彼には、守りたいと思う人がいる。
ずっと孤独の中にいた彼に初めて温もりをくれた人であり、彼女のためになら、この身を呈して戦おうと決めた。
なのに――
* *
薄暗い部屋だった。
荒い息を吐いて、周囲を見回す。何とも形容しがたい、饐えた生物的な悪臭。血や汗や、それから――頭が痛い。最悪の可能性が最も高いことに、背筋が凍るようだった。
「ラスト、オーダァァァ!!」
絞り出すように打ち止めを呼んだ。
静かすぎる部屋に谺する自身の声に、隠れるように聞こえたくつくつという笑い声。その声の方向へと、誘蛾灯に導かれるように一歩ずつ進んだ。
「よーぉ、一方通行」
卑下た笑いを浮かべた、木原数多。そしてその膝の上に、小さな身体がひとつ。
誰よりも守りたいと思っていた少女が、一糸纏わぬ姿で、そこにあった。
やわらかい肌には爪痕や蚯蚓腫れが走り、所有物の印のつもりか、背中にはあの男が顔に彫っているものと同種の刺青まで丁寧に入れてある。
何より、あれほど輝いていた瞳は今となっては生気が全くなく、まるであの時の、手を掛ける前の妹達のようだった。
木原は、打ち止めの栗色の髪を鷲づかみにして小さな頭を持ち上げた。
「あ……」
「おいガキ、お迎えが来たみたいだぜ?」
彼女が振り向き、虚ろな瞳が、一方通行を見つめる。
二次成長前の起伏のない身体――ただ唯一、腹だけが異様に膨らんでいた。