絹旗は滝壺の手を引いて何時もの映画館へと向かっていた。
その表情はいつになく晴れやかである。
「それにしても超突き合わせてすみません」
誘った絹旗だったが当人もまさか付き合ってくれるとは思わなかったようだ。ちなみに、余ったチケットで浜面が呼ばれるのは今回は無しになった。
「構わない」
短く答えると絹旗に歩調を合わせて少しペースを上げ、横に並ぶ。彼女もわかりにくいが何かを楽しみにしているようだ。
「超すみません、これなら浜面でも連れて来るべきでした」
どうやら外れを引いたらしく、落ち込んでいる絹旗。三人なら、浜面と言い争いながら場を誤魔化せただろうが、二人きり、しかも誰かの無駄に高いテンションとは対極に位置する滝壺では映画の質で勝負せざるをえない。
しかし彼女の表情は決して落胆とか負のものでは無かった。
「そうです、近くに超美味しいジェラートのお店があるので奢りますよ」
それに気づかない絹旗は慌ててご機嫌取りをしようとする。
「楽しみ」
その様がおかしいのかほんのりと笑顔になる。
「ええ、超美味しいですから期待してて下さい」
それを聞いた滝壺がぼそっと「きぬはたを見てるだけでも楽しかった」と言ったのに彼女は気づかない。
ジェラートをケース越しに目を輝かせる二人。色々と普通とは違うかも知れないが女の子、ということだろう。
「私は超この苺ミルフィーユにします。滝壺さんは?」
言った瞬間には既にお金を払い何かを待っていた。出てきたのは苺ミルフィーユ味のジェラート。
「って、超奢りますから」
その言葉に頷く滝壺。
「うん、だからこれはきぬはたの分。私が奢る」
ニコニコと笑顔の滝壺を見て、仕方ないとばかりに頭を掻く絹旗。
「わかりました。で、滝壺さんは超何にします?」
少し首を傾げて「オススメで」と答えた。
「それ、超困るんですけど」
その言葉に首を振る滝壺。絹旗の耳元でそっと囁いた。
「きぬはたが選んだものが食べたいから」
それを聞いた絹旗はどこかへ意識を飛ばしたらしく、滝壺が「溶けるよ?」と急かすまで戻って来なかった。
独りではない映画鑑賞は、ジェラート以外の何かを溶かしたのかも知れない。