とある無人の漁港で、白い流氷を裂くように一筋の閃光が直線を描く。
それから一瞬遅れ、閃光の余波が衝撃と化して流氷を押し退ける。
その閃光を放った少女は、同じ顔をしたもう一人の少女から羽交い締めにされていた。
「お姉様、落ち着いて下さい!
こんなところで『超電磁砲』を使えば、あの人が例え生存していても無事では済みませんと、ミサカは渾身の力で押さえ付けます!!」
「ハン、何も知らないのねアンタ!
あいつはね、こんなもんでくたばる奴じゃないのよ。
そうよ、これはただの罰ゲームなんだから!!」
半狂乱に喚くその少女、御坂美琴は、先程から懸命に自分を引き止めている同じ顔の少女、『妹達』の一人であるミサカ10777号へ振り向きなおも言葉を続ける。
「大体『例え生存していても』って何よ?
あのボンクラはこんな事じゃ絶対に死なない。心配した事を後悔するくらいに後からノコノコとあのムカつくツラを晒すに決まってるんだから!!」
言葉とは裏腹にそれが美琴の希望的観測に過ぎないのは、彼女の揺れる瞳と溢れる涙を見れば誰にでも分かる事だった。
それでもなお当麻の生存を信じたい、というより諦めればそこで終ってしまうという恐怖に心を震えさせながら、美琴は今自分が引き裂いたばかりの流氷へ向かって吼えるように叫んだ。
「何が『まだ、やるべき事がある』よ!
せっかく私が迎えに来てやったのに、あんな状態でもアンタは私を無視しないといけない法則でもあんのか、ふざけんな!
とにかく約束破ったんだから、この前と一緒で何でも私の言うこと聞いてもらうわよ! 今度はこの美琴様が直々に前回以上の罰ゲームを与えてやるんだから!
それが嫌ならさっさと出てきなさい、今出てくれば大サービスで少しは願い事まけてやるわよ!
……ねえ、聞いてるの? 聞いてたら返事をしなさいよ。
本当はすぐそこに居るんでしょ?
隠れてないで、さっさと出てきなさいよぉ…………」
最後は涙声になりながら崩れるように座り込む美琴の身体を、ミサカ10777号は抱き留めながら呟く。
「こういう時は先に泣いた者勝ちですねと、ミサカは表情変化に乏しい事を恨みつつお姉様を慰めます」
そう言って美琴を抱きしめる彼女の頬にも、幾筋もの涙が伝っていた。
レベル5、学園都市第三位、超電磁砲。
何れの肩書もたった一人の少年を助けるのに何の役にも立たない事を痛烈に思い知らされながら、美琴は『妹達』の腕の中で互いに泣き腫らす。
絶望に震える彼女の手には、紐の千切れたゲコ太ストラップが握り締められていた。