絹旗に誘われた。これが映画ならまだ良かった。  
アレ、だった。だけど、滝壺に呆れられた俺には絹旗との関係を悪化させる可能性さえ選ぶ勇気は無かった。  
だから、「ああ、いいぜ」と答えていつもの隠れ家に向かった。もしかしたら、絹旗と関係を持った日から戻る場所なんて無くなったのかもしれないな。  
 
 
 
ふと目が覚めると横で一糸纏わぬ絹旗が寝ていた。2時半か。  
乾いた喉を潤すために立ち上がる。絹旗を見て思わず、「寝顔は可愛いんだけどな」と呟く。が、その音はノックでかき消された。  
誰かと思って出てみれば居たのはなんと滝壺。どうしてここが分かったのか、裸なのはマズいのか他、頭がパンクする。  
「はまづら、中に入れて」  
虚ろな目をした滝壺が俺を押しのけて、中に入る。慌てて飛びついて止める。  
滝壺の手に、光るものが見えた。刃物か何かだろう。  
「どいて、はまづら?」  
努めて冷静に、聞く。  
「どいたら、どうするんだ?」  
滝壺の顔には大量の汗が光っている。恐らく、一発は貰う覚悟なら飛びついて止められるはず。いや、止める。  
滝壺が答えもせず、寝ている絹旗に襲いかかる。俺は庇うように刃と絹旗の間に体を滑り込ませる。くそ、痛ぇな。  
「何で? はまづらは何にも悪くないのに、悪いのは全部きぬはたなのに」  
馬鹿な事を言う滝壺を後目に絹旗の方を見る。くそ、起きてない。  
「滝壺、一つ聞かせてくれ。これからどうするんだ?」  
最高なのは俺を病院に送る事。出来れば、それであって欲しい。  
「きぬはたを殺すよ。ううん、殺すだけじゃ足りない! 苦しめて後悔させて、」  
そこまで言った時点で滝壺に後ろ蹴りをお見舞いした。強く握ってはいなかったらしく、刃物ーー包丁だったらしい、は刺さったままだった。それを抜くと、右手に構える。  
「どうしたの? はまづら?」  
俺はそれを『絹旗』に突き刺した。悪戯して気づいたんだが意識無ければ、能力使えないのな。  
「何で? はまづら?」  
絹旗の手に握られた体晶のケースを指差す。  
「滝壺、能力使って絹旗を殺す気だっただろ?」  
無言、だけどそれ以外にない。  
 
「だから、俺は1人を救える可能性を選んだ」  
糞、喉に血が絡んで喋りにくい。  
「『俺』が『暗部の絹旗』を殺した。だから、滝壺は帰れ」  
冷たいようだが、俺に出来るのはここまでだ。  
「何で、私じゃなくてきぬはたを……」  
嗚咽混じりで聞いてくる滝壺。この答えが最後の言葉だろうな。  
出来れば何回でも言いたかったけど、無理だな。だから、一回で許してくれよな。  
 
「浜面仕上が世界で一番愛してるのは滝壺理后ただ1人だ」  
 
 
 
 

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