白井と上条が一時休戦し束の間の休息を取っていた頃、学園都市の空に第六学区目掛けて飛翔する一塊の物体、いや人影があった。  
「待ってなさいよ二人共、この私を出し抜いた借りはきっちり返してもらうんだからね!」  
「わーい、これがホントの人間砲弾だー、ってミサカはミサカはおおはしゃぎしてみる!」  
「面倒クセェ……」  
 
 この少し前、美琴は初春への宣言通り試作機を10分どころか5分足らずでスクラップに変えると、関係者一同へわざとらしさと脅しに溢れた謝罪を残し実験棟を後にした。  
 恐怖で半泣きの初春を一顧だにせず、そのまま敷地内を飛び出した美琴は一刻も早く件の遊園地へ向かうべくタクシーを探したのだが、そうは問屋が卸さなかった。  
「クソッ、なんでこういう時に限ってタクシー捕まんないのよ!?  
 さっき携帯壊しちゃったからあいつらとも連絡取れないし、公衆電話も見つからないなんて!  
 ああコンチクショウ、もう誰も頼るもんか!  
 こうなったら遊園地まで爆走してやるわ!」  
 バスを待つという思考すら既に無く極限までテンパリまくっていた学園都市第三位に、意外な二人が声をかけてきた。  
「あっ、『妹達』発見と思ったら『お姉様』だー、ってミサカはミサカは偶然の出会いに喜びをあらわにしてみる」  
「あァン? いきなり道端で汚ねェ言葉口走るクソアマが居るから誰かと思えば、第三位かよ」  
 背後から聞こえてきた声に振り向けば、そこには上着代わりのワイシャツをバタバタさせる『打ち止め』と、杖を付きながらこちらを不機嫌そうに見やる『一方通行』が揃って立っていた。  
 このクソ忙しい時に余計な邪魔かと忌ま忌ましげに視線を返す美琴だったが、一方通行を見るや否や即座に何かを閃き彼の襟首を掴んだ。  
 
「いきなり何すンだこのクソア」  
「アンタ、確か『位相操作』で空を飛べたわよね?」  
「だから人の話を」  
「飛・べ・た・わ・よ・ね!」  
 第三位から有無を言わさない様子で迫られた上、襟首を押さえられ首元のチョーカーに指が届かない状況では能力も使えず、第一位は気圧されながら不承不承答えるしかなかった。  
「飛べる事は飛べるが、俺一人ならともかく人を抱えた状態ならスピードは出せネェぞ」  
「車より早くて最短距離で飛べるならそれで十分よ。  
 いきなりで悪いんだけど、今から第六学区にある遊園地まで運んで欲しいの」  
 言葉とは裏腹に全然悪びれてない様子で睨む第三位に、第一位は不機嫌極まりない顔で睨み返す。  
 
「なんで鉢合わせしたクソアマから突然襟首掴まれた上に、いきなり意味不明な頼み事されないといけねェンだ?  
 つーかお前さッき誰も頼らねェとか何とかほざいてたじゃねェか」  
「そんな細かい事グダグダ言ってないで、できるんならさっさとやりなさい!」  
「ちッたァ人の話を聞けクソアマ!」  
「でもでもミサカもお姉様と一緒にお空を飛んで遊園地に行きたい、ってミサカはミサカはお姉様の提案に賛成してみる!」  
「テメェも黙ッてろクソガキ!」  
 そんな一方通行の反抗も虚しく、美琴からは狂気と怒気が溢れる血走った目で、打ち止めからは好奇心と期待感で爛々と輝く瞳でそれぞれ見つめられ、無言の圧力をかけられた。  
 彼はクソッタレと一言呟くと、掴まれていた襟首の手を払いのけてチョーカーの電極をオンにし、打ち止めを右腕で抱え上げながら美琴の腰へ左手を乱暴に回す。  
「クソガキ、ミサカネットワークでその遊園地の座標を検索しろ」  
「入場口はあの一番遠くに見えるビルの丁度向こう側、ってミサカはミサカは既に検索済のデータから答えてみる」  
 打ち止めが指差した方を向くやいなや、一方通行は二人を抱えてアスファルトを軽く蹴り、そのまま宙を飛んだ。  
 
 
 遅めの昼食を終えスタンプラリーを再開した白井と上条は、手間と時間の掛かるエリアを先に片付けた事も手伝って、午前中に比べればかなり余裕が出てきていた。  
 だからという訳でもないだろうが、上条はゴーカートを運転しながらふと思い付いた事を口にする。  
「なあ白井」  
「なんですの、殿方?」  
「今冷静になって考えてみたんだけどさ、これってもしかしてデートなんじゃね?」  
 そう口にした途端、左隣を並走していた白井はハンドルを思いきり右へ切った。  
「おまっ、いきなり何ぶつけようとしやがるんですか!?」  
「あ、あなたが突然妙な事を口走るからです!」  
「とにかく落ち着け、このままだと本当にぶつかるぞ!」  
 やいのやいの言い合いながら何とかゴールへ辿り着いた二人は、スタンプをゲットした後、次のアトラクションに向かいながら話を再開した。  
「まあいきなり変な事言った上条さんも悪かったですが、真面目な話こんな風に女の子と何処かへ遊びに行った記憶が無いもので」  
「あら、随分と下手な御冗談ですこと。普段あれだけ女性を侍らせておきながらデートの経験すら無いなんて、誰も信じないですわよ」  
「そんな事言われても、実際女の子との甘酸っぱい思い出なんて、俺の記憶ファイルには全然セーブされてねぇしなあ」  
 溜息混じりにそう話す上条へ、白井はなおも信じていない様子で更に問い質した。  
「ではお姉様ともそういう思い出は全く無いと?」  
「さっきも言ったけど、気が付いたら御坂は電撃や超電磁砲で襲い掛かってきてたからな。  
 正直最初にアイツと何処で出会ったのか、未だに分からねぇし」  
「そんないい加減な。せめて出会った時の思い出くらいはあるでしょうに」  
 
「出会った時の思い出って言われてもなあ……白井と初めて会った時の事なら覚えてるんだけど」  
「へ?」  
「何だ覚えて無いのか?  
 お前の方から手を握ってきたくせにってうわ、いきなりノーモーションで鉄矢を投げ付けないで下さいまし白井さん!」  
「あなたがいきなりまた妙な事を口走るからですの!」  
 そう叫んだ白井は地面に刺さった鉄矢を回収しながら、過去の自分の浅はかさを呪うと共に、朱の差した表情で上条に向き直った。  
「わ、私の事より今はお姉様の話ですわ。  
 本当にお姉様とは何の思い出もございませんの?」  
「そう言われてもなあ……あ、そういやこれも思い出と言えば思い出になるのか?」  
 そう言いながら上条はおもむろに携帯を取り出すと、何やら操作して出てきた画像を白井へ向けた。  
「一体なんですの?」  
 訝りながら白井が見た携帯の画面には、パンツ全開でドロップキックを炸裂させた彼女自身と、それを喰らって高速にぶれている上条と、そんな二人を見て驚いている美琴の姿が写っていた。  
「……」  
「罰ゲームであいつとのツーショット写真撮った時に写ってたやつだけど、まあこれも忘れられない思い出には違いないよなってぎゃあああ!  
 目が、目があぁぁ!?」  
 無言でサミング(目突き)をかます白井に、上条はただ目を押さえながらのたうちまわるしかできなかった。  
 
   
「着いたぞクソアマ」  
 遊園地の入場口前に音も無く着地し、素っ気なく言いながら腰に回していた手を外す一方通行に、美琴はゲートから飛び出る競走馬のような勢いで駆け出しながら叫んだ。  
「ありがと一方通行、この借りはいつか必ず返すから!」  
「お姉様の武運を祈る、とミサカはミサカはよく分からないまま女の勘に従って応援してみる!」  
 傍らでブンブン手を振る打ち止めの頭を押さえながら、一方通行は入場ゲートを破壊しそうな勢いで突撃する『超電磁砲』の後ろ姿を見送ってふと呟いた。  
「ついこの前まで『妹達』を殺しまくッてた相手に向かッてありがとうだの借りは返すだの、『超電磁砲』も随分と丸くなッたモンだなァ」  
「それは違うよ、ってミサカはミサカはあなたの思い違いを指摘してみる」  
 思わぬ所からの反論に、一方通行は怪訝そうな目で打ち止めを見下ろした。  
「お姉様は元からあんな性格で、もし変わったとすればそれはきっとあなたの方だよ、とミサカはミサカは心の底から思った事を口にしてみる」  
「何バカ言ッてやがるクソガキ、一体俺の何が変わッたと」  
「以前のあなたなら例えさっきみたいに脅されても絶対に言うこと聞かなかっただろうし、私のお願いにも聞く耳持たなかったと思うの。  
 でも今のあなたはこんな風に本音を指摘されても、それをじっと聞けるだけの分別というか余裕みたいなものが備わってきた、とミサカはミサカは過去と現在のあなたを比較してみる」  
「…………」  
 沈黙する一方通行を余所に、打ち止めは頭に置かれていた彼の手に自分のそれを重ね、更に言葉を続けた。  
 
「あなたは自分が心身共に規格外だと思ってるみたいだけど、だからといって人間らしい心を持ってはいけないと思い込む必要も無いの。  
 どうせあなたの事だから素直に聞いてはくれないだろうけど、少なくともミサカとヨミカワとヨシカワはあなたを怪物じゃなく一人の人間と思ってるから、もっと人らしい感情を表に出していいんだよ、ってミサカはミサカはいい感じに話をまとめてみる」  
「……ガキのくせに何偉そうな講釈垂れてンだ。  
 そんなに無駄話がしたいンなら、ここに置いてくぞ」  
「あ、待って待って待ってってば、ってミサカはミサカはあなたの手を握りながら遊園地へ誘導してみる!」  
 そう言いながら握ってきた打ち止めの手はいつでも振り払える程度の力しか込められていなかったが、今の一方通行に何故かそれを振り払う気は起こらなかった。  
 
 
「スタンプラリーもようやく終りが見えてきたな。  
 このままいけば閉園前には何とか全部回れそうだぞ、白井」  
 最初は嫌々ながら始めたスタンプラリーに、いつの間にかのめり込んでいた上条は嬉しそうに話し掛けたが、隣からの返事は無い。  
 不思議に思いながら上条がそちらに向けばそこには誰の姿も無く、更に視線を後ろにやれば、首を不安定に揺らしながら外灯に激突する白井の姿があった。  
「っ〜」  
「お、おい、大丈夫か白井?」  
 鼻を押さえながら涙目になる白井は、上条の声で我に返った。  
「……ああ失礼、ちょっと眠いだけですから心配は無用ですの。  
 少しばかり寝不足ですけど、このまま回るのに支障はありませんわ」  
 そう言って気丈に振る舞う白井だったが、先程休憩していた時以上に疲労の色が濃いのは上条にも分かった。  
「おいおい、ならどっかで少し休んだ方がいいんじゃないのか?」  
「まあ何ていやらしい。いたいけな中学生相手に御休憩を勧めるなんて、この馬の骨は一体どういう下心持っているのやら?」  
「上条さんの思いやりが下心に曲解されたー!  
 つーか御休憩の意味が生々しいんだよ!!」  
 いつもならただ欝陶しいだけな上条の騒々しい突っ込みも、眠気で身体が重くなっている今の白井には目覚ましに丁度よかった。  
「それはともかく、御心配かけて申し訳ありませんわ。  
 でもお気遣いには感謝しますが、あと少しでパーフェクトゲコ太グッズが手に入るんですから、ここで寝る訳にはいきませんの」  
 そう言いながら力強い視線を返す白井に、上条は諦め顔で溜息を一つ吐いた。  
 
「ならいいけど、無理はするなよ白井」  
「いつも無理ばかりしている殿方が言っても、説得力が皆無ですの」  
 何も言い返せずただ呻く上条を尻目に、白井はしてやったりという表情で次のアトラクションに向け再び歩きだした。  
(そうですわ、ここで寝たら一体何の為に、この類人猿と遊園地へやってきたのか分かりませんもの。今の私は念願のパーフェクトゲコ太グッズを手に入れる為ならば、殺してでも奪い取る覚悟ですわ。  
 だから絶対、スタンプラリーをコンプリートして、パーフェクトゲコ太グッズを手に入れたら、お姉様に、差し上げて、喜んで、貰――)  
「白井!」  
 自分を呼ぶ誰かの声を聞きながら、白井の意識は深く沈んでいった。  
 
「遂にダウンしちまったか……まあ寝てるだけだから、心配はいらないみたいだけど」  
 崩れ落ちる少女を咄嗟に抱き留めた上条は安堵の息を漏らすが、この態勢のまま公衆の面前に晒すのもどうかと思い直し、とりあえず彼女を背中に背負う。  
「まあなんであれ、これだけ一生懸命な奴の頑張りを無駄にする訳にはいかねえよな」  
 上条はそう独りごちると、寝息を立てている白井を背負ったまま次のアトラクションへと足を向けた。  
 
   
「奴らは何処に行ったー!?」  
 そんな悪役じみた雄叫びを上げて入場した『超電磁砲』こと御坂美琴は、これ以上無いくらいに血走った目で園内を爆走する。  
 その姿を客は勿論遊園地の職員までもが猛獣を見るような目付きで遠巻きに眺めているが、実際常時放電状態な今の彼女は猛獣以上に危険な存在だったので無理もなかった。  
「ハッ、アイツらの気配が向こうからする、と美琴は自らの直感を信じてみる!」  
 まるで『妹達』のような口調で、美琴はもう何度目になるか分からない直感の閃きに従い(あてずっぽうともいう)、疲れの色すら見せない脚力で再び地面を蹴った。  
 普段のあまりなスルーされっぷりを神様が哀れに思ったのか、それとも血眼の努力というか地獄の執念が実ったのか、ともあれ美琴は捜し求めていたツンツン頭を遂に発見し、獲物を見た虎のように凄惨極まる笑顔を浮かべた。  
「そこにクソいやがったわね、アン」  
 しかし言葉の途中で美琴は、口をパクパクながら全身を震わせた。  
 何故なら彼の背中には、もう一人の探し人である白井黒子が安心し切った表情で背負われていたからだ。  
 その二人は動揺で震える学園都市第三位に気付かぬまま、正面にあるヤケに小綺麗かつ安っぽい、一見ラブホテルにも似たピンク色の建物へと入っていく。  
「な、な、な」  
 ここは遊園地だからそんないかがわしい施設は無いとか、そもそも互いに学生服を着てそんな所へ行けば入店拒否どころか確実に補導されるとか、美琴はそういった常識を一切合財無視し、自分が見たありのままの光景を全力で誤解した。  
「人の後輩をなんてとこ連れ込んでんだこの腐れ外道がぁーっ!」  
 そんな怒号と共に『常盤台のエース』は、そこがミラーハウスと気付かぬまま入口へ突貫していった。  
 
 
「へぇ、外見より結構広く感じるもんだな」  
 一面ガラス張りならぬ鏡張りな施設内に、この類の建物へ初めて入る上条は、感嘆の声を上げながら歩を進めた。  
「それにしてもよく寝てるな。よっぽど疲れてたのか」  
 そう言いながら首を横に向ければ、そこには未だ熟睡中の白井が腕を垂れ下げた体勢で上条の肩に顎を載せていた。  
「こうしてる分には素直に可愛いんだがなぁ……欲望一直線な性格といい無駄にバイオレンスなところといい、こいつを育てた親の顔が一度見てみたいよ」  
 そんな溜息混じりの声に反応したのか、それまでだらりと下がっていた彼女の腕が突如上条の首へ絡み付いた。  
「げ、寝たふりしてたのかお前!  
 いやいやさっきの独り言は別に白井さんの悪口ではなくてですね、えーとなんだ、そうそうあなたの長所だと上条さんは思う訳で!」  
 そのままチョークスリーパーを決められると思った上条は咄嗟にそんな言い訳じみた台詞で弁解したが、白井は予想外の行動に出た。  
「うふふふふ……お姉様、やっと私の想いに応えてくださるのですね。ようやく本当の気持ちと向き合ってくれて、それはとっても嬉しいですわ」  
「え?」  
 頭に疑問符を付けた上条をよそに、白井はただでさえ近かった顔を頬擦りしながら嬉しそうに呟く。  
「ああ、この時をどれだけ待ち焦がれた事か。黒子は……黒子はぁっ!」  
 そう叫びながらビクンビクンとクリムゾン状態な白井に、上条は困惑と羞恥と喜色が入り混じった表情で焦りの声を出した。  
「し、白井さん、もしかして寝ぼけているのでございますか?  
 だとしたら擦り寄る相手間違ってますよ白井さん、白井黒子さんってば。おーい、く・ろ・こ!」  
 
「うふふ、そんなに私の名を連呼しなくとも、黒子はずっとここに居ますわお姉様」  
「げ、名前で呼んだの薮蛇だったか!」  
 上条が自らの失策を悔やむ間にも、白井は更に密着の度合いを高めてくる。  
 それは彼女を背負った時からなるべく考えないようにしていた甘い髪の香りや、背中に感じるささやかながらも柔らかい感触をより一層意識させる効果をもたらす。  
「おい白井、しっかりしろ!  
 お前は御坂一筋だった筈だろうが、このままだと絶対後悔するぞ!  
 つーか絶対後で責任取れと言われそうで俺が嫌だ!」  
「後悔なんて、あるわけないですわ。それに嫌よ嫌よも好きの内と言うじゃありませんのゲヘヘヘヘ」  
「普通言う方と言われる方が逆だよなそれ!」  
 泣き言のような叫びが白井に届く事はなく、むしろ上条を蹂躙するかの如く無意識にその全身を絡ませるのだった。  
 
 そしてこの会話になっていない会話は、不幸にも彼ら二人を血眼になって探す彼女の耳にも朧げながら届いていた。  
「……ミラーハウスだから大丈夫と思って安心してたら、やっぱりいかがわしい事が目的かこの野郎!!」  
 そう叫びながら美琴は、先程から「私の想いに応えて」だの「待ち焦がれた」などとまるで告白のような言葉を垂れ流す後輩の声と、その彼女の名を何度も連呼するツンツン頭の絶叫に、ただでさえ壊れかけていた理性が一気に崩壊した。  
「うおぉー! とりあえず一発殴らせろぉー!」  
 とにかく一刻も早く二人の元へ向かおうとする美琴だったが、流石の彼女も鏡張りかつあちこちから声が乱反射するこの環境では、ただひたすら鏡の迷宮を走り回るだけしかできなかった。  
「一体何処に居やがんだ馬鹿どもーっ!!」  
 散々屋内を走り回り遂に我慢の限界へ達した美琴は、そんな雄叫びと共に周囲へ青白い閃光を迸しらせた。  
 
 
 
「あれ、向こうで煙が上がってるみたいだな。なんか俺達がさっきまで居たミラーハウスからっぽいけど、もしかして火事か?」  
 白井の抱き着き攻撃で焦った上条は、結果的にその弾みでミラーハウスを足早に出ていた。  
 そして持ち前の美琴スルースキルがこの時ばかりは功を奏したのか、上条は彼女に気付く事無くスタンプをゲットし早々にその場を後にしていた。  
 残り僅かとなったスタンプラリーの空白欄を確認しながら、上条はようやく大人しくなった白井へ安堵の息を漏らすと共に、間もなくこの騒々しくも楽しい時間が終わる事へ、いくばくかの寂寥感を感じていた。  
 それをごまかすように首を横に振りながら顔を上げれば、紅く染まりつつある空が視界を埋め尽くし、スタンプラリーのタイムリミットが近い事を知る。  
「よし、あと少しだから白井、もうちょっと我慢してくれよな」  
「はい、ですの…………」  
 寝言ながら素直に返事をする年下の女の子に、ツンツン頭の高校生は苦笑しながら残るアトラクションへと歩を早めた。  
 
 

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