彼女は夢を見ていた。  
 
 それは最初、常日頃から想いを寄せているお姉様だと思い、力一杯背中から抱き締める。  
 だがその抱き心地は想像していたような柔らかさに満ちたものではなく、むしろ固くて服の上からでも分かる程に傷だらけな身体だった。  
 しかしその広い背中は何故か、これ以上ない安らぎを感じさせる。  
 特にそのゴツゴツした傷跡ばかりな腕は、いつの事だったか窮地に陥ったわたくしを救ってくれた。  
 考えてみれば彼ほど馬鹿で、間抜けで、ヘタレで、しかしそれ以上に度し難い程のお節介で、なおかつ諦めの悪い人間は見た事が無い。  
 でもだからこそ、お姉様やあのチビシスターが彼に心惹かれ、かつ守りたいと思うのだろう。  
 何故なら、自分もそうしたいとひそかに願っているのだから。  
 そんな事を考えている内に、いつの間にか掌から彼の温もりが消えている。  
 それはつまり、彼がまたわたくしを置き去りにして勝手に何処かへ行ったという事だ。  
 そしてまた、わたくしの知らない所で知らない誰かを助ける為、一人で勝手に死にかけているに違いない。  
 嫌だ、そんなの絶対許さない。  
 私をこんな風にした責任を取れ。  
   
 彼の名を叫びながら、彼女は必死の思いで手を伸ばし――  
 
 
 瞼を開けたその先には、夜の帳が掛けられた空が広がっていた。  
「……あれ?」  
 虚空に伸ばした右手を不思議そうに眺めていた白井だったが、意識がようやく現実に追い付いてくると、今自分が園内のベンチに座っている事を理解した。  
「夢、でしたの?」  
 そう呟きながら伸ばした手を戻し顔に張り付いた髪を払おうとしたが、やけに湿った感触が掌に伝わってくる。  
「なんで私、泣いてますの?  
 何も悲しい事なんか無い筈なのに。あの方だってちゃんと傍に――」  
 そこまで口にして、白井は何かへ気付いたように辺りを見回す。  
 居ない。今日ずっと一緒だったあの殿方が何処にも居ない。  
 彼ならばこういう時、絶対に放っておく筈が無いと心のどこかで思っていただけに、白井は今置かれた現状を信じられないでいた。  
「正夢とは、まさにこの事ですわね」  
 落胆しながらそう呟く黒子だったが、考えてみればこちらの都合で無理矢理ここに連れて来られた上に、自分が逸早く眠気でダウンすれば、誰だって呆れて見捨てるだろう。  
 つまるところ、自業自得という事だ。  
「……私って今日一日、何をやっていたのでしょうね」  
 徹夜で書類仕事をしてまで入手したペアチケットで愛しのお姉様にデートを誘えば呆気なく断られ、ならばせめてお姉様のお気に入りであるゲコ太グッズを手に入れる為あの類人猿を拉致してスタンプラリーに奔走するも、肝心の自分が眠気で先に脱落してしまった。  
 結局全てが水泡に帰しただけというだけの話である。  
「こんなはずでは、無かったのですけどね。  
 やっぱり私って、ほんとバカですの」  
 苦笑したまま呟いたその時、突如彼女の肩に何か柔らかいものが乗った。  
「諦めたら、そこで試合終了だよ、とゲコ太は偉そうに説教してみます」  
 そのわざとらしい声に白井が振り向けば、子供程の大きさのゲコ太が覆いかぶさるように彼女の背中へ乗っていた。  
「えっ?」  
「はは、驚いたか。流石にパーフェクトの名を冠するだけあって、グッズの数や人形の大きさも半端ねえよなあ」  
 
 そんな感嘆の声に思わず立ち上がりながら視線を向ければ、そこには等身大ゲコ太人形やゲコ太一家のストラップ、ゲコ太Tシャツやゲコ太バックなどなど、諸々のゲコ太グッズを抱えた上条当麻の姿があった。  
「いやすまんすまん、流石の上条さんもお前を背負ったままじゃこいつらを受取れなかったから、交換所に一番近かったこのベンチにお前を座らせて取りに行ってたんだ」  
「あの、それってつまり」  
「あ、話す順番が逆になっちまったけど、見ての通りちゃんとスタンプラリーはコンプしたから安心しろよ」  
 ゲコ太グッズをベンチに置きながらスタンプで埋め尽くされたチェックシートをピラピラと振る上条に、白井は呆然としたまま声が出ない。  
「あれ、やっぱり余計なお世話だったか。  
 だとしたらすまんって白井さん、いきなり泣き出してどうしたのでございますか!?」  
 予想外の反応に慌てる上条を呆然と見ながら、白井は胸の内で様々な感情を溢れさせていた。  
 この男は無理矢理ここへ連れてこられたにも関わらず、最後の最後まで自分に付き合ってくれた。  
 いやそれも正確ではない、勝手に脱落した私の分まで頑張ってくれたのだ。  
 それなのに、彼から見捨てられたと少しでも考えた自分自身を、白井は心の底から恥じた。先日彼の母親に息子を信じろなどと、偉そうな事を言っておいてこのざまだ。  
 そんな己を嫌悪しながらも、同時に上条がここまで自分の為に尽くしてくれた事へ、白井はこれ以上無い喜びに浸っていた。  
 嬉し涙を溢れさせながら彼女は、これまでずっと否定していた感情を認めない訳にはいかなかった。  
 そう、私はこの上条当麻の事を――  
「何か俺、お前の気に障るような事をしたのか?  
 だとしたら本当に悪かった」  
「違う、違うんですの……」  
 それ以上何も言えずただ声を詰まらせる白井に、上条は困惑した顔で彼女の肩を抱き止めながら見守るだけしかできなかった。  
   
 そして彼はこの時、自分が不幸の申し子である事をすっかり忘れていた。  
 
 
「何公衆の面前で人の後輩泣かせてんだこのクソ野郎ーっ!」  
 そんな汚い言葉が聞こえた途端、その方向へ上条は反射的に右手をかざす。  
 何だと思う間もなく飛んできた閃光を打ち消しながら見れば、そこには怒気と嫉妬と電撃を全身に漲らせた雷神が、まさに仁王立ちしていた。  
「げ、ビリビリ」  
「お、お姉様」  
 突然現れた予想外の人物へ驚く二人をよそに、学園都市第三位はこれまで溜まりに溜まった鬱憤をようやく晴らせると言わんばかりに睨みつけた。  
「ウフフ、二人共今日は何して楽しんでたのかしら?」  
「いや楽しむも何も、俺はお前の代わりに」  
「ああ別にいいわよ言わなくても。  
 なんであれ今この場でアンタの息の根止めてあげる事に変わりないんだから」  
 じゃあ聞くなよと思いつつこの原因不明な修羅場を穏便に収める打開策を自らに問う上条だったが、脳内会議からは全会一致で諦めろという返事が返ってくるのみだった。  
 そんな自問自答に没頭する上条を庇うように、白井が涙を拭いながら二人の間に立つ。  
「お、お姉様、落ち着いて下さいまし。  
 殿方の言う通り、今日はスタンプラリーに付き合って貰っていただけで、別に楽しんでいたなどという訳では」  
「へー、その割にそいつから背負ってもらったり、さっきみたく感極まって泣いたりしてたのは一体何よ?」  
「そ、それはその」  
 痛い事実を突かれ言い淀む後輩の姿に、美琴は自らの直感が正しい事を確信し更に腹立たしさを募らせる。  
「初春さんから聞いたわよ、アンタがここのチケットを手に入れる代わりに書類仕事を引き受けて徹夜したって。  
 アタシの為だとばかり思ってたけど、とんだ勘違いだったみたいね!」  
「わ、私はただ、お姉様の為に」  
 白井は誤解を解きたい一心で言葉を紡ごうとするが、一方で美琴の指摘を完全に否定する事もできず、ただ困惑したまま彼女の嫉妬と憤怒に溢れた視線から目を逸らす事しかできなかった。  
「ふん、やっぱりそういう事だったのね。  
 別にアンタが誰を好きになろうが知ったこっちゃ無いけど、その為に私をダシにされても困るのよ、この卑怯者!」  
 
 美琴の誤解と偏見に満ちた、だが一方で真実の一端を突いた糾弾に、白井は弁解すらできずただ悲しげに顔を俯かせる事しかできない。  
「お姉様……」  
 いかに学園都市で数少ない大能力者とはいえ、またどれだけ大人びているとはいえ、白井黒子が未だ年端もいかない女の子である事に変わりはなく、そんな彼女が心の底から慕う憧れのお姉様から激しく責められて心が傷付くのは当然の話だった。  
 そして彼女らは自分達の事へ没頭するあまり、それを目の当たりにしているもう一人の当事者が黙したままで居られる筈もない事に、全く気付いていなかった。  
「さあ黒子、今すぐ納得の行く説明を」  
「ちょっと待てよ御坂、テメェ今なんて言った?」  
「って、アンタいきなり何言ってるのよ。今立て込んでるから後に」  
「いいから答えろ、白井に今何言ったんだテメェは」  
 突如雰囲気の変わった当麻の様子に、美琴はやや気後れしながらも口を開いた。  
「ああもう、面倒臭いわね。卑怯者って言ったのよ!  
 大体そんなの、あんたには関係無いじゃない。  
 これは私と黒子の問題なんだから!」  
「ああ、確かに関係はねぇし、お前がさっきから何を怒ってるのかも正直俺には分からねえよ。  
 だけどな御坂、お前の為に今日一日、いや昨日からずっと一生懸命だったこいつの話を全然聞かないばかりか、身に覚えの無い言い掛かりをつけるっていうのは、一体どういう事なんだ?」  
 正面からぶつけられるその理不尽を許さない眼光は、美琴にも覚えがあった。  
 いや忘れようが無い、彼女が知る限りこの怒りに満ちた眼差しと相対した者は例外なく彼の言葉に肺腑を突かれ、時には一方通行のように拳の洗礼を受けた者も居るのだから。  
 そして自らもその中の一人になりつつある事へ遅まきながら気付き動揺する美琴をよそに、上条は詰め寄りながら更に言葉を続ける。  
「白井はな、お前を喜ばせたい一心で、今日までしか手に入らない限定のゲコ太グッズを手に入れようと駆けずり回っていたんだ。  
 その為に嫌いな俺へスタンプラリーを一緒に回るよう頼むくらいにな。  
 それの一体何処が卑怯者なのか、頭の悪い俺へ教えてくれよ御坂」  
「あ、いや、その、私…………」  
 先程まで怯えていた側と怯えさせていた側が入れ代わったかの如く、当麻は狼狽する美琴へ更に言葉を畳み掛ける。  
 
「御坂、お前が俺に何かするのは別に構わない。  
 だけどな、白井の頑張りや思いやりを無視するっていうのなら、そんなの俺が許さねぇ」  
「ち、違うの、私はただ……」  
 上条の逆鱗へ触れた事にようやく気付いた美琴だったが、それが分かった所でどうしたらいいのかまるで分からず、ただうろたえるしかなかった。  
 そんな半泣き寸前まで追い詰められた美琴の盾となるかの如く、二人の間に割って入る人影があった。  
「待って下さい殿方。もう誤解は解けましたから、これ以上お姉様を責めないでくださいまし」   
 先程まで自分が責めていた筈の後輩から庇われ、美琴は彼女の後ろ姿を呆然と見詰める。  
「くろ、こ?」  
「お姉様、誤解をさせてしまったようで申し訳ありませんわ。  
 でも殿方の言う通りスタンプラリーを一緒に回ってもらっただけで、本当に何もなかったんですの」  
「ほ、本当に?」  
「ええ、嘘は申していませんわ」  
 上条に抱く感情を抑えつつ今は誤解を解くのが先決と、白井は複雑な思いをしながら不安げな美琴を宥めす事に専念した。  
 そんな光景を目の当たりし、先程まで怒気を漲らせていた上条も拍子抜けした表情で頭を掻く。  
「あー、何かよく分からんけど、丸く収まったって事でいいのか?」  
「ええ、お姉様の誤解も解けましたし、これで一件落着ですわ」  
「……わ、悪かったわね、へ、変な勘違いしちゃって」  
 先程と打って変わってしおらしい態度で詫びる美琴に、上条は戸惑いながらも安堵の表情を浮かべた。  
「いや、まあ、誤解と分かったならいいさ。  
 それはそれとして御坂さん、あのベンチに置いてあるパーフェクトゲコ太グッズ、全部お前のだから好きにしていいぞ」  
 その一言で、美琴はベンチ一杯に置かれたゲコ太の群れへようやく気付いた。  
 溢れ返らんばかりのゲコ太達を見るや否や、まだ幾分青ざめていた表情がみるみる喜色へ塗り変わっていく。  
「ほ、本当にいいの?」  
「当たり前だろ、さっき白井が言ってたように、元々あれをお前にやる為のスタンプラリーだったんだから」  
「ありがとう!」  
「礼なら俺じゃなくて白井に……って、もう聞いてないか」  
 狂喜乱舞しながらゲコ太達の待つベンチへダイブする美琴の後ろ姿に、上条は苦笑しながら白井の方へと向き直った。  
 
「あれじゃしばらく正気には戻らねえな。すまんけど白井、あとで連れて帰ってやってくれ」  
「ええ、分かりましたわ」  
 そう言いつつ白井は、この騒がしくも楽しかったデートモドキがこれで終わる事に、内心一抹の寂寥を感じていた。  
「それにしても、今日はありがとな白井。何だかんだとあったけどすっげぇ楽しかったわ」  
「い、いえ、こちらこそ急なお願いに付き合って下さって感謝致しますわ」  
 両手一杯にゲコ太グッズを抱え、傍から見ても不気味なくらいに浮かれまくっている美琴をよそに、白井は緊張した面持ちで上条の言葉に聞き入っていた。  
「まあ俺で役に立てたんなら、何よりだ。  
 ところでこれ、よかったら貰ってくれないか?」  
 そう言いながら当麻が差し出したのは、白と黒のコントラストで彩られた二つのリボンだった。  
「これは?」  
「今日のお返しにと思って、さっきゲコ太グッズ受け取るついでに売店で買ってきたんだ。  
 上条さんの懐具合じゃこれが限界なんで、その辺りは大目に見てくれると助かるんですが」  
 思いもよらないサプライズに、黒子は言葉が出せなかった。  
「あ、もしかして余計なお世話だったか?  
 今日は奢ってもらってばっかだったから少しはお返しのつもりだったんだけど、やっぱりこんな安物じゃ嫌だよな」  
「そ、そんな事ありませんですわ!  
 むしろ嬉し過ぎてなんと言えばいいのか……と、とにかく有り難く頂戴致します!!」  
 我に返った黒子はひったくるようにリボンを手に取ったが、そのまましばらく考え込むと、今度はそれを当麻の前に差し出した。  
「あれ、やっぱり要らなかったのか?」  
「ち、違いますの。  
 その、どうせならあなたに付けて頂きたいと思って……」  
 最後は消え入るような小さな願いに、当麻は了解したといわんばかりに再びリボンを手に取った。  
「俺不器用だから、あんまり期待するなよ」  
「構いませんわ、最初だから大目に見て差し上げますの」  
 そう言いつつ白井はそれまで付けていた両端のリボンをさっと紐解くと、まるで視線を反らすかのように上条へ背を向けた。  
「で、ではお願いしますの」  
「OK、それじゃ早速」  
 そう言いつつ白井の髪へ触れようとした上条だったが、ふと手を止めると何故か感慨深げに彼女を見下ろしていた。  
 
「どうしたんですの?」  
「いや何、お前の髪解いた姿初めて見たけど、こっちもこっちで結構似合ってるんだなってグボァ!」  
「急に何を言い出すのですかあなたは!」  
 またしても予想外の言葉に、白井は咄嗟に肘打ちを決めながら真っ赤な表情を隠すように俯いた。  
「そんな見え透いたお世辞はよろしいですから、は、早く結んで下さいまし!」  
「いつつ……分かった、分かりましたから、これ以上不意打ち加えるのは勘弁して下さいおぜうさま」  
 どっちが不意打ち加えてるんだかと思いつつ、白井は両手をもじもじさせながら上条の手が髪に触れるのを待った。  
「それじゃ、今度こそ始めるぞ」  
「ええ、こちらはいつでもいいですわ」  
 その言葉を合図に、上条は改めて白井の髪を束ね始めた。  
 上条が不慣れな割に手際良くリボンを結っていく。こそばゆくも心地良い感触へ、白井は次第に上条の指へ酔っていった。  
「そういやこんな風に女の子の髪を弄るの、生まれて初めてな気がするなぁ」  
「本当ですの? その割に随分と手慣れてる気が……」  
「嘘じゃねえよ。大体インデックスの奴も中々髪を触らせてくれないし」  
「インデックス? あのチビシスターの名前がどうしてここで出てくるんですの?」  
「げっ、ああいや、なんだその……そ、そうそう、俺の女の知り合いってそれくらいしか居ないって意味だよ」  
 明らかに嘘臭い弁解に背中越しで不審の念を送る白井だったが、それ以上は追及せず無言で上条が結い終えるのを待った。  
「よっし、できたぞ白井」  
 そう長い時間も掛からず完成した白井のツインテールは、左右のバランスが僅かに崩れているものの、普段の彼女と殆ど同じ髪型だった。  
「おぉ、我ながら割と上手くできたもんだな。  
 そのリボンも似合ってるぞ、白井」  
「あ、ありがとう、ございます」  
 礼を言いながらぺこりと頭を下げる白井に、上条は右手でその髪を優しく撫でた。その感触に、白井は目を細めながら喜色に顔を満ちさせていく。  
 
「って、さっきからアンタ達何やってるのよ!  
 見てるこっちが恥ずかしいわよ!」  
 その声に二人が振り向けば、そこにはフルアーマーゲコ太ともいうべき格好でパーフェクトゲコ太グッズを全身に抱えた御坂美琴嬢が、いつのまにか傍らまで来ていた。  
「そんな事言われてもビリビリ、お前の方がよっぽど恥ずかしい格好してると上条さんは思うんですが」  
「残念ながら私も同意ですわ。こちらのプレゼントを喜んで下さるのは嬉しいのですけど、そんなあられもないお姿を公の場で晒されては流石のわたくしもドン引きするというかなんというか」  
「わ、私はいいのよ私は!」  
 二人から冷静に突っ込まれ顔を赤くしながら、それでもゲコ太達を手放そうとしない美琴だった。  
「と、とにかく、二人ともさっさと離れなさい!  
 休日とはいえ常盤台の生徒が他校の学生とデートしてたなんてバレたら、それだけで学校から呼び出し喰らうんだから!」  
「そんな事言われてもなあ、さっきも言ったが今日はスタンプラリーに付き合っただけだぞ」  
「だからそれがデートに誤解されるって言ってんのよあたしは!」  
「別に誤解されてもわたくしは全然構わないのですけれど」  
「「へ?」」  
 思わず洩れ出た白井の本音に、上条と美琴は揃って間抜けな声を出し、それを口にした彼女自身も半瞬遅れて驚愕の表情を浮かべた。  
「いいいやその、いい今のはノーカン、ノーカンで!」  
「あの白井さん、それって一体どういう意味」  
「そそそそうだおおお姉様、きき今日はもう遅いですし、はは早く寮に帰らないと!」  
「ちょ、ごまかす為に抱き着くな!  
 それよりも黒子、さっきのがどういう意味なのかちゃんと説明」  
「そ、それでは殿方、今日はこれにて失礼しますわ!」  
 上条がそれに答えるよりも早く、白井はゲコ太まみれな美琴と共に『空間移動』でその場から姿を消した。  
 
「何だったんだ、今のは……?」  
 訝りながら上条はそのツンツン頭を一掻きした後、すっかり暗くなった夜空を見上げた。  
「まあいいか、二人ともプレゼント喜んでくれたみたいだし、これで次から色々手加減してくれると上条さん的には凄く助かるんですが」  
 でもきっと無理だろうなと呟きながら、上条は遊園地の出入口に足を向けた。  
「さてと、それじゃ上条さんも帰りますかね。  
 まあ補習サボっちまったのは日常茶飯事だし、最後まで鉄矢やビリビリ喰らわずに済んだから、いつもに比べりゃ今日はむしろ幸運な方だよな」  
 そう言いつつ何故か先程見た白井の笑顔が脳裏を過ぎり、思わず笑みを零しながら鼻唄混じりに園内を闊歩する上条当麻だった。  
   
 ちなみにこの時頭上で、上条達三人のやり取りを(打ち止めにせがまれて乗った)観覧車の中から観察していた一方通行が、打ち止めを抱えたままこちらへ目掛け一直線に急降下してくる事を、神ならぬ上条が知る術は無かった。  
 
「よくもこの俺をくだらねェ痴情のもつれに巻き込ンでくれたなァ、三下ッー!」  
「おぉ、突然ドアをこじ開けたかと思えば本日一番のスリル満点絶叫コースだったとは、ってミサカはミサカはボルガ式サプライズにおおはしゃぎしてみる!」  
 
 

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