「(………………うーだー……気まずい気まずいきっまずーい)」
のっけから不満を大爆発させているのは学園都市で暮らす右手以外は平凡な男子高校生、上条 当麻だった。
「(何で俺がこんなトコに……覚えてやがれよ土御門!)」
キッと窓越しに昼の青空を見上げる。
きらーんとイイ笑顔でサムズアップする隣人土御門 元春のバストアップ映像が流れた気がした。
「(……気持ち悪っ)」
はあ、と草臥れた溜め息をついてテーブルの向かいの相手を見る。
対面した人物は、それまでずっと上条を見つめていたらしく、上条が視線を寄越すとそれとしっかり絡み合ってしまった。
その人物は慌てて首を色んな方向に忙しなく動かした後、かくんと項垂れるように下を向いてしまった。
「(………………………………気まずい)」
どはー、と。上条はその人物―――元天草式十字凄教女教皇。そして現イギリス清教『必要悪の教会』所属・神裂 火織を見て嘆息した。
「(大体、俺が何したって言うんだよ……理不尽だー不幸だー)」
彼は先日イギリス清教と元イギリス清教との間のいざこざに巻き込まれ、その際怪我をした。
実際には明確な『敵』との戦闘で負った傷は日常での喧嘩程度のものだった。
しかし、問題はその後だった。
上条は敵魔術師による鼬の最後っ屁を喰らい、海に吹き飛ばされ、挙句溺れてしまった。
あわや溺死、と生死の境を彷徨った上条を救ったのは、共に戦っていた神裂だったのだ。
海に飛び込んだ神裂は上条を助け上げた。
しかし上条は既に意識も無く、心臓マッサージも効かない。
ならば、と神裂は、悩みに悩みに悩みに悩んだ結果、自ら人工呼吸を敢行したのだ。
それにより上条は何とか息を吹き返し事なきを得た。
しかしその現場を、増援に来た『必要悪の教会』の同僚、ステイル=マグヌスや土御門 元春。さらには天草式の面々や果てはインデックスにまで目撃されてしまったのだ。
上条の言う『理不尽』は、自分の意識外で行われたことに対する制裁と言う名の暴力に宛てた言葉だったが、インデックスや天草式からすれば、
『おのれ許すまじ上条 当麻! 我らが女教皇様の唇を奪いやがって!』
とか、
『とうまはまた勝手に突っ走って勝手に肌色で桃色なシーンを展開してる! いい加減許せないかも!!』
と言うある種『正統』な理由があるのだから、ここで両者の認識にズレが生じるのは些か仕方がないことではあった。
かくして上条は魔術師戦以上に重症を負わされた。
そしてようやくそれも完治して数日。
突然土御門に呼び出されて学園都市内のファミレスに呼ばれて来てみれば、
「か、神裂?」
「なっ……上条 当麻!? なんで貴方がここに……!」
と、一杯食わされ、現在に至るわけだった。