「…………」  
「何シカトこいて立ち去ろうとしてんのよこのクソ野郎!」  
 レベル0にして自称平凡な高校生こと上条当麻は、今日もスルーに失敗し目前に飛んできた電撃を何事もなかったように右手で打ち消した。  
 そんな彼へ汚い言葉遣いと共に電撃をぶつけてきたのはレベル5の学園都市第三位にして、上条当麻好き好き♪なのが本人以外にモロバレながら未だその自覚が無い常盤台の『超電磁砲』こと御坂美琴嬢である。  
「……帰っていい?」  
 そう呟くと同時にかざした右手めがけ、再び電撃が走る。  
「駄目に決まってるでしょうが!」  
 10億ボルトを発しながらそう叫ぶ学園都市第三位に、当麻はこんな命のやりとりがもはや日常の光景と化してきたなと思うと同時に、通算何度目のビリビリなんだろうかと嘆息した。  
「ビリビリ言うな!」  
「心の声に突っ込むなよ……」  
 いつものように激昂する少女を余所に、当麻は過ぎ去った幸福を追い縋るような目付きで遠ざかる飛行船を見上げた。  
「あーあ、せっかく今日は補習も買物もない稀有な日だったのに、爽やか気分が音も無く去っていく…………不幸だ」  
「人の顔見るなり何失礼な事言ってるのよ、アンタは!」  
 毎度毎度致死性の高い攻撃を挨拶並の頻度で受け止めてる俺には失礼どころの話じゃないんだが……再び電撃を受け止めつつ、当麻はうんざりした表情でうなだれる。  
「つーかよ、人通り少ないとはいえ道端で電撃喰らわすのは流石にどうよ、御坂先生?」  
「あんたがキャッチすればいいだけの話じゃない」  
「キャッチし損ねたらこっちの生死に関わるんだけどな。というか出会い頭に電撃かますの勘弁して下さいって毎回言ってるよね俺?」  
「そうだっけ?」  
「人の生死を『そうだっけ?』の一言で片付ける!?  
 そんな台詞を平然と言ってのける御坂さんに痺れる! 憧れぶべば!」  
「ああもう、うっさい!」  
 言葉の途中で当麻を殴り倒す美琴だったが、冗談でも憧れると言われ赤くなった顔を誤魔化す為の暴挙であることを、地面に叩きつけられた当麻は気付く筈も無かった。  
 しかし打ち所が悪かったのか、何故か当麻はそのまま伏せっている。  
「ちょ、ちょっとどうしたのよアンタ? もしかして、ちょっとやり過ぎちゃった?」  
 やり過ぎも何もいつも力一杯殴打している事実をスルーし、美琴は気遣うような目付きでしゃがみ込んだ。  
「……御坂、ありがとう」  
「へ? と、突然何よ?」  
「こうして何度も何度もお前に襲われてると、それ以上に不幸な事なんてそうそう無いもんだなってしみじみ思い知らされぎゃあ!」  
 言い終える前に、当麻の頭は美琴から更に踏みつけられた。  
「人を連続殺人犯みたいに言うな!」  
「連続傷害犯には違いないと上条さんは愚考しますけどね!」  
 そんな二人の言い争いは、公衆の面前で女子中学生が男子高校生の頭を無残に踏み躙るという、ビジュアル的によろしくない格好のまま続けられた。  
 
「で、今日は何の用だよ?」  
 二人以外誰も居ない夕暮れの公園に、当麻の不機嫌そうな声が響く。  
 先程までの無様な格好を労わるように後頭部を擦る当麻に、美琴は内心居心地の悪さを感じながらも顔を向けた。  
「な、何の用って、それは、その……」  
 実は当麻を見かけたので呼んだだけなどと今更言えない美琴は懸命になって別の口実を探すが、日頃当麻が彼女をスルーする並に検索件数0状態だった。  
 しどろもどろになりながら美琴が目を泳がせていると、ふと見覚えのある物が彼のポケットから姿を覗かせている事に気付く。  
「あ、そ、そうだ! アンタ、それちゃんと大事に扱ってるんでしょうね?」  
「それって、ああコレの事か。扱うも何も見ての通りだぞ」  
 そう言いながら当麻がズボンから携帯電話と共に取り出したそれは、つい先日美琴から強いられた罰ゲームがきっかけで手に入ったゲコ太ストラップだった。  
「しっかし前々から思ってたんだが、本当にこれのどこが可愛いんだ?  
 上条さんにはこいつの萌え要素がさっぱり理解できないんですが」  
「な、何言ってるのよ。このデザインといい色といい、何処から見ても可愛いじゃない!!  
 アンタちょっと目がおかしいんじゃないのっ!?」  
 おかしいのはお前だと言いたいのを堪えつつ、当麻は「あーそうですねはいはいゲコ太萌えー」と力無い声で同意した。  
 その言い方が癇に障ったのか、美琴は勢いよくベンチから立ち上がる。  
「何よその言い草は、あたしがあげた物が気に入らないって言うの!?  
 せっかく一緒にペア契約してくれたからアンタにあげたのに!!」  
「え? ああ、いや、決してそういう意味じゃなくてだな。  
 つまりそのなんだ、こういうハイセンスなアイテムはその価値を理解してる人間が持ってこそゲコ太冥利に尽きるんじゃないかと上条さんはふと思った訳で」  
「ならば是非私めにお譲り下さい!」  
「うひゃあ!」  
 そんな突如上がった声に視線を向ければ、そこには『空間移動』を使って現れた白井黒子が、美琴の両腿をしゃがんだ姿勢でむんずと掴んでいた。  
「風紀委員の巡回中に偶然この類人猿が虐げられていたのを見物……もとい、お二人が公道で言い争っているのを見つけたので、こっそり後をつけてみれば案の定でしたわね。  
 大方二人っきりになったところであられもない事をお姉様に強いるつもりだったんでしょう、この変態類人猿!」  
「あられもないことしてる変態はあんたの方でしょうが!」  
 そう叫びながら美琴は、こちらの太ももをしゃがんで力一杯頬擦りしている変態もとい後輩の頭を渾身の力で引き離した。  
「はっ、ついお姉様の秘密の花園に誘惑されてしまいました。ごめんあそばせ」  
「狙ってやっておいて何が誘惑されたよ、この高機動変態!」  
「あヴぁ!」  
 そんな奇声と共に地面へ叩き伏せられる黒子を、当麻はさっきまで自分もこういう風に虐げられてたんだなと、文字通り他人事のように眺めていた。  
「ああ、ただでさえ寮監の体罰で折れやすくなっている首がますます酷い事に……でもお姉様の手に掛かってあの世に逝けるのならば、それはそれで本望ですわ!」  
 こいつウゼェという本音を欠片も隠そうとしない顔で、美琴は光の速さで復活した黒子を見下ろしながら深い溜息を吐く。  
 当麻は当麻で、仮にも後輩を手加減無しで殴打するビリビリもビリビリだが、マゾも真っ青な恍惚ぶりを見せる白井も白井で、常盤台は皆こういう規格外なお嬢様ばっかりなんだろうかと本気で疑い始めていた。  
 
「それで先程の話の続きなのですが」  
「ええと、何だっけ白井?」  
「ああもうじれったい、あなたが今持っているストラップの事です!」  
 がばっと立ち上がりながら当麻に迫る黒子は、彼の手ごとストラップを掴んだ。  
「先程盗み聞……洩れ聞こえてきた話ではあなた自身そのストラップに執着は無いようですし、そもそもあなたのような類人猿がお姉様とのペアストラップなんて百万年早いですの!」  
「いやまあ、ペアストラップと類人猿に関連性は全く無いんだが…………」  
 ところで年下の娘から両手を握られてブンブンと振り回され困惑する高校生の姿は、傍から見ればある意味熱烈な告白をされているようにも受け取れるもので、事実この場にそう思えて仕方ない人間が約一名居た。  
「だからさっさとこのストラップを私にお寄越しなさい……って、お姉様、突然後ろから抱き締めてきて一体何なんですの!?」  
「うん? いやちょっとね、急に黒子を構いたくなっちゃった。迷惑?」  
「いえいえいえ、迷惑だなんてミジンコ程もありませんわ!  
 むしろGJですの!!」  
 思いもよらない僥倖に、黒子は自らの首に回されたお姉様の腕の中でそのツインテールを荒ぶらせていた。  
「ああ、何故かは知りませんが、ようやく私の想いがお姉様に届いたのですね!  
 これでいつ死んでも悔いはありませんわ!!」  
「じゃあ逝っとけ♪」  
「ぺぎゃっ!」  
 電光石火のチョークスリーパーで後輩の意識を沈めた美琴は、明後日の方向へ首を曲げたまま動かなくなったそれをゴミ屑のように放り投げた。  
「なんか変な声とか鈍い音とかしたけど、大丈夫か?」  
「心配要らないわよ。その子この前も内の寮監からフルコンボ喰らってたけど、翌日にはピンピンしてたし」  
「常盤台って色んな意味で理解できねえ所だな……」  
 学園都市第三位の問題ないと言わんばかりの解説に、名門への偏見をますます強くする上条さんだった。  
「それにしても全く、こいつは油断も隙もありゃしない……って、アンタはアンタで何黒子を抱えてるのよ!?」  
「へ? いやだってほら、仮にも中学生を気絶させたまま道端に放置するのは、流石に抵抗あるじゃねえか」  
 そう言いながら意識不明な黒子をお姫様抱っこでベンチに運ぶ当麻を、美琴は「またかこの野郎」と言わんばかりの目付きで睨んだ。  
 また当麻が原因でないとはいえ、恍惚の表情で明後日の方向を向いたまま抱かれている黒子も、美琴のムカつき度を更に高めている。  
「とにかく、そのストラップはこの美琴様がアンタへ直々にあげた物なんだから、勝手に他人へあげたらしばくわよ!」  
「しばくって今更何を……」  
 涎垂れ流し状態の黒子をベンチに横たえた当麻は、それこそ今更と言わんばかりに首を振った。  
 
「では他人でなければそのストラップを所持する資格があるのですねと、ミサカは羨望の眼差しで見つめてみます」  
「おわっ、心臓に悪い現れ方するなよ!」  
 不意を突くように背後から声をかけてきたのは、戦利品とばかりにヒヨコの人形焼を抱えているミサカ10032号こと御坂妹だった。  
「丁度よいところでお会いしましたと、ミサカは上機嫌にあなたとお姉様に挨拶をかわしてみます」  
「あ、ああ、お前も相変わらずみたいだな御坂妹」  
「黒子といいあんたといい、どうして私がこいつと一緒に居る時に限って高確率で現れるのよ……」  
 またしても現れた第二のイレギュラーに、美琴は忌々しいと言わんばかりの表情で不機嫌をあらわにする。  
「それで話を戻しますが、そのストラップをお譲り願えませんでしょうかと、ミサカはお願い申し上げてみます」  
「え、いやでもこれは……」  
「そこで至高の笑顔なままのびている方ではありませんが、私もお姉様と御揃いの物が欲しいのですと、ミサカは半分本心を明かしてみます」  
「半分本心って、残りの半分は?」  
「いえ決してあなたとお姉様が恋人同士のようにペアストラップを持っているのが気に食わないからではないと、ミサカは本音駄々洩れ気味に返答します」  
「ちょっ、何よそれ!」  
「違うのですかお姉様と、ミサカは探りを入れながら質問してみます」  
「そ、それはその、アレよ! これはこ、恋人じゃなくて、そ、そう、友達として、でもなくて……」  
 動揺で呂律が回らない美琴に、御坂妹は今更何を隠しているんだと言わんばかりに首を振った。  
「やれやれ、ツンデレも度が過ぎると単なる独りよがりですよと、ミサカは懇切丁寧に指摘します」  
「な、何がツンデレよ!」  
 御坂妹の指摘へ激昂する美琴だったが、何故彼女が怒り心頭なのか心当たりが全く思い付かない上条さんだった。  
「あー、とにかくお前もこれが欲しいのか?」  
「はい、それはもうと、ミサカは食い入るように即答します!」  
 そう言って抱き付かんばかりの勢いで迫る御坂妹に、当麻は後ずさりしながら苦笑した。  
「まあ確かに御坂妹なら他人じゃないし、こいつが可愛いと思えるんならそれこそ大事に扱ってくれそうだしなあ」  
「なっ何言ってるのよアン」  
「その通りです。あなたは勿論あなたから戴いた物も一生大事にすると、ミサカはここに永遠の誓いを宣言します」  
 美琴の非難を遮りながらしれっと重大な宣言をかます御坂妹に、だけど当麻は気付かないまま思案を巡らせた。  
 自分にはどう逆立ちしてもゲコ太の価値は分からないし、実際御坂妹はこんなに真剣に欲しがっているなら、むしろ譲った方がこのストラップの為ではないかと。  
 そう考えながらふと視線を泳がせた時、美琴が寂しそうな表情でこちらを見つめている姿が視界の隅に引っ掛かる。  
 
「…………ばか」  
 それは誰にも聞こえないくらいに小さく、だけど当麻の耳に響いてきた言葉だった。  
 美琴が何を気に入らないのか超鈍感な当麻には欠片も分からなかったが、憂いた顔をしながらの呟きはいつもの電撃よりも痛みを感じさせる。  
「では早速そのストラップを」  
「ごめん、やっぱり止めとくわ」  
 無表情ながら喜色が滲み出ていた御坂妹の言葉を遮るように、当麻は頭を掻きながらそう呟いた。  
「何故ですかと、ミサカは落胆しながら理由の説明を求めます」  
「ええとその、上条さんにもよく分からないんですが、これをやるとさっきからそこでふてくされてるお方がガッカリしそうなので」  
 その言葉に、美琴は驚きと嬉しさを滲ませた顔で当麻を見つめる。  
「そんな訳ですまないけど、この話は無かった事に……ああ、だからそうガッカリするなって!  
 今度代わりに何か買ってやるからさ」  
「ならば指輪をミサカは熱望」  
「ああそういえばアンタ、そろそろ検査の時間じゃなかったっけ?」  
 御坂妹の言葉を遮るように、美琴は作り笑いを浮かべながら彼女と当麻の間に割って入ってきた。  
「いえ、今日はまだ外出時間に余裕があるので大丈夫ですと、ミサカは万事抜かりない事を強調してみます」  
「そろそろ検査の時間よね?」  
「ミサカ的には右手の薬指につける指輪が」  
「か・え・り・な・さ・い!」  
 最後は電撃を伴った脅迫同然な帰院の促しに、御坂妹は無表情ながら焦りの色を見せて後ずさる。  
「仕方がありません、圧倒的戦力差を考慮しこの場は一時撤退します。  
 ですが諦めた訳ではありませんよと、ミサカは『お姉様』に負け惜しみを言いながら夕陽に向かってダッシュします」  
 そう言って言葉通り夕陽の方へ走り始めた御坂妹に、ようやく邪魔者が去ったと美琴が安堵の息を漏らしかけたその時、  
「それと二人きりだからといって帰り道に襲うなよと、ミサカは去り際に『お姉様』へ忠告しておきます」  
 などと言いながら傍まで戻ってきていた。  
「な、何言ってるのよアンタは!?」  
「文字通りナニですがと、ミサカは最近覚えたスラングをここに披露してみます。  
 ちなみにウブなお姉様へ懇切丁寧に解説すると、ナニというのは」  
 言わせねえよといわんばかりに今日一番の特大電撃を落としながら、自ら何を口走っているのか分からないくらい罵詈雑言を喚き散らす『お姉様』に、御坂妹は溜飲を下げた様子で今度こそ本当に走り去っていった。  
「あーその御坂さん?  
 余計なお世話を承知で申し上げますが、あなた方姉妹はもう少し世間体を考慮して会話した方がよろしいんじゃないかと上条さんは思うんですが」  
「こんなのアンタやそこでのびてる馬鹿以外に言う訳無いから構わないわよ!」  
 怒りが収まらない様子で咆えるレベル5に、レベル0の少年はさいですかと返答しながら頷くしかなかった。  
 ちなみに『のびてる馬鹿』の方はといえば、先程から美琴が落としまくっている電撃のとばっちりを何度も受けていたのだが、その度に恍惚の表情なままビクンビクンと身体を揺らしていた。  
 愛の力は偉大だよなーとツンツン頭の少年は現実逃避しながら、脱線していた話を元に戻す事にした。  
「まあとにかく、これでいいでしょうかおぜうさま?」  
「こ、これでいいも何も、アンタが勝手にそうしたんじゃない」  
 ぶっきらぼうに答えながらも嬉しさを隠しきれない様子で当麻の顔をちらちらと見やる美琴に、当麻は苦笑しながら両手を万歳した。  
「はいはい、全部上条さんの独断ですよ。  
 でもさっきも言ったけど俺にはこいつの可愛さが全く理解できねえけどな」  
「……っ」  
 まだゲコ太の良さが理解できないのか、こうなったら一からきっちりその魅力を電撃と一緒に叩き込んでやると意気込みながら美琴が当麻の襟首を掴もうとしたその時、思わぬ台詞が彼女の耳朶に届いた。  
「でも考えてみれば、これってお前と一緒に馬鹿やった記念だよな。  
 そういうのって俺、結構好きだぞ」  
「へ?」  
 不意打ち過ぎる当麻の言葉に、美琴の身体は一瞬にして固まった。  
 特に後半の『好き』という言葉が、まるで半鐘のように美琴の中で幾度も響く。  
 
「まあそんな訳だから、このストラップは大事にするよ。  
 それでいいか?」  
「ああ当たり前じゃない、だだ大事にしなかったらぶぶぶっ殺すんだからね!」  
「ツンデレにしてはちょっと物騒な物言いだと上条さんは思うのですが」  
「うううるさい!」  
 そう叫びながらも今日一番の笑顔を見せる美琴に、当麻もつられるように笑みを浮かべる。  
「まあいくら不幸の代名詞たる上条さんでも、いきなり無くしたりは致しません事よ?」  
 携帯を持ったまま胸を叩く仕種を見せた当麻だったが、自信過剰だったのかいつもより強めに叩いたその弾みで手を離れ携帯とゲコ太ストラップは宙を舞う。  
 それは地面を何度かバウンドしたかと思うと、丁度公園内を掃除していた清掃ロボの元へと転がっていった。  
「言った傍から落とすなこのアホンダラーっ!」  
 まさに清掃ロボットがストラップを吸い込もうとしたその時、『超電磁砲』が炸裂しその寸胴ボディの上半身は見事に消し飛んだ。  
「い、いきなり何やってんすかおぜうさま!  
 ストラップを俺の携帯ごと焼くつもりですかい!?  
 あとこの寸胴ロボ結構高いって、前にも言ったでしょうが!」  
「うるさいわね、ちゃんと加減して撃ってるから大丈夫よ。  
 大体アンタがあのストラップ落とすから悪いんでしょうが!  
 それにあの寸胴もアンタの携帯もゲコ太に比べたら大した物じゃないわよ!」  
「何というゲコ太至上主義。だけど携帯壊すのも寸胴ロボの弁償も勘弁な!」  
 二人が責任をなすりつけている間にも、増援とおぼしき清掃ロボが群れをなして殺到していた。  
「おい、お前が吹っ飛ばした奴のお仲間が続々と仇討ちに集結してるぞ!  
 どうすんだよ御坂って何コイン構えてロックオンしてんだテメェ!?」  
「見れば分かるでしょ、一つ残らず吹っ飛ばすに決まって」  
「吹っ飛ばしちゃダメーっ!」  
 そう叫ぶが否や、当麻は今まさに『超電磁砲』を放とうとしていた美琴の手を掴み、脚力全開で駆け出した。  
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、まだゲコ太が」  
「それよりも器物破損で弁償迫られる可能性を考慮して下さいおぜうさま!」  
 そう言いつつも先程の『超電磁砲』の余波で公園の隅に飛ばされていたゲコ太ストラップをしっかり回収しながら走る当麻に、美琴は満更でもない顔で叫んだ。  
「アンタ、もし今度ストラップ落としたらさっきの寸胴と同じ目に会わせてやるからね!」  
「わーい、言うに事欠いてとうとう脅迫ですね。  
 やっぱり不幸だーっ!」  
「脅迫じゃなくて約束よこのバカ!」  
 沈みゆく夕陽の下、清掃ロボットに追い立てられる二つの影が騒々しくも踊るように街を闊歩するのだった。  
 
 
終  
 
 

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