絵本を読み終えたインデックスがまた車の中を物色し始めた。  
 目の前でもぞもぞ身じろぎする白い尻に一方通行は溜息を付くと、少女の存在を無視して自分の傷の治療を再開する。  
 何時ぞや髪を伸ばした時の応用で全身のダメージを急速に取り除いて行く。  
 そうしながら次の一手を考えていると、  
「また本を見つけたんだよ」  
「…………」  
 一方通行は目を閉じたままピクリとも反応しない。  
 インデックスは寝ているのかと少年の顔の前で手をひらひらさせたが、その手はぴしゃりと跳ねのけられてしまった。  
 どうやら眠ってはいないらしい――それが確認できれば十分だった様で、インデックスは椅子に座りなおすと小さな本を開いた。  
「――暗闇の中に衣擦れの音と、そして甘い吐息が聞えて来る」  
 その一小節をインデックスが読み上げた瞬間、一方通行の閉じられた目元と血のにじんだままの口元が引き攣った。  
「ベッドの上、服を着たままの少年に組み敷かれた少女は全裸――その瑞々しい張りと艶を持った白い脚が、爪先までピンと伸びて天井を指す」  
 そこまで読んだ所で一方通行の瞳がぎろりと開く。  
「おい」  
 インデックスに声を掛けたつもりだったが、彼女からは返事は無い。  
「ノビタの巧みな指使いがシズカの若い柔肉を掻き回す。「ああっ、駄目っ、ノビタさんっ……わたしっ……」その度にシーツを掴み、体を九の字に折り曲げて、時には逆にのけ反る」  
「おいクソガキ。聞えねェのか?」  
 苛立たしげにそう呼びかけるが、相変わらずインデックスは本から顔を上げようとせずに、  
「それはまるであやとりの様に繊細かつ大胆に……。少年の鍵爪の様に折り曲げられた指が、ぬめりをまとうヒダをひと掻きする度に、「あふっ、ああ! い、いいっ!」少女は別の存在へと組み替えられる歓喜に――あ!?」  
 インデックスはその手にしていた本が突然無くなって小さく悲鳴を上げる。  
 そして、彼女の手の中にあった本は一方通行の手の中に。  
 少年が苛立たしげにその中身に目を通して、小さくクソったれと吐き出した。  
「お前これ……何だか判って読ンでンのかァ?」  
「ううん。日本の表現は豊か過ぎて私には今一つかも。出来れば教えてくれると嬉しいかも」  
 そうしてにっこりと微笑まれて一方通行は一気にバツが悪くなる。  
(なァンでこンなクソガキと関わっちまったンだ俺ァ)  
「ねえねえ、説明してくれると嬉しいかもっ!」  
「クソったれテメエもっと飛ばせッ!! 死にてェのか!!」  
 インデックスの声をかき消すかのように、一方通行の拳が車の床に突き刺さるゴガンと言う破壊音が車内に響き渡った。  
 
 
 

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