――イギリス清教施設内
上条当麻が行方不明、という事態を知って、イギリス清教に所属する人々は衝撃を受けた。嘗て彼と対峙した、ローマ正教の面々は、ある者は黙り込みある者は涙した。天草式所属の面々は、捜索仕切れなかったことに悔しさを滲ませる。
彼と個人的に強い親交を結んでいた人たちは、なお一層悲惨だった。
『救われぬ者に救いの手を』――その名を持つ聖人は、いつも助けられてきた少年を救えなかったという事実に呆然とした。
彼を恋い慕う天草式の少女は、その知らせに泣き崩れて以来、部屋に籠りがちになっている。
生命の危機から救われて改宗した修道女は、ずっと彼のために祈りを捧げる日々だ。
その中でたった一人だけ、暗い空気を振り払うように明るく振舞う少女がいた。インデックス。彼女の笑顔は、絶望的な雰囲気に希望の光を僅かながらでも灯し続けている。
『だってとうまは約束したんだよ。『帰ってくる』って。だからとうまは絶対に帰ってくる。私たちは信じて待てば良いんだよ』
インデックスはそういって、少年をわざわざ死地に赴かせ、救うことのできなかったイギリス清教の人々を励ました。
しかしステイルは知っている。彼女の瞳や目元が、涙に濡れて赤みを帯びていることを。刷毛で刷いたような薄い隈が、長い間上手く眠れていないことを示していることを。食欲が落ちてしまって、少しやつれてしまっていることを。
皆が皆、彼を失ってしまったことに対する自分の感情に精一杯で、皆を気遣う彼女の悲しみを汲んでやることが出来ていない。その事実が彼を苛立たせる。
――いや、違う。彼女の悲しみをどうにかできるのは、きっと上条当麻だけなのだ。あの憎たらしい少年が帰ってこない以上、彼女の苦しみは晴れない。
「本当に、腹立たしいね」
投げ棄てた煙草を踏み潰すと、ステイルは鬱陶しげな様子で髪をかきあげた。イライラする。本当にイライラする。
彼女をあんな風にしたまま行方不明な上条当麻に。
上条当麻以外の誰にも頼りかかることをしない彼女に。
そして何よりも、彼女の支えに全くなれていない自分自身に。
ステイルは踵を返した。あの男の探索を別の方式で展開するための術式は既に考案した。協力者も手配済みだ。これで見つからなければ、また違う方法を考えなければいけない。
――全ては、一瞬でも早く、彼女が心からの笑顔を浮かべることができるように。
コートを翻すと、彼は大股で歩き出した。